東の荒れ地
カデナ王国には魔法学校が有った。
そこに新たな魔法学校を作ろうというのである。
差別化は必須だった。
むこうと敵対する理由は無いし
こちらは文化利用である。
王国の防衛目的とは異なるし
何なら魔法力の強い人材が見つかったら
王国の方へ推薦したっていい。
むしろ積極的にそうすべきか。
だったらこっちの欲しい人材は
文系になるのかもしれない。
魔法学院を開校するに当たり
学校だけを作っても
その維持運営には困難が付き纏う事は
容易に判った。
何より文化都市を目指すのである。
その為には
恒久的な運営方法を構築しなくてはならない。
一つは魔法具の開発と販売。
そしてもう一つには、とっておきの秘策が有った。
その為には広大な土地が
どうしても必要だった。
都市計画も含めた立地の検討し
結果として見つけた場所。
それが東の荒れ地である。
そこは王国兵士が時折り軍事訓練をする
場所でも有った。
それ位に何も育たない、広大な荒れ地なのである。
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自分が下見も兼ねて
その地で構想を練っている時に
ある青年と出会う。
その青年はにこやかに笑いながら
岩に座ってあたりを眺めている
自分を見つけると
「水を持っていたら、少し分けて頂けませんか。
この辺りには水が見つからなくて」
そう聞いてくるので
「カップは有るかい?」
そう聞くと、腰にぶら下げたカップを
差し出して来た。
「この辺りに水が出る所なんて無いんだ。
だからこんな荒れ地になっている」
自分はそのカップを受け取ると
すぐさま差し返す。
怪訝そうな顔をしていたのだが
その戻されたカップを見て
その青年は驚いたように
「一体どうやって?」
そう呟くので
笑いながら
「魔法。もう一杯飲むかい?」
そう聞き返すと
その青年は一気に飲み干して
もう一度カップを差し出して来る。
それを二回ばかり繰り返すと
安堵した様に自分の横に座って
今度は水筒を差し出して来た。
水で満たして欲しい、と言う事らしい。
図々しい奴だ。
すぐに実行すると安堵した様に
「で、ここで何をしていたんですか」
そう聞いてくる。
自分は素直に
「この場所に街を作ろうと思うんだが・・・」
そう切り出し
「上手く行くと思うかい? 君はどう思う」
そう聞き返すと
「この荒れ地にですか? ここに?」
そう不思議そうに聞いてくるので
「ああ、そうだよ」
そう言うと、その青年は暫く辺りを見まわして
「水はどうするんです。井戸ですか?」
そう言うので
自分は笑いながら
「この辺りにきっと水脈が有ると思うんだ。
それさえ見つければ、この辺り一帯を開発出来る。
どう思う?」
そう言うのを聞いて
「どうしてこの場所に水脈が有ると思うんです?」
そう聞き返して来るので
「簡単だよ、地形を見れば大体想像が付く。
この下にはきっと水脈が有る筈だし・・・」
そう言うと
その青年は少し笑みを浮かべて
「そういう事を考えられる人もいるんですね。
驚きました。
水のお礼に、いいモノを見せましょうか」
そう言って
その青年は自分の肩に手を乗せると
「いいですか、そっちの方向を見ていて下さい」
そう言った途端
自分の視界がいつもと違う光景に一気に変わった。
大地が半透明へと変わって行き
巨大な水脈の流れが真下に広がっているのが見える。
大地の下の水の流れが、縦横無尽に走っているのが
眼下に広がって見えているのである。
その光景に驚いて彼の方を見ると
「これって一体?」
そう問い尋ねると
青年は笑いながら
「自分には、水脈が見えるんですよ。
この力が有るお陰で
自分達一族は、流浪の民になってしまいましたが。
我々はかつて“水の民”と呼ばれていました。
以前は各王国から呼ばれて、
井戸掘りに協力していたモノでしたが・・・」
そう遠い目をしながら言うので
「何か有ったのかい?」
そう聞き返すと、少しだけ苦しそうに
「ある王国がその能力を独占しようと考えた末に
僕らの一族を滅ぼす事を目論んだんです。
一人の仲間の裏切りによって・・・
その王国も能力の独占に失敗して、滅びましたが。
一族の苦い過去です」
そんな風に淡々と話すのを聞き流しながら
「そんな事が有ったんだね。
それからずっと流浪の民として・・・?」
そう聞くと
「まさか、自分は一度、有る土地に定住してましたよ。
水が見えるから、水の心配は要らないし。
ただ・・・」
「ただ、何っ?」
「結婚して子供も授かったんですが・・・
有る事が判って妻と子供が突然出て行きました。
自分には一緒にいる資格が無いって。
そう置手紙を残して・・・。
彼女はどうやら
自分達を滅ぼした王家の血を受け継いでいたんです。
自分が“水の民”の末裔だと気付いて
悩んだ末に子供を連れて出て行ったみたいで・・・
だからこうやって各地を回って
妻と子供を探す旅を続けています」
この青年は、どうやら当てのない旅を
続けているらしかった。
こういうのって、江戸時代の敵討ちと同じである。
探し出す方が、遥かに難しいのだ。
相手もまた定住しているとは限らないのである。
自分はボソッと
「その親子に、何かの特長は有るのかな?
どう聞いて回っているのか、自分にも教えてくれないか?」
この世界には、写真は無い。
有ったとしても、
肖像画が有ればまだ少しマシな方だろう。
そう聞くと懐から何やら紙を取り出して
それを広げて見せてくれる。
似顔絵だった。
観光地で見かけるササって書いた
鉛筆画みたいなものだ。
その紙の折り目の角は、結構擦り切れて居り
何度も開いては閉じられてきた事を
物語っていた。
普通はこんな時に見せられる似顔絵は
美人の妻とかわいい子供と
相場が決まっているのだが
この似顔絵はそうではなかった。
人のよさそうなぽっちゃり体形の奥さんと
およそ母親とは全く似ていない
スレンダーなカワイイ娘の姿が
そこにはあった。
“んっ?”
自分にはその娘の方に何となく見覚えが有る。
もう少し大人びてはいるが
市場でパンを売り歩いている少女。
その子に面影が少し似ているのである。
自分はその子の売るパンを気に入っていたし
見かければ結構買ったりもしていた。
兎に角美味しいのだ。
だから唐突に
「もしかして君の奥さんの作るパンは
もの凄く美味しかったりするのかな?」
そう聞くと怪訝な顔をして
「もしかして、妻の体形を見てそう
言っているのかい?
だったらもの凄く失礼な話しだぞ」
そう目を吊り上げて言うので
慌てて
「そうじゃないさ。
市場で美味しいパンを売り歩いてる子がいて
その子に面影が少し似てる気がして・・・」
その言葉に青年が喰い付いて来る。
「どこだ、何処に行けばその子に出会える?」
もの凄い勢いで聞いてくるので
少したじろぎながらも
「王国の中央市場。
午後になると籠を持ってパンを売り歩いているけど
人気が有るからすぐに売り切れて帰ってしまう。
だからいても短い時間だぞ。
今日はもういないだろうから
明日午後にでも市場に行ってみるといい。
市場で気に入られている少女だし
周りに聞けば、住んでるとこを知っている人も
いるかもしれないし・・・
まあ、期待しないでくれよ。
何となく似てるって程度の話しだから・・・」
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その話しを聞いた青年は
喜々として明るい表情で王国城内へと向かって行った。
この荒れ地で
安定して水を手に入れられる伏流水の地点を
自分に見せてくれた青年である。
そのコが娘である事を願おう。
自分は見せてくれた水脈のイメージを基に
そこに噴水を起点にした双子構造の
学園と神殿による都市を構想する。
かくして魔法学院文化都市は
第一歩を踏み出したのだった。




