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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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雨の来訪者


その日の事を

シリーベルは今でもよく覚えていた。


雨の日である。

雨だれの音が心地良くも有り、

妙に切なかった。


そこに執事が入って来る。


「旦那様、御客様です」


その一言が、何とも煩わしい。

来客は全て、

門前払いにしろと伝えている。


それを承知で、執事が話し掛けて来たのだ。


「門前払いにしろと、言って有る筈だが!」


執事は落ち着き払って


「その客様には、

御主人様はどなたにもお会いする事は有りませんと

伝えましたが・・・」


一呼吸置いて


「こう御伝え下さいと言われましたので」


「何と言ってきた?」


そう聞き返すと


「あなたの奏でる音を、後世に残しませんか、と」


その言葉に、シリーベルは興味を覚えた。


「音を? 楽譜の間違いでは無いのか?」


執事は落ち着き払って


「音を、だそうです。自分の奏でる音を。

そう御伝え下さいとの事でした。


ですので、こうしてお伝えする事に致しました。


お帰り頂いた方が宜しかったですか?」


シリーベルは思う。


音を残すとはどういう事だ?

その意味が判らない。


少し考え込むと、おもむろに


「応接室に通しておきなさい。

直接会って、話を聞こう」


「かしこまりました」


そう言うと、執事は出て行った。



*********************************************



応接室に入ると

その青年は既に大きなラッパの様な物を

準備している最中だった。


「準備は出来ていますので

楽器を持って来て下さい」


そう偉そうにほざく。


“こいつは一体何者なのだ?”


訝しがるこちらをよそに

その青年は準備を続けながら話し掛けて来た。


「後世に音を残したいのでしょう?


だったら、実際に体験して下さい。

その方が手っ取り早い!

準備はもうできていますので」


“無礼な奴だ”


だがその準備の様子に、がぜん興味が出て来てのも

事実だった。

見た事の無い道具が組み立てられている。


部屋の片隅に立てかけてあった

弦楽器を取ると、シリーベルは演奏の準備を始める。


「短い曲で構いませんよ、

テストですので。

そのラッパに向かって演奏して下さい」


“その一言も、気に障ったがまあいい。

気が済んだら、とっととお帰り頂こう”


「では始める」


久方ぶりの人前での演奏で有る。

執事はドアの脇に、立ったままだ。


短いレクイエムを演奏する。

こんな雨の日は、よほど相応しい。


一曲を終えると

その若者の方を向く。

その者は、手に握った小さな物を

持ち込んだ不思議な箱の中に入れると


「どうぞお座り下さい」


そう命令する。


“やはり無礼な奴だ。

ここは私の屋敷だぞ”


そんな感情とは裏腹に

何が起こるのだろうと

少しだけワクワクする自分が居た。


ソファーに座ると、執事が御茶を置く。


その青年の方にもお茶を置くのだが

大きなラッパを

主の方に向けられた瞬間

執事はそれを払い退けようとする。


「動かさないで! 準備中ですから」


その一言に、執事の動きが止まる。

主人を見ると、手で合図をされたので

執事はそのまま引き下がった。


「始めます」


本体の中に、もう一つ何か小さい物をいれると・・・


途端に、音楽が流れ始めた・・・



******************************************



「ダメだな、これでは・・・」


シリーベルが呟く。

その言葉に、青年が反応した。


「ダメ、ですか?」


青年の残念そうな気落ちした一言に

苦笑いしながら


「ダメだな。酷い演奏だ。


下手過ぎて、話しにならぬ。

よくこれで、音楽家を名乗ったものだ」


その言葉に、青年は意味が解らないといった

様子だったが

執事が言葉を挟んだ。


「御主人の音楽は、いつでも素晴らしゅうございます。

私は大好きです」


執事のその一言に

シリーベルは少し苦笑すると

真顔でその若者に尋ねる。


「これはどういう仕組みなのだ?

いや、話せない事なのだろうな?」


その言葉を聞いて


「そう難しい事では有りません」


そう言うと

中から二つの石を取り出して見せる。


「仕組みは至って単純です」


そう言って、取り出した石を手渡す。

それは美しい魔石だった。


「基本は二つの魔石の組み合わせなんです。


一つの魔石に音を閉じ込める。


大切なのは、

音を閉じ込める方法と順番で

その音を順番に取り出せるように

閉じ込めなければならない」


「魔石に音を閉じ込める、と?」


「そう難しい事では有りません。


問題はその音を取り出せるように

魔石に音を入れる順番を組む、それだけなんです」


「音を入れてとりだす、か。

考えても見なかった事だ」


「もう一つの魔石は

その音を取り出し解放させる為の

動力源。

これは魔動石です。

ゆっくりと魔力を

魔石に流し込む為の魔石。


この石によって魔石を動かし

長い時間音を開放させる事が出来る・・・」


「むうぅ、そんな事が出来るのか?」


「このラッパは、スピーカーと言って

音を集めたり解放する為の物です。

魔石に刻んだ音は小さいですから

それを大きくしなければ音は聞こえない。

だから・・・


ラッパの先に有るのは

魔石の音を拾う為の、極小のタクトです。

音を出す時は

このタクトで、音を戻しスピーカーに伝える。


簡単でしょう?」


そう説明されても

俄かには信じられないが

目の前で起こっている事も、事実だ。


間違い無く、音は保たれている。


「それで、そなたはそれで何をしたいのだ」


「近々、当方の店で

午後の御茶会の営業を始めたいと思っています。


そこでお客様に

音楽を聞かせたいと思いましたので

こういうのを作って見ました」


その一言に、吹き出してしまった。

このシリーベルの奏でる音楽を

御茶の時間に客に聴かせるために

こんな物を作ったと言うのか。


たったそれだけの為に

これだけの発明をやってのけたと言うのか。


唖然としたシリーベルで有ったが

その度胸の良さには、感心仕切りだった。


「付きましては、その代価として

音の閉じ込めた魔石を、

一つ差し上げます。


自分には手が二つしか有りませんから

今は一度に二つが限度ですが

音入れの際には

複数個に音を入れられるように

改良したいと思います。


良い音を残すのであれば、石の数は制限する方が

今は良いと思いますが・・・」


「音の入った魔石を、くれると言うのか?」


シリーベルは、信じられない風であったが


「装置一式も、差し上げます。


これはまだ試作品ですので

もう少し改良したものを、お渡しします。


魔動石に魔力を込めて貰わないと

音は出ませんけど・・・」


その若者は少しだけ考えると


「必要になったら、言って頂ければ

魔力を込める事ぐらいはいつでも出来ますので

その時は御相談下さい。


そんな感じで御礼を考えていますが、如何でしょうか?」


青年の真剣な眼差しを見て

シリーベルにも興味が湧きあがった。


「わかった、協力しよう!」


シリーベルは即答した。


「ただし、二週間待ってくれ」


「二週間、ですか?」


「今のままでは、とても他人様には聞かせられない。

自分の錆を落とさねば・・・」


その一言に、青年は少し笑みを見せると


「了解しました。


では、二週間後の今日、準備をしてお伺いします。

今日お持ちした試作品は参考に置いて行きますので

ちゃんと御自身でも使えるかどうか

確かめてみて下さい。


魔動石には、魔力は十分に込めて居りますので」


そういうとその若者は

帰り支度をして

さっさと帰って行った。



**********************************************



シリーベルは

魔動石を箱に入れて見る。


少し間を置いて

先ほどの自分の演奏が、スピーカーから流れた。


“何とも酷い音だ。


ここまで腕が鈍っていたとは”


シリーベルが演奏活動を休止したのには

訳が有った。

どんなに周りが褒めてくれても

そこには少し

空しさが有った。


演奏中は高揚感に包まれ

やり切った感は常に感じていた。

周りは絶賛してくれる。


でも、と思う。


今奏でる音は

過ぎ去って忘れ去られて行くものなのだ。

人々の記憶に残っても

実際には何も残らない。

人の印象には

残っても

いずれ忘れ去られてしまう。


この音を残したい。


そう考え始めたら

演奏会が面倒臭くなった。

残せない音。

残せない音楽。


さっき奏でた演奏が終わった。


“やっぱり酷い音だ”


苦笑いしてしまう。

この魔石は残したくない。

でも自分の奏でた音だ。


残すべきだろうか?


全ては二週間後だ。

その時に、最高の演奏が出来る様に

練習せねばなるまい。


来客前の雨だれの音は

それはそれは気に障る音だったが

今の音色は

何故か心地よく思えた。



*********************************************



“いやあ、失敗したな”


自分は今、そう思っている。

音が悪い。

スピーカーも失敗している。


二週間後に音撮りに行く時は

スピーカーを二つかそれ以上持って行って

両耳でそれぞれで音を聞いて

魔石に音入れしないと

臨場感が出て来ないよなあ。


今のままだと、モノラルだもの。


どうせ残すんだったら

良い音にしないと

みんな納得出来ないだろうなぁ?


この国最高の音楽家

シリーベルなんだから。

それなりの音に仕上げなくっちゃ。


魔石も質の良いのを選んで

揃えなくっちゃ。


店内もスピーカーの配置を

考えないと。

でも、店内はモノラルでも良いのかなぁ。


店の魔改造に悩む自分で有った。



**********************************************



二週間後の音入れは

全て一発取りだった。


魔石には何度も音は入れられるが

録り直しを繰り返すと

徐々に音は悪くなるらしい。


良い音で残すには

魔石は最高の状態でなくてはならないと

青年にそう説明される。


シリーベルも

最初からその積もりだった。


準備した12曲をやり切った時

シリーベルは満足感に溢れていた。


すぐにその場で

最初の一曲目から

音を取り出して聞かせてくれる。


確かに幾つかのミスタッチは有ったが

全くそれを感じさせない出来で

弦楽器クロアの演奏は

過去を凌駕するほどの感動を

音に乗せていた。


まだ、自分にも出来る事が有る。


「演奏会のスケジュールを組んでくれ」


執事にそう伝えた。

すると青年は


「お茶会のプレオープンを、

丁度一週間後の午後、予定していますが

どうなさいますか?」


そう問われたシリーベルは

放心状態だったが少し考えると


「勿論行かせてもらうよ。

店でどう聞こえるのか確かめてみたい」


「承知しました。それでは馬車でお迎えを・・・」


「それには及ばん。自分のペースで動きたいし

その方が安全だ。

自分の体は、自分だけの物では無いんでね」


その一言に


「それでは一週間後の午後に、お待ちしています。

時間と場所は、追って御連絡致します」


そう、青年は答えた。



*********************************************



シリーベルは

それから自分の奏でた演奏の全てを

もう一度、落ち着いて聞いた。

さっきは高揚感に溢れていたから

冷静さに欠いていたかもしれないと

思ったからだ。


“まあ、まずまずでは無いだろうか”


執事が御茶を再び準備してくれた。

聴く事に集中するあまり

お茶を飲むのを忘れて

冷たくなっていたからだ。


新しいお茶を啜りながら・・・


「有難う。お前の機転のおかげだ」


その一言に、執事も恐縮しながら


「お褒め頂き、有難う御座います」


「今日の演奏はどうだった?」


その問いに、少し考えると


「正直申し上げて宜しいですか?」


「ああ、構わん」


「明日はもっと

凄い演奏をされると思います」


シリーベルは苦笑いしながら


「そなたの方が、人使いはよっぽど上手いな」


「コンサートのスケジュールを

組んで置きますので

頑張って練習して下さいませ。


休む暇は、御座いませんよ」


「明日も、か?」


「明日も、です」


流石は頼れる執事である。

こちらの気持ちは、お見通しの様である。




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