第5話 硝子花と
「貴方が、飾り屋さんですか?」
白髪の瞳の青い青年。
硝子の様に透き通ったその瞳には、悲しい何かを感じた。
「そうだ、バルクレーヌ・バレンだ。 バレンと呼んでくれ」
「バレンさん、依頼を受けてくれませんか?」
「依頼を受けたから来たのだろう? それに、呼び捨てで良いよ」
「……そうでしたね」
バレンと青年は共に公園の中を散策し始めた。
バレンは硝子花の場所を聞いたが、
「知っていますが、その場所では駄目です。 以前の長雨で土砂崩れが起きて、花も荒れてしまっているので」
「そうか、では別の場所は?」
「その場所しか分からないのです。 すいません」
「謝らなくていい、しょうが無い。 じゃあ一緒に探そうか」
しばらく散策しているが、黙りだと詰まらないので、硝子花について話そうと、バレンは
「そういえば、なんで硝子花を? いや、大事な人と言うのは誰なんだい?」
「気になりますか?」
「深掘りするつもりは無い、ちょっと知りたい」
慌ててバレンは付け足すと、青年は微笑んで、その人の事を想う様に話し出す。
「幼馴染の女子なんですよ、最初はただ追っかけっこしたり、隠れんぼをしたりする友人能力様な関係だったんですけど、次第にその子の事を想う様になって、花言葉で硝子花を選ぼうと」
「成程、好きなんだね、その子のこと」
「はい、優しくて、面白い子です。 是非、バレンにも会わせたい」
「おお、そ、そうか、名前聞いてないな」
青年は、ヴァロインと名乗った。
霧は更に深くなり、殆ど視界が真っ白になった。
バレンが時計を見ると、三時を指していた。
その時、時計の硝子に水滴が一つ二つと、付いて、バレンは上を見上げた。
そう言えば、ここは雨が多いと聞いた。
「バレンさん、明日にしましょう。 雨が降り始めたら、明日の朝まで止みませんから」
「そうか、では今日はここまでにしとこう」
「はい、僕はあちらの方に住んでいるので、ここでお別れです。 明日ここで会いましょう」
「わかった。 ではまた」
バレンはヴァロインと別れ、公園を出る。
もう夜か、辺りは暗くなり、雲の合間から星明かりが見える。
「あの森は時間が早く経つのか」
今日の夜は、雲と風が多い夜だった。
バレンとコゲドリは、安い宿に泊まり、一夜を過ごす事に。
「硝子花、もう一つ花言葉があったんだよなぁ…… 何だっけ……」
蝋燭に照らされた机と日記帳。
ペンを握り、明日の予定を立てる。
「明日は一日中硝子花かな。 ゴゲドリ、道に迷わないよう確り導いてくれよ?」
コゲドリはクァと一鳴き。
それから、翼に顔を蹲って寝てしまった。
「早寝な奴め。 さて…… 異世界からの訪問者。 読んでみるか」
――昔、約三千五百年前。
大陸は四つの国家が支配していた。
一つは水を象徴し、一つは砂を象徴。
一つは草を象徴し、一つは鉄を象徴していた。
彼等はお互いに助け合っていたが、鉄の国家が大陸を蝕み始め、三つの国が対抗していた。
突然の時代の転換だった。
ある時、砂の国の浜辺都市が鉄の国の鳥に襲われ、滅ぶ寸前の頃。
空に白い巨鳥が現れ、幾多もの兵器を駆使して鉄の鳥を追い払った……
前置きはこの位か、バレンはまた時間があったら読むように、しおりを挟んでそっとバックにしまう。
着替える寝間着も無いので、風呂に入って寝る時も旅着で寝るのであった。
朝、すこし曇り空ではあるが、バレンは公園に向かう。
坂を登る途中、慌てた声と共に、大杖を掴んだ少女。
魔女の格好をしたその子は、暴れ回る大杖を手に、翻弄されている。
暴れ回る杖と少女に誰も寄り付くことは出来ない。
バレンは杖を取り出し、セイドの方位磁針が輝く。
バレンは杖を構えながら、暴れる大杖に当たらぬよう、そっと近付く。
そして杖を振り、大杖を止める。
少女は地面に伏して倒れ込んだ。
金髪のショートヘアが乱れる。
「おう、大丈夫か?」
少女は起き上がり、眼鏡を掛け直す。
「は、はい、目が回りましたぁ……」
「うん大丈夫じゃなさそうだね」
近くの喫茶店で休憩がてら、少女を落ち着かせることに。
「参りましたぁ…… まだまだです……」
「どうしたんだ、あんなに杖が暴れることは無いだろう」
「杖に探しの呪文を唱えたんです……」
「あ……」
「そしたらこんな事に……」
バレンは苦笑いをして、探しの呪文について聞いた。
「あぁ、そうですね…… あの上の公園、人がよく迷うんですよ、それで人助けとして」
「そうなんだ、どれ、見せてみな」
「え? また暴れてしまいますよ」
「杖を見せてくれるだけで良い」
大杖を受け取り、バレンは大杖を撫でる。
問題は無い、が……
呪文を難しいものを使っているのか、成功率が低い。
「呪文、難しいものを使っているね」
「え? あ、はい」
「ちゃんと間違え無く詠唱した?」
「いえ、無詠唱です」
「難しい呪文は詠唱した方が間違えにくい、ちゃんと詠唱すれば良いと思うよ」
「そうですか…… 分かりました、ありがとうございます!」
バレンは手を軽く振って、少女と別れた。
「コゲドリはもう先に行ってるな、急ごう」
公園に付き、コゲドリの痛い御出迎えを受けて、昨日の場所に向かう。
青年はもう待っていた。
「すまん、遅れてしまった」
「良いですよ、どうしたんですか?」
「杖で暴れ回る子を止めたんだ、金髪のショートヘアの子。 探しの呪文を使っていたよ」
「金髪のショートヘア…… もしかしたら幼馴染の子かもしれないです」
「へぇ…… まぁ飾りを届ける時に会えるでしょ」
そう言って、硝子花探しを始めたのであった。
どうも、梨です。
コゲドリの痛い御出迎え、バレンが痛いと思うのだから相当痛いですね。
公園なのに人がよく迷う……流石霧が立ち込めて、雨が降りまくる、霖の文字は飾りじゃないね。