工神リブロの誤算
天界に住まう工神リブロは
元々は人であった。
没後人々から工神と崇められ
それによって神へと転じた
言わば新参者の個神である。
だから猶更自分の腕には
自信が有ったし
その造作にも拘りが強い。
特に剣造りに於いては
神になった今でも研究を重ね
更なる名品をと精進も重ねていた。
そんな自分を気に入ってくれたのか
凪の帝は面白い材料が見つかると
自分の所へ持って来ては
これを試してみてはどうかと
その材料を届けてくれたりもしていた。
リブロにとって凪の帝は
或る意味恩師でもあった。
その凪様が見つけ
自身が最高の材料と思ったのが
シンリュート鉱で有る。
凪様によれば
それは神龍のエサがもたらす鉱石だと言う。
体内に蓄積された消化出来ない部分が
固められ鉱石となり
排出されるとの事だった。
リブロはその鉱石を
自らは探しに行った事が無い。
いつも凪様が届けてくれるのを
剣として造り上げるだけだった。
それがそもそもの間違いだったと
凪様が亡くなった後
今更ながら感じていた。
その入手方法を
聞かず仕舞いだったからである。
最高の剣を求められれば求められる程
シンリュート鉱は減って行って
在庫はどんどんと目減りするばかりだった。
あわてて神龍を探して見るのだが
どういう訳か神龍は
天界から遠ざかっていて
自分の知る限りではその姿を確認する事が
出来なくなっていた。
そんな時である。
事務局から
人間が神剣造りを始めたと聞かされ
その助力を求められ
試作品を手にした時
その実力に驚愕を覚えた。
聞けばあの神酒造りの人間が
この件に関わっていると聞く。
あの天界戦争での
仲介の立役者でもある
あの人間が関わっているのである。
人間でありながら
既に神の領域を超えてしまった
人間。
そいつが助けているであろう
刀鍛冶によって造られた
その剣は
既に神域に手の届く所までの完成度に
来ていた。
その完成度が
少しリブロには妬ましくも有った。
神では無い。
人の子の作品である。
これならば
特段の助言すら必要無いと思ったのだが
褒めて返すのも癪に障った。
だから敢えて材料にケチを付けた。
炎龍のシンリュート鉱が
神剣にはふさわしい、と。
これは正しくも有るが
全てでは無い。
神剣は今使っている材料でも
制作は十分に可能だった。
簡単に言えば
リブロはイケズをしたのである。
人如きが神剣を手掛けるなど
身の程知らずだ、と言わんばかりに。
だから最も入手困難だと思われる
炎龍のシンリュート鉱がふさわしい、と
出来そうにないアドバイスをした。
しかし、だ。
そんな炎龍のシンリュート鉱を
いとも容易く入手し
“これでいいんでしょうか”と
天界に鉱の見本を送って来る。
つまり手に入れていると言う事だ。
その出来事に驚くと共に
リブロは思う。
欲しい、その鉱石を全て欲しい。
それさえあれば
自分はもっと素晴らしい剣を造って見せる
という自信も自負も有った。
自分は神であり、向こうは人間である。
出せと言えば、全てを差し出すに違いないと
リブロはそう考えていた。
しかし、そうはならなかった。
それは伏し目がちな事務局のララの表情で
それと知れた。
銀鱗鉱と言う
交換条件を付けていたにも拘らず、だ。
それでも全てを差し出しては来なかった。
神に抗する豪胆な人間。
それがあの男なのか。
そう言えば
この天界の頂点とも言われる
あの気難しい創国の神ゼビアとも
真正面からやり合ったと聞いた。
それを聞いた時、まさかと思ったのだが
どうやらそれは本当の事らしい。
だとすれば自分クラスでは
どうする事も出来ないくらいの
難敵と言う事であろう。
そいつから献上されたと言う酒を飲みながら
リブロは考えた。
だったら本気で手助けして
より良き関係を築くのも
一つの方法では無いか、と。
実際御礼として
ちゃんと酒も付けて送って来る。
間に入っているララも
特段困った様子も無かった。
信頼関係が出来ているのか。
“暫くは様子見かな”
銀鱗鉱を炎龍の鉱の返礼にし
詳しいパリトン好みの
キラキラ剣の鍛錬の仕方と磨き方を付けて
ララに手渡す。
“さて、あやつは次にどう出るのであろう”
リブロはそれを少しの楽しみにした。
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突然ララから連絡が入る。
人間が造った神剣に
刻印を打ち込んで欲しいとの事だ。
その謝礼として大量のシンリュート鉱が
用意されていると言う。
その中には、炎龍のシンリュート鉱も
混じっているらしい。
「打ち込んで貰えたら
それなりのお礼も後でするそうです」
ララがニコニコしながら言うので
何か確信が有るのであろう。
届けられた鉱の量は前回の比では無かった。
お願いされた刻印は
自分がいつも最後に打ち込む
名前代わりの刻印。
送られて来た
人間の造った神剣も
自分が昔に依頼され造った剣を
そっくりそのまま写した物だった。
“よく再現している。そう言う事か”
お願いして来る理由も見当が付いた。
完全な再現を試みているのである。
だからこの依頼は仕方の無い事だと思う。
刻印は神しか使えないシロモノだからだ。
人の手で打ち込む事は不可能だった。
それにしてもと、リブロは考える。
どうやらあの者は
シンリュート鉱を入手する方法を
掴んだらしい。
それがこの量と鉱質に現れている。
様々な神龍のシンリュート鉱が
混じっているのだ。
質の良し悪しも含め、全てバラバラだった。
前回は炎龍のシンリュート鉱だけだったので
数は無かったのだが、質は上々だった。
今回は採取場所が違うと言う事か。
質のバラバラ感は、
凪様が持って来てくれた時と
よく似ている。
神剣は自分の剣の写しである。
出来も悪くは無かった。
何より使ったシンリュート鉱も
中くらいの質の物だった。
炎龍のを使った訳では無かった。
“もしかしたら、
まだまだ隠し持っているのか?”
そうだとしたら
どこまでも喰えない人間だと
リブロは感じている。
三つの神剣の写しを手に取ると
金床に乗せ
それぞれに自らの手で刻印を打ち込むと
その剣は新たな輝きを放ち始める。
人とリブロとの
合作となった瞬間だった。
“この出来ならば、まあ許してやろう”
それをララに手渡す。
酒も付けさせるのを忘れないように、と
念押しをして。




