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神様に殺された!  作者: 猫めっき
25/82

シュリ


「私も行くんですか?」


「王命だ、全員参加で行く」


暗部のメンバーが

全て集められ

隊長から出た一言は

意外な物であった。


ある飲食店の店員募集に

全員で参加するという。

今までに聞いた事の無い

ミッションだ。


そもそもシュリは

暗部のメンバーで有っても

裏方である。


実力でこの部隊に入った訳では無い。

いわゆるコネだ。


父親が暗部の元隊長だった。

心配だから身近に置きたいと

そのコネで強引に

入隊させられたのである。


シュリのスキルは料理。

特に御菓子作りが大好き。


でも父親の見方は違う。


暗部としてのスキルは

絶対に有る。

身に付ける事が

可能な筈だ。


何故なら、自分の娘なんだから。


この考え方が前提である。


その父親の期待に応えるべく

シュリも暗部の特訓に耐えた。

しかし、それとても限度は有る。

格闘技術は下の下。


本来なら失格だ。


しかし組織としては

暗部から外す事も

父親の手前出来なかった。


結果、部隊の裏方での仕事が

唯一任せられる任務

だったので有る。


しかし今回は違う。


従業員募集の参加は

王命だ。


一人でも雇われれば

それは王国の未来を

確実なモノに出来るかもしれない

情報を手に入れられる

最も効果的な手段である。


スパイとしての潜入。


その目と耳で

確実に情報を得る為の可能性が

目の前に示されている。

店員と言う

安全で確実な手段。


しかしこれは

国王としては

暗部にしか頼めない事案でも有った。


秘密を守れる者にしか

このミッションは頼めない。


“落とし子”の存在は

機密事項だからである。

軽々に臣下に教える事は

出来ない。


どこから情報が洩れるか

判らないからだ。


かくしてミッションは

暗部の全員参加で

面接を受ける事に成る。


しかしその願いは

募集要項の発表で

脆くも崩れ去った。


女性のみ。


これが伝えられると

暗部の殆どは

門前払いである。

口々に不満を述べたが

面接官の二人の意志は固かった。


残るメンバーは数人だったが

次々に落とされて行く。

あらかた面接が終わった頃に

暗部は撤収した。


ミッションは失敗!

暗部はそう思っていた。


その時、シュリの事は

完全にメンバーから

忘れられていたのである。



****************************



「お料理は、何が作れますか?」


「材料を見て、いつも決めています」


「そうですか。じゃあ、決定です」


アヤメのその一言で

シュリの採用が決まった。

シュリはキョトンとしている。

そんなに簡単に

まさか自分が採用されるとは

思っても見なかったからだ。


「いつから来れますか?」


「ええと、明日からなら・・・」


不安そうに、シュリは答える。

そこまでの話しは、暗部から聞いていない。

本来なら、助言を求めたいのだが

見渡すと暗部は誰もいない。


「じゃあ、そういう事で御願いします。

それと、住まいはどうされますか?

ここに住む事も出来ますけど?」


「自宅が近いので、通いたいと思います」


唯一自分で決めた事が、それだった。

シュリは箱入り娘である。

一人暮らしなんて、考えた事も無かった。


学生の頃も、家族の反対で

寮には入れて貰えず

通いである。


店長であるアヤメが

シュリを厨房やバックヤードへと案内する。


そこには

シュリがかつて

一度も経験した事の無い厨房が

広がっていた。



************************************



「何の事かさっぱりわからん」


シュリのレポートに

国王は目を通すと

天を見上げる。


見た事の無い厨房。

見た事の無い炎。

温度を一定に保てるオーブン。

いつでも入れるお風呂。

夢の様な世界です。


毎日クッキーが作れます。


誰がこんなレポートを

寄越せと言った。

欲しいのは、具体的な内容だ。


しかし、シュリを呼び出すのは

今は出来ない。

休日に呼び出さねば。


“落とし子”に

気付かれでもしたら

元も子もない。


国王は待った。

シュリが休日になる日を。


そしてそれは

とてつもなく長い時間に感じられた。



************************************



休日にも関わらず

国王に呼び出されたシュリは

少しおかんむりだ。


この一週間は

慣れない調理と接客で

大忙し。


気の休まる日は無かった。


そこに来て

初めての休日である。

しかも二日間。


ゆっくりと休める。

ゆっくり眠れる。


そう思った矢先の

国王からの呼び出しである。

レポートは

眠い目を擦りながら

毎日出している。


何で呼び出されているのか

皆目見当が付かない。


「シュリよ、

そなたのレポートでは

何を言っているのか、全く分からない。

そこを詳しく説明せよ」


国王のその一言で

シュリは理解した。

確かに自分でも、

あの調理場は言葉で説明するのは

難しい。


「判りました。

それでは紙とペンと、あと調理場担当の人を

呼んでいただけますか?」


紙とペンが来た段階で

シュリは調理場を絵にし始める。

 

その方が早いと感じたからだ。

国王を前に、テーブルの上で

紙とペンを使って

シュリは図解を始める。


「調理場は、こんな構造に成っています。

一番凄かったのは、火炎石の使い方です」


絵でボックスを書き始める。

オーナーが作らせていた

石で蓋付きの、レンガの大きさの耐熱箱だ。


「こんな石製のボックスの中に

火炎石を入れ、火を付けます。

これがこの店には、幾つも有ります」


それに調理場の担当者が喰い付いた。


「それは一体何なんだ」


「ユニットコンロと、店では呼ばれています。

火炎石は、炎の調整が難しいらしいのですが

このユニットコンロを使うと

かまどや焼き場の下に入れて、

簡単に位置の調整が出来るそうです。


つまり、火力の調整がし易い。


実際に使って見ると、ホントにそうでした」


料理長も、その言葉に驚いている。

火炎石は、かまどの下に直接投入する物だと

信じられていた。

そこに新しい使い方が出現したのである。


「このユニットコンロは、

風呂を沸かす時にも便利だそうです。

普通火炎石で沸かすと、熱湯になってしまいますが

これを使うと、簡単に熱さが調整出来る。


ある程度の温度に成ったら、

ユニットを外して弱火に出来る。


一日中、大体同じ温度でお湯を保てるそうです。


私もよく、仕事終わりに入ったりします。


ホントに、便利ですよ。それと・・・」


「まだ何か有るのか?」


調理長が口を挟んだ。

シュリはニッコリ笑うと


「蓋が付いているじゃないですか。

火炎石は、蓋をすると休眠するそうです」


「休眠? それは一体何だ?」


初めて聞く言葉である。

火炎石が休眠する。

そんな話は、聞いた事が無い。


「炎の付いたユニットコンロに

蓋をすると、

その中の火炎石は、炎を休ませる事が

出来るそうです」


「炎を休ませる、と?」


「ホントに休んでるみたいです。

だから火炎石は、この店では

二週間ずっと使えるそうです。


凄いでしょう! 二倍ですよ、二倍!


普通は一週間しか使えないんですから」


その言葉に

調理場の者達は驚く。


石の箱に入れて使う。

それだけでも驚きなのだが

蓋をすると

その間は火炎石が休んでくれる。

それだけで使用期間が二倍に伸びる。


その様子を見た国王が

調理長に問うた。


「それは凄い事なのか?

調理長、どうなのだ?」


調理長は、首を横に振ると


「我々には、

とても及びもつかない考え方です。

簡単で安全。

もはや革命のレベルかと」


「それ程なのか?」


「すぐに試してみたいと思います」


調理長は、ずっと思案のしっ放しで有る。

新しいかまど。新しい焼き場。

それを支える、火炎石のユニットコンロ。


火炎石は、炎の調整は長い間

難しいとされて来た難物である。


それが全く新しい方法によって

道が開けたのだ。


炎の調整。


調理人にとって

この厄介事が簡単に行えるので有れば

調理の幅がもっと広がる。


時間が有効に使える。

こんなに嬉しい話しが

聞けるとは思っても見なかった事だ。


「それと、魔石の事なんですが・・・」


その言葉に国王が慌てた。


「シュリ、待て!」


その言葉に、シュリが逆にびくっとする。


「そこから先は、人払いが終わってからだ」


国王はそう言うと

その場にいた殆んどの者を

持ち場へと帰らせる。


そこから先は、極秘事項だ。

残ったのは、国王と王妃の二人だけである。



************************************



「もう良いぞ、話を続けろ」


国王のその言動に

シュリは事の重大さに気付く。

ここから先の話しは

機密事項に違いない、と。


「魔石を店長から

持たされているんですけど、

そうすると

魔法が使えるように成るそうです」


「魔法が使える、と? それはどういう事だ?」


「店長のカンナさんもアヤメさんも

魔法は使えなかったそうですが

魔石に魔力を吸わせると

それを使って、魔法が使えるようになったと

言っていました」


「シュリよ、

そなたも魔石を持たされていると言ったな!

そなたは元々魔法が使えたのか?

それとも使えなかったのか?」


シュリはその言葉が可笑しかったのか

少しだけ笑って


「使えませんよ!」


国王にタメ語を使ってしまい

しまった、と思ったシュリだったのだが

時既に遅しである。


「スミマセン」


と、恐縮するばかり。

国王は笑いながら


「許す。続けろ」


「私は魔法が使えません。

でも魔力が有るなら大丈夫と

店長から言われました」


「今その魔石を持っているのか?

その魔石を見せてくれ?」


「いいですよ」


シュリはそう言うと

ポケットに入れた魔石を取り出す。


それはホントに小さな魔石だが

その質は高そうである。


「店長からこの魔石を

持たされました。

こんな石が、この店では幾つも準備されていました」


「こんな小さな魔石を、どうするのだ?」


「魔力を貯めるんだそうです」


「魔力を貯める?」


「魔石は魔力が入ると、色が変わるじゃないですか。

それは魔力が貯まった合図だそうです。

そうやって、

どんどん色の変わった魔石を作って行く」


「それをどう使う?」


「店長が見せてくれたんですけど、

片方の手に魔石を幾つも握って・・・」


「握って・・・」


「もう片方の手にタクトを握って・・・」


「そうすると、どうなると言うのだ?」


「魔石から魔力が腕を伝わって

反対側のタクトに流れて・・・」


「魔石から魔力が流れる、と?」


「そのタクトの先を、魔光石に触れさせると

魔光石に魔力が流れて行くんです。

魔光石が光りました」


「つまり、こういう事か?

小さな魔石に魔力を貯えて、それらを握って

今度は魔光石に流して行った、と」


「その通りです」


国王は驚愕した。

魔石に魔力を貯める。


そんな発想は、この国には全く無かった。


魔石は道具である。

使う目的によって、その性質を変化させる。

そういう物だと信じられていた。


魔光石がいい例である。

灯りとしての魔石。


他にも魔風石とか、魔炎石とかは有るが

その用途は限られていた。

小さい風とか、小さい炎とか

起こしても一時のもの。

長くは続かないのだ。


そこには大量の魔力が必要だからである。


大量の魔力を持つ者。

そういう者が、魔石を使いこなせる。

誰もがそう思っていた。


しかし

魔法の使えない魔力持ちが

魔法を使える様になる。


この出来事は大きい。


早速試してみるより他は有るまい。


国王と王妃は

先ず自分達で試す事とした。







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