西の辺境国・カデナ王国の憂鬱
カデナ王国。
この国が在るのは
大陸の西の外れとも呼ばれる
辺境の地だ。
国としては貧しい。
魔石と鉱業以外に、特に産業らしい産業も無いのが
実体である。
それにも関わらず
国民が特に逃げ出す事も無く
王国として成立しているのは
この国がある事を認めなかったからだ。
奴隷制。
その法がこの国には無かった。
一切を認めなかった。
諸外国の多くが奴隷制を認めているにも関わらず、
である。
その事が国民の流出を食い止めていた。
来るものは拒まず市民権を与え
去るものは追わず国外への転出を認める、が
この国の基本的な考え方である。
奴隷の逃げ場が、この国だった。
平民と賤民の区別も無かったからだ。
その意味では国民の多くは公平を感じていた。
だから国民が増えはしても
特段目減りする事は無かった。
問題は土地であり生活である。
土地は有るが肥よくでは無い。
水の有る場所に住まいを持ったとしても
生活が成り立つかどうかは
本人達の努力次第というのが
ホンネなのである。
それでも奴隷だった人間が
自由を得られる国は少なかった。
カデナ王国は、それ位に珍しい国だった。
諸外国から
逃げ出した奴隷の引き渡しを求められても
それに応じる事は無いからだ。
市民権を与え国民になった以上は
国民として安全を保障する。
それがこの国を
国として成り立たせていたのである。
追放された前々王は
その制度を悪用した。
逃げ込んだ奴隷を
一定期間保護期間と称して
匿う体で
その奴隷の持ち主が来るのを待って
裏で奴隷達を報奨金と引き換えに
売り渡していたのである。
そして
持ち主が出て来なかった時にだけ
国民として迎え
人の住めない様な荒れ地を宛がった。
そしてその次は
その元奴隷が疲弊して来るのを見計らって
いい仕事が有ると偽って
外国の奴隷商に売り飛ばしもしていた。
国王が自国の禁を破って
奴隷売買で懐を肥やしていたのである。
前々王の追放は
この事が明白になった事も
発端の一つだった。
後に判った事なのだが
地方の子供をさらって売り渡していた事も
記録に残っていた。
前々王が追放されて以来
奴隷制に関しては
どの国よりも厳しく禁止した為か
流入する人の数は増え
今の人口が成立しているのだが
それでも貧しい国には違いなかった。
神像比べ。
女神の降臨。
落とし子の出現によって
カデナ王国には
多くの諸外国からの来訪者が
訪れるようになって
この国に少なからぬ利益を
もたらし始めている。
そこへ持って来て
カンナとアヤメの店から
新たな申請が有った。
魔法学院の設営。
それに伴う魔法学院文化都市構想。
その為に東の荒れ地を
購入させて欲しいというのだ。
大きさは王都を遥かに凌ぐ広大さで有る。
農地開発も実は含まれているらしい。
そこは
その広大さとは裏腹に
草も生えぬほどの荒れ地で
それ故に軍事訓練程度しか
使い道の無い土地だった。
そこに魔法学院を造り
それを中心とした商業都市を作るというのである。
王国としては
それを断る理由など一つも無かった。
成功しても失敗しても
自分達に被害は無い。
場所は東の荒れ地。
使い物にならない土地。
そこに都市を創る。
それがどれだけ難しい事か
自明の理である。
この王都ですら、一朝一夕では造れなかった。
しかし、である。
申し込んできたのは
表向きはカンナとアヤメだが
実際のところは“落とし子”だろう。
街を創ると言う事は
住人が生まれ、流通が生まれ
交易が生まれる事を意味している。
カデナ王国の繁栄。
そこに光明が差して来たのである。
“落とし子は何を仕出かすのかのう?”
既にその兆候は
各方面で出て来始めている。
“好き勝手やらせてみるか。
我らは静観しつつ場合によっては手助けも・・・”
国王の期待は
いやがうえにも膨らむのだった。




