天界大戦
〇ンチ拾いに勤しんでいると
メインステータスが震えている。
事務局からの連絡の様だが
こっちはそれ所では無い。
雨が近いのだ。
雨が降ったら、薬になる〇ンチは流されてしまう。
それならまだいい方で
雨で溶かされてしまう可能性が
高い。
そうなったら
乾くまで待つしかない。
乾いた時に
溶けた〇ンチが岩に付いていれば
ハガシを使って
へばり付いている綺麗な部分を、こそげ取る。
それ位しか雨の後は、
〇ンチを手に入れる手段が無くなる。
溶けて地面に浸み込んだ場合は、成す術が無かった。
これは薬なのだ。
多少のヨゴレが付いていようと
泥が付いていようと
そんなのは関係無い。
大切なのは、命が助かる事だ。
その為の術で有るなら、人は何だってする。
土が付いていても、汚れていても
躊躇なく口に入れる。
生きるために。
でも泥の固まりではどうしようもない。
とても薬とは言えないし、そうも見えない。
“採取はやはり楽な方がイイ”
仕方なくハガシを使ってこそげ取る場合は
どうしても手間が余計にかかってしまう。
ゴミの付着も多い。
丸い〇ンチ集めの方が、当然遥かに効率が良かった。
何としても
雨が降る前にここに在る〇ンチは
集め切ってしまいたい。
そう思っていると
ステータスが、また震えた。
何を急いでいるんだろうって、思って
見て見ると
神々の名前が点滅したり
色が赤に変わったりしている。
“何かの合図だろうか”
まあ、そんな事はどうでもいい。
今は一刻も早く
〇ンチを拾い集めなくては。
空は御機嫌ナナメの様だ。
ステータスを仕舞い込むと、作業を続ける。
“急ごう”
そう思ったら、急に転移した。
“んっ?何だっ?”
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転位先は、見た事の無い光景が広がっていた。
無限に広がる果てしない大地・・・そしてここは?
“戦場?”
甲冑姿の誰か大勢が、戦闘を繰り広げている。
でも受けに回っている片方は軽装だ?
戦争なのに?
“一体戦っているのは、誰?
それに、ここは何処だ?”
自分は宙に浮いていたのだが
ゆっくりと着地した。
目を凝らして見ると・・・
“あれっ、神サマ?”
見覚えの有る神様がいる。
どうやら負けている方らしく
傷だらけでボロボロである。
形勢は圧倒的に不利な様だった。
軽装だから、当然身を守れる筈も無かった。
そんな
ボーッと見ていた自分に向かって
何故か甲冑の兵士が剣を振り上げ
突撃して来る。
慌てて叫んだ!
「ーーーSTOOOOOPーーー」
その瞬間
時が止まった。
戦闘を繰り広げている両軍が
身動ぎもしない。
完全に止まっている。
“何、コレ?”
恐るべし、これって神々の寵愛の力か?
自分には、こんな力が有るのか?
辺りを見回しながら
一息付くと、改めて両軍を見る。
片方は、間違い無く見覚えの有る神々だ。
寵愛を貰った神々。
一度しか会っていないのだけど
軽装のこっちが自軍だろう。多分。
でも何で軽装?
とすると
攻勢を掛けて優勢な甲冑姿が
もしかして相手軍?
神々なのか?
敵っていう事に成る。
でも、そもそも
何で戦争してるんだろう?
今、時間を止めているのは自分だ。
これは間違い無い。
問題はこの戦いである。
戦争に正しいもへったくれも無い。
互いが傷付くだけだ。
残るのは恨みだけ。
そんな負の連鎖に自分が関わるのは、願い下げである。
どちらか一方に
組みするのは愚の骨頂。
何としてでも、
穏便に済ませなければならない。
そもそも
何で自分がここにいるのかが
判らない。
判らない事だらけだ。
“ここはひとつ、両軍の大将に話を聞かねば・・・”
自軍の総大将らしきのは、見覚えの有る神サマである。
名前は忘れた。
呼び名は“神サマ”で通しておこう。
敵将は、何となくそれらしいのを見つけたので
それぞれを引っ張って来て、対峙させる。
念の為、武器は取り上げておく。
それぞれの肩をポンと叩いて、スタート。
両将はハッと気付いて
目の前の敵に気が付くと
慌てて互いに一歩退き、剣を抜こうとするが
既に丸腰にしてある。
いきなり敵将が殴り掛かって行った。
こっちの大将も、すぐさま応戦しようとする。
“ダメだ、頭に血が上ってやがる”
「STOP」
もう一度二将を止めると
敵将を取り敢えず遠くに離して
自軍の将も
少し遠ざけて
ポツンとした状態にしてから
改めて
自軍の大将だけ時を動かす。
その神サマは
殴り掛かっていた拳が
宙を打つと
少し驚いたようによろけながら
踏み出した足で
自分が転ぶのを押し止め
周りを見回した。
やっと自分と目が合った。
「神サマ、説明して頂けませんか?
何で自分がここに呼び出されたのか、
判っているのなら、そこからお願いします」
その声に、ゼビアが反応した。
「そなた、何故ここにいる?」
「それが知りたいんですよ!」
取り敢えず、自軍の大将から
手短に話を聞く事にする。
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聞き終わって分かったのは
他の天界から戦争を仕掛けられていて
今現在、形勢不利な状況に有ると言う。
そして、どうやら自軍の中に
自分に深く関わりの有る神サマがいて
その神サマがかなり危険な状態で
おそらくそれで
緊急招集が掛かったのだろうと
言うのだ。
そんな神はごく一部のはずだと言う。
契約書の細工に気付けた上位神くらいだと
ゼビアは考えているらしい。
自分がまさに、それに気付けた一柱だからだ。
上位神の誰か、というので
自分のステータスを見ると
“モカ”が特に赤く点滅していた。
たぶんこれが危険信号だ。
赤の点滅って、カラータイマーか?
結構ヤバそう。
急いで“モカ”を見つけ出すと
魔獣が浸かる温泉水で作った
ポーションらしきモノを収納から取り出し
傷口にぶっ掛けてみるのだが
何故か瞬時に消えてしまって
傷を治せない!
“???”
慌ててゼビアに聴くと
戦争が終わるまでは
治療は出来ないと言う。
それが天界戦争のルールらしい。
でもまあ
時は止まっているので
エネルギーの流出も
ゼロとは言わないが弱まっている。
“取り敢えず、互いの話しを先に聞こう。
そして終らさなければ・・・”
ゼビアに向かって
「自分が敵将と先ず話しを付けますので
それまで待ってて貰えますか?」
そう言うと
ゼビアは少し考えると、やがて
含み笑いを浮かべながら
「この際だ。お前の力を使って
相手の神を全て倒すと言うのはどうだ」
そう囁いて来る。
“神サマなのに、何か物騒な事を言い始めたぞ”
そう感じたので
「却下です。
自分は人間ですから、
神サマの戦争には加わりませんし
関わりたくも有りません。
取り敢えず
相手の言い分を聞いてから
それから判断します」
そう言うと
面倒事になる前に
ゼビアの時を、もう一度止めた。
自分の目の届かない所で
何かを仕出かすかも知れないと
そう思ったからだ。
“これって、結構便利ジャン”
そう思うと
敵将の所へもう一度足を向ける。
敵将も
殴り掛かったままの状態である。
催眠術を解くように
ポンッと敵将の時を動かした。
すると敵将も
やっぱり殴り掛かっていた拳が
宙を打つと
少し驚いたようによろけながら
踏み出した足で
自分が転ぶのを押し止め周りを見回す。
自分を見つけると
いきなり殴りかかって来た。
“やっぱりか”
瞬時にそう思うと
自分はその間合いを逆に詰めて
目前に移動すると
顔に指を近づけ、そして・・・
デコピンを一発入れた。
バシッと大きな音が響いて
その瞬間、敵将が吹っ飛ぶ。
その威力は、半端では無かった。
“ヤバイ、強すぎたか?
そう言えば黒龍も吹っ飛んだった!”
でも、流石は敵将である。
ふらつきながらも、立ち上がって来る。
すかさず敵将に向かって
「あのねえ、今の状況、判って無いの?
こっちはいつでも
皆さんを瞬殺出来るんですけど・・・」
その一言に、敵将は何を言っているのかと
ポカンとしていた。
「周りを見れば判るでしょ。
助かるかどうかは、自分の一存でどうにでもなるんですよ」
そう言われ、敵将は
「お前は敵か?」
訊ね返してくる。
「場合によってはね。で、どうするの?
皆殺しを選びますか?」
辺りを見回すと
確かに、自軍の神は身動ぎ一つしていない。
動き出す気配すら無かった。
でもそれは敵軍とても同様だった。
全ての神々は、動きを止めている。
「これは、お前がやったのか」
その問いに答えるでもなく
「こっちは誰も死んで欲しくないから
話しを聞こうとしているの。
ちゃんと話して下さい。
何が起こったのですか?
何で戦争になっているんですか?」
いい加減、頭に来ていた。
頭に血の上っている分別の無い神は
始末に悪い。
そんな時は
相手が神様だろうとこっちは知った事では無い。
「ホントウに、皆殺しにしますよ!」
そのつぶやきにも似た低い声に、
悪寒を覚えたのか
敵将はどっかと座り込んで
しぶしぶ口を開いた。
今の状況を、それなりに理解したらしい。
「それはのう・・・」
とつとつと話そうとするので
「ちょっと待って下さい。
こっちの大将にも聞いて貰いますから
その方が手っ取り早いでしょう。
手間が省けますし。
今呼んで来ますけど、
ちゃんと休戦して下さいね。
殴り合いは厳禁ですよ!
そうしないと、らちが開きませんから」
そう言って、あわててゼビアの元に走ると
時を動かす。
自分の話しを一通り聞いた
ゼビアは
不満そうにしながらも
一緒に敵将の所に向かってくれた。
また取っ組み合いを始めるかなって
思ったけれど
二将は割と冷静に目を合わせると
周りをもう一度見回し
やがてこちらに顔を向ける。
「では、詳しい話しを聞きましょうか・・・」
自分がそう切り出した。
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敵将の話しを
簡単にまとめると
自分達の天界が、急激に縮小を始めたらしい。
天界協議会に相談し
評議会にも報告したのだが
時間的な余裕も
手立てを見つける時間すらも
その縮小スピードを考えると
間に合わないと考えた。
天界協議会の反応は、兎に角鈍かったらしい。
残る手段が天界戦争だった。
天界戦争に勝利して
別の天界に民を移住させる。
その為には
縮小を続ける自分達の天界の
半分を犠牲にして
そのエネルギーを集約し
一番近い天界に的を絞って
そこのパラレルゴーストを作り
戦争に勝利して
自らの天界の民を送り込む。
自分達の天界の星々が
消滅する前に
他の天界へ民を移住させるのを
完遂しなければならない。
事を急いだ原因がここに在った。
その話しに、こちらの総大将も納得した様に・・・
「で、半分の民を犠牲にしたのか?
パラレルゴーストを作る為に?」
ゼビアが問うた。
「そんな事、出来る訳無かろう!
半分の星々の民は、他の星に一旦移住させてある。
我ら全ての神々を総動員して、
短期間で移住を終わらせたのだ。
誰も犠牲にはしておらんよ」
要は消滅間際の天界が
民を救いたいが為に
(それ以外の理由も有るのだろうが)
安全なこっちの天界に
住人を送り込むために
天界戦争を目論んだって事。
敵将の話しを聞いて思う。
この天界の神サマは、民に対して優しい。
こんな神サマなら、何とか助けたいと
自分は考えている。
ゼビアも思案顔である。
民の為と言う事に、共感したらしい。
「何か手立ては無かったんですか?」
そう訊ねると
「ミカド様にお願いしようとしたのだが
今以って連絡が取れないのだ」
ゼビアは少し納得した様に
「ミカド様か。
確かにあの方なら
何とか出来るかも知れないが・・・」
ミカドサマって、あの老人の事だろうか?
一期一会の、わが師である。
「ミカドサマって?」
自分がそう問うと
ゼビアが答えてくれた。
「ふざけた酒好きのじいさんだが
とにかく神々の信頼は絶大な方だ。
その力も絶大なのだが、問題も有って
すぐにふらりといなくなってしまう」
自分の思い描いた人物と、何か一致しない。
酒好きって何だ?
うちに来た老神は、仙人みたいな方だったぞ。
酒も飲まずに“モカ”と
話し込んでいたし。
そんな考えを他所に、二将は話し込む。
「あれ程の力を持つ方など、めったに居らんからな」
「そんなに凄い神がいるんですか?」
そう聞くと、笑って
「古神の一柱で、その力は歴代十指に入るやもしれん。
豪快で信頼も厚いのだが
あちこちふらふらしていて、兎に角掴まらないのだ」
「その神は、どうしようとしていたのでしょうか?」
「あの爺さんの事だから、
新しい天界でも創る気だったのかも知れないな。
それ程の力を持っている」
それを聞いて
「皆さんにその力は無いんですか?
皆さんも神サマですよね」
そう言うと、二将はこっちを見て
声を揃えた。
「有る訳無かろう。それが出来るのは
天界評議会でも僅かな神しか居らん」
思わずハモッている。
妙に二将の息が有っていた。
似た者同士なのかもしれない。
「そういうもんなんですか。
だったらいっその事、
問題の天界を
丸めてポイって収納に突っ込めればいいのに。
収納なら時間は止まる訳だし・・・」
自分がポツリと呟く。
その一言に、ゼビアが・・・
「その力を持つのがミカド様なのだ。
我らには到底及ばぬ力をお持ちなのだ!」
「そうなんですね」
「そんな収納を持つ神など、
ここには居らんよ。
ミカド様を除いては、他に思い付く神など・・・」
思案に暮れる二将だったが
ふとゼビアがこちらを見ると・・・
何かに気付いたように・・・
「小僧、お前の収納を見せろ」
と、突然言い出す。
最初は何の事か全く分からなかった!
「いいから見せろ。お前の収納は
全ての神々の寵愛から生まれているのだ」
“あっ、成るほど”
そう言われて、慌てて自分の収納を呼び出す。
その収納に、ゼビアが頭を突っ込んだ。
そして頭を引っ込めると
こちらを向いてニッと笑いながら
敵将に向かって
「覗いて見ろ」
そう言い放つ。
敵将は訝しがりながらも
言われたとおり収納に頭を突っ込むと
驚いたように
「何だ、お前のこの収納は?
この大きさは尋常では無いぞ。
まさに無限では無いか。
「こんな収納を持つ者など、ミカド様位しか・・・」
その一言でピンときた。
自分はミカドサマと呼ばれる方の寵愛も受けている。
「この大きさなら、入るであろう」
「間違い無く入る。
しかし我らだけの力では到底足りぬ。
協力をお願い出来るか?」
「当然だ!」
勝手に二将で話が進んでいる。
そしてこちらを向いて、じっと目を見つめて来る。
どうやら、それをやる気だ。
嫌とは言えない雰囲気である。
まあ、戦争が回避出来るのなら
それに越した事は無い。
「協力しましょう」
*****************************************
そこから先は
駆け足の作業だった。
止めていた全ての神々の時間を動かすと
二将はそれぞれ自軍の神々に
戦争終結の顛末を口早に伝える。
両軍が納得した段階で
戦争は無事終結となった。
それを聞いて
あわててモカの傷口に温泉水をぶっ掛ける。
モカは既に意識が朦朧としていて
ぐったりとしていた。
ポーション擬きの温泉水の効果は
絶大で
(何でこんな効果が有るのかは
全く判らないのだけれど)
傷口が塞がり始めると
エネルギーの流出も
徐々に減って行く。
“まあ、これくらいなら大丈夫だろう”
モカはボーっとして座り込んだままだ。
余程エネルギーを流出させていたらしい。
それからは全ての神々の力を使って
早速自分の収納に天界を納める作業となった。
片方の神々だけなら
それは難しかったかも知れないが
両軍の協力体制で
なんとか天界を
小さく纏める事に成功すると
(といっても、かなりの巨大な大きさだったのだが)
収納の入り口を
多くの神々によって
寄ってたかって無理矢理広げて
何とか押し込めた。
“これで取り敢えずは終了っと!”
全てが一段落すると
両軍の神々から
安堵の声が聞こえて来る。
「じゃあ、自分は帰りますので
後はお任せします」
そう言い残すと
さっさと転移ゲートを開いて
自分は崖へと戻って行った。
誰もが唖然としているのが
何となく判ったのだが
それは自分にはどうでもいい事だった。
とにかく
作業に早く戻りたかった。
*******************************************
転移して戻って見ると
そこは
もう既に土砂降りの雨の中だった。
〇ンチはドロドロになって
溶けて流されている。
これではきっと
乾いてもハガシの出番はないな。
・・・・・・
時間を返せ、コノヤロウ!




