クレームと出会い
「オーナー、ずっと待っている人がいますよ。
何でも文句が言いたいって言ってて」
店に戻って来るなり
カンナからそう言われて
中を覗いて見ると
二人の男性が椅子に座って待っている様子だった。
でも自分には
文句を言われる心当たりが無い。
「俺たちの発明を盗んだんだろうって
そう言ってました」
“発明? 盗む?”
何が何だかチンプンカンプンである。
まあでも話しを聞かなくては
判らないので
取り敢えずその二人と直接話をする事にした。
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「お話しをうかがいましょうか?」
その二人の来客にアヤメが御茶を差し出して
引っ込んだころ合いを見計らって
そう切り出した。
「オレの発明をどうやって盗みやがった。
この盗っ人め」
体の大きい方がいきなり捲くし立てて来るのを
隣りにいた少し小さい方がなだめながら
「兄さん、少し落ち着いて下さい。
僕らはまだ何も確認してないんですから。
それはさすがに失礼ですよ」
どうやら激情型の兄と、冷静な弟、と言ったところか。
「話しは僕が進めますから、兄さんは少し黙ってて下さい」
そう言われて
兄の方は太々しい態度で椅子に腰掛けると
一人そっぽを向いた。
そんな兄を『失礼ですよ』となだめながら
弟の方が話しを切り出す。
「兄が怒っているのは、街の噂を聞いたからなんです。
ある喫茶室で姿の無い音楽家の演奏が聴けるって
そういう話しです。
実は兄もそう言う研究をしていて
ほぼ完成の所まで来ていたもので。
だからそれを商品にして売り出そうって
計画していました。
だからその噂を聞いて
きっと自分の研究が盗まれたに違い無いって・・・」
その話しを聞いて
自分は少しだけ嬉しくなった。
この世界にもそう言う人間がいるんだって。
そこは考えても見なかった事だからだ。
少しニコニコしている自分を
訝しそうに見つめながら
「ですから、それがどういうモノなのか
確かめたくてここに伺った訳ですが、
お店の方にはオーナーが全てを仕切っているので
オーナーで無いと判らないと言われましたので
こうやって待たせて頂いてました。
それを見せて頂く事は出来ませんか?」
そう丁寧な言葉で聞いてくる。
いかにも人慣れした様子で。
自分は興味津々で
「それは構いませんが・・・。
その前に失礼ですが、そちらはその姿の無い音楽家を
今お持ちですか。
自分にも見せて頂けないでしょうか?」
そう単刀直入に尋ねると
「盗んで知ってるくせに、何をいけしゃあしゃあと。
このドロボウ猫が」
そう図体の大きい方が混ぜっ返すのを
「兄さんは黙っててください!」
そう言って叱り付けると
こちらに笑顔を向けながら
「ええ、試作品ですが持って来ています。
見比べて貰わないと、何も話しが出来ませんので」
そう言うので
「それではぜひ」
喜々としてそう提案すると
「お前になんか、この発明の良さなど判るものか。
どうせ何処ぞの誰かを使って、
俺達の秘密を探らせて他人に作らせたんだろうよ」
そんな風に口を挟む兄に代わって
弟が箱から道具の一式を引っ張り出して
テーブルの上に広げて見せる。
ラッパと円筒形が見えた瞬間
自分は
「円管式蓄音機! もしかして手回し式?」
そう呟いた。
その一言に兄の方が驚いたように
「どうしてそれを知っている。
いや、知っていてもおかしくは無いか。
俺達の発明を盗んだのなら・・・」
その一言に自分は耳を貸す事無く
興味津々で弟の方に向かって
「鳴らして貰えますか。どういう音色か?」
それを聞いて
「ええ、構いませんよ」
そう言うと、円管を回し始めた。
ザーザーと言う雑音の奥底で
人の歌声がかすかに聞こえてくるのだが
手回し式なので
そのリズムは安定していなかった。
しかし自分には感動モノである。
この世界にも発明家はいた。
だったら他にもきっといるに違いない。
何でそんな事に気が付かなかったんだろう。
「ちょっと失礼。
自分にも回させて貰えますか?」
そう言って
自分でも円管を回させてもらいながら
喜々として
「よくここまでたどり着きましたね。
素晴らしいと思います」
そう言うのを聞いた弟は
「さっき、円管式蓄音機って言いましたよね。
どうしてそれを御存知なんですか」
そう聞かれたのだが
その質問には答えずに
「では、こちらの方の姿の無い音楽家の演奏を
お聞かせしましょうか。
百聞は一見に如かず、ですから。
先ず自分の目で確かめて下さい。
シュリさん、喫茶室に御二人を案内して
いつもの手順で音楽を聴いてもらって下さい。
それと御茶とお茶菓子も差し上げて下さい。
お願いします。
くれぐれも丁重にね」
奥に居たシュリにそう声を掛けると
あわてて自分の隣に歩み寄って来て
「判りました、オーナー。
御茶菓子はどれをお出ししますか?」
「任せます。選曲も好きなのでイイから。
御二人が納得するまで、聞かせてあげて下さい」
そう言うと
「判りました、ではこちらへどうぞ」
シュリの案内で、二人は喫茶室へと向かって行った。
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喫茶室から戻ってきた二人の様子は
およそ想定通りのモノだった。
円管式蓄音機の音に比べれば
デジタル録音並みの魔石型蓄音機は
雲泥の差が有るからである。
うなだれている兄を他所に
弟の方はその目の色が違っていた。
「あれは一体、どういう仕組みですか。
どうやったらあんな音楽を聴かせる事が
出来る様になるのですか?」
そう捲し立てて来るので
自分は笑顔で
「理屈は同じなんですよ。
あなた方のお持ちになった円管式蓄音機も
こちらの魔石を使った姿の無い楽師も
実は同じ理屈で出来ていますから」
そう答えると驚いたように
「魔石? 魔石にあんな事が出来るのか?」
そう兄の方が
イスから飛び上がって聞いてくる。
その豹変ぶりに驚きながらも
「そうです、それを自分は研究してたんです。
その一つとして、魔石を使った音楽の再現を・・・」
「そんな事が出来るなんて・・・」
そう言うと
少しだけ絶望的な表情を見せながら
どっかともう一度イスに座り直す兄とは違って
今度は弟の方が前のめりになっている。
「兄さん、魔石ですよ。
自分達も魔石を使った発明を考えましょうよ。
そうしたら、もっと凄いモノが出来るかも知れない」
それを聞いて自分は
「出来ると思いますよ。魔石の力は広範囲ですから。
結構色んな事が出来る筈です。
そこを研究されてみては如何ですか?」
そう言うと、二人は一瞬希望に満ちた表情を
見せたのだが
すぐに兄の方の顔色が曇る。
弟の方も、何かに気付いたようだ。
やがて兄の方が
「そう言われても、魔石は高額だ。
それに今から研究を始めたんでは、
成果を何時出せるか・・・」
そう苦々しい表情を見せる。
それを見て自分が
「それは良ければ自分が手助けしますよ。
むしろ手助けさせて下さい。
どうやら自分にも希望が見えて来ましたので」
そう二人に怪しげな笑顔を振り撒いた。




