神殿は神殿な訳で・・・
久しぶりに神殿に入ると
兎に角人で溢れていた。
観光名所と化した話は聞いていたのだが
まさかこれほどとは思わなかった。
来場者のお目当ては“モカの神像”
何でも、稀に像が神殿を抜け出して
巷を徘徊するという。
そう聞かされてもピンと来なかったのだが
“あっ”
天の帝がうちに来た時
モカ様が店に来てたっけ。
あの一件に違いなかった。
何も言えねー。
神殿内はとにかく賑やかで
神官たちも忙しそうなのだが
その中の一人を捕まえて
「神官長代理を呼んでいただけませんか?」
そう声を掛けたのだけど
どうやら不審人物と思われたらしく
すぐさま警備の人達に取り囲まれる。
その騒ぎを聞きつけたのか
神殿の奥からも神官達が出て来たのだが
その中にどうやらお偉いさんがいたらしい。
自分の顔を見るなり、駆け寄って来た。
その姿を見た神官達が、一斉に道を開ける。
そのお偉いさんは、自分の目の前に来ると
「失礼致しました、伝道師殿。
こちらへどうぞ」
そう丁寧に言うと、奥の部屋へと導かれる。
「すぐにお茶の準備を。御茶菓子も持って来させなさい。
急いで代理も呼んで来るように」
そう神官達に指示を出したので
自分を取り囲んでいた神官達が
あわてて一礼すると
すぐさま準備に取り掛かる。
どうやらお偉いさんは
ホントにホンモノのお偉いさんらしかった。
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上座を勧められても
自分としては居心地が悪いので
下座で結構ですと
入り口に近い席に座ると
そのお偉いさんは上座の奥へ
そして顔馴染みの神官長代理が入って来ると
そのお偉いさんの隣りへと座った。
そのお偉いさんは
「申し遅れました。神官長のミネアと申します。
これまでの功績、代理のノマドから伺っております。
神殿復興に御尽力頂き、御礼の言葉も見つかりません」
そう口上を述べる。
神官長だったのか。
どうりでみんなテキパキと動く訳だ。
それと
自分は神殿からそんな風に思われてるのか。
初めて知った事実である。
それが何となく面映い。
それにしても自分としては、
この神官長の態度は少々意外だった。
お偉いさんは、とかくその業績を自分の物にしたがる。
神官長だって人だ。
俗物が多いのもよくある話しで、不思議でも何でもない。
てっきり神官長はそんな人物だと思い込んでいた。
神官長が言葉を続ける。
「この国の神殿は、先の国王の市政によって
衰退の一途を辿っていましたが
伝道師殿のおかげで、
いまや諸外国の神殿にも勝る人気を
得ております。
特にこの神殿には巡礼者も多く、寄進も増え
人気ではこの国随一の神殿となりました。
ですので、神官長である自分も
月の半分は
この神殿で司を取り行っております。
さらに・・・」
御挨拶が延々と続きそうなのを
見かねたのか
神官長代理が言葉を制した。
「神官長、お話しはその位で・・・」
どうやらこの二人に上司と部下の溝は無いらしい。
珍しい事だ。
「失礼致しました。
これも性分でしてな」
そう言って神官長は御挨拶を終わらせる。
代わって
「それで、どうなさいましたか?
何か神殿に不備でも有りましたでしょうか?」
そう神官長代理が切り出した。
そう聞かれると
自分としてはお願いする身なので
少し気が引けるのだが
先ず
「神殿に問題が有る訳では有りませんよ。
御心配なさいませんように」
そう答えると
神官長も代理も安堵した様で
ソファーに座り直す。
自分が突然神殿に顔を出した事も有って
どうやら余程気になっていたらしい。
「実は少し相談事が有るんです」
そう言うと、今回の一件で問題となっている
神剣に付いて説明を始めた。
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自分が主に説明したのは
一人の鍛冶職人が神剣造りを始めた事。
自分としては
その鍛冶職人に神剣を完成させてやりたいと
考えている事。
その参考になる職人や剣は無いのか。
それを知りたくて訪ねた事を伝えると
二人は顔を見合わせ
そして神官長が口を開いた。
「神剣を造った者は、
この王国には誰一人として居りますまい。
そんな話しは、一切伝わっては居りません。
神器は幾つか存在しますが
神具は数えるほどです。
神剣と呼ばれるものも、
間違い無く一点存在はして居りますが・・・」
“おっ、神剣有るんだ”
神官長の一言で、少し光明が見える。
「ただ・・・」
ただ、が付いた事によって
問題発生は明らかだった。
「何か問題でも・・・」
「その神剣は、握る事は出来ても
その全貌は誰にも判らんのです」
その言葉に疑問を感じる。
「判らない、とはどういう事ですか?」
「その剣は、岩に突き刺さったまま
誰にも引き抜く事が出来ない代物でしてな・・・」
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神官長の話しを掻い摘んで纏めると・・・
その神剣はツムハと呼ばれ
武神が聖なる丘に降臨した時に
この世界で最も硬いであろう岩に
神剣ツムハを突き刺して
『この剣を抜く事が出来た者を
神に匹敵する聖剣士として認めよう』
そう言い残して、天に帰ったという。
ぱっと聞いた感じでは
聖剣エクスカリバー的な話しなのだけど
真の国王だって話しでも無いから
基本政権には何の影響も出ない。
ただただ聖剣士として認めるってだけの
他愛も無い昔話だった。
神官長は
「この剣は長年その地に受け継がれていますが
誰一人として抜ける者は過去いませんでした。
ただそうは言っても、
神剣ですので野晒しにも出来ませんし
そうそうチャレンジする人間が出ても
面倒なので
剣を守る神殿を作り
年に一度聖剣に纏わる祭事を行う。
そんな風にして
云わば聖地にしている訳です。
ですから、
握る事は出来ても全貌は判らない。
抜く事が出来ませんから。
そう言う剣なのです」
抜けないから全貌が判らない。
そう言われて、何となく納得が出来た。
「そうなんですね」
しばし考えると
「見る事と触る事は出来るんですね」
そう言うと頷きながら
「年に一度、聖剣祭りの時にだけ
チャレンジャーになれば可能です。
引き抜きにチャレンジすれば良いのですから。
聖剣祭りは、幸い来月に有りますし」
そこへ代理が話しに割り込んで
「神官長、
剣士だけの参加と決められていますので
それは性急かと・・・」
あわてて静止して来る。
確かにシロウトに参加は難しいのであろう。
聖剣士を求めているのだから
それは当然の事だった。
「だったら、そのイベントが終わった後で
ゆっくりと近くで見せて頂く事は可能でしょうか」
そういうと
神官長は少し思案顔だったのだが
そこは代理が後押ししてくれた。
「神官長、それ位なら宜しいのでは無いでしょうか。
公開日の最中ですし・・・
人目が無ければいいんですよ」
代理にそう云われると
神官長も頷いて
「まあ、それ位なら大丈夫でしょう。
御世話にもなっていますし、
どうせなら引き抜きにもチャレンジされても
如何ですかな。
終ってからの話しですが・・・」
そう言いだした。
どうやら見て触る事は
何とかなる様だ。
後はどう自分が
モーリスを誘導するかだけ、である。
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そんな事を話している間に
ノーラさんが大量の試作品を持って
早速神殿へと来たみたいだった。
神殿の広間が少し騒がしい。
慌てて自分が二人に説明すると
その間にもノーラさんは神殿内の角に
剣を運び込んでいる。
余程剣を見るのが嫌になっていたらしい。
嬉々として荷物を降ろしていた。
そして降ろし終えると挨拶もそこそこに
一礼してとっとと自宅へと帰って行った。
運び込まれた剣の中から
神官長と代理にお願いして
その聖剣に近いと思われる物を
何本か選んでもらったのだが
それはおそらく
最初の頃に試作されたとみられる剣だった。
それは実は自分も同意見である。
自分が戦場で手取らせて貰った神剣は、
どれも質素で地味な物だった。
選んでもらった剣を携えると
残りの剣は
後日自分が纏めて取りに来るので
それまで保管して欲しいとお願いし
快く応じて頂けたので
自分もまたその場を後にする。
残った剣は
何かにきっと使えるだろう。
それまでは自分が保管しようと
勝手に決めていた。
危なっかしいシロモノだから、だ。




