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神様に殺された!  作者: 猫めっき
8/82

換金


どうやって街へ行こう。


一番簡単なのは、魔法で飛んで行く事だけど

その他の方法も試してみたい。


風を使って

思いっきり街まで吹っ飛ばしてもらおう。


人目に付かなさそうな高さまで

飛ぶと

思いっきり強風が吹いて

吹っ飛ばされる姿をイメージする。


「どっかーん」


凄まじい衝撃と共に

背中をどんと押され、体がすっ飛ばされた。

そのせいか息が出来ない。


“く、苦しい”


でも飛行魔法とは全く違う。とにかく速い。

ジェット気流並みか?

うわあ、でも顔も引きつっている。


あっという間に

街の正門近くまで飛ばされていた。

受ける風のスピードを落とすと、やっと呼吸が楽になる。


“これは結構イイかも。

知らない場所でも、ひとっ飛びで行けそう。

でも、流石にどっかーんはキツイよな。

徐々にスピードを上げて抵抗を無くしてって!

そしたら一直線で行けそう。

方向さえ間違わなければ、だけど”


人目に触れない様に

地上に降りると

正門を通り抜ける。


城壁の内側は、城を頂点とした

ゆるやかな街が構成されていた。

先ず神殿を探してみる。


多分あの辺りかな。


神々の加護を受けていると

何となく神殿の場所は判る様だ。


その辺りを遠目に見ながら

最初に探さなければ成らないのは

薬屋。

一番目立たずに、換金して貰える可能性の高い

お店である。


街中を中心部に向かって

歩いて行くと

早速それらしきお店を発見。

大きな薬屋で、人も引っ切り無しに

入って行く。


早速中に入って・・・

先ず見なければ成らないのは

一番高い薬草の値段なのだが・・・。


店の奥の高い所に

それらしき薬草の見本を発見。

すかさず店員に声を掛けると


「あそこの薬草って、売り物ですか?」


店員は、こちらの身なりを一瞥すると


「あそこのは売り物では有りませんし、

サンプルですよ。

値段の付けられない薬草ですから。

たとえ有っても買えませんよ」


つっけんどんにそう答える。


「そんなに高い薬草何ですか?」


店員は厄介者を見る様に


「冷やかし? こちらもそれ程暇じゃないんでね」


なんか愛想悪い。

こんな店だと、買いたたかれそうだな。


「スミマセンデシタ!」


早々に店を後にする。

でも、その一言は収穫だった。

あの薬草なら、いつでも手に入る。


今住んでいる周りに

生えていたし。

事務局の人が言った事は

どうやら間違いない様だ。

神々の森に生えている草は

どれも薬草で高く売れると。


あとは慎重に

買い取ってくれる店を

探さなければならない。


そうしていると

何やら薬の匂いを感じる。

それらしい看板は無いのだが

あの特有の感覚は

そうそう有る物ではない。


間違っていたら

その時はその時だ。

謝ればいい。

中に入ると

壁一面に小さな引き出しが

並んでいる。


テーブルの上には

天秤が置かれ、薬研(やげん)も有る。

間違いない。

ここは薬屋だ。


「スミマセン。

ここは薬草を買い取って頂けるのでしょうか?」


自分はこの町のシステムを知らない。

でも今は、その事を調べている余裕もない。

必要なのは現金だ。

買い物をする為の現金を、手に入れなくてはならない。


「この街の方では無いようですね。

でも当店なら大丈夫です。

買い取りの権利を国から許されていますので

御心配なく」


「では、御願いしたい薬草が有るのですが」


そうやって

他の人には見られない様に

あの薬草を取り出すと

少し離れた所に居た

店主と見られる人の顔色が変わった。

つかつかと近づいてくると


「すぐに仕舞って下さい。奥で話しましょう」


その人が、店の中に案内する。

どうやら、間違い無いらしい。

この薬草は、間違いなく高い。



**************************************



イスを勧められて座ると


「先ほどの薬草を、見せて頂けますか?」


丁重にお願いされる。

なんか、信用して良さそう。

もう一度薬草を取り出すと

店主らしき人に手渡した。


店主はしばらくじっとその薬草を手に取ると

やがて奥から

計測器と思われる器具を使って

その成分を調べ始め

その数値を見て、ふっと息を吐いた。


「これほどの薬草を

生で間近に見れる日が来るとは、思いませんでした。

これを何処で?」


その問いに、ジッと答えずにいると


「いや、申し訳ない。軽々しく言える話では有りませんな」


「察して頂いて、有難う御座います。

やはり高価な薬草ですか?」


「人によっては、全財産を差し出しても惜しくない薬草です。

その効果は、万病をも直すと言い伝えられている」


「それ程の薬草ですか」


店主は笑って


「伝承に過ぎません。あまりにも高額で手にも入れられないし

その効果を確かめる術も無いですからな」


店主はいったん言葉を切ると


「王族が秘薬として持っているとか、噂は色々ですが。

お金には代えられない、欲しくても手に入れられない薬草です」


もう一度、ジッと薬草を見つめると


「お売りになりたいのですか?」


「すぐにお金が必要ですので、売ります。売れますか?

買い取って頂けますか?」


「いかほど御入り用でしょうか」


「生活に困らない程度」


店主は笑いを堪えながら


「上手く売れば、一生分の金を手に入れる事も可能ですよ」


その一言を聞いて

この人ならば間違い無いだろうと確信する。


「そちらの言い値で売ります。それで如何ですか?」


その言葉に、逆に店主が言葉を失う。


「言い値、ですか?」


「この薬草の効果は、判らないとおっしゃいましたよね。

だったら、薬効に対して金額が見合っているのかは

未知数でしょう。

先ず、薬効の確認が必要でしょう。

ですから、今はそちらの御希望の金額で構いません・・・。


この先も有りますので」


その一言に、店主は納得したように笑みを溢して


「長いお付き合いを、お願い出来そうですね」


そう言うと、店主は店員を呼んで耳打ちする。

店員が慌てて奥へ引っ込むと

一袋の金貨を携えて来た。


その袋をそのままこちらに手渡すと


「今はこの金額ですが、お納めください。

薬効に見合った金額で、次回は御用意出来ると思います」


「有難う御座いました。助かります。

それと、この薬草の事は内密にお願い出来ますか?」


店主は当然と言わんばかりに


「承知しています。一切出所は漏れない事を御約束致します」


手に取った金貨の袋は、思った以上にずしりとしていた。

幾らかは分からないが、上手く売れば一生分とか言っていたので

かなりの金額に違いないと思う。


店を後にする自分に向かって

出入り口で丁寧に見送る店主の姿は

この世界で最初に出会えたイイ人に思える。


さあ、生活必需品を買いに行こう。


衣食住と拠点を揃えなければ

この世界で生活出来ないんだから。



************************************



店主は店員に目配せすると

大急ぎで調剤室に向かい

城に向かう準備を整えた。


一刻を争う病人がいる事は

承知していたが

その病気に効く薬は

この国では見つかっていなかった。


店主にとっては

この上ない幸運な出来事だったのである。


確かに効果の保証は無い。

しかし、これしか思い当たる薬が無い事も

事実だ。

しかも最も効果の高いと思われる

新鮮な状態なのである。


病状が好転するか否か。

それは神のみぞ知る、である。


店主は大急ぎで

馬車を走らせた。


そしてこの事が

この国の未来を左右する事とは

誰も想像だに出来なかった。





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