マークの受難
カデナ国王に呼び出され
マークは幸福の絶頂にいた。
きっと御褒美が頂けるに違いない。
先の戦争で、30人抜きの快挙を
達成したのである。
自分でも信じられない出来事であった。
今や自分は
この国でも英雄扱いである。
そこに国王の呼び出しである。
どの様な御褒美が頂けるのであろう。
マークに期待は
弥が上にも膨れ上がっていた。
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「マークを召し連れました」
「中へ通せ」
国王の声がドアの向こうで響いた。
その言葉に、マークは室内へと入る。
と、そこには
予想だにしない顔触れが有る。
国王をはじめ、各領主が一堂に会していた。
そしてその傍らには
各兵士団の団長が、傍えている。
戦場で出番を控えていた
面々である。
“御褒美が頂けると思っていたのだが
もしかして違うのか?”
訝しがりながらも
跪くマークに向かって
国王が声を掛ける。
「先の戦いは見事だった。
30人抜きは、
流石に諸外国もさぞ驚いた事で有ろう。
そこでだ。
そなたの腕前を、ここで我々に見せてはくれぬか」
そう言うと剣が手渡される。
「王国軍の兵士団長に、相手をさせよう。
思う存分、戦って見てくれ」
その言葉に、兵士団長が歩み出る。
「宜しく頼む」
そう言うと、いきなり戦いが始まった。
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マークは兵士団長によって
コテンパンに叩きのめされている。
もう立ち上がる気力すら無かった。
「どうだ?」
国王が兵士団長に声を掛ける。
「中の上と言った所でしょうか」
その返答に
国王は諸侯の兵士団長に訊ねた。
「そなたらには、どう見えた」
その問いに、誰もが首をひねっていたが
一人が声を上げた。
「恐れながら申し上げますと
まるで別人の様です。
あの時のこの者の動きと剣は
もっと早く、もっと重く
誰も相手にならない
破壊力が有りました。
この様な剣では有りませんでした」
「うむ、やはりそうか」
その言葉に国王は、納得した様である。
息が落ち着いて、
立ち上がったマークに向かって
国王が問うた。
「あの日の出来事を、包み隠さず申してみよ」
その質問に
マークは、その真意に気付くと
驚愕した。
国王は、全てを知っている。
知っていて
兵士団長とここで戦わせたのだ。
嘘は付けまい。
「申し上げます、国王。
でも、自分でもふしぎな出来事だったのですが
それでも宜しいのでしょうか?」
「問題無い。感じた通りに報告しなさい」
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マークは
あの日の不思議な出来事を
包み隠さず報告した。
剣を振りかざすと
思わぬ速さで打ち下ろされた事。
剣が勝手に動いていた様だった事。
相手に切られると思った瞬間
まるで誰かに押されるように
相手の懐に入って
体当たりして行った事。
その瞬間、相手が吹っ飛んでいた事。
誰かに操られている様だった事。
等々。
「そんな不思議な体験でした」
その話を聞いて
誰もが沈黙していたが
「やはりそうであったか」
その言葉に国王をはじめ、各領主も納得した様である。
しばらく沈黙の後
国王がマークに向かって
語り始めた。
「マークよ。聞くがよい。
あの日、実はあの場所に神がいたのだ。
その報告を我らは受けていた」
その言葉にマークが驚く。
「神がいたのですか?」
初めて知らされる真実である。
「そうだ。
その神の手助けによって
そなたは30人抜きをし
今ではこの国はおろか
諸外国でも知らぬ者はいない英雄となっている」
国王は一旦言葉を切ると
「それでもそなたが30人抜きをし
この度の戦争に勝利した事実に変わりは無い。
よって、その褒美として
その方には準兵士団長の称号を授ける事とする。
良いな」
それはマークには
思いもしない御褒美で有った。
一兵士からの大抜擢である。
準兵士団長は、高給取り。
将来は保証されている。
結婚相手にも、不自由はない。
「有難う御座います。
その肩書に恥じぬよう、精進したいと思います」
その言葉に、国王は苦笑する。
「そなたには褒美に映るかも知れないが
そうで無い事は何れ解かる。
これからは兵士団長の元で
英雄の名に恥じぬ剣技を磨くように。
おまえに挑んでくる剣士が、
これから数多出て来るからな。
他の兵士にとってはそなたに勝つ事が
名声を得るのに一番手っ取り早いであろう。
おまえはこれから、狙われる身となる。
故に精進せよ」
その一言で
今回の出来事によって
何が起こるのか
少し鈍いマークでも理解出来た。
狙われる身。
30人抜きと言う結果を
実力を持って示さなければならない。
マークにとって
それがどれだけ大変な事か
今になって
身に染みて感じ始めていた。
兵士団長がマークに声を掛ける。
「さあ、行くぞ。
すぐに特訓を始めなければ成らぬからな。
みんなをがっかりさせるなよ。
英雄殿」
そう言うと
マークをむずと掴んで
国王に一礼すると
マークを引き摺りながら
さっさと退出しようとする。
マークは天を仰いだ。
『神様のバカヤロウ!』
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マークが退出し
全ての兵士を退出させると
国王と領主だけが残った。
一人の領主が呟く。
「やはり“落とし子”か!」
その言葉に国王が頷く。
「暗部の報告だから、間違い無い。
あの場所にいたと報告が有った」
「“落とし子”は、何をしていたと・・・」
「最初の頃は、周りと話しながら
弁当を食っていたそうだ。
しかし、対戦が始まると
相手軍を凝視していたらしい。
何かを見つけたようだった、と」
「見つけたとは、何をだ?」
「多分魔法士だろう、との事だった。
タクトを持つ者がいたらしい。
その魔法士のタクトは
一瞬で破壊されたらしいのだが・・・」
「それは“落とし子”の仕業か?」
「おそらく、そうであろう。
でもその魔法士が何をしていたのか、
暗部では判らなかった様だ。
“落とし子”が魔法士に気付いた後、
我が国の兵士の動きが
格段に良くなったと聞く。
やはりドード王国の魔法士が
この戦いに
裏で細工をしていたのであろう」
「もしかして、魔法攻撃か?
それとも
何らかの妨害を受けていたのか?」
「それは判らん!
だから苦々しいのだ!」
国王は頭を抱えた。
これは明らかな戦力の差である。
敵国に戦争中に
何かを仕掛けられているのが判っても
それが何なのか
自国は気付けずにいるのである。
これは圧倒的なハンデだった。
もっと情報が欲しい。
国王は真にそう思っていた。
「“落とし子”に救われたな」
「そう思うのだが、それだけでは無いのかもな。
今回の戦争は、神々の森絡みだ。
“落とし子”にしてみれば、
当然の事だったのかも知れない。
荒らされたくない聖域」
「確かにそうだが、
それでも勝ったのだ。
そこは素直に喜んでおこう」
その一言に、誰もが頷いた。
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その頃、
ドード王国には異変が起きていた。
近隣諸国から
戦争の申し込みが有ったのである。
今回の敗戦で
多額の賠償金が発生している。
それを領土では無く
金銭を差し出す事でようやく決着させた。
だからドード王国は
資金が欠乏していた。
問題はその後の事だ。
何件もの戦争の申し込みが有る。
戦争目的は
国境問題で揉めている地域の領地の確定。
それ自体は何の問題も無いのだが
問題は兵士だ。
今回の戦いで
絶対に勝つつもりで
精鋭の30人を選び対戦させた。
敗ける筈の無い戦士ばかりである。
今まで負けた例が無かった。
その戦士で負けたのである。
ドード王国にとっては
絶対にルートを作りたい神々の森だった。
手付かずの神々の森の噂話は
どれもが魅力にあふれていた。
調査団としてカデナ王国に申し出た無償入国は、
名目でしか無い。
無償入国で有るから、拒否される事も判っていた。
それを名目にして、戦争を仕掛ける。
計画は完璧で、負ける筈は無かった。
そして森に入ってしまえば、こっちの物だと
国王は考えていた。
“神々の森の財を、全て我が国の物にする”
だから念には念を入れて
精鋭の30人を送り込んだので有る。
結果は一兵士によって
全敗をさせられた。
それだけならまだいい。
問題は負け方だ。
一撃で戦闘不能。
再起不能の体になって
30人全てが
帰って来たのである。
この情報を得た隣国が
見逃してくれる筈も無かった。
戦争の申し入れ。
拒否は、負けを意味していた。
何もせず、その領地を取られるので有る。
しかし、
申し出を受け入れる為の手立ては
少なかった。
負傷した兵士の穴埋めとして
実力者の傭兵を雇い入れる。
その為には
膨大な資金が必要となる。
あの時に資金を残して
領地を一部渡しておけば良かった。
心底国王はそう感じていた。
傭兵は
実力者で有れば有る程
その金額はべらぼうに高い。
期間も限られている。
しかし、
それでも選択肢はそれしか無かった。
金目の物を売り払い
それで雇い入れる資金を調達して行く。
だがそれにも限界は有る。
最後は領地の切り売りしか無いのだが、
そんな状態の国の領地を
高値で買う御人好しの国王などいない。
諸外国の手は
ゆっくりと確実に
ドード国を取り込み始めた。
結局この敗戦によって
ドード王国はどんどんと縮小し
やがて滅亡して行った。




