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神様に殺された!  作者: 猫めっき
45/82

ブルックナー商会と、へそ曲がりの花


その青年が店にやって来たのは

店仕舞いの直前だった。


店に入って来るなり


「この店で一番高い茶器を

見せて貰えませんか」


そう声を掛けてくる。


見た所、茶器に精通している様にも

思えなかったのだが

客には違いない。


「どんな茶器を御希望でしょうか?」


そう訊ねると


「ブルー&ホワイトのカップを。

お店で使いたいので」


そう返してきた。


マリン鉱の絵付けだ。

高価な青い絵の具で有る。


マリン鉱はその名の通り

蒼い色の鉱石なのだが

それを砕いて絵の具にする事によって

絵画にも器の絵付けにも使えるという

特殊な鉱石だった。

しかし問題も有って

遥かに遠く離れた海に面する国の

海の底でしか採石出来ない石で

質が良ければ宝飾品に加工される為

非常に高額な石でも有った。


その事を知っているのなら

どうやら全くの素人でも無いらしい。


「王族に出しても、

恥ずかしく無いモノをお願いします」


その一言に、店主は面食らった。

王族に出しても恥ずかしくないとは

王族に(えにし)が有ると言う事か。


それを聞いて

思い当たる茶器を幾つか準備すると

即座に二つを選び出してくる。


「このカップとこっちのカップを

30客ずつお願いします。


それと・・・」


そう言うと、店のショーウインドウを指さし


「あそこに展示してあるカップも欲しいのですが。

お幾らでしょうか?」


それを聞いた店主は、少し驚いたように


「あのカップが何か、御存知ですかな?」


それを聞いて

手を横に振りながら


「いえ、知りません。


でも品の有る可愛いカップですので

使って喜ばれる人がいるのではないかと

思いましたので」


その言葉に

店主は少し安堵する。


知っていたのなら

間違い無く王宮に出入りした事の有る人物と

断定出来たからだ。


この青年は、王宮とは関係無いらしい。


「そうですか。

でもあのカップはお売り出来ないんです。

破損したカップですから。

壊れていて、使えないんですよ。

表からは傷が見えないように

飾ってありますが・・・」


その一言に青年は

残念そうにしていたのだが


「もし宜しければ、手に取って見て見たいのですが」


そう言いだす。


上客だから、むげに断る事も出来ないので

店主はショーウインドウから

カップを取り出してきて

その青年に手渡した。


「この国には、

コパンという名工がいるのですが

追放された王が健在だった頃

王宮内ではこのカップが使われていました。


王が御執心の陶工でしたので。

名称は『王宮の華』と言いますが

多くの人に『へそ曲がりの花』と言う愛称で

呼ばれていました。


カップのどこかに、

少しだけ姿の違う

ひねくれた花を描き入れて有る事から

そう呼ばれています。


贅の限りを尽くした逸品ですが

政変の動乱で、大多数が破損してしまいました。

完品がどれだけ現存しているかは

判らないんですよ。


もしかしたら盗まれて残っているモノも

どこかに有るかも知れませんし」


その青年は、手渡されたカップを

しげしげと見つめた後に

ボソッと


「これは魔法で直せるかもしれませんね」


そう呟く。


その一言に店主は目を見開いた。


“魔法で直せる?

そんな話は聞いた事が無いぞ”


驚きを隠せない様子で店主は


「魔法で直せるって、それは本当ですかな?」


そう問いかけると


「やった事は無いですが、多分出来ると思いますよ。


何なら実際にやって見ましょうか。

このカップで試す訳にも行かないでしょうから

何か直してみたい物は有りますか」


それを聞いて

それならばと先日客から処分を依頼された

皿を思い出した。


足を滑らせて落としたらしい。

同じものが欲しいと

注文を受けた参考品として

預った商品である。


同じ皿は既に入手して居り

納品済みだった。

持ち主からは、

預かった破損品の処分も頼まれていたのだが

名の有る皿なので、店主が処分出来ずにいたものだ。


青年は

その皿を受け取ると

きっちりと割れ目部分を合わせると

その部分をタクトの先でなぞりながら

魔力を注入して行く。


そうすると

まるで溶接するかのように

タクトの先が輝くと

割れ目は見る見る塞がって消えて行き

最後は綺麗な一枚の皿へと

戻って行った。


割れたで有ろう部分を

青年は指で触りながら


「結構上手く行きましたね。

欠損が無かった分、綺麗に仕上がりました」


そう言って、皿を手渡してくる。


どこにも傷は見当たらなかった。

以前と同様の、完品状態である。


「驚きましたな。まさか魔法で

こんな事が出来るとは・・・」


「欠損さえ無ければ、かなり綺麗な直しが

出来ると思います。


まあ、無くなった部分が有っても

同じ材料が有れば穴埋め出来ますし

修復はそれなりに可能でしょうけど」


笑ってそう説明する。


「それで代金は

今お支払いした方が宜しいでしょうか?」


そう言われると

店主は思案顔で一呼吸置いて


「いえ、それは後日で結構です。


数を準備せねばなりませんので

少々お時間を頂きませんと。


それとその前に出来れば一度

お店に伺わせて頂きたいのですが・・・」


それを聞いて、青年は連絡先を書き記すと

すぐに店を後にした。



店主の本心は

勿論今支払ってくれる方が

有難いに違いなかったのだが

それを躊躇させたのは

目の前の出来事だった。


魔法で破損した器を蘇らせる。


それが目の前で起こったのである。

店主にとって、これ程の衝撃は無かった。


今自分の手元には

王宮に有った破損した茶器が

大量に保管してある。


全て自分が納品した品だからだ。

自分が陶工に発注し、自分が王宮に納品した。


愛着のある茶器だったが

政変で殆どが壊れてしまった。


陶工コパンも

その事にショックを受けた為か

それ以降茶器は造っていない。


それ程までに力を注いだ

名品だったのである。


今自分の目の前に

それを直せる人物が現れた。


こんな機会は

もう二度と廻って来ないに違いない。


もし自分が

王宮の茶器を全て直して欲しいと

お願いしたなら

あの青年は頼まれてくれるだろうか。


計60客の高額の茶器を

買う財力を持つ人物である。


発注の商品と引き換えに

直してもらう訳には行かないか。


そんな事まで考えてみる。


それ程までに思い入れのある

茶器なのである。


店主は灯りを持つと

地下倉庫へと降りて行った。


そこには無数の

『へそ曲がりの花』の残骸が

無造作に積まれているのだった。



************************************************



「そういうお話しでしたら

お手伝いするのもやぶさかでは有りませんが・・・」


茶器を発注してきた店は

今王国内でも話題の店であった。

オーナーと呼ばれる青年は

少し思案気味になると


「こういう条件では如何ですか?」


そう口にする。


“来た”


店主はそう思った。

もしかしたら吹っ掛けられるだろうか。

恐る恐る聞き返す。


「どういう条件でしょうか?」


「一つは、直した茶器を全て

二週間だけ使わせて頂きたい」


店主には、予想外の条件である。


「二週間ですか?」


「そうです。


今度喫茶室を開いて

御茶会を始めようと思っているのですが

最初の一週間は、

特別に一人20コインで設定しています。


その時に使いたいなって

思いました。


その前の一週間で

予行演習も兼ねて

関係者を呼んでのお披露目を

考えていますので

その人達にも使わせてあげたい。

ですから二週間です。


それが一つです。それと・・・」


「それと・・・? 何ですかな?」


店主は遂に来た、と思った。

借りるだけで直してくれる筈は無い。


これが本当の条件なのだろう。


「無事に直せた数の三割を、謝礼として頂きたい。


こちらに頂くのは、多少の欠点が有る物でも

構いません。

そちらで選んでいただいて結構です。


それは自分が修理を頑張ればいいだけの事ですから。

選択権はそちらに委ねます。


そういう条件で、どうでしょうか」


「三割ですか」


「端数は切り捨てで構いません。

ですから正味二割強です。如何ですか?」


その一言に

店主はしばらく考えを巡らせた。


破損した茶器は、ただの使えない道具だ。

思い出しか持たない。


直せた三割を手放したとしても

それで七割が完品として

手元に残るのであれば

それはまだ自分の望むカタチに

近いのではないか。

元々は納品した商品である。


元手は全く掛かっていない。

そう考えて決心する。


「承知致しました。商談成立ですな」


その言葉を聞いて

青年は先日買い求めた60客分の代金を

自分に差し出して来た。


茶器の搬送は、

二週間の特別な御茶会の直前となった。


特別な御茶会が終わって

貸し出した『へそ曲がりの花』が

無事に返却されたら

それと引き換えに発注品の納品と言う事で

話しがまとまる。


特別な御茶会を開催するに当たり

カップの数が足りないと思われた場合

その時はブルックナー商会が

手持ちの名立たるオールドを

必要数追加で貸し出すと言う、

そう言うオプションも付けての

商談となった。



**********************************************



翌日その青年は

朝早く自分の店を訪ねて来ると

案内された地下室で

自ら持って来た

眩いばかりの魔光石を天井からぶら下げ

部屋の中をこれでもかと明るくして

破損した茶器を組み合わせ始める。


不思議な事に

大きく破損したカップを

その青年が掴むと

散らばった一部の破片が

少しだけ輝きを放った。


それは茶器が

自らの分身を呼ぶ様に

本体が呼び掛けているようにも

見えた。


パーツの足りないカップは

仲間のいない欠片を砕いては

その粉で欠損部分を埋めて行き、

魔法を流して修復して行く。


絵付けの部分は

他の陶片の同じ絵付け部分を

移動させるなど

およそ信じられない手法で

破損した茶器が

次から次へと繋がって蘇って行った。


修復が終わりを迎え

細かな破片だけが残るのに

そう時間は掛からなかった。


最終的な修復数は

なんと26客。


七客を御礼として

渡す事になるのだが

それを引き換えにしても

この仕上がりは見事としか

言いようが無かった。


「有難う御座います。

おかげで茶器が蘇りました」


そう声を掛けると

青年は安堵した様に頷く。


「それでは

お茶会の前日にお借りしに

伺いますので」


そう青年が言うと


「それには及びません。

私が責任を持って

お店に運ばせて頂きます。


運搬中に破損させたくは

有りませんからな」


その一言を聞いた青年は

ゆっくりと地下室を後にした。



********************************************



関係者を招いた

予行演習のお茶会の時に

店主も招いてくれるという一言で

それならばと

一つ御願いする事にする。


もう一人連れて行きたい人がいると

伝えると

快諾してくれた。


“陶工コパンを一緒に連れて行って

この茶器を見せてやろう”


そうすればコパンもまた

やる気を取り戻すかもしれない。


店主はそんな事も考えるのであった。




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