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神様に殺された!  作者: 猫めっき
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神様に殺された日


有る昼下がりの事。

近所で買い物を済ませ

自宅へと向かう少し急な坂道を

自分はのんびりと上っていた。


心地のいい天気。


いつもの道。

いつもの風景。


あれっ?


急に足元を掬われる。


何だっ、て思った瞬間

後ろに倒れる自分がいる。

でも

真後ろに人が見えた。

支えてくれそうだなって

思ったその時

その人はするりと体をかわす。

何故か笑っているのが見えた。


そのまま自分は

頭から地面へと倒れ込む・・・。


少し空が蒼い・・・。



********************************



「良い酒が見つかりました」


事務局長のその一言で、会場内が騒めきだった。


今までいい酒が見つかって

手に入った話は一度きりしか無い。

しかしそれも、ほんのつかの間の出来事で

その酒はすぐに消えて無くなってしまった。


その酒が、また見つかったと言うのだ。

まさに慶事である。


「ホントに見つかったのか?」


「手に入ったのか?」


口々に言葉が飛び交って行く。

それ程までに珍しい出来事だった。

いかんせん、前回見つかったのは人の世で

千年以上も前の話しだったから。


「飲ませろ!」


「滴でもいいから、何とかならないか?」


それ程までに、この酒は望まれていた。

この会で、旨い酒を望まない者はいない。

にもかかわらず

望みの酒が手に入る事は無かった。


なぜなら、神々の会だからである。


神々は、自ら食事を作る事はしない。

全ては地上界からの供物によって

賄われるからだ。

神々は、その供物によってのみ

食事をしている。


供物は地上界から絶え間なく届くので

地上界へ再び下げ渡す事は有っても

食事に困る事は無い。


そこに神々の苦悩が有る。

食べたい物を、下界に注文する事は出来ない。


それが神々のしきたりでも有る。

よく生贄がささげられる事も有るが

それは神々にとっては、全く望まない事。

迷惑な話だ。


人の命を捧げられても、神々には何の利益も無い。

ただ、無為に人の命が無くなって行くだけ。

実は死神ですらも、そんな事は望んでいない。

死神にとっても

生贄は全くと言っていいほど利益は無い。

迷惑この上ない出来事だ。


死神も神である。

地上界では、恐れられてはいるが

天上界では、嫌われ差別される事は全く無い。


供物。


しかし、その事を正しく理解している者は

地上界には、どれ程いるだろうか?

地上界は自分達の御馳走を

供物として捧げる事が

神々に喜ばれる事と思っている。


そもそもそこが間違いである。


神々にも嗜好が有り、美味しいが有る。

しかしそれは

地上界の美味しいとは異なっている。

全てが、という訳ではないが

美味しいの感覚が違う。


酒もまたしかり。


地上界の酒は

神々には美味しいと感じられない。

それでも酔えるので、神々も酒は好きだし

実はそれしか、神々には楽しみが無い。


それ位に

酒は神々にとって大切な飲み物である。

唯一のストレス発散の手段だからだ。


だから上手く酔えなかったり

その事によって

更にストレスが溜まったりすると

地上界へイタズラを仕掛ける神々も

多発する。

神々の会とは

愚痴り合うストレス発散の場でも有るが

同時に困り事を起こされる危険性を

はらんでいる。


神々を纏める事務局にとっても

神々の会は大切なイベントで有ると同時に

無事に終わって欲しい

悩ませモノの会でも有る。


だからこその酒。

酒は大切なシロモノなのだ。


1000年前に一度だけ

良い酒が見つかった事が有る。

その時、神々は狂喜乱舞した。

事務局にとっても

その酒の出現はまさに夢の出来事だった。


その酒が供物として奉納されている間は

神々が諍いする事も無く

ただただ平穏な日々が続いたので有る。

事務局にとっては

それこそ至福の時間だった。


しかしその日々は、長く続く事は無かった。


供物としての酒が止まったのである。


どうやら奉納する造り人が高齢で

しかも後世に伝承させる事が

出来なかったらしい。


神々はその事実を悲しみ

事務局は失望した。


神々のストレスを緩和する

得難い術を、失ったからだ。

それ以来事務局は、1000年もの間

新たな酒の出現を待ち続けた。


そして遂に、その時が来たのである。



神々の前に

リキュールグラスに注がれたその酒が配られる。

その数、800以上。

神々の数は、それ程に多い。

だから、リキュールグラスの中の酒は、滴程度。

事務局が他の酒で薄め、かさ増ししても

配られる量は微々たるものだった。


それでも神々は狂喜した。

中にはうっとりと、その僅かな甘美さに

酔いしれる者もいた。


文字通りの神酒。

神々が望んで久しかった酒の出現である。


「今回提案したいのは、この酒の量産に付いてです」


事務局長の言葉が、会場に響く。


「量産出来るのか?」


その問いに、事務局長は頷く。


「この酒の作者は、地球界の人間です。

作者は神酒の研究をしていて

この酒の醸造に成功した模様です。

ただし、問題も有ります」


「地球界か?」


「問題とは何だ?」


「何が問題なのか?」


口々に質問が飛び交うが

事務局長は言葉を続けた。


「地球界に於いて、この酒の量産は難しいものと考えます。

彼らは自分達の利益に成る事しか、手を出しません。

神酒の醸造に、メリットが無いからです」


「なんと不敬な!」


「天罰を与えねば・・・」


「どういう事だ?何故出来ぬ?」


口々に怒りの声が飛び交う。


「この酒は、人間界では美味しいと認識されていない様です。

売れない物を作る事に、利益は無いのです」


その言葉に、会場からブーイングが飛ぶ。


「何か方法は無いのか?」


「その事を、御相談させて頂きたかったのです。

地上界に量産させる為の方法を、御提案頂けませんか?」


事務局長の言葉が、会場に響く。

しかし、その問いに答える言葉は聞こえてこない。

唸り声が聞こえるばかりだ。


「どなたか御提案は有りませんか?」


再び会場に、事務局長の言葉が響く。

それでも答えは聞こえてこない。

沈黙が続くと・・・

事務局長は、ちらっと会場を見回し

もう一度声を張る


「どなたか、御提案を・・・!」


この時点で

この行為をおかしいと感じた神々は

どれ程いただろうか。

この事務局長の言動が

いつもの会議とは進行が異なる事を。

普通は事務局からの提案が有って

然るべき案件で有った。


しかし事務局長はもう一度声を張り上げ


「御提案は有りませんか?」



********************************



「そんなの簡単な事だろう!」


神の一人が、満を持したかのように返答し

地上界を床に呼び出す。

床一面がスクリーンの様に浮かび上がる。


神々の眼下は、床一面が地上界となった。

その神は、大きく見渡すと


「そいつは何処に居る?」


地上界がどんどんズームアップされて、

ついに酒の作者の姿が、大きく表示される。


「こいつか?」


「その通りです」


事務局長の返答に促されるように

その神は供物を掴むと

その人物に向かって投げ付ける。


坂道を歩いていたその男は

綺麗に転んで、そして・・・


死んだ!


周りの神々が、唖然としている。

しかしその陰で

事務局長がほくそ笑んでいたのを

気付いた神はいなかった。


「あんたちょっと、何してくれてるのよ!」


「死んでしまったら、何にもならないでしょうが(怒)」


その言葉に

供物を投げ付けた神は、平然と


「これが一番手っ取り早い!」


さらに言葉を続ける。


「地球界では、量産は出来ないなら

量産出来る世界へ転生させれば、何の問題も無いだろう。

余命は有る訳だし。

その方が、よっぽど手っ取り早い。

違うか?」


「あんたねえ」


「人の命を、何だと思って・・・!」


その言葉をさえぎる様に


「俺は手を下してはいない。違うか? 

あいつが勝手に転んで死んだだけだ。

俺達に人は直接は、殺せないだろう」


「それはそうだ」


酔っぱらった神が相槌を打つ。

それは間違いない。

神々は人を直接死に至らしめる事は出来ない。


出来る事は、あくまでも間接的に、だ。


「人の命より、我らには美味しい酒。

転生させてやればいいだけだろう」


「その考え方も、確かに有るが・・・」


「不可能では無い。神々の総意が有れば可能」


死神が口を挟んだ。


「酒を造らせる為だけに、転生させる気?」


「それって、御都合主義の最たるものでしょうが!」


「彼の人生を、勝手にいじくって

どうしようって言うのよ?」


女神からは、次々と非難の声が上がる。


「でももう、死んでしまっている」


「後戻りは出来ない」


殺した事実を後押しする神も出て来た。

こうなると収拾が付かなくなる。


「まだ生き返らせる事も出来るでしょうが!」


その時

事務局長のメガネが、何故かキラッと光って


「御本人の気持ちを、聞いてみませんか?」


淡々と言葉を挟むその表情が

何やら少しだけ、微笑んでいる様にも見えるのは

気のせいだろうか。


「転生させるのなら、私の庇護下に入れてくれ。

私が見届けてやろう」


上座にいる神から、声が掛かる。

事務局長は慌てて・・・


「それはお断りします」


即座に却下する。

どうもこの会は、事務局長が主導している様だ。

上座に座る神すらも

反論させまいとする気迫が込められている。


「あなた方は転生者を庇護下に置いて

その転生者が

過去どうなったのかお忘れですか?」


その言葉に神々は、特に反論はしない。

身に覚えの有る神も、どうやらいるらしい。


「いいように使って、早死にさせているでしょうが!

もう少し転生者の事も、考えて下さい。

あなた方のしもべでは無いんですよ!」


事務局長が、言葉を続ける。


「本人が転生を許容した場合

事務局預かりにしたいと思います。

それで如何ですか?

本人の希望も最大限汲み上げ

対応したいと考えて居ります」


一旦言葉を切ると


「皆さん、それで宜しいですね?」


事務局長が念押しする。

押し切る気、満々だ。

その一言に、強い反対は出なかった。

一部の神々の、訝しがる目を除いては。


その日を境に

一人の転生者が生まれる事に成ったのである。






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