第4話 レサルル公国
「うんうん、車内弁当を食べるのは久しぶりだなぁ…… うんうん」
玄米の御飯と、彩り豊かな野菜、ジューシーな肉。
バレンはできるだけ安いやつを頼んだが、それでもボリュームがある。
コゲドリはバレンの食べる焼肉を食べたそうに、じっと見つめる。
脂の乗った肉厚な肉は程よい柔らかさと歯応えがある。
「さっき飯食ったばかりだろう、これは自分のだ」
それにコゲドリは不満げに、ボォーと鳴いた。
「おや? そこに居るのは魔法使いで?」
車内廊下を歩いて来て、バレンの座る席の背もたれに腕をのせ、いかにも地位の高そうな男が喋りかけてきた。
「はぁ…… まぁ…… 魔法使いですけど、何か?」
「あぁ、すまないね。私はカガルス・コルナルス。レサルル公国の王立騎士隊対悪魔狩り課の隊長だ」
「対悪魔狩り課……?」
「最近、連中の動きが活発になり始めてね、狂気の連中よ。被害者の殆どが魔法使いや魔女だ、レサルル公国でも警戒を強めてる」
悪魔狩りの事は本でも神父からの話でも聴いたが…… その狂気さは国が警戒する程までに……
「しかし、組織だから比較的見つけやすいのでは?」
「悪魔狩りは一人一人単独行動を採っているからなぁ、見つけにくいし、更に証拠を残さない。悪魔を徹底的に排除すると宣言してる程だ、彼らの見なす悪魔の跡も残したくないのだろう」
悪魔狩りの徹底振りや思考の狂気さ、能力から、本当は連中が悪魔では無いかと噂される程だ。
しかし彼らはそれを全面的に否定、全ては悪魔をこの世界から排除する為の事だと言い張っている。
「まぁそう言う事だ。あ、良かったら貴方の名前も聞かせてくれはしないか?」
「はい、バレン……バルクレーヌ・バレンです」
「バレン……君の両親は素晴らしい方々なんだろうな」
「?」
コルナルスはそれでは、と、列車の次両へと去っていった。
バレンの名は昔の言葉だ、本にも記載されていない程昔の言葉。
神父ですら「バレン」の言葉は遠い昔の言葉としか解らなかった。
両親に聞けたらなぁ。
両親は物心ついた時から居なかった。
神父からは、両親は悪魔狩りに狙われ、まだ赤子である自分を守る為に神父に預けたらしい。
預けられた次の日に、神父が行方を調べ、探したらしいが結局見つからなかった。
悪魔狩り…… 20年前の事だ、今更とっ捕まえて聴いても分からないだろう。
暫くして、トンネルに入った。
「やべぇ! ボケっとしてたら忘れてた!」
ギリギリ窓を閉めるのに間に合った…… 間に合ってないな。
バレンの手は煤塗れ、コゲドリに関しては最早焦げ鳥。
バレンはハンカチを取り出し、コゲドリと自分の手を拭く。
「落ちねぇ……」
しょうがなく、バレンは杖をローブから取り出し、拭いの魔法をかける。
「これで良し」
コゲドリは黒から焦げ茶に戻り、バレンの手から煤が消えた。
トンネルを抜け、谷間に出る。
バレンは窓を再び開けて、風を浴びる。
谷間は少しずつ広がって行き、美しい棚池がと建物群が姿を現す。
清水階段の国レサルル。
中東の街を彷彿とさせる様な建物群の合間を這う様にして、美しい池と小川が流れ、独特な景観を生み出している。
レサルルはこの谷間を中心に、国が築かれ、この都市を中心としている。
バレンは前もレサルルに来たことはあるが、いつ見てもこの景色は美しいと思える。
「そろそろ準備するか」
そう言ってバレンは荷物(それ程大掛かりな荷物は無いが)を整え、窓を閉める。
手紙を再び読む。
「アルシア大霖森公園ね」
手紙をローブに突っ込み、一息つくバレン。
列車は次第に速度を落とし、線路の繋ぎ目の音の感覚が長くなっていく。
駅のホームに差し掛かり、ブレーキ音と共に蒸気を出す。
「降りるぞーコゲドリ」
コゲドリはバレンの肩に乗り、バレンは立ち上がった。
駅のホームに降りて、駅の柱時計を見上げる。
「丁度一時か」
駅前広場の中心には坂の溝から流れてきた水が集まり、渦を巻いている巨大な噴水がある。
一体どんな仕組みなのか、全く解らない。
谷間にある都市だけあって、坂がやたらと多い。
アルシア大霖森公園は谷の上、駅前広場から真っ直ぐ登れば着くのだが……
「ええっコレ登るのか……」
来たことはあると言った、だが、大半が駅前広場と近くの市場での依頼だったので、谷の上には行ったことが無い。
バレンは坂を登り始め、街並みを楽しみながら歩こうと考えた。
中東のレンガ造りを彷彿とさせる住宅街や商店が立ち並び、水路が坂の至る所に伸びている。
坂の途中には棚池が点在し、腰掛けている人もいた。
住民か観光客かは分からないが、この坂は相当疲れるものなのだろう。
バレンは体力だけはある。
「おう、そこの魔法使いさんよ、この坂を休み無しで登るとはなかなかですな。 鍛えておるのですか?」
少し体格の大きい肉屋の店主に声をかけられた。
「子供の時、この相棒と街中を走り回ったものですから、自然と」
「成程、相棒とですか、いやはや、立派な相棒ですなぁ。 私のタカミロと速さ比べをしたいものですなぁ」
「今は仕事の依頼ですので、時間がある時に」
「そうですかぁ、そうでしたら私はいつでも待っていますぞ」
そう言って肉屋の店主は構えの姿勢を取ってから、店に戻って行った。
「あ……はい、」
コゲドリは肩の上で足踏みし、いつでも受けて立つと言わんばかりの動きをした。
「おいコゲドリ、いつまで肩に乗ってるんだ。 お前は先に公園に行って、入口から一番近いベンチで待っててくれ」
コゲドリは肩から飛び立ち、坂の上を登って行った。
暫くして、坂を登りきったバレン。
公園の森が広がり、少し霧がかってる。
レサルルの水源の大半がここから来ている。
この森には、硝子花と呼ばれる植物が植生しており、名の通り硝子の様に透明で、水滴が当たると、硝子を突っついたような音が鳴る、まさに硝子だ。
公園の道を進み、待ち合わせのベンチに着くが、濡れていてとても座る気にはなれない。
「コゲドリは何処に行った? 一応ベンチで待てとは言ったが……」
近づいてくる足音。
バレンが足音のする方向に振り向くと、白い髪に青い瞳の青年が肩にコゲドリを乗せていた。
コゲドリは青年の肩からバレンの肩に乗り移り、青年は口を開く。
「貴方が、飾り屋さんですか?」
やぁ、梨です。
投稿遅れました。すいません。
肉屋の店主、待っていると言いましたが、バレンは来れるのでしょうか。ゲームじゃあ無いんだし、ファストトラベルなんてものはできませんよねぇ
※絶対とは言っていない