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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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事務局の秘め事


「事務局長、上手く行きそうですか?」


局員の一人が声を掛けた。


「そう有って欲しいものだが・・・」


神酒が見つかったのは

人の時間の1年以上前に遡る。


その時事務局は、お祭り騒ぎだった。

事務局の悲願だったからである。


神々ほど厄介な存在はない。

事務局は、

その調整にいつも困らされてばかりいる。


そんな神々だが、有る一時静かな日々が有った。

前回の神酒の奉納である。


神々は遊びを知らない。

いつも自らの責務を持って

仕事をし時間を過ごすだけである。

だから、ストレスも溜まる。


そのストレス発散の場が、神々の会議だ。

そして酒。


会議と言えば聞こえは良いが、

はっきり言って飲み会である。

この飲み会が凄まじい。


ストレスの発散と共に酔った勢いで

地上界へのイタズラも多発する。

神々が酔っぱらうと、いつもそうだ。

とにかく誰もが、酒癖が悪い。

イタズラも酷くなる一方で、

当人たちに悪意は無くても

地上界はいつも混乱に陥れられてしまう。


愛の女神は、手当たり次第にくっ付けたがるし

雷の神なんて、やたらと落としまくるし

風の神は、強風を撒き散らす。

地上は大混乱。


事務局はいつも、その後始末に奔走させられる。


そこで、酒で有る。

良い酒なら、

全ての神々がゆったりとその酔いを楽しむ。

千年前の酒が、まさにそうだった。


人間界の酒は、

そのストレス発散に一役買ってはいるが

酔う為のモノで有って、美味しくは無い。


神の味覚に合わないのだ。


しかし自分達で造る事も出来ないので

神々は美味しいものを

ただひたすらに供物として

待ち続けるだけ。


でも千年前に出現したその酒は、

神々に安らぎを与えた。


まさに神酒。


でも平穏な日々は長続きしなかった。

供物としての酒が、すぐに終わったのである。


事務局は、失われて初めて

その酒の作者をとにかく探した。

そして、高齢で亡くなっていた事に気付く。


もっと早くに気付くべきであったが、

時すでに遅し、である。


天界の勘違いである。

その酒は、これから永遠に供物として

捧げられる物と

勝手に思い込んでいた。


地上界に、

その酒造りを受け継いだ者はいなかった。

当然の事だ。

その酒は人が飲める物では無かったのだから。


供物として作られた、神の為の酒。

神々がもう少し早く気付いていれば

その状況は、少しは変わったのかも知れない。

でも、そうは成らなかった。


一番気落ちしたのは、事務局である。

あの穏やかな時間が、永遠に続いてくれればと

どれ程願った事で有ろう。


それ以来、神々以上にその酒の出現を願ったのが

事務局で有り、事務局長で有った。


新たな出現に気付いたのは、1年以上前の事だ。

そして、事務局は慎重に策を練った。


その酒が造られたのは、前回と同じ地球界である。

人の世だ。


地球界で、神酒を造らせる事は難しい。

神との関わりが希薄で、

神の恩恵を感じる事の無い人々。


そんな世界で神酒を造らせる事は、可能だろうか?


答えは否である。


神酒を造るメリットを実感出来なければ、

造られる事は、ほぼ無い。


どうすれば神酒を量産させる事が可能なのか?


導き出した答えが、異世界への転生である。

異世界へ転生させて、

神酒を量産させ、供物として捧げさせる。


その為には、死んで貰わなければならない。

しかし、その権限は事務局には無く

事務局長は頭を抱えた。



****************************************



「神々に殺して頂こう!」


事務局長の一言に、事務局は凍り付く。


「その為には策を練らなくてはならない」


「どうするおつもりですか?」


事務局の一人が訪ねた。


「神々はあの酒が欲しい筈だ」


事務局長が言葉を続ける。


「一番大切なのは、神酒を造らせる事。

そして、未来永劫その酒を天界に献上させる事だ。

その為には、なんとしてもあの人間を殺し

我々の都合のイイ世界へと

転生させねばならない。

その為に、神々を誘導し、殺して頂く」


「でも、神々は手を下せない筈」


「手は下せなくても、そうなる様に仕向ければイイ」


「どうやって?」


「例えば事故死。何でもいいはず。

切っ掛けが有れば、人は事故死する」


「事故死ですか?」


「事故死なら、誰も責任を問われない」


「それはその人間にとって、余りに理不尽な死では?」


「それは転生してからのフォローを

手厚くしてやればいいだろう。

我々の今後を考えてみたまえ。

どれ程今後の調停が楽になるのか。

少し考えれば、判る事だろう?」


「それはそうですが」


「我々は事務局だ、

円滑に事を運ばせる事だけを考えればイイ」


「でも、本人が異世界への転生を

望まなかったらどうしますか?」


「そこを見極めなければならない。

転生しても惜しくは無いと思う時期を、

見極めなければならない。

時間を掛けて、

本人が今の世界に絶望した時を待つ。

そうすれば、

現世に戻る事を望まないに違いない。

慎重に時を待つのだ。

そしてその時期が来たら

速やかに実行しなければならない。

判るか?」


一年の歳月を待ったのには、事務局の目論見が有った為である。



************************************************



「判りました、転生を受け入れます」


その言葉に、事務局長は安どしたが、表情には出さなかった。


「でも、条件が有ります」


「条件とは?」


「希望される量の神酒の、完成の目途が立つまで

必ずサポートを付けて下さい」


「それは当然の事だ」


「そして、ここからが本題ですが・・・」


一呼吸入れて


「契約した量以外の神酒の所有権は、

全て私が持ちます」


「はっ?」


「その事を効力の有る契約にして頂きたい!」


事務局長には、想定外の言葉だった。

自分は真顔で


「保険ですよ」


一度言葉を切ると


「無制限に依頼されても、

出来る事と出来ない事が有りますから」


「それはこちらで調整すると言いましたよね」


事務局長が、語気を荒げる。


「その言葉を鵜呑みにするほど、

人が出来ていませんので」


笑顔で答えた。

言いたい言葉がすらすらと出て来る。


「管理下に置かれると言う事は、

行動制限を受ける事と理解しています。

でも、それは自由である事とは真逆です。

決して自由では無い。むしろ不自由!」


相手の顔色を窺いながら


「必要量の神酒が、一番大切でしょう? 

それは完成までサポート頂ければ

間違いなく出来るでしょう。でもその先は・・・?」


何か言いたそうな表情を制して


「事務局からもまた、

更に何かを望まれるのかも知れない。

管理下に置かれると言う事は、

そういう事だと理解しています。

言葉はどの様にも解釈出来ますので。

だからこそ、きちんと制限を設けたい。

その為の契約です」


事務局の欲しいのは、神酒のはずだ。

それが一番の望みとするならば、

答えは自ずと出て来る。


「神酒を望まれるのであれば、

それは間違いなく確約します。

それ以上の物を望まれるので有れば、

そこからは交渉して下さい。

御相談には、いくらでも乗りますし、

対応も致しましょう。

でも、こちらも未来へ進みたいんです。


神々の加護を与えると

おっしゃって下さいましたが

それには神々の承諾も必要でしょう。

否定されるかも知れませんし

無理難題を押し付けられるかも知れません。

神々の考える事なんて、私には判りませんから。


だから、

許容出来る最低限の条件を呑む事しか、

自分には出来かねます。

それ以上の事は、決して期待しないで下さい。

望まれても応えられる自信は有りませんから」


事務局長の顔色が悪い。

どうやら図星の様だ。


「こちらから何かをお願いしたい時

御礼が必要だとは思われませんか?

無条件に応じて頂けるのでしょうか?

それはこちらの身勝手ですよね。

相手方に何のメリットも無い。

それでは困るんです。

最も、

こちらから今後何かをお願いする事が

そうそう有るとも思えませんが」


実はそれは嘘だ。

必ず何らかの必要が生じると思っている。

その為の交渉材料は

一つでも多い方がいい。

交渉する材料は、

実はもう一つ当てが有る。

でも、それは秘中の秘である。

切り札は

その時まで見せないのが鉄則だ。


「もしそれが難しければ、

現世への転生を希望します」


それも嘘だ。ブラフである。

でも、今の自分には、それしか切り札が無い。

有るのは神酒を造れるという事実だけ。

だとしたら、それを最大限利用しない手は無い。


暫く考え込んでいた事務局長で有ったが、やがて


「その条件を呑みましょう。ただし・・・」


言葉を切ると


「神々の会議で、承認を得る必要が有ります。

承認が得られなければ・・・」


「得られなければ?」


「現世への転生となります!」


「判りました。それで結構です」


「細かな詰めは、事務局員と・・・」


どちらになるのか判らないが、とにかく転生は決まった。

後は、神々の判断次第である。





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