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飾り屋店主の魔法使い  作者: 梨箒星
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第6話 硝子花の飾りと

 さて……

 探してはいるものの、深い霧と密林のせいで、全く見つからん。


「コゲドリ、見つけたか?」


 コゲドリは、そっぽを向く。

 見つかってないのか……

 空から探しても、霧で見えないか。

 硝子花のもう一つの花言葉、まだ思い出せない。

 探すうちに、硝子花があるのかさえも怪しくなってきた。

 低木を掻き分け、葉の雫で袖を濡らす。

 そう言えば青年の気配が無い。


「バレンさん、なかなか見つかりませんねぇ」


 後からの声に驚いた。

 悲しそうなその瞳。

 せっかく依頼してくれたんだ。

 必ず見つける。


「大丈夫、きっと見つかるさ、そうだ、硝子花は確か音がなったよね?」


「はい、雨粒に当たると」


「雨を待つか」


「え…… はい……」


「ん? どうした?」


「いえ、バレンさんが宜しければ」


 二人は雨が降り始めるのを待つ。

 

「ここは何時に?」


「大体、三時に降り始めます」


「三時か…… あと二時間」


「お昼は大丈夫何ですか?」


「朝その時のために昼分も食べて来た」


「バレンさんはどうして飾り屋になろうと?」


「ん〜、気分かな、育ててくれた教会の神父に、物作りが得意だからなってみては? ってね、私も、物を作れる飾り屋の仕事に興味が沸いた、それで今の状態」


「そうなんですね」


「ヴァロインは、何が好きなんだい?」


「僕は、魔法が好きです」


「魔法?」


「よく、魔法で綺麗な光を作って楽しんでました」


「ほぉ、見せてはくれないかい?」


「すいません、魔法はもう使えないのです」


「?」


「ある日突然使えなくなりました、硝子花を探した雨の日に」


「そうか…… 聞いて悪かった」


「いいえ! バレンさんと会話出来て嬉しいです!」


「お、おう」


 この森は時間の流れが早い、会話で盛り上がっていたらもう三時。

 時計を見ると、その硝子に雨粒。

 

「降ってきたな」

 

 コゲドリは、グワァと一鳴き。

 バレンは唇に人差し指を当て、コゲドリを静める。


「そっと、耳をすまそう」


 バレンはそう言って、杖を耳に当てる。

 青年も耳をすませる。

 雨粒の地面に当たる音。

 葉に当たる音。

 できた水たまりに落ちる音。

 微かに聞こえる。

 硝子の音。

 その美しい音は、音楽を奏でるよう。


「こっちだ」


 バレン達は、その音を失わないよう、その場所へ向かう。

 低木を掻き分ける。

 霧が深くなり、一寸先も見えない。

 歩き続けて、どのくらい経ったか。

 音が限りなく近い。

 周りは拓けているようで、バレンは杖を振って霧を晴らす。

 足元に広がっていたのは硝子の様に透明なもの。

 それは、美しくその花弁を広げ、雨粒を受け止める。

 雨が上がり、雲の隙間から光がカーテンの様に射し込む。

 

「これが硝子花か……」


「ここにも咲いていたんですね」


「さて、これで飾りを作るんだね?」


「はい、でも、どうするのですか? やはり草花、枯れてしまう」

 

「そういう時の魔法だよ」


 バレンは再び杖を振り、硝子花に魔法をかける。

 花を活かしておきたい。

 

「保存をする魔法だよ、なるべくこの形を保ってくれる」


 一行は、公園のベンチに戻り、バレンは作業に取り掛かる。

 前もって買ってきた白い木材を使う。

 

「どんな物にしたい?」


「そうですねぇ…… 髪飾り、立派な魔女になれるよう、思いが込められた飾りが良いです」


「成程、わかった」


 バレンは何か悲しい。

 まるで別れる様な言い方ではないか。

 そうしてバレンは飾りを作る。

 彫刻刀の削る音が公園を歩く。

 コゲドリもヴァロインもバレンが飾りを作っていくのをじっと見つめる。

 

「できたよ」


 バレンはそっと微笑み、飾りを見せてみる。

 六芒星の木の枠に、硝子花が一輪。

 

「凄いです。 バレンさん……」


「これを届けるか」


「はい……」


 ヴァロインの言う幼馴染の子の元へ向かう。

 星が綺麗だ。

 

「ここです、メルマって言います」


 バレンは家の扉のベルを鳴らす。

 その扉から出たのは昼間の子。

 

「あ、昼間の……」


「どうも、メルマさんでよろしいでしょうか?」


「はい」


「貴方の幼馴染……」


「なんでそれを……」


「彼から聞きました、飾り屋の仕事依頼で」


「え…… 彼は何処に?」


「ここに居ますが?」


「何処に?」


「え……」


「何処で会ったんですか?」


「大霖森公園で……」


 メルマは飛び出し、公園へ走り出す。

 

「ヴァロイン、一体これは……!?」


 姿が無い……

 バレンはメルマの後を追い、公園へ着く。

 メルマは探しの呪文を使い、探そうとするも、見つからない。

 

「何処に居るの……」


 バレンは大体察しは付いた。

 

「ヴァロインさんが、貴方に」


 バレンは硝子花の髪飾りをメルマに渡す。

 

「これは?」


「ヴァロインさんから依頼されました」


「……」


「受け取って欲しいと」


 メルマは飾りを受け取り、頭にそれをつけた。

 瞳には涙が。


「ありがとう、ヴァロイン、飾り屋さん」

 

 メルマを家に送り届け、バレンは再び公園へ。

 土砂崩れがあったのはこの近く。


「ここか」


 雨の降る中、バレンはその場所に着いた。

 岩と土が地面に広がり、元々崖だった所は、坂のようになっている。

 倒木や、枯れた草木。

 石の下には、潰れた硝子花。

 バレンは近くにあった別の硝子花を摘み、土砂の前に供える。

 

「これしかできないが……」


 そう言ってバレンは立ち去る。

 硝子花のもう一つの花言葉、それは……

 

「大切なる亡霊からの贈り物……」

あの後、宿屋にバレン宛へ依頼の手紙が来た。

次は砂漠。

アルチア大陸の南だ。

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