表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様に殺された!  作者: 猫めっき
11/82

モーガン卿の深慮遠謀


城を出たモーガン卿は

馬車の中で思う。


あの青年は何者なのか?


“カミノムラサキ”

これを手に入れられる人物。

おそらく

持っているのはこれだけでは無いだろう。

なぜならモーガン卿には

入手場所に心当たりが

有るからだ。


神々の森。


“カミノムラサキ”は

ここにしか生育していないのだろうと

モーガン卿は考えていた。


長年研究しているが

他の場所で生育している話は

一切聞こえて来ない。

噂の欠片も無い。


人の住まう地で

見つかった話を

耳にしたことが一度も無かった。


まだ人の見ていない場所。

そこで育っているに違いない。

それは神々の森しか

思い当たらなかった。


最近その神々の森で

何やら異変が有ったと聞く。


光が立ち昇ったとか

魔獣達が騒めいた、とか。


だとしたらあの青年が

神々の森に出入りした事が

原因ではないのか。

魔獣、神獣が遊ぶ領域。

人が立入る事の出来ない領域。


そこに自由に入れる立場。


彼は何者なのか?


先ずそこから確認しなければ

ならない。


店に帰ると

すぐさま店員に声を掛ける。


「報告を!」


「あの青年は、この店を出た後

市場へと向かい、何軒かで魔石を購入。

その後、総菜を購入して居ります」


「魔石の種類は判るか?」


「魔光石を購入していました。

夜光石と火炎石にも関心を示しました」


「他には」


「魔水石の事に興味を持ったようです」


「その後の足取りは?」


「それが・・・

人通りの無い路地に入ったかと思ったら

姿を見失ってしまいました。

申し訳有りません」


「姿が見えなくなったか」


「方々探しましたが、見つけられませんでした」


転位魔法だろう。

だとしたら、転移ゲートに違いない。

それ程の力を持っているのか?

行先は神々の森か?


「王都の地図を」


王都の地図を店員が出してくると


「足取りを書き込んでくれ。

購入した店とか、購入した物も書き込むように」


店員が詳しく書き込むと

それを見たモーガン卿は

納得したように

その地図を指差しながら・・・。


「青年の顔を見たのは

お前たち二人だったな。

これから指示する通りに動くように」


そう言って

モーガン卿は地図を指し示すと

二人に細かく説明して行く。


二人の店員は

その言葉を間違えない様に

何度もモーガン卿に確認していた。



************************************



モーガン卿は

ソファーで休みながら

考えを巡らす。


時間が惜しい。

この件は急がなくてはならない。


どういう手順を組めば

相手に悟られずに

情報を集める事が出来るか?


自分だけの力では足るまい。

誰かに助力を求めなければなるまい。


ゆっくりと計略を巡らせ

眠りの途に就いた。



************************************



次の日の朝一番に

様子伺いと称して

城へ向かう。


昨日の今日だが

まあ問題は有るまい。


そう思って

最初に向かったのは

昨日病人が寝ていた部屋。


王母の寝室だった。


勝手にずかずかと入って行くと

王母はすでに起きていて

くつろいでいる。


モーガン卿の顔を見るなり

嬉しそうに


「モーガン」


と声を掛けた。


「王妃様、良かった。もう大丈夫そうですね」


モーガンにとっては

今でも王母様は王妃様だ。

小さい頃からそう呼んでいた。

それは王母様になっても変えられない。

永遠に王妃様は王妃様である。


「モーガン、ありがとう。

今回は本当にお世話に成った様ね。

また生き延びてしまったわ」


「私の目の黒い内は、死なせませんよ。

死んでもらっては困ります。

いつまでも見守って頂かねば」


モーガンの実の母は

若くして亡くなっていた。

そのモーガンを我が子の様に

可愛がってくれたのが

王母様である。


それ程までに

王家とモーガン家の繋がりは深い。


「それは困ったわね」


笑いながら答える。

そこへ先王と現王、王妃が部屋に入って来る。

モーガンを見るなり先王が抱き付いてくる。


「モーガン、本当に世話になった」


「有難う御座います。国王陛下」


この部屋の中では

まだ先王と先王妃が

国王、王妃であり

今の王は王子扱いだ。


でも

その事を誰も問題には

していない。


感覚は子供の頃のままである。


「回復された様で何よりです。

まだ全快には時間が掛かりますので

とにかくゆっくりと、御静養下さい。

無理は絶対にダメですよ」


「わかったわ、モーガン。

他の人ならともかく、

あなたの頼みには逆らえないもの」


笑いながら答える。

ひとしきり笑い声が響いた後


「それでは少し席を外させて頂きます。

リチャード、ちょっと話が有る」


「モーガン、帰る時は必ず顔を出してね」


「勿論ですよ王妃。必ず」


そう言って

二人で部屋を出ると

王の執務室に向かった。



************************************



現王リチャードとモーガン卿は

学友で有った。

だから呼び捨てにもするし

当人達も、気にも留めていない。


イスに座ると

国王が改めて礼を述べる。


「今回は本当に世話になった。

ありがとう。心より礼を言う」


「礼には及ばん、と言いたいところだが

今回はかなりの金が掛かってしまった。

そこは補ってくれ」


「勿論だ」


国王は執事に目配せすると

包みを持ってこさせる。


「必要経費は後日請求してくれ。

これは今回の謝礼だ。

受け取って欲しい」


その包みを手にすると


「遠慮はしないぞ。有難く受け取っておこう」


その言葉に笑いながら


「今日来たのは、その事では有るまい。

何が有った。急ぎなのだろう?」


「察しが良くて助かる。

人手が欲しい。腕の良いのが!」


「戦さでもするのか? 腕の良いのって?」


「そっちでは無い。隠密部隊の方だ。

長くなるが、まあ聞け。

今回俺が使った薬だが

“カミノムラサキ”だ」


その言葉に、国王が声を失った。


「カミノムラサキ? あの神薬の?」


「そうだ。偶然手に入った。」


いちど言葉を切ると


「あの薬草を売りに来た男がいた。

でもその男は、その薬草の事を良く知らなかった。

多分どこかで見聞きしてから

オレの店に売りに来たのだと思う。


乾燥したものなら、

生涯で一度位は出会える可能性も

もしかしたら有るかも知れないが

持ち込まれたのは摘みたてだった。

生だよ、生!


オレの考えが正しければ

採取場所は神々の森に違いない。

とすればその男は

神々の森に入れるのだ。


それがどういう事か判るよな?」


「神か、その縁者か、近しい者ってとこか」


「オレは“神々の落とし子”ではないかと思っている」


「使わされし者か」


“神々の落とし子”とは

神々が地上を見聞させる為に

送り込んだ者の事である。


「薬が必要な時に、それを売りに来たのだ。

先ず絶対に手に入らない薬を。

それが神々の意志か偶然なのかは

分からないが

何かの意図を感じずにはいられない。


彼は間違い無く、我々に恩恵を与えてくれる。

実際に与えてくれている。


だったら守られなければならない。

人間によって

殺されては困るのだ。


これは勝手な思い込みかも知れないが」


「で、お前はどうしたい」


「彼の行動を把握し

悟られぬよう警護を付けるべきだと思う」


「その手立ては有るのか」


「二人の店員が、その者の顔を知っている。

見かけたら、声を掛けて

渡す物が有るから来て欲しいと

声を掛けるように言ってある」


「そんな事が出来るのか?

王都は広いぞ。簡単に見つかる訳が無い」


「オレを甘く見るなよ。これを見ろ」


そう言ってモーガン卿は

持って来た地図を広げる。

その足取りを指し示すと


「神々の森から来たと仮定すると

そのルートはこの道になる。

入ったのはこの門だろう。


そう考えると

店から出た後のルートが

説明が付く。


そして消えたのがここだ。

人気の無い路地で、姿を消している。

おそらく転移の魔法を使ったと思われる。


方向は神々の森で間違い無いと思う。


ならば、次に王都に入る時に

転位の魔法を使うとすれば・・・

人気の無い場所」


「消えた所に出現する可能性が

最も高い、か」


「店員にも、そう伝えて有る。

見かけたら、偶然を装って

人目の多い場所で声を掛けるように、と」


「で、どう人を使う?」


「店にお連れする手筈なので

店に暗部を待機させてほしい。

店に来たら、そこから後は頼みたい。


彼にはこの国の未来が

掛かっているかも知れないから。

本人には絶対に気付かれない様に。

そして危害を加える者からも

守って行かなくてはならない」


国王はすぐさま人を呼ぶと

部隊を編成させ

モーガン卿の店へと向かわせた。


「ところでその青年は

声を掛けたら

必ずお前の店に連れて来れるのか?」


その質問に笑って


「必ず来ると思う。

店主から残金の支払いが有る、と言われていると

伝える手筈だ。

もちろん、お前の金だが」


「分かった、用立てよう。

薬代だな。それが」


「そういう事だ」


お互いに目を見合わせると

少し笑った。



************************************



これで準備は整った。


王母の所に顔を出すと

何時か食事を一緒に、という約束をして

城を後にする。


今出来る事は

これで全てだろう。


帰りの馬車の

その振動の中で

モーガン卿は深い眠りへと

誘われた。


やっと問題から

少し解放されたのだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ