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ゲーマーと転生者

ファミレスの惨劇を終え、アルケーとライキッドは灰と化した死体を踏みしめる。


「ライキッド、貴方に頼みたいことがあるの」


アルケーの声は甘く、策略に満ちたものであった。


「なんだよ、アルケー姐さん?」


ライキッドが不機嫌に返す。


「さっきも言ったけど、人間に味方する転生者がいて、そいつを殺してきてほしいの」


「ふぅん……なんかご褒美とかくれるんなら行ってもいいよ?」


ライキッドが目を輝かせる。


「欲しい神器を一つあげましょう」


アルケーの言葉にライキッドは子供のようにはしゃぎ、ファミレスを飛び出す。


「本当に使える子ね……」


アルケーは呟き、闇に消える。


──


同日夕刻、力人と雪音は梅田が運転する車でB学園へ向かっていた。


重い空気で満たされた車の中、力人は先程までの戦闘を振り返る。


「なぁ、雪音……梅田先生。俺が倒したバルバロイ、死んだ時に人間の姿に戻ったんだ」


雪音が目を丸くする。


「えっ!? それってどういうこと?」


力人が眉を寄せる。


「わかんねえ……でも、なんか引っかかるんだ」


雪音が梅田に尋ねる。


「先生、バルバロイって元々異世界の存在と、死者が転生したタイプですよね? 今回の奴はどうなんですか?」


梅田はバックミラー越しに答える。


「その通りだ。バルバロイには二種類ある。一つ目はドラゴンや獣人など異世界の生物。死亡時に奴らの能力の源ともいえるマナが虹色の粒子として散る。もう一つは事故や病気、転生殺人などで死亡した者が蘇生された転生者だ。こいつらの特徴としては、出血せず血の代わりに灰が流れ、即座に回復することや、死亡時に肉体がマナに耐えきれず灰化する点があげられる。だが、今回の蝙蝠バルバロイは人間の死体へ戻った。どちらとも言えないな」


力人と雪音が揃って叫ぶ。


「「どういうことなんだ(ですか)!?」」


梅田が呟く。


「詳細はわからん。だが、情報が集まりし次第、報告したいと思う。もうすぐ着くぞ」


車が駐車場に滑り込み、梅田がドアを開ける。二人は礼を言い、校門をくぐった。


──


その夜、アルケーの空間に、困惑した男が座らされていた。


「俺は……電車で意識を失って……ここはどこだ?」


「ここは私の世界。貴方は死にました」


男の震える声を遮るかのようにアルケーは口を開き、その氷の瞳が男を貫いた。


「死んだ……? 俺が?」


膝をつく男の肩にアルケーは手を置く。その手は冷水のように冷たいものであった。


「仕方ないことなのです。でも、貴方にチャンスを与えましょう」


男の目に希望が宿る。


「本当か!」


アルケーが微笑む。


「新しい命を与えます。ただし、私が定めた人数を殺し、転生させる使命を負いますけど」


男が怖気付く。


「何!? 君は何者だ!?」


「女神ですが?名乗り忘れてました?」


アルケーの冷たい発言に男は憤慨しながら強く言い放つ


「 人を殺してまで生きたくない! 」


「そうですか……じゃあこのまま大切な人に会えないまま消滅することになりますが……」


「それでも……俺は人を殺してまで生き返りたくはない!」


取り乱し始めた男を宥めるかのようにアルケーの声が甘く響いた。そしてその目には涙が浮かんでいた。


「貴方の愛の心に感動しました。特別に生き返らせてあげましょう」


男が喜び、頭を下げる。


「ありがとう、女神様!」


アルケーの魔法陣が男を包み、マンションへ転送する。アルケーは男が消えたと同時、髪を引っ張り、偽りの涙を拭う。


「アルケー姐さん、なんで転生させなかったんだよ? いつもみたいにパパパってやって終わりでいいじゃん!」


市松模様の空間に火柱を立てながら現れたライキッドにアルケーが冷たく返す。


「あの男は転生者にする必要はないわ。囮として使えば、馬頭の転生者を誘い出すのに十分よ」


ライキッドがニヤリと笑う。


「さすがアルケー姐さんだぜ!」


アルケーが水鏡を消す。


「さあ、ライキッド。仕事よ。あの男の人のマンションへ向かって」


「シャーハッハ、任せな!」


アルケーの意図に気づいたライキッドは跳ねるように消えていった。


──


マンションのリビングで、男は婚約者のあゆみを抱きしめる。


「帰りが遅くなってごめん」


声が震える。


「大げさね。仕事で遅くなるのはいつものことよ。でも、今日は心配したんだから」


あゆみが笑う。


「そっか。今日の夕飯は?」


男が尋ねると、あゆみがキッチンへ向かう。


「肉じゃがよ!」


刹那、突如としてコンロから噴き出した炎があゆみを包み込む。


「あゆみ!」


男が消火器を探す間、あゆみは灰と化し、床に崩れる。男の視界が揺れ、過呼吸に襲われる。それに合わせるかのように、窓ガラスが溶けライキッドが現れた。


「こいつがアルケー姐さんが生き返らせたやつか」


火炎球が部屋を焼き、家具が赤く燃える。


「やめてくれ!」


男が叫ぶが、ライキッドの火の粉が彼を包む。


「姐さんの言うこと聞かなかった罰だ!」


男は断末魔も上げられず、灰と化す。血のように赤い炎が、部屋を紅く染め、その炎はまるで生きているかのように動き回り、家具を燃やし、隣の部屋やマンションの至る所を燃やし始める。


自分の世界から傍観していたアルケーはその様子に満足そうな表情を浮かべていた。


──


同時刻、力人と雪音は夕食の買い出しに向かう途中、消防車のサイレンに足を止める。力人の感覚がカンカンという警鐘に苛立つ。


「なぁ、雪音……」


言葉はサイレンにかき消される。黒煙が上がるマンションを雪音が指す。


「リッキー、あの場所……!」


「雪音、行ってみるぞ!」


「え、うん!」


現場は野次馬で埋まり、規制線のテープが張られる中、一人の警官が叫ぶ。  


「危ないから下がって──!」


刹那、上空から降下した火の粉が警官に直撃し、一瞬で炭化させる。


突然の出来事に悲鳴が響き、野次馬が逃げ惑う。そこに追い討ちをかけるかの如く無数の火球が降り注ぐ。


「シャーハッハ、楽しいなぁ」


その言葉が上空から聞こえたかと思うと、上空から燃える焔のような髪の少年──ライキッドが飛来した。


「バルバロイだ!」


警官達はライキッドに向けて発砲するが、怯む様子はなく無邪気な子供のように笑いながら地上に降り立つ。それと同時、勢いよく地面を蹴り上げ、衝撃波を繰り出した。


「うわああ!!」


ライキッドの足下にいた警察官や野次馬が吹き飛ばされる。


「おっ!まだ生きてるじゃん」


ライキッドが嬉しそうに笑ったその時、二つの人影がライキッドの前に飛び込んできた。


それはスカイ・リッキーとスノーハウンドに変身(トランス・チェンジ)した力人と雪音であった。


「おまわりさんは早く多くの人を連れて逃げてください!」


雪音の言葉に現場にいた警官達は野次馬を連れて避難を始めた。


「なんだお前は!」


「最強のゲーマーだバカ野郎!」


ライキッドの問いに力人は強く啖呵を切った。


「さてと……おい、クソガキ!そんな火花で最強のゲーマーに勝てると思ってんのかよ」


力人の挑発にライキッドが火球の雨を降らせる。


力人がヘラクレスホーンで火球を弾きながら車輪のように回転し突進する。ライキッドが回避し、炎の手刀を繰り出す。


「そう来ると思ったよ」


見切ったかのように力人が体を捻り、風を纏った蹴りを鳩尾へ叩き込んだ。


「ぐえっ」


力人の攻撃を受け、ライキッドは壁に叩きつけられる。


「オレっちはなぁ!強いんだよぉー!!」


ライキッドは両腕から火炎を放つ。力人は咄嵯に身を翻し、火炎を回避したが、火炎の余波により吹き飛ばされてしまう。


「ぐあっ」


力人はマンションの壁に激突し、地面に倒れ込んだ。ライキッドは追撃しようと、再び火炎を放とうとするが、それを察知した雪音がライキッドの腕に向けて氷の礫を放った。


「チッ」


ライキッドは舌打ちしながら、火炎を発射する事をやめ、大きく跳躍し、雪音から距離を取ると、手から作り出した火球を次々と2人に向けて放つ。


力人は迫り来る火球を避けつつ、ライキッドに向けて、拳を叩きつけようとするが、彼は火球を放ちながら、背後に回り込み、火球の連撃を食らわせる。


一方、雪音もライキッドに接近戦を仕掛けるが、ライキッドはスノーハウンドの繰り出す冷気の爪の攻撃も避け、さらに無数の火球を放つ。


スノーハウンドはは間一髪でその攻撃を避けるが、数発被弾してしまう。


「きゃっ!」


「おっ、おい雪音!?」


力人は雪音の身を案じながらも、目の前の敵に集中せざるをえなかった。


「さてと……そろそろトドメといくかー」


ライキッドはそう言うと作り出した火球を巨大化させていく。


火球はライキッドの手の中でどんどん膨れ上がり、膨張した火球は周りの木々を溶かしていく。


「ヘルフレア・バニンガ!」


ライキッドはニヤリと笑うと、雪音と力人に目掛けて巨大な火球を勢いよく放った。


迫り来る膨張した火球に力人は相手の強さを理解しないまま無鉄砲で軽率な行動で雪音を巻き込んでしまった自分に対する怒りと後悔の念を抱きつつも、この場を切り抜ける為に必死だった。


力人は頭上から迫る火球に対し、グラントルネードの風圧で対抗しようと試みる。


しかし、今の力人には技を発動するどころか、避けるほどの力さえ残っていなかった。迫り来る燃えたぎる火球に力人が死を覚悟した刹那、何者かが力人と雪音の前に現れ、今にも直撃しようとしていた巨大かつ高熱を帯びた火球を跡形もなく消し去った。 


「お前は……あの時の!」


力人は驚愕する。そこに立っていたのはそれは初任務の時、絶体絶命の力人を転生者から救った馬の頭をした騎士のような姿のバルバロイだった。


「お前がアルケー姐さんが言っていた裏切り者だな?」


ライキッドが喚く。自分の最大奥義(ヘルフレア・バニンガ)を一瞬にして防がれてしまった事に動揺し、同時に恐怖心を抱いていた。


馬頭の騎士──ホースバルバロイが光の剣を振り、ライキッドを斬りつける。


「これ以上オレッちを怒らせるなよー!」


再び火球を放つべく、ライキッドは両手を掲げ魔力を溜め始める。その時力人の目にマンションの消火栓が映る。


「(見えた!)水かぶって冷えな!」


力人は助走をつけ消火栓を蹴破る。刹那、間欠泉のように吹き出した水流がライキッドを貫き包み込む。


「オレッちの頭の火がー!」


悲鳴を上げ、ライキッドは繊維を喪失する。その隙を突くかのようにホースバルバロイが光の剣で横薙ぎした。


「アルケー姐さんに言い付けてやるからなー!!」


ライキッドは撤退し、消火栓の水が降り注ぐ。それは悪意の炎を消し去るか雨のようであった。

変身が解除され、力人が倒れる。


「……」


ホースバルバロイは無言のまま二人を抱えるとどこかへと去って行った。


──

力人が目を覚ますと、小さな公園だった。


「ここは……?」


その時ホースバルバロイが突如として現れ、満身創痍の力人と意識を失っている雪音に近づき、手をかざし始めた。


「な、何だ、身体の傷が……治っていく!?」


突然の出来事に驚く力人の身体はみるみるうちに回復していった。


回復した力人をホースバルバロイは黙って見ていると、力人はようやく口を開いた。


「助けてくれたのか……?」


戸惑いながら問い掛ける力人に対して、ホースバルバロイはうなづきながら人間の姿に戻る。その姿に力人は驚きの表情を浮かべた。

ホースバルバロイが手をかざし、力人の傷が癒える。


ホースバルバロイが人間──月浪實に戻る。


「お前は!」


「綺羅星力人君だろ? 生徒手帳の……」


微笑む實に力人は込み上げてくる恥ずかしさを隠すように實を問い詰める。


「お前、バルバロイだろ?なんで助けたんだ?」


今までと異なるバルバロイの様子に疑いの目を向ける力人に實は真剣な顔で口を開き始める。


「安心してください。僕は君と何も違いません。ただ君たちと同じように目の前の人々を救いたい。ただそれだけのことです」


實は力人の目を真っ直ぐに見つめる。


青空のように澄み渡る實の眼は力人の心の中の()()を少しだけ変えた。


力人もまた青空のように澄み渡る眼で實を見据える。


二人の目には曇一つない決意が宿っていた。


「分かったよ。信じるぜ」


拳を突き出し、實が合わせる。


「よろしくな、實」


雪音が目を覚ます。


「リッキー……その人誰?」

その視界に映ったのは、實と力人がお互いの健闘を称え合う姿だった。


「リッキー……その人誰?」


雪音は見知らぬ人物の存在に首を傾げる。


「あぁ、俺と雪音を助けてくれた心優しいヒーローだよ。月浪實って言うんだ」


力人は雪音の疑問に答えると、雪音はその名を聞いてすぐに思い出した。


「つきなみ……みのる……あっ!あの時は本当にありがとうございます!」


雪音の礼に實が微笑みを見せると同時雪音の腹が鳴った。夜の公園に、三人の笑い声が響きが広がった。





ゲーマーメモ

──マナチャージ──

コントローラーを利用して倒したバルバロイから放出される異界のエネルギー〈マナ〉を回収する行為。吸収したマナは武器や技を強化に利用できるうえ、回収したマナ量によってバルバロイの強さに応じた報酬が得られるなど、ゲーマーにおける〈経験値〉とも言える存在。



──後書き──

お久しぶりです。

今回、力人ともう一人の主人公〈月浪實〉が互いの正体を知りました。

はたしてどうなってしまうのでしょうか……

次回はヒロイン、雪音の過去が絡んだシリアスな話となります。

次回もお楽しみに

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