第3話 始まりの依頼
教会の宿用の部屋でベットにうずくまる魔法使い。
あの店が家だったのに、今はもう燃えて炭の山。
「命が助かっただけでもよかろう? 金庫も見つかってたし」
神父が茶を煎れながら黙ったバレンに話しかける。
ふと、バレンは顔を神父に向け、こう言う。
「あの店が家だったんだぁ 金庫も中身貴重品だけでお金無いんだぁ 貯金通帳つくってないんだぁ」
「……」
バレンは枕を叩き、顔を埋める。
「…… そういえば、飾り屋の仕事は店だけでは無いのだろう? 確か、現地からの依頼を受けてその場で作ると言うものがあったのでは無いのか?」
「来たらの話だよぉ それ」
「待ってればいつか来ると思うぞ」
「来ない来ない、こういう時に限って来ないんだから」
「コゲドリが郵達屋に行っているからもしかしたら……」
「来ない来ない、絶対来ないね。来ると言って待ってれば来るようなものな……」
頭に軽い感覚。
コゲドリの鳴き声。
……む?
バレンは頭の上にある軽いものを掴みとる。
手紙? あのシャイボーイか?いや違うな。
名前が違う。
バレンは手紙の封を切り、その文に目を通す。
《飾り屋さん、お忙しいところ恐れ入りますが、飾りをお願いできますか?
アルシアの硝子花を使った髪飾りを大事な人に届けたいのです。場所はレサルル公国アルシア大霖森公園》
来た。
「良かったじゃないか」
バレンはベットから起き上がり、支度を始める。
ワイシャツとベージュのセーターを着て、黒いローブとスパニッシュハットを身につける。
「行くか」
焦げ茶のショルダーバッグに仕事道具を纏め、地図をローブのポケットにしまう。
巨大な布を折り畳み、それを専用のベルトで留め、背負う。
暫くして、準備が整った。
神父は
「杖を、忘れずに」
「分かってますよ、これでも一応魔法使いなんですから、ローブの内ポケットにいつもしまってますよ」
そう言ってバレンは自分の杖をローブからスっと取り出し、神父に見せる。
シンプルなその杖は、一切の飾り付けが無い。
しかし、その杖の飾り付けが無い代わり、杖に付いた紐に吊るされた三日月のフレーム。
そのフレー厶に方位磁針のマークの形をした星が、三日月に付いた軸にはめ込んである。
その星を貫くように針が通り、陽の光に反射して輝いている。
「振っても壊れない、セイドのコンパス……」
杖に付いた紐に吊るされて揺れ動くその真鍮色のコンパスは、正確に方角を指し示す。
バレンは杖と、その紐に付いたコンパスをローブにしまい、次に財布を取り出す。
折り畳み式の財布には、およそ二万ガル(日本円で三万円)が入っていた。
通貨ではあるが、遠出には足りない。
「はぁ……」
バレンは金庫の中の貴重品を渋々売ることに。
本当に必要な物は残して置いて、それ等は教会に預けた。
一応、遠出に必要な分は揃った。
道具は神父が揃えてくれたので、困る事ではなかった。
「バルさん、ありがとうございます。 では」
「気をつけなよ、最近だと旅人狙い、行商人狙いの野盗が居るからねぇ」
バレンはコゲドリと共に、レサルル公国に向かうのであった。
箒? そんなものは店と一緒に燃えてしまったので、今のバレンには無い。
しかし、あの火事…… 店には火種となる物は無かった。
灯りも、夜以外は使わないし、窓の近くにもレンズになりそうな物は無いが……
「放火かなぁ……」
歩きながら考えては、『放火』と言う文字が出てくる。
嫌なものだ。
「駅遠いなぁ、都市なのに」
大並木のレンガ造りの大道を進む。
蒸気機関の車が通り、人々の賑わうこの道は、自由の道と呼ばれており、行商人やら屋台やらが国一番集まる場所である。
丁度、秋の中頃なので涼しく、更に人が集まる。
それに乗じて、冬の品を売ろうと集まる商人。
交易国家として栄えたこの国は、諸国にも重要視されている。
それで…… 肝心の駅はと言うと、この大道を突き当たりまで進んだ先に、噴水広場があり、そこに併設する形で駅がある。
大道は片道だけでも一時間はかかり、遠い。
「コゲは良いねぇ、飛べるから」
コゲドリは飛んでは、バレンを待つように並木に留まりを繰り返し、バレンを急かす様に「キィ」と鳴く。
バレンは、この長い大道をただ進む。
やっと駅に着いた。
列車に乗るため《ニアラズア国立駅〜レサルル公国ミルナス駅》と書かれた切符を買い、改札を通り、ホームに立つ。
どうも、梨です。
短いと思った貴方、梨も思いました。
これから長くしていきます。
何卒よろしくお願いいたします。