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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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最後に王妃は笑う


深夜に突然のお呼びを

国王から掛けられて

王妃は何事かと訝しがったのだけど

途中まで迎えに来た侍従長から

落とし子が始める御茶会のあらましを聞くと

既に王妃は決意を固めていた。


“この特別の御茶会は、全て私が仕切る”


喫茶室である事は十分承知しているし

シュリのお店と言う話しも、

当然王妃は知っていた。


国王は自分が興味が無い事は、

聞き逃す事が多いのも、王妃は重々承知している。

シュリの店の話など、覚えていないに違いなかった。


大事なのは、期間限定の御茶会だと言う事だ。

その店の特別な御茶会であり

オープニングの御茶会でも有る。


“誰よりも先んじて知る必要が有る”


その事が、何よりも大切だったし

問題なのはその人数である。


トータルで限定140人。


人数としては決して多くは無い。

むしろ少ない方だ。


つまり招待客140名限定の

御茶会と見る事も出来た。


“この140席を、全て確保出来れば・・・”


王妃は国王の元に向かいながら

計略を巡らせていた。



******************************************



王妃にとっても落とし子は

重要な人物だった。


自分に魔法の可能性を与えただけで無く

神殿での女神の降臨や

光り輝く庶民の店の開店

厨房の改良と

その全ての新しい話を聞く度に

どういう人物なのかを密かに想像するのだが

全く浮かび上がっては来なかった。


噂の光溢れる店に自分も行ってみたいのだが

侍従や侍女達に止められてしまう。

自分が立ち入る事の出来るお店では無い、と・・・。


そこに今回の話しである。


今回の喫茶室も

話題になる事は、目に見えて判っていた。

自分や領主夫人達が

密かに話題にしてきた、落とし子の新しいお店。


しかも今回は上流階級向けに

レイモンド侯爵私邸を買い取って開くという

お店である。


“何を於いても真っ先に行かねばなるまい。


兎に角直ぐに領主夫人達にも

連絡を入れておかなくては

恨まれる可能性も有る。


それだけは避けなければ・・・”


この連絡を受けた時から

既に自分達の御茶会戦争は始まっていたのである。



******************************************



一番最初に喫茶室に入ったのは

勿論国王夫妻である、自分達であった。


誰にも遅れを取る訳には行かない。


王妃にとっては、これが第一関門だったのだが

真っ先に暗部を走らせ

初日の20人分の席を確保出来たのは

勿論の事

ありったけの今可能な部下達を

並べさせる事にも成功している。


勿論21人目からは

翌日の事なので

今並んでいる者達は

無駄足にはなるかも知れないとも

思っていたのだが

それは計算の内だった。


王妃にとって重要だったのは

何よりも今確保出来る御茶会の権利を

自分のモノにする事だった。


最悪三日間の席さえ全て確保出来れば

自分に身近な御夫人達を

この御茶会に間違い無く招く事が出来る。


その為に自分達の部下を使って

順番を確保させているのだ。


あとは自分の目でこの御茶会を確認し

どの知り合いに声を掛けるか

誰に声を掛けたら有益なのか。


その事ばかりを王妃は考えていたのだが

その考えが一瞬にして瓦解する出来事に

遭遇してしまう。



王妃は喫茶室に入ると

見た事も無い巨大な羽根の壁飾りに

一瞬目を奪われるが

直ぐに顔見知りの領主夫人達との

談笑になった。


自分にも他の誰にも

どういう御茶会になるのかは

判っていない。


でも大切なのは

一番にこの御茶会に参加した事で有る。

それだけは揺るぎない事実であり

今回参加した人達にとっては

今後話題の主役になれるかどうかの

出来事なのだ。


「どうゆう趣向になるのでしょうか?」


「それは始まってからのお楽しみでしょう」


その場にいた誰もが

期待に胸弾ませていたのだが

王妃だけはこの御茶会の今後の展開を

注意深く観察しながら待っているのであった。



******************************************



室内の照明が落とされると

音楽が奏でられ始めた。


“シリーベル卿の奏でる音だ”


誰もがそう確信する。

しかしこの場にシリーベル卿の姿は無かった。


魔法の様な音楽の調べ。


皆がその出来事に驚愕し

少しだけざわついたのだが

直ぐに静まると

誰もがその音色に酔いしれた。


シリーベル卿が

演奏会を再開する噂は

王国内の貴族にとっては

噂話であったが

それに先立って聞くこの音色である。


何がどうなっているのかは

判らないでいたが

誰もがその噂は真実なのだろうと

そう予見させる調べ。


そしてそれが終わると

今度はチェニシモの音色が響き始めた。


知る人ぞ知る

レピンの奏でる音色である。


この豪華な組み合わせは

この御茶会に参加した全ての人達を

狂喜させる。


巨匠と天才の見えない競演。


過去にも現在にも

不可能だと思われる出来事が

いまここで起こっているのである。



演奏が一段落すると

自然と見えない奏者に向かって

拍手が投げかけられた。


シュリが

御茶とお菓子の準備をすると

先ず自分達の席にやってくる。


そこはシュリも弁えていたらしい。


並べられたお茶とお菓子は

見た事の無い初めてのモノばかりだ。


「甘いお茶を御希望でしたら

砂糖をお好みの量お入れください」


そう言って、シュガーポッドも

中央に置いて行く。


紅茶という香り高いその飲み物は

華やかさの中にも気品が有り

ハーブティーとは全く異なる

貴族趣味が感じられた。


ティーカップを目にした瞬間

王妃の鼓動が早まる。


“へそ曲がりの花”


かつて追放された王が愛した名器。

それが今ここに

自分達の目の前にあるのだ。


この事に気付けるのは

おそらくそうは多く無いだろう。

でも何人かの御夫人達は

気付いた様である。


特に御年配の御夫人達は

判っているみたいだった。


一通り御茶を配り終えたシュリが


「今回の茶器は

ブルックナー商会の協力のもと

“王宮の華”をお借りして

使用させて頂いて居ります。


当店の物では有りませんし

使えるのは特別御茶会の期間だけですので

その後はブルックナー商会へ

お返しする事になっています」


それを聞いて納得した。

ブルックナー商会ならば

“王国の華”を持っていたとしても

不思議でも何でもない。


だれもが納得した様である。



******************************************



“さて、この御菓子はどうなんでしょう?”


王妃は御茶に添えられた

三粒の御菓子の一つを口に頬張る。

口に入れた瞬間に・・・


“これはっ、何?”


自分の感情が揺さぶられるのが判る。


甘く滑らかでとろける芳醇な甘味。

感じた事の無い陶酔感。

今までこれ程の御菓子が、世の中に有っただろうか。


“神々の御菓子”


その言葉が、王妃の頭に浮かんだ。


“きっとそうに違いない”


そう感じた瞬間、王妃は侍従に目配せし

自分のもとに来させると

小声で指示を出す。


侍従は急いでシュリのところへ向かうと

少し会話をした後

自分の元に戻って来て小声で報告した。

その報告を聞いて

すぐに次の指示を出すと

侍従は直ぐに外へと駆け出す。


そのドタバタを見て


「王妃、何事だ?」


そう問いかける王に対して


「何でも有りませんわ。

今後の予定について少し変更しただけです」


そう言って笑って返した。



***************************************



チョコレートを口にした瞬間

王妃の思考は

完全に一旦停止した。


そして侍従に命じて

この御菓子をどれだけ買えるのか

確認を取らせた。


シュリによると

限定品ですので

御茶会にお出しする分と

御一人様一セット限定で

12個入りをコイン24枚で

お持ち帰り用として準備してある、

との報告を受ける。


すぐさま侍従に対して

城に伝令を走らせ

更に手隙の者を呼び寄せて

次の御茶会の順番の列に並ぶ様にと命じる。


“手に入れられるチョコレートは

全て自分のモノにしなければならない”


それが王妃としての

自分の決断だった。


この御茶会が

結果ありふれたものだったならば

自分としては

今後をどうすべきか悩んだに違いない。


だが、今は違う。


客をもてなせる御茶会なら

出来るだけ自分の懇意にしている人達を

全て呼び寄せて

毎日を楽しい御茶会にしようと

王妃は考えていたのだが

そうも行かなくなった。


一人1セット限定の

12個入りのチョコレートのセット。


今日来場の御夫人達は

御主人の分も含めて

絶対に購入するに違いなかった。


そこで思い付くのが

このセットをもっと手に入れる

方法である。


その方法とは人を並ばせて

自分の配下を御茶会に参加させ

この限定のセットと

出来ればお茶菓子として出て来る

3粒のチョコレートも持ち帰らせる。


今現在

実際にそのお菓子をハンカチに包んで

鞄の中に仕舞う御夫人達を

王妃は何人も目撃している。


“先手必勝”


ここに一番近い身内を持っているのは

自分なのだ。

御夫人達には

今日ここで買えるセットで我慢して頂いて

今後入手出来るであろう全てを

自分の物にしてしまえば

これからの御茶会で

間違い無く主役になれるに違いない。


その為には

どんな手段を使ってでも

信用出来る配下を使って

チョコレートのセットを購入させて

自分の手元に運ばせる。


王妃は

チョコレートを一粒口に入れた瞬間に

ここまでの事を瞬時に組み立て

侍従に指示を出したのである。


案の定、この目論見は成功する。


初日に並んだ人数は122人。

全て王国の関係者だったが

深夜に並ばせた最初の20人は

途中で侍従達に入れ替わって交代していた。


整理券が配られた事は計算外だったが

結果それはいい方向へ向かう。


深夜に新しい立て看板が出ると

すぐに新しい人員を並ばせて

残りの席の全ての確保が終了する。


案の定、

早朝に並ぼうとした領主の関係者も

居た様だとの連絡も受けたが

先手を打った自分の勝ちだ。


王妃は一人、ほくそ笑んでいた。



******************************************



翌日の御茶会の最初の客が

王妃である自分だと知ったシュリは

少しだけ涙目になっている様に

王妃には見えた。


これはお仕事なのだと、

シュリには悟って貰おう。





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