パラレルゴースト
天界事務局内に、警報が鳴り響いた。
その度に、局員に緊張が走る。
他の天界からの、来訪者だ。
ここの所、頻発している。
その多くは偵察なのだが、
問題はその数だ。
やけに多い。
事務局長はその事に
危惧を抱いていた。
どこかの天界から
戦争を挑まれるかも知れない。
神々同士の戦い。
天界戦争。
本来は、どの天界も
それだけは避けたいと思っている。
戦争を望む神などいない。
普通は何か問題が起これば
天界協議会に申告し
全ての天界に対して
相談を持ち掛けるのが通例だ。
しかし、
それは時間的に余裕のある場合である。
協議会に相談を持ち掛けても
すぐに問題の解決とはならない。
大抵は紛糾し、結論を得るまでに
かなりの時間を要してしまう。
問題なのは
解決にタイムリミットが有る場合である。
間に合わないと考えた時・・・。
そんな時に使うのが
天界戦争である。
希望を叶えてくれる能力を持つ
天界に対して
戦争を申し込む。
この場合、申し込まれた側に拒否権は無い。
それが決まりだ。
その一方で
要求の中身に応じて
天界戦争は申し込まれた側が
戦い方を指定出来るのが
慣例となっている。
天界戦争は
殺し合いでは無い。
単に勝ち負けを決める
戦いである。
それは剣士戦や
ルールを決めての勝ち抜き戦だったり
代表による1対1の個神戦闘だったりと
その方法は様々。
どちらがアドバンテージを取るかが
勝敗の決め手となる。
当然、仕掛ける側は
相手の天界を隅々まで調べ上げ
その戦闘方法を精査し
勝てる術を全て、前もって準備もする。
受ける側が戦闘方法を選べるからと言って
必ずしも有利とは限らない。
それが天界戦争だ。
では
申し込んだ天界が
負けたらどうなるのか。
それは
その天界の神々が
神で無くなる事を意味する。
全てを放棄すると言う事は
その天界が消滅する事すら
意味していた。
天界戦争を申し込むと言う事は
有る意味背水の陣で臨む
戦争なのだ。
さて、何処の天界が
どう仕掛けて来るのか?
事務局長は、その行動を注視していた。
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有る天界から
やはり戦争開始の連絡が入る。
その申し出には
戦争方法まで先に示されていた。
それは
全面戦争。
その文言に、事務局長は絶句した。
全面戦争とは
互いの天界の神々が
全て参加し
勝敗を決着させる
申し込む側が唯一選択権を持つ
戦闘形態である。
それは協議会が出来る前から有る
戦争形態。
総力戦。
いにしえから続く
最もシンプルな戦い方だ。
それ故に
現在にまで残されていた
戦争方法でも有る。
この戦争方法は
攻める方にも
攻められる側にも
甚大な被害をもたらすので
今では使われる事の無い
戦い方だ。
戦いの最中に
死亡する神々も複数出る。
そして、どちらかが全敗した時、
それは全面降伏を意味し
時にその天界は
消滅する可能性すら有った。
0か100の戦い。
この方法は
どの天界も決して望まない
最終形態の
最悪の戦闘を意味する。
負ければその天界は、
存続すら難しい。
そのレベルでの戦闘で有る。
事務局長は
管轄の神々に緊急招集を掛ける。
天界戦争の申し込みが有ったと。
しかし、事務局長は楽観視していた。
申し込んで来た天界は
極めて弱小だった。
どんな戦闘方法で有ろうと
決して負ける事の無い相手。
よほど追い詰められているのだろう。
実力差の有る
上位の天界に全面戦争を挑むなど
正気の沙汰では無い。
我が天界なら
楽々勝てる相手だ。
初手から負ける要素など、微塵も無い。
自軍の神々にも、その事は連絡した。
決して負ける相手では無い、と。
その連絡が
後々不利な状況に自らを追い込むとは
事務局長は
全く思っていなかったのである。
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神々は動きやすい軽装で
指定された場所で
相手の神々を迎えようとしていた。
本来なら全身を
甲冑で固めなければならないのが
全面戦争である。
でも誰もそうはしていなかった。
むしろ動き易さを優先させた方が
決着が早いと見ての事だ。
明らかに実力差の有る
格下の天界からの申し込みだったのが
その理由である。
弱小!
負ける要素は微塵も無い!
誰もがそう思った。
それが、思い込みによる油断。
これは全て、事務局からの情報に
端を発していた。
こちらの総大将は
“ゼビア”
現在
この神ほど
この天界の総大将にふさわしい神は
いない。
誰もが認める
この天界の頂点の神である。
戦闘に参加する神は、総勢、約五百柱。
半分は参加している勘定だ。
数だけ見ると
少ない様に見えるかも知れないが
文神は、今回参加していない。
戦いには向かないし
事務局は、必要無いと判断していた。
対する
相手となる天界の神は
全てが参加しても
その数六百柱を少し上回る程度。
文神を含めて
その数なので
実力者は限られた数しかいない。
それに対して
こちらは上位神の多くが
参加して居り
猛者と呼ばれる神は、誰も欠けては
いなかった。
軽装でも
負けるはずの無い戦いである。
少なくとも、ゼビアもそう思っていた。
空が割れ
戦争を申し込んで来た天界の神々が
姿を見せる。
それを見たゼビアが呟いた。
『抜かった!』
姿を見せたのは
自分達と全く同じ姿形をした
天界神だった。
その数一千柱。
この天界の神々と
全く同じ数である。
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パラレルゴースト。
天界で全面戦争を申し込む時
必ずと言っていいほど使われていた
古典的な戦い方である。
しかし、それは古の戦い方だ。
現在では知らない神も多い。
そして、リスクも大きい。
何故なら、
自らの天界の
かなりを犠牲にして成り立つ
捨て身の戦争方法だからだ。
造るには
莫大なエネルギーを必要とする。
犠牲者も伴うと聞く。
どれ程の民を犠牲にしたのか
想像も出来ない。
その犠牲を礎に作られるのは
戦争相手の神々のゴースト。
平行世界で
そのゴーストを作成し
先鋒として相手にぶつけると言う
戦闘スタイルだ。
よくアニメとかで
自分の影と戦い
最後は勝利する、なんて話も有るが
事はそう簡単ではない。
当然の事として
オリジナルの方が強いのだが
ゴーストとの戦いは、消耗戦である。
自分のゴーストを打ち破る事。
それは体力を極限まで消耗する事を
意味していた。
加えて
今回の戦いに参加していない
下位神のゴースト五百柱も
加わっている。
参加していない神々のゴースト。
それもまた敵として
対峙しなくてはならない。
たとい文神のゴーストであっても
神は神だ。
体力は更に消耗させられる。
戦闘の火蓋は切って落とされた。
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神々の戦争は
いたってシンプルである。
肉弾戦。
総力戦であっても
対戦形式は常に1対1。
一度に複数の神を相手にする事は
無い。
だから、武器もシンプルだ。
使える武器は一つと定められている。
多くの神々が、剣を使う。
斧、槍、棍棒、ガントレットも多い。
しかし、弓を使う物はいない。
矢の補給が出来ないからだ。
だから神々の戦いには不向きで
矢が尽きた時に
戦う術を失ってしまう。
だから手持ちの武器が
神々の戦いでは主流であった。
常に1対1で戦い
どちらかの神が
戦闘不能になるか
ギブアップした時
負けた神はその意志に関係無く
自動的に後方に下げられてしまい
再度参戦する事は出来ない。
目的は相手の神を
殺す事では無いし
神々の戦いにおいては
実は相手を殺す理由も無い。
神々の戦争とは
緊急手段であり
追い詰められた天界が
唯一自分達を救済する為の
避難的な戦いでも有る。
と言っても
殴られれば痛いし
切られれば怪我もする。
打ち所が悪ければ、死ぬ事も有る。
切られても血は流れないが
その代わりに
膨大なエネルギーが
傷口から放出されて行く。
そしてすべてのエネルギーが
放出されてしまえば
その神は死んでしまい
生き返る事は二度と無かった。
ここに神々の戦争の
ジレンマが有る。
神にも死は存在するのだ。
それを回避するには
自らの生の限界を
自らで判断しなければならない。
負けて
後方に下がられたからと言って
その戦争が終了するまでは
回復治癒の手段を行使する事は
許されない。
全ての戦闘が終了し
勝敗が決するまでは
深手を負っても、一切治療も何も出来ないのだ。
それ故に
負けの判断が遅かったり
戦闘継続の時間が長引けば
敗退して待機している間にも
死亡するリスクが出てくる。
ギブアップの判断の的確さが
時に自らの生死を分ける事も有る。
だから文系の神々は
この戦争に参加する事は
初手から無かった。
それは相手の天界にも
同じ事が言えるのだが
しかし、今回は総力戦で有る。
そして
パラレルゴーストは
相手の天界の全ての神を
コピーするので
自軍にコピーされた神が
戦争に参加していなくても
それは全く関係が無い。
その分
攻める側には数の有利が生じる。
自らの天界を
犠牲にしてまで
コピーしているのである。
完成させたゴーストは、全て自軍の戦力だ。
そこまでして
総力戦で挑んで来ているのである。
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へとへとになって
ゴーストを全て打ち破った時
天が割れ
相手の神々の本体が姿を現した。
「やっと本体がお出ましか」
誰かがそう呟いた。
ここからが本当の戦い。
しかしゴースト戦だけで
既にゼビア軍の兵力は、見る影も無かった。
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その様子を遠目で見ていた事務局長は
どう対応して良いのか
全くと言っていいほど
考えが思いつかなかった。
助っ人は誰かいないのか?
もう残りの
参加していなかった神々へは
緊急招集を掛けている。
しかし、間に合うとは思っていない。
戦力としても、不足している。
他に誰か・・・
そんな時、“シンイチ”がふっと浮かんだ。
あの者なら
この窮地を救ってくれるかも知れない。
しかし“シンイチ”は人間である。
問題は無いのか。
いや、“シンイチ”と言えど
この天界の人間である。
参加しても、何の問題も無い筈だ。
すぐに“シンイチ”に
召集を掛けなければ・・・。
全ての神々の寵愛を受けている
寵愛持ち。
その力は実は
神をも凌ぐほど絶大で有る。
でも事務局長は
その事を本人には伝えていなかった。
増長されては困るからだ。
“シンイチ”は人で有って神では無い。
神の場所で人間に大きな顔をされては
困るのである。
“シンイチは”寵愛持ちだから
向かおうと思えば、すぐに転移して
戦場にも行ける筈だ。
事務局長は
そのアイデアに飛び付き
すぐに連絡を取ろうとする。
しかし、一向に返事は返って来ない。
“ならば力尽くで呼び出さねば・・・”
そう考えた時
事務局長はハッと気が付いて
絶望を覚えた。
自らの手で、
その方法を断ち切っていたからだ。
全ての神々の寵愛を与える。
そう決まった時に
事務局長は一計を案じた。
寵愛を与えた神々は
容易に“シンイチ”を
呼び出す事が出来る。
それは酒造りには無用の機能である。
むしろ邪魔だ。
個別に酒を要求する神々も
出て来るに違いない。
事務局長は
決してその要求に応じる事の無い様にと
契約書に細工をしたのである。
ある一文を
こっそりと書き入れて置いた。
小さく、小さく。
神々にも、気付かれない様に。
その条項の効果は
事務局にも及ぶのだが
自分達は
酒さえ造って送ってくれれば良いので
基本的に、何の不都合も無い。
しかし、今回はそれが仇になった。
こちらからは“シンイチ”を
強制的に招集する術が無い。
ただ、連絡を送り続けるだけ。
問題は、それに気づいてくれるかどうかだ。
そして気付いたとしても
戦場に向かってくれる保証は
何処にも無い。
その義務も無い。
そういう契約である。
この天界戦争に負けてしまえば
その契約も反故になる可能性が
高いのだが
そんな事は当人は知らないし
全く無関係な話だ。
事務局長は自らの手で
墓穴を掘ったのである。
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戦場では
絶望的な戦いが続けられていた。
誰の目にも、劣勢は明らかだった。
次々と味方は倒され
遂には女神“モカ”までもが
深手を負う。
しかしモカは
それでも戦い続けた。
傷口からは
大量のエネルギーが流れ出ている。
今ギブアップしても
戦争が長引けば
エネルギーの流出によって
死が近い事は
どの神の目にも明らかだった。
それでもモカは
戦い続けた。
“モカ”は戦いの女神である。
意識が遠のいていても
体が戦闘を続けようとする。
意識が僅かでも残っている以上
後方に下げられる事は無い。
全ては、その者の意志に由るのだ。
むしろ意識を無くしていれば
その時点で後方に下げられ
負けになるのだが
モカは強靭な意思で、意識を保ち続けていた。
死の足音が
徐々に近づいている事を
モカ自身も判っていた。
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その頃自分は
崖の下で〇ンチ拾いの真っ最中だった。
ここに落ちている〇ンチを
全て拾ったとしても
この国のレンド病の患者を
残らず助けるなんて事は出来ない。
それは百も承知の上で
〇ンチを拾い集める。
本当はスケルトンを使って
手伝って貰う事も出来るのだが
これは人としての自分の仕事だ。
神々の力を使う事はしない。
神々とは関わりの無い仕事。
公私の私の事と
割り切っている。
要領が悪いと言われても
ここで神の力は使いたくない。
神の力を使えば
神々に義理が発生する。
負い目にもなる。
そこは人としてのケジメを
付けておかなくてはならない。
慣れれば〇ンチも丸薬である。
拾い集めては
収納に放り込んだ。




