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神様に殺された!  作者: 猫めっき
31/82

モーガン卿のジレンマ


モーガン卿はずっと悩んでいた。


あの日から一度も

“落とし子”が

この店に訪れる事は無かった。


てっきり

“カミノムラサキ”を手に

それを売りに来るものと

思っていたのだが

当てが外れた。


本来ならそれを機会に

更なる親睦を深める積もりでいたが

一向に来る気配が無い。


これはマズい。


これから神々の森に有る

薬草に付いての調査が

一気に進められると

思っていたのだが

そっちの方向に

全く向かってくれない。


国王からの報告は

随時受け取ってはいるが

どうやら自分の思惑とは

異なる方向へ向かっている様である。


いっその事

こっちから出向いて

水を向けて見ようか、とも

思うのだが

怪しまれても困るし

その手立ても見つけられない。


八方塞がりの状態だった。


そこに暗部から連絡が入る。


“落とし子”の店で

病人が出たらしい。

だが、医者でも治療する術が

見つからないらしく

そこでこちらに

お鉢が回って来たようだ。


何たる好機。


モーガン卿は待った。

“落とし子”がこの店に来るのを。


しかし

現れたのは、シュリ。

その店の店員にして、

暗部のメンバーだった。



************************************



店に駆け込んでくるシュリを見て

モーガン卿はがっかりするとともに

そのただならぬ表情に

事の重大さに気付く。


「シュリ、何が有った?」


モーガン卿とシュリとは

顔見知りで有った。

それはシュリの父親が、

暗部の元隊長だったから

その関係で、である。


「店長の二人が、レンド病を発症しました。

医者の話しでは、末期の症状との事です」


その一言に

モーガン卿は言葉を失う。


末期のレンド病。

それは即ち、死を意味していた。


由りによって、末期のレンド病とは!


風土病であるレンド病は

在る意味この国特有の病気である。

それゆえ

モーガン家でも長い間の

調査対象だったが

それでもまだ、原因が特定出来ていない。


厄介な病気だ。

出来る事は限られている。

そして、モーガン卿にとっても

それは同じである。

出来る事とは・・・


安らかな死を迎えさせる。

その為に

出来る限りの苦痛の緩和を図る。


それしか術は無かった。


それ以外で、

今の自分に出来る事を考える。

それは、可能な限り救う手段(てだて)を見つける事。

そのヒントだけでもいい。

それしか無い。


店員に処置方法を告げ

“落とし子”である

オーナーへの伝言を伝えると

シュリと共に店に向かわせた。


時間がもったいない。

一つでも救う手段が有るのかどうか?

モーガン家の資料をとにかく探さねば。


でないと

その二人が亡くなった時

“落とし子”が

どういう行動に出るのか

それは全く想像が出来ない。


一方で

もし何らかの助かる手段が

見つかれば

そこは“落とし子”である。

人では無い力を発揮し

二人を助ける事も

もしかしたら可能なのでは無いか?

新たな可能性を

見せてくれるのではないか?


そんな期待も

頭の片隅を過ぎる。


兎に角資料を調べなくてはならない。

“落とし子”が来るとすれば

事は急がなくてはならない。


モーガン卿は、書庫へと向かった。



************************************



“落とし子”が

店に飛び込んで来た時

モーガン卿は

主な資料を机の上に重ね

目を通し終わった所だった。


「シンイチ様、貴方でしたか!」


勿論、既に承知の事では有ったが

それを悟られてはいけない。

店の事は知らない前提である。


モーガン卿は、自然に振る舞って見せた。


時間を無駄に出来ない

“落とし子”は

とにかく急いで手立てを求めている。


一通りの説明を聞くと

思案顔の“落とし子”だったが

特効薬の記述が有る事に触れると

途端に表情が変わった。


「特殊な植物の様で、断崖にしか生育しない。

にもかかわらず、見つけても

根っこしかない。

だから入手出来ないと書いて有ります」


その説明に

“落とし子”は反応した。


「断崖ですか?


断崖に生える植物ですね。

見れば分かりますか?」


そう言うと

収納から大量の草々を

取り出してくる。


それを見たモーガン卿は

静かに狂喜した。

宝物の山が、目の前にある。

しかし、それを表情には

一切出さなかった。


そこは元侯爵である。

極めて自然に振る舞って見せる。


目の前にある草々を

自分の記憶を頼りに

一応仕分けて見ると

そこに僅かに希望の薬草が

混じっている事に気付く。


「それがレンド病に効く薬草です」


「これを使えば、助かるんですね?」


その問に対して

モーガン卿は

首を横に振ってみせる。


「どうしてですか。効果の有る薬草ですよね」


「確かにこの薬草で間違い有りませんが

これでは量が足りません。

一人分にもならない」


「量ですか?」


「量です。これでは少な過ぎます」


“落とし子”の考え事をしり目に

モーガン卿の目は

他の薬草に釘付けである。


欲しい。

ここに在る全ての薬草が欲しい。


モーガン卿にとっては

それが全てだった。

それ程までにモーガン家は

薬草が大好きなのである。


思案している“落とし子”は

どうやら

薬草を探しに行く積もりの様だ。

そう決心した様にも見える。


でも、モーガン卿の頭の中は

それ所では無い。

目の前にある薬草の事が

頭の中を駆け回っていた。


この薬草は何だっけ。

たしか結構希少種だった気がする。

うちの店に、有っただろうか?


欲しい。全て欲しい。

その事をどう切り出そうか

何時切り出そうか

頭の中はその事でいっぱいだった。


そしてそれは

今切り出せる話では無い。

“落とし子”の頭の中は

特効薬である薬草を如何に入手すべきか

その事ばかりで

他の事を考えている余裕など無い。


こんな時に

不謹慎な発言でもしようものなら

信頼関係すらも築けない。

一発アウトの可能性すらある。


モーガン卿は

慎重に“落とし子”の様子を見て

出方を伺った。


一度は探しに行こうと

出立を考えた“落とし子”だが

思案顔で有る。

何かを思い出した様だった。


おもむろに収納から

丸い物を取り出して見せて来る。

丸薬か?


「これを見て貰えませんか?」


それを受け取ると

手の上で転がしてみる。

やはり丸薬の様だ。


「丸薬ですか? これはどういう薬ですかな?」


そう言って計測器で計ってみる。

その表示を見た途端

モーガン卿の手が震えた。


レンド病の特効薬の丸薬。

まさかこの様な薬が

実在するとは

思っても見なかったからだ。


薬草ですら珍品で

見付ける事もままならないのに

その丸薬が既に

完成されているのである。


「まさかとは思いましたが・・・

特効薬です。

間違い無く、レンド病の・・・


この薬草の丸薬ですか。

まさかこんな薬が存在するとは」


「特効薬なのですか?」


「そう思って、出されたのでしょう?」


「あっ、いやっ、そのっ・・・」


“落とし子”が狼狽する。

何やら訳アリの丸薬の様だ。


しかし、流石は“落とし子”

まさに神の御業である。


「どれ位飲ませれば良いんでしょうか?」


「丸薬にばらつきが有りますので

正確には言えませんが、基本一粒で大丈夫でしょう。


元気になったら

念の為もう一粒飲ませれば

完治する可能性が高いと思われます」


その言葉を聞いて

すぐにその丸薬をしまうと

“落とし子”は帰宅の準備を始める。


今しか無い。

モーガン卿は言葉を絞り出した。

極めて冷静に、淡々と、そして無表情で。


「もしよろしければ、その丸薬を一粒研究用として

頂けませんか? それと・・・


今出されている薬草も、是非買い取らせて頂きたい。

お願いします」


この時のモーガン卿は

心臓バクバクである。

少しだけ声が上擦った。

こんな緊張は、過去に一度も無かった。

初めての事である。


しかし“落とし子”は

その事に気付かぬようで


「判りました。ここに有るのはすべてお任せします。

あと、どれが薬草か知りたいので

サンプルにしておいて下さい。

見かけたら、また採取しておきますので」


「それで、代金の方は・・・」


「それも後日で結構です。

今は一刻を争いますので。

馬車をお願いします」


そう言うと、大急ぎで帰って行った。



************************************



馬車の音が遠ざかって行くと

モーガン卿は

しばらく放心状態であったが

大きくガッツポーズをする。


念願の薬草が手に入ったのである。

しかも、大量に。


“落とし子”は

薬草を集めていてくれた。

ただ、売りに来なかっただけの事。

この中に“カミノムラサキ”は

含まれていない。


それはおそらく

毒草と知ったからであろう。

そんな風に推理する。


見た感じ

半分は間違い無く薬草である。


問題は残りの半分だ。

雑草も混じっている。

それは間違いない。

見覚えのある草だからだ。


問題なのはそれ以外の草である。

それらは見覚えが無い。

薬草なのか、雑草なのか

きちんと調べて見なければならない。


もしかしたら

未発見の薬草の可能性も有る。


モーガン卿は、静かな喜びに打ち震えていた。


少なくとも神々の恩恵は

自分にはもたらされている。

これで暫くは

研究生活に入りそうである。


モーガン卿は大事そうに

目の前に置かれた薬草と雑草を

誰にも触らせず

一人で研究室に運んだ。


一欠けらの草も

無駄にはしないように、と。



************************************



モーガン卿はその中に

新発見の薬草が含まれている事に

後日気付くのだが

その薬草が

国内外の王侯貴族が熱望する

重要な薬効を持つ物とは

その時はまだ

気付いてはいなかった。






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