第7話 砂漠へ
1年程待たせてすいません。
モチベーションがどうも上がらず、このような期間を開けてしまいました。
では、どうぞ。
バレンは汽車の窓を眺めていた。
しかし窓は闇。
長いトンネルで景色を楽しむ事はできず、退屈な列車の旅だった。
車輪で地面が震え、トンネルが不気味な声をあげる。
その声は、汽車の蒸気と鉄の音にかき消され、気づく者は居なかった。
バレンは、砂漠地帯へ向かっている。
トンネルの壁に水が滴る。
トンネルを抜け眩い光が窓から差し込んだ時、下から突き上げるような揺れが汽車に襲い掛かる。
地震だ。
汽車は直ぐにブレーキをかけ、甲高い音を出して減速する。
バレンは前方の席に掴まり、何事かと困惑した。
乗客は汽車が止まるなり我先に我先にと客車から窓から飛び降りていく。
バレンも流されるように客車を降りる。
見渡すと、最後尾の客車が脱線し傾いている。
バレンはすぐさまそこへ駆けつけ、怪我を負い取り残された乗客を担ぎ、少し離れた場所に避難させる。
「ありがとうございます……」
「いえ、当たり前のことをしただけです」
幸い怪我人は軽傷で、足を捻ってしまったらしい。
「冷やした方がいいですね」
バレンは、ハンカチを取り出して杖を当てる。
ハンカチはヒンヤリと冷たく、冷気を帯びた。
それを彼女の足に巻いてやり、これでよし、と言った。
「魔法で直ぐに治すより、ゆっくり安静に治した方が確実です」
バレンはコゲドリを呼び戻し、その場を立ち去る。
「さて…… 歩くか」
ここから歩くと、砂岩の山々を越え広大な砂漠と流砂の絶えない大地があり、砂の王国と呼ばれるサウジャランまで三日はかかる。
線路沿いを伝って行けばで三日だ。
バレンは大陸地図を開き道を確かめていると。
「もし……」
その声に驚いて飛び退くも、バレンの顔だけはその声の主を見た。
艶のあるカーキ色の髪に、白金色のフサフサのマントを羽織った魔女。
紺色の瞳が三角帽子の鍔の縁ギリギリで見つめていた。
「は、はい」
「これから、サウジャランに向かうのか?」
「そうですが……」
「ここから南東に向かうと良い、お前の見たい物がある」
バレンは地図を見るが、その場所には何も記されていない。
「記されていないのは当たり前であろう、古なのだから」
「貴女は一体誰ですか?」
彼女は三角帽子の鍔を杖で少し上げ、バレンを真っ直ぐ見た。
その杖にはバレンのコンパスと同じように蒼い透き通った小さな板のような物が糸で吊るされている。
「いつか分かる…ミルル・フレーノア。 それが私の名だ」
「覚えておこう」
「王国で事が済んだら、凍てつく砂漠に来て欲しい」
「分かった」
そうして、ミルル・フレーノアと名乗る魔女は消えていった。
「ところで凍てつく砂漠ってなんだ?」
コゲドリは呆れたように鳴く。
「暑いなぁ……」
羽織っているローブを脱いでも暑さは和らがない。
魔法で涼しくするも、日差しや熱風までは防ぐ事はできない。
そうして日が暮れ、夜がくる。
南東の砂漠の地平線を見渡すが、既に夜空の闇に隠れていて何も見えない。
寒暖差が激しいこの砂漠は、この時間に急激に気温が下がっていく。
「着たり脱いだり……」
ローブを着直して、少々休む。
流砂を起こす強風がバレンの帽子を飛ばそうとする。
「船通らなぇかなぁ」
そんなことをぶつくさボヤいていると、砂の丘から気配。
盗賊だろう、この地域ではお約束だ。
バレンもその気配に気付き、杖を構える。
「よォ……魔法使いさんかねぇ」
盗賊は三人。
そのうちの一人がバレンに対して痰を吐きかける。
バレンはご丁寧に避け、答えた。
「そうですよ、だからどうした。 どんな者でも奪い、調子が良ければ殺すのだから」
「良くわかってるじゃないか、今日は調子が良い。 行け」
その盗賊が言うと、残り二人が走り詰めてくる。
「遅い」
バレンは杖を振り、一人を吹き飛ばす。
しかし、命令を出した男の投げナイフが飛んできて、頬を掠め切る。
「痛……」
無理な避け方をしてバランスを崩し、もう一人の盗賊に後ろを取られる。
その盗賊は鉈を大きく振りかぶり、バレンを斬りつけようとする。
すぐさま杖に力を込め、杖の先から青白い光の刃を出し杖が光の剣となって鉈を受け止める。
「晶剣か……良い杖持ってんじゃねぇか」
「何処にでも売っている普通の杖だ、高値で売ってるような便利な機能付きじゃない」
バレンは鉈をはじき飛ばし、盗賊の左腕を斬りつける。
切り口からは血が流れ、想像以上に深い傷が齎す痛みにその盗賊は腕を押さえ、悶絶する。
「いつまでそこに居る、もうお前一人だ」
「チッ……いつまで寝てる行くぞ」
吹き飛ばされた盗賊は、腹を抱えながら悶絶する盗賊を支え、リーダーの元へ。
盗賊三人は去っていった。
「やれやれ、騒がしい」
バレンは場所を変え、そこで少し休憩する。
足跡は靡く風によって跡形無く消えていく。
……どのくらい歩いただろうか、流砂が起きていない場所を探しながら、日の出前の薄暗い砂漠を歩き続ける。
東の地平線が次第に明るくなり、その光に照らされる砂漠から一つだけ飛び出た山。
「あれが、あの魔女が言っていた……」
そういえば、ガンコが言っていた、『幾何学模様の入った山のような船が』と。
あれがその古代船なのか。
次回 王国サウジャラン