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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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ハドソン商会と神殿と


王国内で大々的に

“魔風機”の発売が喧伝される。


発売元はハドソン商会という

無名の商会だった。

そのお披露目が

神殿で行われるという。


それもまた初めての事だった。


無名の商会が神殿で、である。

それを知った人々は

一体どんな伝手を使って

神殿を調略したのか

逆に興味津々だった。


無名の商会を

神殿がバックアップするのである。

それは前代未聞の出来事で

噂はたちまち王国全土へと広まった。


王国内で配られた

金の掛かった紙製のチラシの

説明文によれば

ハドソン商会とは

トーマス・ハドソンという研究家の兄と

レオ・ハドソンという実業家の弟の

二人で始めた会社と言う事らしい。


兄の研究を弟が形にして売る。

それがハドソン商会だった。


販売される“魔風機”は

魔石によって羽根を動かし

風を生み出すと言う

画期的な発明で

過去に類を見ない商品だという。


でもそれがどうしたというのだ。

その商品に何の意味がある。


王国内の多くの人々は

その商品に懐疑的だった。


しかし

いざそれがお披露目されると

王国国内のみならず

諸外国にまで噂が広まると言う

画期的な発明品だった事に

後から気付くのである。



************************************************



“魔風機”が

神殿でお披露目されたのは

初夏の

徐々に暑くなる頃だった。

だから神殿の中は

そこそこ蒸し暑く感じられるように

なっていて

窓を全て開け放って

風通しを良くしなければ

あまり長居はしたくない

そういう時期だったのである。


神殿の中央には

“魔風機”と命名された商品が

ずらりと並べられていた。


でもそれは

三枚の羽根を持つ

台付きの安っぽい木製の風車が

幾つも並べられているに

過ぎなかった。


一体どんな発明なんだろうと

大勢の人々が神殿に押し掛けて来て

いたのだが

その安っぽい風車を見て

あちこちで嘲笑が広がっている。


神殿の中は

何故か窓が閉め切られて居り

そのせいかむしろ暑い位だった。


あちこちでちらほらと

扇子を使っている姿もある。


その様子を見ていた

レオは

いい頃合いだと判断して

客の前へと歩み出る。


それを見て

スタッフが“魔風機”を

観客の側に向かせて行く。

それを指示しているのは

カンナとアヤメだ。


レオが第一声を発する。


「御来場の皆さん。

先ずは“魔風機”を体感して下さい」


そう言うと

それが合図だったのか

スタッフによって

“魔風機”の後ろに

何かが次々に組み込まれると

突然羽根が回り始める。


そして回る羽根が生み出す風は

観客へ向かって吹き掛けて行くのだった。


魔法。


それは間違い無く魔法の風だった。


安っぽいと思われた木製の風車が

勢いよく回り出すと

観客達に向かって風を吹き掛けているのである。


その時に初めて観客は気付いた。


“この涼しさは一体何なのだ。

夏の木陰で感じる

一陣の涼しい風では無いのか、と”


観客の驚きの表情を目にしたレオは


「如何ですか。

“魔風機”の風の心地良さを

御理解頂けたでしょうか?


では暫しこの風をお楽しみ下さい」


そう言って

壇上から降りて後ろに控える。

その表情は自信に満ち溢れていた。


何よりも観客の反応がそれを物語っていた。

彼方此方に広がる感嘆の声を聞き

その様子を嬉しそうに見守っている。

一緒になって見守っていた

兄のトーマスも

満足そうな表情を浮かべていた。


会場内のざわめきが

神殿の外にも伝わったのか

外にいた観客が詰めかけ始めると

徐々に押し合い圧し合いが始まる。


それを見て

すぐさま少し危険だと判断した神殿側が

スタッフに目配せをして、中止を申し出た。


それに合わせてスタッフが大急ぎで

“魔風機”を早々に壇上から

引っ込めて行く。


そうしてお披露目はすぐさま終了となった。


観客からは落胆の声が広がる。

すかさずレオが再び中央に進むと


「人が多く成り過ぎましたので

少々危険と判断致しました。


ここで一旦御披露目は終了させて頂きます。

本日は御来場実に有難う御座いました。

販売方法に付いては、

また後日御案内させて頂きます」


そう言い放つと

スタッフと共に奥へと引き上げる。


会場には、騒めく観客だけが取り残されていた。



************************************************



神殿の執務室には

既に“魔風機”が何基か設置されていて

神官長を筆頭に

神官達がその恩恵を受けていた。


「オーナー殿。大成功のようですな」


そう言われて

自分も一安心する。


「御協力、感謝致します。

会場の件、本当に有難うございました。

ここしか頼れる場所が有りませんでしたので。

まさかこれ程の反響が有るとは

思っても見ませんでしたが・・・」


「いえいえ、これまでにして頂いた

寄進に比べれば

この程度の事は雑作も有りません。


これから先

魔光石による灯りに彩られるであろう

この神殿は

おそらく世界で唯一無二ですからな。


参拝者も更に増え、寄進も増える事は

間違いありますまい」


そう言って笑い掛けて来る。

それを聞いて


“やっぱ俗物だよなぁ、神官長は”


少し苦笑いするのだが

実はそういう御仁は自分は嫌いでは無かった。


“何はともあれ、第一歩は踏み出せたかな”


これで野望の一つが動き始めた。

全てはここからである。



************************************************



“魔風機”のヒントを

ハドソン兄弟に与えたのは

自分だった。

それをハドソン兄弟は研究し

今の段階にまで完成させてくれたのである。


魔法にしろ魔力にしろ

この世界で最も力を持っているのは

おそらく自分だろうとそう思っている。


自分の背後(バック)には

何百もの神が付いているのである。

人間界でこれだけの恩恵を持つ者は

先ずいないだろうと思えた。


だがそれは

自分にしか出来ない事も多い、という事でもある。


自分一人で出来る事は限られているし

自分は一人しかいないから

費やせる時間にも、当然限界が有る。


第一自分は

神々の酒を造らなければならない。

これは約束だ。

反故にする事も出来ない。

だからその事に

それなりに時間を割かれるし

それに加えて最近は、

変な神々の相談事も多い。


これはどう考えても

時間の足りない中間管理職の立ち位置である。


今の世界を

便利に楽しく過ごせるようにするには

自分一人で出来る事には

どう考えても限界が有った。


そこに現れたのが

ハドソン商会だ。


それは自分にとって

救世主にも等しかった。

出会いはクレームだったのだが・・・。


だが彼らの出現によって

光明が差して来た事にも間違いは無い。

文明の利器の

研究開発と商品販売を

ハドソン商会に丸投げする。


勿論ハドソン商会にも

限界は有るのだが

そこは商会として人員を増やし

外注なりなんなりしてくれれば問題は無い。


自分が工夫する手間を、彼らに委託すれば

それで商品開発のアイデアは、形に出来るのだ。

必要ならば

その都度ヒントを出すだけでイイ。

兄の方は発明家なのだから。


これで現金収入の一つの目途が

手に入ったのである。

勿論魔石に関する魔法力の行使は

今は自分一人だけだ。


だがそれは、魔石に関する事だけに

集中すればいいだけの話だった。

今後それを手伝ってくれて

尚且つ協力者になるべき人材を

作って育てて行けばイイのである。


人材の育成・・・からの、文化の形成。


そして出て来た結論は

魔法学校を作る。

ここに辿り着いた。


自分の出来る事には限界が有るから

それを補って余りある位の

もっと柔軟なアイデアと魔法力を

発揮してくれる人材を

育てればいいのである。


ハドソン商会には

主に商業ルートを構築して貰おう。


魔法と文化の融合。


これこそが自分が考えた

魔石国家にしか出来ない

魔石を使った文化都市構想。


だからという訳では無いが

ハドソン商会には

一つの約束をして貰っている。


カデナ王国の国民からは

利益を貪らない事。


カデナの民には恩恵を与え

国外に利益の多くを求める事。

その為には交易に関して

王国の判断を常に仰いで

国内に不自由を感じさせる事無く

国外との交易を計る。


国民の利便性を優先させる事こそが

王国による商会の保護と繁栄を

担保出来る事を

理解しなくてはならない。


そしてもし商会が

個人の利益や自分達の欲望を

優先させたと判った時は

一切の取引を魔法学院は打ち切ると

明言しておいた。


それは実は

魔法と魔石に関わらせない事を

意味しているのだが

もし仮にそうなったとしても

この弟がいれば

ハドソン商会は細々とでも

それなりに生きて行けるだろう、なんて

そうも感じていた。


人間なんて案外しぶといモノなのだ。


ハドソン商会を使って

神殿と王国を巻き込み

魔法国家の基礎固めをする。

その為に一番重要な事。


それが魔力奉納のシステム造りだった。


神官長がこのアイデアに飛び付いたのは

これによって

神殿もまた

安定収入を得られると考えたから。


目先の利く神官長なら受けて当然。

それを見越してのこの計画なのである。



************************************************



神殿が成り立つのは

寄進や奉納が有るからである。


カデナ王国が貧しいのは

神殿も判っていたし

寄進や奉納が少ない事も承知していた。


それが自分によって

神殿に新たな参拝者(集客)をもたらし

カデナ王国の新たな観光地になっている事は

神官長にとっても明白だった。


女神モカの像。

神剣もそう。


そしてこれから更に

新たな名物を誕生させようとしている。


それが魔光石を使った

夜でも眩い明るさでライトアップされた

光の神殿構想。

神殿のライトアップ作戦だ。


それを実現させる。


勿論使うのは魔光石なのだが

それには莫大な費用が掛かる事は

明白だった。

魔光石が明るければ明るい程

魔石自体の金額は高くなり

幾ら掛かるのかは想像だに出来ない。

光の持続時間も

魔光石によって様々である。


神殿がこの計画を

独自に実行する事は

先ず不可能だった。


そこでそれらの初期費用は

全て自分が負担する事とし

その代わりに

魔力を集めるシステム作りの協力を

して欲しいというのが

こちらの条件なのである。


そこでハドソン商会なのだ。


安価で明るい光を沢山生み出す術。

投光器の開発。


夜になったらそれを神殿の外周に巡らせ

神殿本体をライトアップするのである。


投光器と言えば聞こえは良いが

簡単に言えば懐中電灯の応用である。


魔光石と魔力石を組み合わせれば

簡単なランタンが出来上がる。

魔光石がさしずめ電球で

魔力石が電池になる。

あとは反射板さえあれば、光を集約させた

簡単懐中電灯が出来上がるわけだ。


魔光石は純粋なものである必要は無く

持続力の無いクズ石程度でも

光量が有れば十分に使える事は

判っていた。

ポイントになるのは魔力石。

重要なのは

魔力の持続力とその継続性だった。


魔力石に魔力を貯えてくれる人が

必要なのである。


このシステム作りが

神殿とハドソン照会を巻き込んだ

最大の理由なのだ。


この世界には

魔法は使えなくても

魔力を持っている人達は

ごまんと居た。


一方で、貧しいから

神殿に寄進も奉納も出来ない国民も多かった。


そこで魔力奉納である。


信徒にカラの魔力石を貸し出し

魔力石に魔力を溜め込んで貰ったら

それを奉納して貰う。


魔力を溜め込んだ魔力石は

そのまま魔光石と組み合わせれば

投光器になる。


そしてここからが本題なのだが

魔力量の多い人は

奉納の為以外でも

魔力石に魔力を込める事を

仕事として請け負う事が出来る。


簡単に言えば

労力を伴わずに出来るバイト。

そしてその魔力を

ハドソン商会が買い取るのである。


魔石は売買は自由なのだが

そう安いシロモノでも無かった。

だから無料の貸し出しには

信用が必要な訳で

貧しい人は神殿の身元保証が必須となる。


だからこそ神殿を巻き込む必要が有った。

神殿は貧しい人からも

魔力の奉納を得る事が出来

その一方で

奉納された魔力を売買する事によって

その利益を現金化する事も出来る。

また魔力取引の仲介による手数料も

得られる事になっている。


どれを取って見ても

神殿には損の無い話しだった。


ハドソン商会は

魔力のこもった魔力石を入手し

それを販売か貸し出す事で

魔法具の販売を展開出来る。


これが魔法都市構想の礎。


魔力持ちの発見と魔力の有効活用。

魔力流通のシステムの構築。


神殿は常に魔力の供給網を保持し

商会はその余剰分の魔力を

金銭と引き換えに受け取る。


その魔力の籠った魔力石によって

“魔風機”は動かせるのだ。


そして魔力石の魔力が尽き

“魔風機”が動かなく成った時

客は魔力石を交換しに来るのである。


簡単に言えば

魔力石とは充電可能な電池と

同じ仕組み。

リサイクルの発想である。


もちろん魔法具の所有者たちは

自分達の魔力を使って

魔力石に魔力を溜め込む事も出来るのだが

そう簡単な話しでも無かった。


魔力石の質によっては

魔力を込める事すら困難な石も有る。

そういう石は

上位レベルの魔力の大きさが必要。

つまり、上位魔法師にしか扱えない

厄介な魔石も有るのだ。


魔石は、誰でも簡単に扱えるものでは無かった。

だから上位クラスの魔石を扱える

魔法師の育成が

急務にもなってくる。


人材が育つまでは

自分とカンナとアヤメの三人が

頑張るしかない。


それ程に

この国の魔法師の実力は

無かったのである。


その一方で

ハドソン商会の開発した

投光器もまた

脚光を浴びる事になるだろう事は

予見出来ている。

投光器はすでに

室内灯や懐中電灯へと

改良されているし

商品化も視野に入っている。


松明やろうそくの時代からの脱却は

すぐ其処まで来ていた。


灯りと扇風機。


魔力石のニーズは

今後多方面に広がり

その分魔力持ちは

重宝されるようになる事は

間違い無かった。


魔法学院都市構想は

そんな序章を持って

静かに始まっていたのだった。


筈だったのだが・・・。



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