国王と王妃、返礼品を知る!
魔法学院準備室から
寄付の返礼品が届けられた。
届けに来たのは
学院発足の関係者ではなく
ハドソン商会のベンとそのスタッフである。
実際、返礼品を造ったのは
ハドソン商会だからだ。
国王と王妃を目の前にして
緊張した面持ちで
ハドソン兄弟の弟であるベンが
寄付金の返礼品について
その商品の説明を始めた。
その説明を受けながら
箱から奏でられる音楽を聴き
目の前で作られる氷柱に驚愕し
時箱と言う物が
一日の日の長さを正確に指し示す
道具である事と
円盤の上を指し示す矢の方向が
全て同じ事の意味を説明されるのだが
その意義に訝しがりながらも
何となく理解し
参考の為に手に入れた
グリルやヒーターや妖精の羽根の
便利さに
国王と大妃は目を丸くし
そのデモンストレーションに
驚愕し
国王は
返礼品の持つ王国の恩恵の意味を
改めて感じた様だった。
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寄付については
特に高額寄付について
返礼品の説明も何もしない内に
速攻で終了していた事に
ベンはかなり驚いていた。
寄付をしたのは
国外の貴族や商人も含まれていたのだが
その大半は国王が申し込んでいる。
その返礼品の詳細を
全く知らないままで、だ。
“そんな事が有るものなのか”
国王と王妃を目の前にしても
そんな事をベンはついつい考えるのだった。
普通に考えれば
ただの酒場の店主である
カンナとアヤメが始めるという
魔法学院は
誰がどう考えても
ウサンクサイ計画に思える。
だが国王が高額寄付金の殆どを
提供すると聞いて
この計画が普通では無い現実なのだと
ハドソン兄弟も感じていた。
魔法学院文化都市計画。
ハドソン兄弟は
それが実現してもしなくても
魔法と言う概念の
新たな世界が開かれる事は
不思議でも何でも無い事を
身を持って体感している。
商品の開発と制作を手掛けたのが
自分達だったからである。
返礼品として
ハドソン商会が作った商品は
今までに誰も見聞きした事の無い
発明品ばかりだからだ。
オーナーと呼ばれる青年によって
魔石と魔法の使い方を教えられた時
自分達が新たな世界の扉が開いた事を
兄弟は二人して確信していた。
そして返礼品のアイデアを
聞かされた時
その余りにも革新的なアイデアに
むしろ驚愕さえ覚えた。
兄のトーマスは
オーナーに触発され
オーナーからの課題を克服しながら
既に魔石と魔法の新たな可能性を
多方面に追求し始めている。
ただ今回の一件は
オーナーに言わせれば
まだ取っ掛かりに過ぎず
ここから更なる進化が可能なので
改良のアイデアは全て任せるとも
言われていた。
自分は魔法学院の運営に
掛かりっきりになるので
アドバイスはするが
こちらでもっと良い物に仕上げてくれと
丸投げされてもいた。
ただし、条件付きで。
ハドソン商会は
カンナとアヤメの店の
全面バックアップで出来た
新興の商会である。
その目的は
カデナ王国の国民の文化水準を上げる事。
何とも無茶な話しだ。
そして出来るだけ軋轢を生まない様に
利益を薄く広く分配し
自分達の利益追求を二の次にする事。
その為には
どんどんと仕事を外注して
製造業の基盤を広く確立させる事。
幅広い人脈を構築する事。
むしろ積極的にそうして欲しいと
言われていた。
これが条件だった。
もしハドソン商会が
自分達の利益の追求のみを行っていたと
判った場合は
カンナとアヤメの店は
全てのバックアップを止め
ハドソン商会と決別する。
そう断言もされている。
ハドソン兄弟にとっては
それがどうしたというのだ、という話しなのだが
どうやらそれは大きな間違いだったと
気付かされる。
国王直々の寄付額がそれを物語っていた。
カンナとアヤメの店には
王国がバックに付いている。
その事が明確に成ったのである。
それはカデナ王国が
カンナとアヤメの店に対して
全幅の信頼を寄せている証しでもあった。
“どうやら王国自体が絡んでいる計画の様だ。
それに背いたら、
自分達は間違いなく王国に切られる”
ベンはそう感じていた。
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国王は一通りの説明を受けると
疲れ切った様に、どっかと腰を下ろした。
その返礼品の内容に
王妃の決断は正しかったのだと
納得もしていた。
“何という商品を作るのだ”
説明を受けただけでも
目の回る思いをしたのだが
その一方で
王妃は既に返礼品についての
細かな打ち合わせを
その場ですぐに始めてもいた。
もっと高級な商品へと
変貌させる為である。
王妃は音箱に付いては
先にシリーベルに話を聞いていたので
その外観をどの程度変化させられるのかも
入念に準備していた。
その用途も、である。
一つは自国の所有物として。
そして残りの二つを売り払って
出来れば音箱三つ分の寄付金を回収し
その上で更なる利益を得られれば上々。
そう目論んでもいたし
実際もう既に
幾つかの国から問い合わせも来ていた。
その中には大国からの申し出も含まれている。
それはモーガン卿を通じての打診だった。
“だったらそれ相応の装飾を施さなくては。
もしかしたらそれで音箱だけでなく
全ての寄付額を賄えるかもしれない”
王妃にとっては
“落とし子”は間違いなく
金の鶏なのである。
産み落とすのは、全てが金のたまご。
その価値は計り知れないとも思っていた。
“全てが賄えるようなら
しばらく売り渋るのも有りかも・・・”
そこまで考えてみる。
実際最も安い寄付の返礼品の
防虫の護符は
自分達の寝所にすでに取り付けられていて
安眠をもたらしてくれている。
神殿にお願いして
もっと欲しいとお願いもしてあった。
この護符に付いては
神殿からのリークによって
神殿と王国の特産商品として売り出そうと
既に密約を結んでもいた。
それ程に世界が望む商品なのである。
神殿は王国国内と参拝者向けに。
王国は国外向けに独占販売する。
これが密約の内容だった。
ハドソン商会によれば
この護符は魔法と魔力が必要になるので
大量生産はまだ出来ないらしいのだが
魔法学院さえ上手く軌道に乗って
人材が育って行けば
行く行くはそれなりの量産も
視野に入っているという。
量産が可能になれば
神殿にも王国にも
確かな収入源になる事には
違いが無かった。
全ては落とし子”の恩恵。
王妃はそう感じていたし
国王もそう思っているに違いないだろうとも
考えていた。
問題なのは
国王一族だけが良い思いをしていると
各領主に思われる事だけが心配だった。
“でもこれは
時箱や他の返礼品を分配する事によって
解消されるかも知れない。
全ては音箱に掛かっているのかも。
そうしたらもっと装飾に拘ってもイイかも”
王妃の期待は
既に確信へと変貌していた。




