第8話 王国サウジャラン
お久しぶりです(ごめんなさい)
受験期等で書けませんでしたが、終わった為続けさせて頂きます。
朝日に照らされ、錆びた金属を見せつけるその船は、山のように巨大で、艦首を空に掲げていた。
その古代船は船体中央が崩れ落ちており、船に載っていたであろう建物が斜塔のように鎮座して、艦尾に当たるであろう部分は、その半分が砂中に埋もれていた。
地図にも乗らない程、大昔なのだろう。
にしても巨大だ、育ての親である神父と本を買いに港へ行ったことがあるから、多少なり船の事はわかる。
だが全て金属でできてるのは見た事が無いし、軍艦だとしても、大砲の位置も数もおかしい。
何故砂漠にあるのかも分からない、大昔海だったのだろうか。何があったのだろう。
バレンは歴史学者でも無いので知らない事を考えたって何も判ることは無いだろう。
真ん中の抉れた穴から入れるようだ。
さらさらした砂を足で蹴飛ばしながら中へと進む。
内部は暗く、パイプや手摺がまるで棘を生やしたかのように通路にはみ出ていた。
錆びて、穴だらけの階段を上り、建物の中程に比較的大きな部屋を見つける。
正面には、周りをよく見渡せる程長い窓があり、金属で造られた机やボタンが大量に付いた箱のような物が規則正しく並べられており、固定されているようだ。
真ん中の1番高い机にふと目を遣ると、明るい緑色の宝石が1つ菱形の額縁に飾られその砂に薄汚れた写真には、青いワンピースを着た小さな子供と白い軍服のようなコートを身に着けた大柄の男。顔は見えず、背景も破れているせいで見えなかった。
バレンが指を触れてみると、写真立ては倒れて、宝石は砕けてしまった。
何か申し訳ない事をしたと思い、折れた立ての棒を粗悪ではあるが紙のテープで補強して元に戻した。
そういえば、ガンコがこの船の材料欲しがってたか。
バレンは壁に貼られた、割れかけた板を砕き剥がした。
「貰って行きますね」
そう言い残し、船の外へ出た。
地平線の向こうに薄らと白い建物が見えた。
「あれか…… 足が棒になるな……」
この地域は朝と日没で風が強いので、流砂が起き砂流船が往来するが…… バレンの目の前には何も無い。
あるのは陽炎とキラキラ輝く砂。
思わず溜息が出る。
「この辺に砂流船なんて来ねぇよ」
いきなり聞こえたものだから、思わず身構える。
振り向くと、煤に汚れたようにボロボロの上衣に、薄茶に汚れた白いスカーフ。
歳は40半ばであろうか、赤茶の髪はパサパサだ。
鉄パイプを持っていたので、盗賊だろうか。
「砂漠の連中と同じにすんな、本当は綺麗好きだぜ?」
しかし警戒は止めない。
「信用できるか」
「あぁ…… パイプか。ほらよ、これでどうだ」
投げ捨てたパイプは舞った砂に埋もれた。
「俺は…… 今は自由人だが、元々傭兵だった男だよ。傭兵らの行いを見てればまぁイメージは悪いかもしれんが、略奪やら強盗とか好きじゃない趣味だ」
一応信じてみるかと、バレンは杖を仕舞った。
「名前は?」
「ペルー・バイロリッヒだ、そっちは」
「バルクレーヌ・バレン。 バレンと呼んでもらえれば」
バイロリッヒはバレンの後ろに広がる砂漠を見渡し、提案してきた。
「お前さん、ここで砂流船を待つ気か?もしそうなら正気じゃない。歩くのにも危険が伴う。どうだ、俺の船に乗せてってやろうか?」
バイロリッヒは腕を伸ばし、遺跡の端っこを指さした。
「金が無い」
「箒とか絨毯担いでない時点で察してるよ、行先が同じってだけだ。 サウジャランだろ?」
「何しに行くんだ?」
「船を少しだけ改良したくてな、速さが足りねぇ。そっちは?」
「依頼を受けて、装飾品を造りに」
「だったら急がねぇとな。来い、こっちだ」
バイロリッヒについて行くと、橇の付いた船が。
それは、直線的な容姿で、茶色と真鍮色の様々な箱がくっついた様なもの。
翼はコウモリのような帆を張ったもので、艦首は二又に分かれた四角い形状だった。
蒸気浮揚船というのを聞いたことがあるが、本当にこんな物が空を飛ぶのだろうか。
「ボロ船を良い値で買ったんだ、だが蓋を開けたら驚いた、性能に値段が追いついてねぇ。売った連中は見た目にばかり目をやりやがってると改めて認識したね……乗れよ」
中は少々鉄臭かったが、気になるほどでは無い。床は柔らかな絨毯がひかれ、机や椅子は固定されている。
バイロリッヒに案内され操縦室に行く途中、台所や寝床まであった。
「この船に住んでるのか?」
「当たり前だ、これ程便利な家はねぇ。ちゃんと揃えれば風呂も洗濯もできちまう」
彼は伝声管に向かって
「出発だ! 機関回せ!」
「他にも誰か乗ってるのか?」
「人間じゃあねぇな、この船を買った時に住み着いていた綿の妖精だよ。追い出す訳には行かねぇだろ?」
「え、妖精を使役してるんですか」
「仕事仲間じゃねぇ、家族だ」
船内に重低音と、蒸気の音が鳴り響く。
「帆翼を広げろ、抜錨!」
後方に向けて噴射される蒸気に砂が巻き上げられ、橇に蹴られた砂丘が砂飛沫をあげる。
船は徐々に速度と高度を上げ、遺跡は小さくなっていく。
「速力21テルダン(1テルダン=時速6.5km)、高度8.2トーレ(1トーレ=50m)。高度を維持して、最大戦速へあげる、飛ばすぞ」
速度計は1つ2つと目盛りを登っていき、62を指した。
窓を覗き下を見てみると、砂流船が帆を張って砂漠を進んでいる。
しかしすぐにこの船の下に隠れて行った。
「燃費が悪いのがちと傷だな、目的地に着いたら補充は必須だ、もう少し時間がかかる。 そこの椅子にでも座っててくれ」
バレンは操縦室の隅にあった黒い木の椅子に座った。
今回の依頼は安産祈願の数珠。
黒輝石の真珠を使った物だ。
一応調べてみたのだが、それは『凍てつく砂漠』にあるらしい。
凍てつく砂漠、古い書物にしか記載が無く、場所も分からない。
「バイロリッヒ」
「ん?なんだ」
「『凍てつく砂漠』について知っているか」
「あぁ、聞いたことはある。1度だけな。 この砂漠の何処かにあるらしいが、こんな熱された乾いた土地になんて、寒さと言えば夜くらいだ。凍てつくなんて程遠い」
「場所は聞けなかったのか?」
「そこでしか取れない真珠があるらしいと、俺の友人が話してた。送り届けてやろうかと場所を訊ねたが……1人で行くとうるさいんだ。だから聞けなかった。そこへ行くんだな?」
「ああ、その友人と同じ目的だ」
「成程、友人は暫く帰ってきてねぇ。もし会うことがあれば……名前はフレムリン・ユッシェ、金髪で鼻が高いチャラい奴だ。ここの砂漠じゃ目立つからすぐわかるだろう。会ったら連絡ぐらい寄越しとけと伝えて欲しい。 もし会わなかったら、凍てつく砂漠の場所を教えてくれないか?」
「承知した」
「まぁ凍てつく砂漠を見つけたらの話だがな!」
バイロリッヒはガハハ、と口を開けて笑った。
もうすぐそこまで都市の城壁が見えて来た。
ここら一帯の砂漠は殆どこの王国サウジャランの管轄で、そこを走る砂流船の免許もこの都市で採れる。
城壁は攻めてくる敵勢力の為では無い、砂嵐から守る為にあるのだ。
この世界にはそんなモノなど今は無い。
船は易々と城壁を越えて、都市の蒸気浮揚船港に向かう。
バレンの故郷、ニアラズアと肩を並べる程交易が盛んな国だ。
港はかなり広い広場のような場所で、円形の台座に様々な浮揚船が置いてある。
船は速度を落とし、ある1つの台座の真上で空中停止した。
そのままゆっくりと降下して、橇を地面に降ろす。
跳ねるような感覚がした。
「着いたぜ、んじゃあ会える時な」
「ありがとう、友人には伝えておくよ。コゲドリ行くぞ」
船を降りるバレン、その目前には彩り豊かな屋台や砂岩煉瓦の建物が並び、人々の様々な声が交差する。
―王国サウジャラン―熱き交易の栄える国。
『凍てつく砂漠』それは何処にあるのか。
飾り屋の魔法使いは交差する話し声を頼りに流れる国を歩き回る。
次回 交易広場