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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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シュリ、振られる?

 

「で、何でお前はそこにいる訳?」


そう問いかけると

その声に聞き覚えがあったのか

背中を向けていたそいつは

横たわったカラダをゴロンと反転させて

こちらを向いた。


最初にこいつを見かけた場所である。

そいつはその時と同じような格好で

ゴミの中に身を潜ませていた。


自分を見て安心したのか

目をウルウルとさせている。


「オーナー殿、オーナー殿」


そう言って、涙ぐみながらむくっと立ち上がって

短い脚で近付いて来た。


「だから何でお前がまたここに居るのかな?」


そう聞くと

大粒の涙を流しながら

ペンギンモドキが語った事は

およそシュリらしい出来事だった。



*********************************************



休日にモドキを連れたシュリは

市場に向かったのだという。

連れた、と言うよりは

抱き抱えた、というのが正確だが。


目的は勿論御菓子だった。


その日は

他国から珍しい御菓子を持って

この王国に販売に来る業者が

市場に店を張る稀日だったのだ。


問題なのは

市場のどの場所に出店するのか

事前には判らないし

その店が御菓子を並べると

すぐに人だかりになって

短い時間に御菓子が売り切れてしまうという

人気の店でも有った。


シュリが

それらしき人だかりを見つけた瞬間の事で有る。


気が急いていたのか

店を見つけた嬉しさなのか

抱き抱えていたモドキの事など

すっかり忘れて脇に放り投げると

その事を気にする事無く

一目散にその人だかりの中へと

シュリは消えて行ったという。

慌てたモドキは

少しだけ後を追い掛けたのだが

御菓子に群がった人だかりの足に

散々蹴り飛ばされて

いつの間にか

またこの場所に転がり着いたというのだ。


そしてゴミの中でまた

死んだふりをしていたらしい。


「まあ、結局お前は御菓子に負けたんだな。

で、どうするよ。

シュリのところに連れてってやろうか?」


そう尋ねると

モドキは暫く考えた末に


「前に話されてた場所に連れてって下さい。

もうあそこには戻りたくありません。


周りの目が気になって

話しをする事も出来ませんし

少しの音にも敏感にしていないと

何時部屋に他人が入って来るとも

判りませんでした。

気の休まる事が無いですし

自分はあそこで何もさせて貰えないんです。


ただ部屋の隅でじっとしているだけで・・・」


その言葉を聞いて少し納得した。

モドキの仕事は

基本はボディーガードなのだが

シュリの元ではペット状態だった。


ただ、どうやらそれ以外は

何もさせて貰えないらしい。

会話をする相手も

シュリしかいないのである。

しかしその会話すらも

満足に出来ないでいたのだ。


「ホントのぬいぐるみ状態だな、それって。


だがオレの連れて行く場所は、真逆だぞ。

気の荒い神獣や魔獣がいる、

そんな場所だが平気か?


まあ、安全な場所も無い事はないが。

そこはこき使われるかも知れないので

それなりの覚悟が無いと・・・」


そう言うとモドキは


「喰われて死ぬ事は無いですか?」


そう聞き返すので


「それはまあ大丈夫だと思うよ。

神獣や魔獣はみんな顔馴染みだから・・・」


そう言うと

暫く考え込んでいたのだが


「だったらお願いします。

何も出来ない置物は辛いです」


モドキの目には、悲痛な叫びが込められていた。



*********************************************



そうなると先ずしなければならないことが

一つ有った。


シュリをなだめる方法を

念の為、一応確保しておく事である。


モドキをもう一度シュリに会わせる事は

出来ないと覚悟している。

会わせた上で別れさせる事は、

修羅場になる事は明白だった。


何より

きっとまた抱き付いたら

離さないに違いない。

そうしたら

もう一度同じ事の繰り返しになる。


モドキは置物では無い。

愛玩動物でも無い。

意志を持って行動したい生き物なのだ。


シュリはモドキとはぐれた時

その握った手を離してしまったのである。

モドキは御菓子に負けたのだ。

それをモドキも自覚している。


こいつはもう既に

違う生き方を考え始めている。

そこにこいつの意思がある以上、

自分はそれを止めようとは考えない。


ではどうするか。

答えは一つだった。


自分はモドキを連れて

市場のとある場所へと向かって行った。



*********************************************



「凪様、こいつの面倒を見て貰えませんか。

何ならこき使っても構いませんし・・・」


市場の暗がりから神々の森の神殿に

転移ゲートを繋げると

出口の先を恐る恐る確かめようとする

モドキを中へ蹴り込んで

神殿の広間へと入って行った。


凪様は他の神達と談笑していたのだが

モドキを見るなり


「こいつは珍しい。セラーン族ではないか」


そう言うので


「凪様、こいつを知ってるんですか?

だったら話が早い。

こいつ、人間界にはどうも向いてないみたいで・・・」


そう言うと、少し間を置いて


「ここで使おうかと思うのですが。

役に立ちそうですか?」


そう切り出すと

凪様は


「こいつなら、まあ使い道は有るじゃろう。

セラーン族は獣語を話せる数少ない種族だからのう。

それなりに学問にも通じて居る。


お前の役にもきっと立つじゃろう。


どうだ、

ワシの下で働いて見るか? セラーン?」


そう言われて

モドキは自分の方を見ると

少し不安そうに


「自分は喰われたりはしないでしょうか?」


そう言って来る。

自分は笑いながら


「凪様、そう言ってますが、どうします?

こいつを喰って見ます?」


そう凪様に振ると

凪様もにやりと笑って


「喰った事が無いから、喰えるかどうかも判らんが。

足の一本でも一度喰ってみようかのう」


そう答えるので


「そういう事らしいが、どうする?

一度手足の一本でも喰われてみるか?」


そう真顔でモドキに問いかけると

モドキは首らしき部分を捻りながら

必死に横に振っている。


「どうした。喰われるのはイヤか?

手足の一本でもくれれば

セラーン族が美味いかどうかを

歴史の解説に入れられるのだが」


そう言う凪様の表情は

むしろいたずらっ子に近かった。

自分もその言葉に便乗すると


「歴史の解説に加えて貰おうか。

そうしたらお前が生きた証にもなるし

歴史にも名が残るし・・・」


そう言った途端

モドキは後退りして奥の壁に貼り付く。


「この野蛮人たちめ、おれは美味くなんか無いぞ。

絶対化けて出てやるからな・・・」


そう言いだすので

自分も凪様たちも大笑いする。

やがて


「シンイチ、冗談はもうよさんか」


そう言われたので


「凪様が始めたんですよ。自分じゃあ無い。


モドキ、心配するな。

凪様たちは、そんな事は決してしないから」


そう言って

壁にへばりついているモドキを引き摺って

もう一度みんなの前に連れ戻した。


「さっさと皆に自己紹介をしろ。

そう言えば、お前の名前もまだ聞いていなかったな?」


そう振ると

モドキは姿勢を正しながら


「セラーン族の〇▽※□+※★※と申します。

宜しくお願い致します」


そう言うのだが

はっきり言って語った名前は

ただの雑音にしか聞こえなかった。


モドキが名乗った名前は

自分達では言葉で再現する事が

出来なかった音声なのである。


「どうしましょうか、凪様。

こいつの名前、自分は言えそうに有りませんよ」


そう聞くと

凪様も困った風で


「シンイチはこいつをどう呼んでたんじゃ?」


そう聞き返して来る。


「ペンギンに似ていたので

ペンギンモドキって呼んでいました。


ですからモドキって短縮して・・・」


「そうか。

だったらそれで良いのではないか? モドキで」


そう言われたので

自分も納得して


「じゃあ、今日からお前はモドキと言う事で。

それでいいな」


そう言うと不思議そうに


「えっ、あのう、モドキですか?

名前を呼んで貰えないんですか」


そう不満そうに言う。


「名前を呼ぶのは無理。

とても言葉に出来そうに無い。

だから、モドキで・・・、いいな!

オレ達はオマエの名前を声に出来ないんだよ。

だからモドキだ」


そう言うとモドキは複雑そうな表情を見せたが

直ぐに納得した様に


「モドキです。今日から宜しくお願い致します」


そう挨拶し、深々と頭を下げた。

そして自分の方を向くと


「ところでこの人達は一体

どういう人達なのでしょうか。

ここは一体何処なのでしょうか」


そう聞いてくるので


「人じゃ無いぞ。みんな元神様だ」


そう言うとモドキは面食らったように


「元神様? ですか?」


「そう、元カミサマ」


「まさか、冗談で・・・」


「元神様。だからしっかりと手伝うように」


「ええっ?」


「ここは神々の森の中に在る神殿。

だから周りには神獣や魔獣だらけだ。

というか、ソレしかいない」


そう言っている後ろから

黒龍がヌッと顔を出して来る。

振り返ったモドキの目と黒龍の目が

合わさった瞬間・・・


「あっ?」


そう言うと、モドキはまたまた速攻で失神した。



*********************************************



一人で店に戻ると

どんよりとした重い空気が漂っている。


その空気を醸しているのが

シュリだった。


素知らぬ顔をしながら

カンナとアヤメに向かって


「シュリさん、どうしたの」


そう尋ねると


「モドキちゃんが行方不明になったって

そう言ってました」


それを聞いて

もろもろ突っ込みたくなったのだが

自分は知らぬ体を突き通さなくては

ならない。

シュリは自分に向かって


「モドちゃん、見かけませんでしたか。

探したんですが、どこにも見つからなくって」


その問いに、少しとぼけながら


「どうしたの? 家出? 何かした?」


そう素知らぬ顔で嘯いて、聞き返すと・・・


「そんな筈無いじゃないですか?

仲良くやってたんですよ、ただっ・・・」


「ただ、どうしたの?」


「市場でちょっと目を離した隙に、

いなくなっちゃって」


そう説明するので

“お前が放り投げたんだろうがっ!”って

突っ込みたいのを抑えつつ

表情を変えない様に注意しながら


「何か市場で欲しい物でも有ったんだろうか?

モドキとは色々と話しをしたんでしょ。

何か市場で欲しいとは言ってなかったの?」


そう振って見る。


「欲しい物ですか?そういう事は・・・


家の中では

会話もあまりできませんでしたし・・・。

周りの目が有って話せないんですよ。

だから・・・」


そう言って、突然表情を曇らせる。


うっすらとシュリは気付いた様だ。

自分がモドキと家では

それ程は意思疎通が出来ていない事を。

家族の目を気にしていた事実を。


“ここはもう、この流れで畳み込むしかない”

そう確信すると


「もしかしたらモドキはもう

市場で優しい親切な誰かに拾われて

その家の子になってるかも知れないな・・・」


そう言うと

シュリは露骨に嫌な顔をして


「そんなのイヤです」


そう言うのだが


「だったらどうする? 

王都に探し魔獣の張り紙でもする?」


自分が話に加われるのは

ここまでだった。


モドキが街中で人語を使う事は

絶対にしない事はシュリも判っていた。

外見は珍獣である。

ただもし人々が

モドキを人語を解す魔獣だと気付けば

それだけで駆除対象になってしまう。


それだけはシュリも絶対にイヤだろう。

だったらむしろ珍獣として

親切な人に拾われて

家族の一員にしてくれてた方が

よっぽどイイ。


シュリもきっとそう理解出来る筈だ。

今の王国では、魔獣に厳しいのである。


「一応王国の詰め所には脱走珍獣として

見かけた場合、保護をお願いして見ます」


シュリが悲しそうにそう言うので

自分はそれ以上は何も掛ける言葉は無かった。


魔獣が人の街の中で暮らす事の難しさを

シュリは判っていた。


魔獣は魔獣なのである。

普通の人達には

どんなに愛らしいルックスで有っても

何時急変して人を襲うとも限らないのだ。

そんな風に認識されている。


いつの日にか

シュリが落ち着くのを見計らって

自分は有る物をプレゼントしようと思っている。


モドキに似せたぬいぐるみだ。

渡すのは、遠い先の事になるのかも

知れないが。




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