寄付金はクラウドファンディング風で!
喫茶室の前に
魔法学院開設の為の
寄付金募集の張り紙が出された。
たちまち人だかりが出来るのだが
意味不明な貼り紙の為に
人々は怪訝そうに見ては
足早に遠ざかって行く。
なぜなら
魔法学院はまだ構想というか
空想段階の話しで
どこにもその話しは公表すらされておらず
生徒も先生もまだ誰一人いない訳だし
何も出来上がっていないのである。
問題は貼り紙の内容にも有った。
驚くべきはその金額で有る。
★寄付金1 3口。
1口。 金10000枚
返礼品 高級音箱一点。
★寄付金2 10口。
1口。 金5000枚
返礼品 音箱並品一点。
★寄付金3 10口。
一口。 金2000枚
返礼品 氷柱箱。
★寄付金4 10口。
一口。 金2000枚
返礼品 小型時盤。
★寄付金5 20口。
一口。 金1000枚
返礼品 大型時盤。
★寄付金6 100口
一口 金10枚
返礼品 火炎板グリルタイプ
★寄付金7 100口
一口 金10枚
返礼品 火炎板ヒータータイプ
★寄付金8 100口
一口 銀10枚
返礼品 妖精の羽根
★寄付金9 1000口
一口 銀2枚
返礼品 ルームライト
★寄付金10 1000口
一口 銀1枚
返礼品 ハンディライト
★一般用寄付受付 10000口。
一口。 大硬貨2枚。
返礼品 防虫魔光石護符。
一人に付き二口まで
以上がその内容だった。
もはや貼り紙を見る人達にとっては
ただの謎の怪しげな
高額の寄付金募集でしか
無かったのである。
そういう反応になるのも
当然の事なのだが
この貼り紙に直ぐに反応があるとは
当事者である自分も含め
カンナとアヤメも
誰も思ってはいなかったし
その貼り紙を自分達は
ただの学院開設の告知だと
認識していた。
もし何らかの問い合わせが有れば
その時にその内容について
説明すればいい事だと
その程度の認識だった。
勿論返礼品については
ほぼ完成の域にまで達していたので
心配は無かったし
使えば誰もがその便利さに気付くだろうと
そんな風にも考えていた。
では何故
こういう告知が必要だったのか、なのだが
この世界に於いての寄付は
寄付と言いながらも
その多くが影響力を持つものだと
誰もが認識していたのである。
寄付がただの寄付では
決して終わらない事は
明確だからだ。
その為にも
対価が有る寄付である事を
周知させておかなくては
成らなかったのである。
寄付金の額の大きさによっては
自分達の計画する学院や街が
自分達の思い通りにはならない可能性は
排除出来ないのだ。
そうした横槍を防ぐ為の
この返礼品方式なのである。
これには
貴族や王国を学院介入をさせないという
明確な目的と意思表示が有った。
だから高額の寄付を集めるに当たり
その対価として
寄付金の金額によって
それ相応以上の返礼品を準備し
口数を限定する事によって
返礼品に付加価値を与える。
いわゆるプレミア返礼品付き寄付の手法を
考えたのである。
高額返礼商品として
楽曲入り音箱
氷柱(大型製氷機)
魔石時計
小は懐中時計タイプで、大は置時計タイプ。
これらはまだこの世界に存在していない
レアな商品。
喫茶室で唯一知られた姿の無い楽師を
身近に再現出来る音箱を
最高額に指定し
製氷機は
夏の暑さの軽減と氷の日常化を
魔石時計は
正確な時刻の概念をもたらす
画期的な指針盤で
この世界の不均一な時間の概念を
根底から覆す商品であり
太陽の動きが一般的な時の指針である
この世界に
正確な時間を提供出来るという
かつて無い商品だった。
それ以外にも
一般貴族向けとして考え
提供する返礼品は
火炎板グリルタイプは厨房用。
火炎板ヒータータイプはストーブとして。
火炎石に比べて
遥かに持続期間と安定性が高く
その継続性は
10年以上とも言われる
火炎板を使っている事に意味が有った。
火炎板は
入手困難な炎道具として
この世界では認知されていたのである。
そして庶民向けとして
妖精の羽根(扇風機)
魔光石を使ったハンディライトと
ルームライト(スタンドタイプ)。
ここまでが、今回の主要返礼品。
そして一般枠として
世間に広く魔法学院を認知してもらう為に
寄付返礼品として用意したのが
防虫魔光石護符。
これが新たに開発した
世界戦略の為の商品である。
防虫便利グッズなのだ。
この世界に於いて
最も庶民を悩ませていたのが
虫だった。
湿気を好みどんな室内でも
隙間をぬって入って来る。
その悩みを聞いて思い付いたのが
殺虫グッズなのだが
問題も有った。
虫によって
対応出来る薬剤が異なるし
一度除虫に完全成功したとしても
虫は次から次へと新たに
室内に侵入してくる。
そこで悩んだ末に思い付いたのが
光によって虫の侵入を防ぐ方法。
虫の苦手な光を天井から部屋全体に
照射し続ける事によって
侵入を防止するのだ。
この方法なら
一度室内の虫を殲滅してさえしまえば
新たな侵入数をぐっと減らす事が出来るし
実際この方法は試して見ると
比類なき効果を示してもいた。
自分達の店で、既に実証済みなのである。
魔光石を使った店の中には
しょっちゅう虫が光を求めて
侵入していた為である。
それを防止する為に
魔光石に虫の忌避の光を放つ効果を
付与していたのだが
その経験が役に立った。
護符の基になるのはクズ魔光石で
光るか光らないかの
そんなレベルの魔石を
使っている。
勿論そのクズ魔光石に
防虫の効果の付与は難しいのだが
そこから一手間掛ける訳である。
自分の開発した人工魔晶石に
虫の嫌う光の魔法を付与し
その魔晶石を粉末状に磨り潰し
その粉を薄く疎らに
クズ魔光石に付着・同一化(魔力圧着)させて
一年間程度の可動・照射効果を持たせる事で
防虫出来る護符が出来るのである。
部屋の天井の中央に取り付ける事によって
虫の室内への侵入をおおよそシャットアウトでき
効果としては特に夏の安眠を確保。
尚且つ虫を媒体にした病気の蔓延も防げる
優れもの。
以上の返礼品を用意したのであるが
一般向けの護符以外は受注生産の予定だった。
直ぐに寄付金が集まるとは
思っていなかったからだ。
ところが貼り紙をすると同時に
先ず防虫魔光石護符に申し込みが殺到する。
一家庭に二点限りと
限定を付けたにも関わらず、である。
理由は簡単で
護符の寄付受付及び配布は
神殿が受け持ってくれたのである。
神殿がその宣伝に
一役買ってくれていたからだ。
そして神殿が関わる事で
二重受付を防止する事も
可能だった。
神殿は信徒の台帳を持っていた。
国民はおおよそ信徒なので
二重売りの心配は
チェックで防げたのである。
実はこの護符は
神殿が国民に
販売する事も視野に入れていたし
神殿観光に来る旅行者には
特別高額入場者用の記念品として
一点貰える特典付きの商品として
神殿に卸す話しにもなっていた。
今すぐ、ではなく
近い将来なのだが
神殿は我々を急かす為に
先手を打ってPRした格好だ。
やはり神殿もしたたかなのである。
それでも寄付用の護符が
すぐに無くなったのは
これが神殿による
キャンペーンの一環でも有るから。
一つは防虫の護符に効果が有る事を
国民に口コミで認知させる事。
その認知が
ひいては神殿の護符の売れ行きにも
影響を与える。
それを見越してのキャンペーンなのだ。
一度防虫の効果を知ってしまったら
多少高くても
神殿の護符を国民が買い求める事は
必須だった。
それ程までにこの世界は
虫に悩まされていたし
その対処方法にも悩んでいたのだった。
それ以外の寄付金返礼品は、というと
これもまた早々に申し込みが有った。
主な申込者は国王である。
というか、王国なのかな。
貼り出した翌日には
申し込まれていたのだが
それよりも更に早い申し込みが
実は数件入っていた。
その理由が当初判らなかったのだが
どうやら貴族の間で
有る噂が広まっていたらしい。
カンナとアヤメの店が
関わった商品は
儲かるらしい、と。
喫茶室の評判は
何故か諸外国にも及んでいだ様で
おそらくそれが原因だと思われた。
その目的は転売。
後日分かった事なのだが
返礼品は、新たな装飾を付けられて
寄付額の何倍かの金額で
転売されて行ったとの話だ。
それも有ってか
来年の寄付金受付の問い合わせが
殺到。
何処の世界にも
欲深い者はいるのだ。
来年の予定は全く無いのだが・・・。
かくして学院の運営は
その資金が足りなくなった時のみ
返礼品方式で、となった。




