再会と拠点探し
新しい拠点に付いて考えながら
歩き回っていると
ベンチに座っている
見覚えのある服を着た
二人組がいた。
顔は覚えていないのだが!
その服は
確かに記憶に有った。
でも結構埃で
薄汚れている。
あの時は綺麗だったのに。
その二人が
こちらに気が付いて
走って来る。
目は救いを求めている。
ああ、やっぱり
あの生贄の子達だ。
でも一人足りない。
確か三人だったよな。
「二人なの?もう一人の子は?」
「何処か他所へ行くって、一人で行っちゃいました」
「君達は、帰らなかったの?」
「家の迷惑になるから。
村の目も有りますし。
だったら街で
仕事を見つけられないかと思って」
「来てみたけれど、無くって」
まあ、そんな所だろう。
仕事が有れば、とっくに村から出して
街に向かわせている筈だから
街を歩いていると
どうしてもこの街に
覇気が無い事を
感じて仕方が無かった。
何か問題が有るに違いない。
そう思っていたが
それが何か、見つけられずにいる。
「仕事、全くダメか?」
「話しすら聞いて貰えません」
「求人所にも行ったけど
仕事待ちでいっぱいでした。
よそものが入る余裕すら無くって」
この街の雰囲気は
過疎地の商店街。
ホントに、シャッター通りの感覚だ。
困ったもんだと思う。
どういう拠点にしていいのか
皆目見当が付かない。
そんな事を考えたら
突然声を掛けられた。
「お客様。探しましたよ」
声を掛けてきた人物に
心当たりが無い。
不思議そうに顔を見ると
「お忘れかも知れませんが
モーガン商会の者です。
薬屋の」
その一言で思い出した。
薬屋の店員である。
「ああ、あの店の?」
「ここでお見掛け出来て幸運でした。
店主からお見かけする事があったら
是非もう一度お連れするようにと
言われております」
「どうしたんですか?」
「先日の薬の残金をお渡しするようにと
言いつかって居ります。
薬効が確認出来たとの事で
先日の金額では安すぎたと言って居りました。
残りのお金は、既にお店で
準備させて頂いております。
もしお時間さえ宜しければ、今から如何ですか?
幸い馬車も有りますので」
その一言に驚く。
イイ人って、ホントにいるらしい。
宝くじに当たった気分。
「判りました。大丈夫です」
店員に促されて馬車に乗り込む。
あれっ、何か忘れてる。
馬車に乗ってから
二人と話していた事に気付くが
時既に遅し。
まあ、いいか。
人生初めての
馬車での移動となった。
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店の前で馬車を降りると
そのまま店内に入る。
店主がいるものと思ったが
どうやら留守らしい。
椅子を勧められると
そこに座った。
店員は
「生憎と店主は所用で
出かけているようです」
奥から金貨の袋を持って来ると
「こちらが残金となります。
御確認下さい」
差し出された袋を持ってみると
前回と同じ大きさ、同じ重みである。
倍の金額でも
惜しくは無い薬草らしい。
そんな薬草なのかって思ったら
「それと、店主からの伝言ですが
あの薬草は使い道を誤ると
かなり危険な薬草との事です。
名称は“カミノムラサキ”
人には猛毒だが
神には薬だと言い伝えられている
薬草との事でした」
「毒草ですか?」
その言葉に、少し驚く。
普通に薬効の高い薬草だと
思っていたが
どうもそうでは無いらしい。
「知らない者の方が多いそうです」
「どうしてそんな薬を
買い取って頂けたのでしょうか?
毒草ですよね・・・」
店員は笑いながら
「一つは、変な店が買い取ると
間違った処方で、人が死ぬかも知れないから。
そしてもう一つは・・・」
「もう一つは?」
「自分なら万能薬として
用いる事が出来るだろうと、言って居りました。
実際、本当に人を救えたそうです」
「そうですか。それは良かった」
それを聞いて、少し安堵する。
下手には売ったら、ダメな薬草らしい。
どうやらここに売って
正解の様だ。
「ですからこのお金は正当な報酬として
お納めください。
その効果に見合う金額だそうです」
「だったら遠慮無く頂いておきます」
そう言って、有難く頂戴する。
「そう言えば
お名前を伺って居りませんでしたが。
何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
そう言えばすっかり失念していた。
自己紹介なんて、考えても見なかった。
「シンイチです」
勢いでそう答えた瞬間
しまったと思う。
本当の自分の名前だからだ。
この名前は
神々が知っている。
サブネームを考えておくべきだったが
失敗した。
「それではシンイチさま。
本日は有難うございました。
もしお売りになりたい薬草が御座いましたら
遠慮なくお持ちください。
当店はきちんと査定いたします。
安心安全、秘密厳守を旨として居ります。
判らない薬草でも、それらしい物でも
御遠慮無くお持ち下さい。
雑草と思えても、高価な物も御座います。
もしかしたらと思われましたら
どんどんお持ちになって結構です」
店員は、定型文を読み上げるように
口上を述べた。
「本日は有難う御座いました」
店員は深々と頭を下げた。
それだけでも信用してしまう。
「馬車で送らせて頂きますが
どうなさいますか?
行きたい所はおありでしょうか?
目的地に送らせますが?」
「ではさっきの場所へ送って頂けますか?」
「承知いたしました」
店員は出口へと案内すると
既に外には馬車が用意されている。
何から何まで、行き届いたお店だ。
乗り込むと店員はまた
深々と頭を下げた。
やっぱりいい店だ。
心底そう思う。
その一方で
店員が中の者に目配せした事に
自分は気付かずにいた。
自分の周りで
世界が大きく動こうとしているが
それが現実となるのは
まだまだ先の事である。
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声を掛けられた場所に
戻って見ると
そこにはあの二人が
まだ座ったままである。
すっかり忘れていた。
会話の途中で、悪い事をした。
さて、どうしたものか。
このまま無視するのも気が引ける。
再び二人の前に立つと
「飯でも食いに行くか?」
そう声を掛ける。
二人はこちらを向くと
顔を見合わせて
「お金無いですから」
予想通りの答え。
「奢るから」
その言葉に
急に明るい表情になると
「あっちに安い店が有ります」
そう返事をして
手を引っ張って行こうとする。
やっぱり、腹が減っているらしい。
たぶん色々探して
安い店を見つけていたのだろう。
案内されたその店は
その安さもあってか
結構繁盛していた。
見慣れない食べ物も
沢山有る。
値段か? ここは値段なのか?
味はどうなのよ。
雑穀もそれなりに調理して
出しているようだ。
二人に好きな物を注文させると
質よりボリュームと
量の有るメニューを注文しては
二人でシェアして
それなりに食事を楽しもうと
していた。
二人の名前は
人族のアヤメと獣人族のカンナ。
過疎の農村の出身らしい。
アヤメは料理が、カンナは人付き合いが
得意と言う。
食いながらも、それなりに返事をする。
料理はともかく、人付き合いって何だ?
そんなの特技か?
そんな事を思っていると
雑穀料理も
テーブルに並んだ。
それを見た途端
おっと思った。
ほんの僅かだが
オーラを感じる穀物が有る。
自分だけが感じる感覚。
その豆を摘まみ上げると
「この豆を知ってるか?」
「ビンボウ豆だよ。
そのままだと美味しくないけど
こんな風に他の穀物にまぜれば
カサマシに使える豆」
市場に行こう。
きっと見つかる筈だ。
神々が美味しいと思う食材。
買い占めなくてはならない。
少し嬉しくなる。
神々との交渉に使えるモノが
まだまだこの世界には有りそうだ。
その為には
どうすればイイ?
市場で大量に買っても
疑われない仕事。
産地を聞いても
何の問題も無い仕事。
自ら買い付けに行っても
不審がられない仕事。
飲食店経営!
答えは出た。
飲食店を経営しよう。
神々に気付かれない様に
その日の為に準備しよう。
でも自分一人では無理か。
出来そうにない。
絶対に気付かれてしまう。
そう考えていたら
目の前に
仕事も住まいも無い者がいる。
こいつら使えそうか?
使えなくてもまあイイ。
こっちは必要なものが
手に入れば
それだけで十分だ。
飯と寝る所があれば
それなりに仕事をしてくれるだろう。
少しニタニタしてしまう。
「君達は、どんな仕事でも
する気は有るの?」
「それは勿論。
食べて寝る所が有れば」
「だったら、オレの仕事を手伝ってみる?」
「どんな仕事ですか? 何だってしますよ。
力仕事でも何でも」
「夜のオシゴトでも?」
それを聞いた途端、二人は嫌な顔になった。
「夜の力仕事になると思うけど!」
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「ではこの店舗で御願い致します。
名義はこの二人で」
「ホントにいいんですか?
人がほとんど来ない場所ですけど」
「結構です。この店舗で御願いします」
その会話に
二人は呆然として見つめている。
街の外れ。
人の全く通らない道の横に
その店舗は有る。
一階は飲食店。
二階は宿泊施設に成っているが
ボロボロである。
最悪なのが、日光が全く当たらない事だ。
常に日陰。
絶対にこんなとこに客は来ない!
ここで飲食店をする気?
二人は
困惑の表情を見せている。
でもオレには勝算が有った。
多分損する事は無いと思っている。
居抜き物件。
これに勝る格安物件は無い。
勿論全部一括買い取りだ。
飲食店の為の道具は
全て揃っている。
風呂も有る。
何より必要だと思っていた
井戸が裏に有る。
これが最大の魅力だった。
水がいくらでも手に入る。
一番欲しい物が付いている。
一階の飲食店は
経営を二人に丸投げ予定。
それなりの料理を出せれば
それと酒とで客は来るだろう。
儲からなくても構わない。
自分の目的は
食材の買い付けを
不審に思われない事。
これが全て。
それ以外は
おいおい考えよう。
契約が終わって
無事にこの建物を
名目上二人の物にすると
一階に近い二階の部屋を
二人に割り当て
そのまま休ませた。
それを見届けて
外に出ると
誰も見ていない場所で
ゲートを使って転移した。
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翌日朝一番で
市場に向かうと
食材を買い付ける。
分量は取り敢えず
三人前で二日分を買い込んだ。
早速店舗へ向かうと
アヤメに朝食を作らせてみる。
マズくは無い。
料理の腕は、まあまあだ。
それなりに客には出せそう。
カンナには接客をさせるので
金額計算をさせてみるが
どうやらそれは
得意ではないらしい。
一皿、一品ワンコインで
設定すれば
何とか成るだろうか。
これは習うより慣れろだ。
金庫やお釣りの準備もしなければ。
テーブルやイスは有る。
食器も足りている。
調理台も問題は無い。
何より水は使いたい放題。
井戸はすぐ裏だから、何よりも便利だ。
清潔さも保てる。
かまども焼き場も
薪を使っているが
ここは魔改造の予定。
お風呂も薪だから、当然魔改造。
建物自体も
大々的に魔改造する心算。
この調子だと
開店日は一週間後で何とか成るかな。
その間に二人には
国への諸々の手続きをやって貰おう。
一応、二人のお店だし。
あとは、市場から定期的に
食材とかを届けてもらうように
手配しなければ。
残るは
如何に快適な店作りをするかだが
もう頭の中には
設計図は出来上がっている。
自分に都合のイイ改造をしなければ。
昔に近い生活が出来る様に。
むふふと、少し笑ってしまった。