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神様に殺された!  作者: 猫めっき
43/82

シュリはパティシエ


シュリは悩んでいた。


10コインの御茶会のお菓子が決められない。

勿論御菓子造りは得意である。


でも10コインは別格だ。

2コインでも、かなり質の高い御菓子を

この王国では手に入れる事が出来る。

王侯貴族が御茶会で使えるレベルの御菓子も

当然あった。


そこに10コインである。


悩んでいるシュリに向かって

オーナーが声を掛けて来た。


「シュリさん、

最初の一週間の御茶会は

特別に20コインで

設定する事にしましたので

それ用のお菓子も作りましょう」


シュリは、目をまん丸に見開いた。

“10コインでも高いのに

オーナーは何を考えているんだろう”


「20コインですか?そんなの無茶です!


幾ら何でも高すぎますよ。

そんな金額で、お客さん来る筈無いじゃないですか?」


オーナーは即座に


「多分大丈夫だと思うよ。

集客はそれなりに考えてるから。


だからシュリさんは、10コインのを

何種類か早く決めて下さい。

20コイン用のは、その内教えますので

それは後で特訓しましょう。


近い内に材料が店に届くと思うので

それからですね」


シュリにはオーナーの考えている事が

全く判らなかった。


『10コインでも悩んでいるのに

20コインなんて・・・』



******************************************



「ご注文の品を、お届けに来ましたよ」


裏手から声が聞こえる。

その声の主は、女性だった。

その声に反応するかの様に

オーナーが二階から降りて来る。

裏に回るなり


「奥さんが来たんですか。

てっきり親爺さんが来るものと思ってました」


「うちの人だと、そのままこの店で飲んじゃうかも

知れないからねぇ。

だからアタシが持って来たって訳さ。


旦那は渋い顔をしてたけど、売り上げ全部飲まれても

困るからねぇ」


そう言って、笑って見せる。


「そりゃそうだ」


オーナーの笑い声も響いた。

荷車から荷物を降ろすと


「はい、これが金額で・・・」


そう言って、

小さなメモを手渡されたオーナーは

示された金額を確かめると

中身を確認する事無く

即座に現金で支払っている。


お金を受け取った奥さんは


「そんなの悪いよ。なんか悪いわねぇ」


そう言いながらも、少し嬉しそうに見えた。

どうやら色が付けてあるらしい。


“こういう買い方をしてるんだ”

シュリにはその光景が、少し新鮮に映る。

女性は、大事そうに現金を懐に

仕舞い込んでいる。


オーナーは

クッキーの袋を二つむんずと掴むと

それも奥さんに手渡した。


“売り物まで渡しちゃうの・・・?

よっぽどの荷物なんだ”


そう考えるシュリにはお構いなく


「皆さんでお茶の時にでも、召し上がって下さい」


その言葉に、目を丸くしながらも


「いつも悪いわねぇ。今度うちに来た時は

こっちもサービスするから」


「有難う御座います。


もしこれと同じ物が手に入るようでしたら

いつでも買いますので、ここに持って来て下さい。

お願いしますね」


「承知! 約束するよ!」


そう言うと、汗を拭いながら

お菓子の袋を荷台の前の方に乗せ

嬉しそうに

荷車を引いて自分の店に帰って行った。


オーナーは

持ち込まれた小さい方の袋を一つ

自分の所に持って来ると

それを差し出してくる。


「20コイン用の御菓子の材料です。


これでお菓子を作りますが

このお菓子の製法は、

シュリさんだけに教えますので

絶対に他言しないで下さい。


もしこの秘密が漏れたら、

とんでも無い事になりますので。


もしかしたら、戦争になるかも知れませんよ。

それ位の価値が有りますから。


シュリさん、約束ですよ」


「戦争ですか?」


そうシュリは聞き返した。

オーナーがなんか物騒な事を言い始めてる。


最初シュリは

その言葉を冗談に感じていたのだが

でもそのお菓子が完成した時

それは事実かも知れないと

シュリは思うようになるのである。



****************************************



昼間は御菓子の研究

夜は料理に接客にと

シュリは大忙しだった。


でも御菓子の研究は、疲れていてもすこぶる楽しい。


オーナーに御菓子工房を

作って貰ったからである。


道具も必要ならその都度

手配してくれる。

御菓子用のオーブンも有る。


シュリにとって御菓子工房は

天国だった。


10コイン用の御菓子は

それなりにまとまって来たのだが

それは高価な砂糖の入手によって

可能になった。


砂糖はとにかく高い。


だからふんだんに使う事は

上流貴族でも

余程の財力が無い限り

難しいし

市販の御菓子で砂糖を使っているものは

殆ど無かった。

でもオーナーは砂糖を大量に入手している。


“どれだけのお金を使ったのだろう”


自分の前に置かれている量も

半端では無いのだが

それはどうやらほんの一部らしい。


だってお願いすれば

幾らでも持って来てくれるから。


それは夜に出す料理でも同じだった。

砂糖を使った少し甘めの味付けは

他所には無い珍しい味付けとして

評判にもなっていた。


甘辛い魚の煮付けは

特に労働者に人気の一品になっている。



シュリが目下挑戦しているのは

オーナー直伝のレシピの

謎のお菓子。


砂糖の入っていないカケラを

サンプルとして

シュリは受け取っている。


少しかじって見たのだが

苦みが有って

美味しいとはとても思えない味がした。


でも暫くすると

もう一度かじってみたいと思わせる

癖になる味でも有った。


不思議なカタマリである。


オーナーによれば

これに砂糖が加われば

天にも昇る美味に仕上がるという。


その言葉に

シュリはときめいた。


シュリは材料の名前を知らない。

何かの豆に違いないのだが

オーナーからは、

知らない方が身の為だと

言われている。


この御菓子は門外不出のレシピと

オーナーから特に釘を刺されていた。


もし世間にバレれば

それはすなわち

その情報源が自分であると

公表している事に他ならなかった。


知らなければ、話せないし漏らせない。

シュリは自分にそう言い聞かせていた。



**************************************



下から温められた石板の上に

特注の石臼を置き

その中に謎の豆を

細かく砕いて入れて挽いて行くと

何故かその豆は

ドロドロの液状になって

石臼の周りに

流れ出して行った。


シュリには

それが不思議で仕方なかった。

石臼は

もともと粉を引く道具である。


だからてっきり

粉が出来るものと思っていたからだ。


流れ出た茶色い液体を集めて

御影石の上に広げると

砂糖を加えて

ヘラとローラーで練り上げていく。


最後は大理石の上で

温度を変えて

広げて練って行き

もう一度茶色の液体を集め

型に入れると

冷まして固まったら完成である。


その手順を

やっと自分の物にして

オーナーからOKを貰った時

シュリは一安心した。


20コイン用のお菓子が

完成したのである。


どんなお菓子か

全く判っていないのに

何故か自分が

有名な御菓子職人になった気分だった。


型の中で

完全に固まっているのを確認すると

一連の作業は完結。


レシピも手順も完成した。


「オーナー!」


シュリが大声で呼び掛けると

そこにオーナーが

二階から降りて来る。


「オーナー、出来ました」


そう言って差し出すと

オーナーは中の固まりを型から取り出して

包丁で切って行く。


シュリは一度も味見をしていない。

むしろさせて貰えなかった。


試作品が出来る度に

オーナーに味見をして貰い

細かくレシピを修正して行く。


何をチェックしているのかって

聞いたら

ザラザラの改善だと聞かされた。


殆どが、その繰り返しだった。

石臼も石工を呼んで

何度も手を加えた程である。


シュリはこのお菓子の完成形を知らない。

知ってるのはオーナーだけだったし

オーナーからは


『どうせなら完成した時に

味見をした方が

何倍も感動すると思うよ』


そう言われて

一度も味見をしてこなかった。


オーナーは

これも初めて見る

新しいお茶を準備すると

完成したそのお菓子を

テーブルの中央に置いて

皆を呼んで

簡単な御茶会を始める。


お茶にもきちんと

砂糖が添えられていた。


「先ずはお茶を飲んでみて下さい。

赤い方が紅茶。黒い方がコーヒーです。


苦いなって思ったら、砂糖を入れて

飲んで下さい」


この世界のお茶は、ハーブティーが主流だ。

四人には、初めてのお茶である。


出されたお茶は両方とも、

芳しい香りに満ち満ちていた。


“何て不思議な味わい”


シュリは紅茶がとりわけ好きになった。

でもたっぷりと、砂糖を入れる事を

忘れなかった。


『ではチョコレートをどうぞ。

これが20コインの御菓子のベースです。


シュリさんには、ここから更に

味に変化を付けて改良して貰いますから

そう思って下さい』


三人がおそるおそる

遠慮がちに

でも我先にとチョコレートを頬張る。


そしてすぐさま、その甘美さに酔いしれた。


その様子を見て驚いたシュリは、

小さい一欠けを口に入れて

舌の上に転がす。

シュリは苦いサンプルしか知らない。

でも口に入れた瞬間


“これが私の作った御菓子なの?”


シュリもまたその甘美さに酔いしれた。


今までのお菓子に無い、

新しい陶酔感がそこには有った。


滑らかな舌触り。

砂糖の甘さが加わって、

その苦みが緩和され

芳醇な味わいへと変貌している。


出来れば

目の前のチョコレート全てを

自分の物にしたい。


自分が作っている筈なのに

そう思えてしまう。


それ程までに

チョコレートは魅惑的な

甘美な御菓子だった。


「美味しい」


「美味しいね」


その言葉が、皆から零れて来る。


その言葉を聞いて

オーナーは


「これが20コインのお茶とお菓子です。


でもこれだけでは有りませんよ。

もっと驚く仕掛けを考えていますので」


まだまだ他にも

何かを企んでいるに違いない。

シュリはそう感じていた。




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