沈思黙考
さて、これからどうするかだが・・・!
店の者には
一週間旅に出て来るからと
アヤメに何か問題が起こった時の為にと
数枚の金貨を渡して
ゲートで森の自宅へと帰って来る。
一人でじっくりと
考える為だ。
転生してからというもの
とにかく走り続けた。
走り続けた、というよりは
むしろ走らされたと言う方が
正しい。
神殿と酒造所を作り
酒を完成させ
神殿から天界へと送り出す。
金を得る為に
森の中を散策し
金目の物を拾い集め
街に行って薬草を売り
その金で店を買い
人を雇って開店まで漕ぎ着け
店もオープンさせた。
それなりに軌道に乗ったと思う。
そこで、今後の方針を考える。
それには
神々の森にある自宅の方が
便利だった。
誰もいないから
考え事をするのに最適である。
邪魔も一切入らない。
ついでに
神々の森に行って
さらなるお宝らしい物を
もっと集めなければならない。
その為には
一週間と言う時間が
どうしても必要だった。
自宅へ着くと
少し異変に気付く。
自宅周りに生えていた
“カミノムラサキ”が
枯れかけているのである。
雨が降らなかったのかなあ、と
思って見るのだが
周りの草々は元気である。
まあ、自分ではどうしようもない。
勝手に生えて来たのだからと
そのまま部屋に入って
ベッドに横になる。
先ず考えなければならないのは
酒造り。
必要量を毎年作る事は
クリア出来る筈だ。
それはアンデッドが頑張ってくれている。
米麹も順調に量産出来ている。
米は必要量は
事務局が確保してくれる筈だ。
今のところ、問題は無い・・・が
それを信じるほど
自分は御人好しでは無い。
何時かは裏切られるだろう。
そう思っている。
これは転生時から考えていた事だ。
事務局の目論見は
自分に一生酒造りをさせる。
そうであったに違いない。
そこは契約と
神々の後押しで
何とか乗り切った。
ここまでは順調である。
予想外だったのは
想定外の御加護、寵愛を
全ての神から貰ってしまった事。
他の人から見れば
羨ましい程の御加護である。
でも、そうとは言い切れないと
自分では解っていた。
大き過ぎるのだ。
良くも悪くも
目立ってしまう程巨大な力。
自分を危険に晒してしまうに違いない。
この力を利用したいと思う人間は
どれだけいるだろうか?
上手く使えば
国王にだってなれるかも知れない。
自分が望めば
自分が王になることも可能だと
事務局長も言っていた。
それは正しいだろう。
でもそれを、自分は望まない。
上に立つ者は
それなりの制約も受けるのだ。
そこに自由は無い。
自分はそう思っている。
自由に生きるには
どうすればよいのか。
その為には、目立たぬように
生きて行くしかない。
ひっそりと、こっそりと
目立たぬように
それでいて快適に生きる。
その為にも、実は契約を結んだのだ。
何時かは裏切られるだろう。
それが神か事務局なのかは
判らない。
でもこちらが
何か気に入らない事をすれば
バッサリと切られる可能性は有る。
その時の為に、備えなければならない。
そうならない為に。
天界に献上する酒の量を
前もって決めたのは
余剰分を天界との交渉材料に
する為である。
これが最初の保険。
無理難題を押し付けられた時
それを断り
何かを神々にお願いする時
その対価として
余剰分が役に立つ。
御礼とお断りの為の道具。
言わばお守りみたいな物である。
神水を見つけ、貧乏豆を見つけた時
新たなアドバンテージを
見付けたと思った。
神酒の質を上げる事が出来る。
酒は水で決まる。
“神威”と“神水”の組み合わせは
今の神酒を凌駕するに違いない。
そしてそれは
今の神酒が飽きられ始めた時
必ず使える武器となるのだ。
そして貧乏豆。
先ず煎り豆にして
酒のつまみにする。
まあ、ナッツの感覚である。
酒との最強の組み合わせ。
飽きる事の無い、永遠のループ。
美味い酒にナッツ。
これに敵う物などあるまい。
これだけでも
神様対策と事務局対策は
出来たと確信している。
問題はこの先だ。
手札は多い方がいい。
その為には
新たな食材調達との名目で
神好みの食材を見つけ
手に入れる事。
新たな好物を開拓する。
そうすれば
自分に味方してくれる神も
増えるのではないか。
ここまでが、神サマ対策だ。
もう一方は地上対策である。
最悪の場合を想定して
何の加護も無くなった時
その時の為に
自分の生活基盤を確立する。
その為には
何によって糧を手にするか
考えなければならない。
神々の森で
色んな物を拾い集めてはいるが
それが全て
金になるとは限らない。
“カミノムラサキ”で
思わぬ大金を手にしてはいるが
それは偶然である。
毒薬である。
それが今後もずっと
金になるとは限らない。
幸い、今は思いがけず大金が残っている。
この金を基に
次の手を考えなければならない。
飲食店の経営は
目的は異なったが
どうやら軌道に乗りそうな
勢いである。
これは更なる店舗展開も
考えても良いかも知れない。
他には無いのか?
そう考えた時
魔石の事が頭に浮かんだ。
この石の使い方は
この程度の物だろうか?
何かもっと
使い道が有るのではないか?
研究者としての好奇心が
疼き始める。
この世界は、魔法が使える。
魔石も有る。
でもこの使い方は歪だ。
何の脈絡も無い。
二つが繋がっていない。
ここを研究すれば
魔法も魔石も
もっと身近になるのではないか。
その為には
魔石の使い方を研究しなければ。
そうすれば
新たな基盤に成るかも知れない。
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方向性は決まった。
でも本人はまだ気づいてはいない。
本人が気付かれない様に
生活しているつもりでも
もう既に
周りに注視される存在に
成っている事を。
そしてその周りも
本人に気付かれない様に
行動している事を。




