国王と御茶会
シュリからの報告によって
落とし子の店の店長が
飛行魔法に成功したと聞かされて
国王は驚いた。
この国の魔法士の誰も
飛行魔法には
成功していなかったからだ。
後にシュリから
浮かび上がっただけです、と
訂正が有ったのだが
高さの違いだけだ。
空を飛んだ事に違いはなかった。
詳しい報告をずっと待ち続けているのだが
それっきり報告が上がって来ない。
暗部に確認すると
どうやらシュリは
仕事で休む間もない位の状況に
置かれていると聞く。
早くその魔法について
国王は知りたいのだが
どうする事も出来ずにいた。
そこに別の報告が上がって来る。
暗部からの報告によって
落とし子が
空き家になっている
レイモンド侯爵私邸を購入したいと
申請を出しているとの
報告を受けた。
その一報を受けた国王は
申請書を受け取ったら
即座に許可を出す様にと
厳命する。
王国と落とし子の
新たな一つの繋がりが出来るのだ。
王国にとっては、吉報である。
許可に時間を掛け
諦められでもしたら困る。
その邸宅を何に使おうが
それは問題では無い。
落とし子が所有する事が重要で
その分この国との関わりが
深まると言う事で有る。
繋がりを持てる事柄が
多ければ多い程
落とし子はこの国に留まってくれるに
違いなかった。
この国には
何よりもその事が重要なので有る。
国王の通知によって
レイモンド伯爵家私邸の売却の件は
即座に許可された。
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暫くの間は何の音沙汰も
無かったのだが
暗部から急な一報が
国王に届いたのは
深夜の事だった。
落とし子の案件は
些細な事でも
どんな時間であっても
すぐに自分に報告を入れる様にと
厳命して有る。
「本日の午後から落とし子は
レイモンド侯爵邸で御茶会を開くようです。
一人大コイン20枚で、一日20人限定。
一週間だけの音楽付き特別御茶会との事でした」
その報告を受け
国王は少しだけ悩むと
侍従長を呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
「そなたに少し聞きたいのだが・・・」
国王はその報告を
もう一度暗部に説明させると
「そなたはこの御茶会をどう思う?」
そう問われた侍従長は
「おそらく上流階級向けの御茶会でしょう。
庶民にはかなりの高額ですが
上流階級にとってはそれ程の金額でも有りませんから」
「行って見るべきだと思うか?」
侍従長は少し間を置き
「王妃様に御相談されては如何でしょうか。
御茶会ならば、先ず王妃様に御相談された方が
賢明かと思われます」
その一言に納得した様に
「そうであったな」
国王は直ぐに王妃の元に使いを走らせた。
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王妃は自分の所にやって来るなり
すぐさまテキパキと命令を下して行く。
「何をぐずぐずしてるの。
直ぐに手の空いている者を集めて
並ばせなさい。
一日20人限定なのでしょう。
急がせなさい。
一刻も早く今日の御茶会の全席を
確保して頂戴」
その言葉に王が逆に慌てた。
「王妃、それはなんでも性急過ぎないか?」
そう国王が言葉を掛けると
王妃は困った様に
「遅すぎる位です。
落とし子が始める御茶会なんですよ。
直ぐに各領主に伝令を走らせてください。
落とし子が始める御茶会ですので
本日昼前までに来られるのであれば
至急御夫妻で王城に来られたし、と。
席は当方で確保しておきますと
そう伝令を出して頂戴。
もし今日が無理なら
出来るだけ早急に御夫妻で来城頂きたいと。
必ず落とし子が始める店だと伝えるのを
忘れないで」
そう王妃が言い出したのを聞いて
国王は更に驚く。
「王妃、そこまでせずとも・・・
たかが御茶会なのであろう。
大事にし過ぎではないか?」
その一言にキッと目を剥くと
「殿方には判らないでしょうが
この御茶会を逃す事は
領主夫人にとっても恥にも成りかねません。
それ程の出来事なのです。
私も準備をせねば。
どういう服装で行こうかしら。
王様も午後の予定は全てキャンセルして
御茶会へ行く準備をなさって下さい」
「わしも行くのか?」
「当然でしょう。エスコートは殿方の役割ですから」
王妃の圧に、たじろぐ王であった。
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王妃の決断に
国王は今更ながら流石だと思っていた。
近隣の領主達は
この御茶会に参加する為
こぞって夫妻で馬車を走らせ
大急ぎで王城に入って来た。
主導権は夫人側に有ったらしい。
どの領主も、今回ばかりは否応無かったと聞く。
どうやらそれ程までに
御夫人達の結束は固かったようだ。
しかし、いざレイモンド侯爵邸に入って見て
急かされた事に感謝した。
ただの御茶会なのだが
落とし子が関わると
これ程までに驚かされるのかと
国王は心底納得する。
知らなかったでは済まされない
出来事が
待ち構えていたからだ。
広間の壁に飾られた大きな鳥の羽根は
シュリによれば騙し絵との事だが
確かに壁と一体化はしているが
この国では再現不可能な色合いと輝きで
本物の羽根だと、国王には確信が有った。
「この羽根は、もしや・・・」
そう呟くと、他の領主とも目配せを交わす。
誰もが同じ事を思ったに違いない。
御茶会が始まって、
シュリの説明の後に音楽が流れて来る。
奏者はシリーベル卿。
でもシリーベルの姿はそこには無かった。
見えない楽師が、演奏しているのである。
まさに魔法。
信じられない出来事が
目の前で起こっていた。
音楽が一通り終った後の
お茶の時間は
国王と領主達は見えない楽師について
王妃と領主夫人達は
お茶と御茶菓子の話しで盛り上がっていた。
「魔石による演奏というのは本当か?」
「だとしたら、もう一度魔石の研究をせねば・・・」
「どういう仕組みなのだ。魔石をどう使えば
こういう演奏をさせられるというのだ?」
口々に話し始める。
それ位に衝撃的な出来事なのである。
あっという間に、御茶会の時間は終りを迎えると
御婦人達は、夫の分を含めた
人数分の限定のお菓子を買い求めると
とても幸せな気分で
誰もが揃って馬車での帰途に就いた。
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馬車に揺られながら
国王は思う。
“やはり落とし子だ。もう間違いは無い”
壁に飾られた、一際大きな鳥の羽根は
神話にも出て来る
『シュミンケの鳥』の羽根だろうと
自分も他の領主達の誰もがそう思っていた。
そのあまりの大きさと美しさ故に
傲慢になり
神によって
永遠に飛び続ける事を運命付けられた
悲しき巨鳥。
地上に落ちたその羽根は
永遠に飛び続ける宿命故に
万病に効く薬とも言われ
何処かの国の宝物庫に眠っているとも
噂されている。
それが壁に飾られていたのである。
無防備に手で触れられる壁に、である。
自分も実際に触れてはみたのだが
羽根としての感触は無かった。
絵だと言われれば、誰もがそう思うだろう。
“しかし、あれは間違い無くホンモノの羽根だ”
国王には確信があった。
向かいに座る王妃は
お土産に買ったお菓子の箱を大事そうに
両手に握り締めていた。
嬉しそうに王に向かって
「来て正解だったでしょう。王様」
そう言って、王妃は笑っていた。




