とりあえず、最終回。(第 三 回)
中華料理屋で妖力点を妖魔に奪われ奪い返したが、注意を払わないとなと、なっていた。中華料理屋から当日、鬼は地域振興会ビルからちょっと行ったところまで送ってくれていた。妖魔がいたらマズいと思ったので。人通りはまばらだが、全くいないという訳でもない。女性でも安心できそうな感じではある。
妖魔の狙いがほんとによく、分かりそうにもない。
妖力点は悪用できるようなものではないのだが気になる。地獄へ導いてしまう『動く悪い歩道』なので。
「俺は地獄に報告をしに行かないといけない」
とりあえず、妖魔らしき者はいなかったので鬼襞さんは、次の行動のための判断で、言った。
「作戦を練らねばならないからな」
「はい」
私たちはその会話の後は、和やかになり微笑むような心となった。どう考えたって絶対こういう関係の方がやはり楽しい。
鬼と人で許すことができないストレスと、過去のモヤモヤがあったから。少し、優しさで気遣うことができる関係になったのだろう。幸せかもしれない。
鬼は地獄へ戻った。しばらく歩く。オフィス街の辺りとはいえここは少し古い時代の商店とかが残っていて歩いていて不安はない。商店から洩れている薄い明かり。なんか、ホッとする。
妖魔でなければ何も起きなかっただろう。何も起きることはないと思っていた。明かりの影があってぼーっと見つめる。
そこから少し離れた場所にツノがある人間に近い影が見えた気がした。アイツがあんな、鬼が戻って来てくれたのかな?まさか、そんな訳ない…私は笑ってしまいそうになった。だが、「失神バット(コウモリ)…」首筋におもちゃのように握ったコウモリがある。首筋からツーッと少量の血が流れる。コウモリの歯周辺には紫黒い光が、出ている。私は崩れ落ちる。
横には妖魔たちが、いる。カシラの斜め後ろに、もう二体。まっ、逃げれる余裕ないけどね。
「あまり作戦を練られたらきっと、ほぼ勝ち目がないからな」
「う、嘘」
今、私の周りには結界のようなものがあって他の人は気付かない。こんなに速攻で不意打ちをかけるとは。
私は片膝を付く。
私は奇襲で連れ去られてしまう。
私は目を覚ましたのだった。ゲッ、ウワーッてなったけど、違うな。妖魔とは、ちょっとの短い間でも、付き合いがあった。
性的行為をするタイプの悪いヤツでないってのは、まだ分かっていた。人を連れ去るという、許されないことをした妖魔ではあったが。
だから、無駄に悪いことをすれば、神様に教会で『地獄のザルの目』の欠陥がある証拠になる言葉を私に言わせようとしていたのに、私と神様を結びつけることができなくなってしまうだろう。
まっ、私は妖魔に、もう協力する気はないけどね。
岩穴のような場所だ。奥は分からないが、空間的に横が広い。学校の体育館の狭い方の横の広さ、あるかどうかぐらい。
「ムッヌッハッグヌッン、起きたか…」カシラの妖魔が、直した方がいいんじゃないというぐらい、性格の悪い笑い方をして私を迎えるのであった。
ザッと、見たかぎり、カシラの手下は八体ぐらいいる。これは、逃げんのムずそう。しかし、妖魔、なんで鬼襞さんと微妙に似ているんだよ。
私は縛られたりもしていなかったから、持ち物から正体証明カードを探した。が、無かった。せっかく、電話みたいなかけ方も、教わっておいたというのに。
正体証明カードを、クルクルと上に投げて「鬼襞さん」と、名前を呼んでキャッチをする。3D映像の電話的かけ方も、あるらしいのだが、エネルギーの消費が多いので。この場合は音声だけらしい。
正直映像まである、テレビ電話なんて私はほとんどやりたくないから、それでいいと思う。
「多分、一回じゃ出ないから二回投げて、かけてみてくれ」なんて、鬼襞さんはあの時言っていたけど。
とにかく、カードが無くなってしまった。途中で、追っ手に見つからないように、捨ててしまったのかもしれない。
ちなみに、携帯電話はあったが圏外だった。
携帯電話の画面表示を見ると、二日後の朝、九時半過ぎだった。ということは、一日半眠ってしまったらしい。
「何で私をこんなところへ?」
「妖力点と交換でお前を獲ようと思ったが、普通に連れ去れたわ」私が目的か。
今さら、こんなことをするとは。神様の前で下手なことはできないと思っていたのに。そんなの、無しで来るとはマジか。
「連れ去るのには気を遣った全く。閻魔様がいるからな。あの、クソ鬼がいるときに勝つのは無理が多くて仕方ない」
「えっ…」
この、妖魔。実際のところ本当に偶然、連れ去れたんじゃないの。人を一日半も眠らせて。意外と弱そうな発言をしているから。
「だから、あいつの気配に紛れこんで、お前を誘拐した。ほぼ痕跡を無くしてな」
そうか、閻魔様がいればおおよその見当はつく。
だが、絶対分かるかどうかはどうにもキビしい…時間がかかる。それに、姿が鬼に微妙に似ているから私も油断した(少し嬉しいってなってたのに。全く、腹立たしい。油断してやられたなんて、なんて悔しいってなる)。なにも抵抗できないで負けた。上手く抵抗できれば妖魔も逃げただろうに。
首筋は牙の痕があるものの血は拭き取られている。しかし、それについて考えると優しさって訳ではなさそう。
私に何をさせようって言うんだろう、分かりそうにない。
「くっ…」
私は妖魔が回収し忘れていた木刀で、妖魔に脳天に向かって一撃。面っ。
「ウッ」
ビりビリビリ。妖魔は涙目になっていた。
「ああっ、少しは仕事に慣れたようだな…」
「父親みたいなことを言うな」
妖魔は少し強がっていて、頑張っている。妖魔であるのに…。
こんなことを人間にもし、したら恐らく嫌ってぐらい本当にヤバい状況になってしまうのかもしれないのだが。なのだが、妖魔じゃ涙目程度か。
手下の妖魔たちはおいおいって顔をして、びっくりと、している。人間が妖魔に攻撃をしたから、驚いているんだろう。
おまけに、昔からいる妖魔だから、こないだから戦ったりしている妖魔よりちょっと、強いかもしれない。
どっちみち、これまで闘ってきた妖魔も結局、三パーセントしか倒せていなかったから。どうも、三パーセントじゃ厳しい。全く難解だ。
妖魔は気をとり直して、
「活動体植物よ、いけ――っ」と言うと、指示を受けた活動体植物が手や足へと巻きついた。
「あっ、あ…」どっから伸びて巻きついているんだろ?
活動体植物は訓練された犬みたいに緻密に動く。
黄緑で人参みたいな太さでずっと長い、蔓である。よく訓練されているなと感心するぐらい。きちんと動く。
クソマズい…しかし、誘拐されている時点で本当に危険。動けないよ。頭、パニックでキツいってことを言っています。
妖魔は目で合図をして、書道の道具を用意させた。…カシラっぽさが出た。
「なにをさせるつもりですか?」
まるで、古い時代の手紙を書かせるような雰囲気。んっ?
妖魔が顔を近づけてスッと、私の目を覗きこむ。
これ、もう、「チカンでしょ」と叫びたくなってしまいそうだ。
妖魔だからだろうか?
「ただ…」
「ただ…?」
「お前に、閻魔様への手紙を、書いて貰いたい」
「えっ?」
「受けたことを全て」
「それは、つまり…」
「お前が受けた所業の全て。地獄の溶岩漬けのことと、『地獄のザルの目』についてに、決まっているだろう」
妖魔は真剣さで話す。そんな真剣さがあるなら、するべきことをして、真面目に訴えたら、なんとかなるって思うのに。…できないとこって、ずっとできないの?好きなこと他にない?見つけたっていいのでは?しかし、妖魔は隙をあたえず続きを話していく。
「…その手紙を貰って、閻魔はどう対応するかな。なにもできまい」妖魔は、不敵に笑う。「その時、閻魔は閻魔でなくなるのだ」
妖魔は高笑いをした。
確かに、ひどい扱いを受けた、許す訳にはいかないこともある。
しかし、地獄をひっくり返した場所はどこになる。それは、きっと人間界。
これまでに会った仕事相手を思い出す。
そこを許す訳にはいかない。
そのとき、ゴゴゴゴゴ。
「お前、身体が…」
私の血が溶岩に…私の身体が溶岩に、なっていた。後から聞いたところによると、人の形をして、口だけあったらしい。
と、すると、目が見えていたのが不思議で、(溶岩の身体がもっとありえないくらい不思議なこととはいえ)きっと変な魔法のような状況になっていたのだろうか。私は妖魔の身体の羽が片方さいてしまうように溶かした。
「ウヘッ、グホッ、ヌホッ、アハッ、アッ、ア――ンッ、ア――ッ」
片羽は半分以上、身体から溶けおち、離れた。
妖魔はたまらず、勢いをつけて逃げた。手下の妖魔たちも、恐れて少しも近づいてこない。
私の心の集中力に連動をしているのか、地面からカシラの妖魔の行く手をはばむかのように、火柱が幾つも立ち上る。
「覚えていろ。俺は負けぬ。日を改め、必ずお前の元へ会いに行くぞ」そう言って、妖魔たちは蜃気楼が立ち消えるかの如く消えた。
マジか…こんな身体でどうすればいいんだろって、考えてポケッとして五分程、経った。
「冬美、いるのか?」
不意に、名前を呼ばれた。
鬼襞さんが来た。
「閻魔大王様に頑張って頂いたのだが、細かい場所が分からなくてな…」
くぼみの水に映った姿は全身溶岩なのに、鬼は私のことが分かったようだった。
「出勤時間になってもこないから正体証明カードで連絡をとろうとしたが出ない。百何十回くらい電話的アレをやっても出ないから。仕方がないから自宅へ公衆電話でかけたら、親御さんがすごく心配をしていたぞ。昨日から帰ってないって。だから、もう閻魔大王様に何かあっただろうって、捜して頂いた。まっ、とりあええず妖魔が原因だろうと、思って親御さんには仕事で遠くの町の調査に行っていますと、言っといたから、この岩穴の話でもすればいい」
「あっ、ありがとうございます」って私、身体が今、溶岩なんだが。鬼襞さんはもう少し、しゃべる。
「で、閻魔様に正体証明カードの位置を特定して貰った…。一つ目一本足明後日見君でも、そのぐらいできるんだが。事件性があるだろうからってな。人間世界の自動車で、地域振興会ビルから七十分行った先の広場のゴミ箱の中に正体証明カードはあったそうだ」正体証明カードは想像通り、妖魔に捨てられていた。
「妖魔め、操作をかく乱させようと空を飛んで捨てたな。まっ、冬美は地獄の分かりづらい地帯へ連れて行かれていたんだが。あっ、アレだ。気分的に使いたくなければ特別に新しい正体証明カードと交換するので言ってくれ。無事に見つかって良かったよ」
ここ、やっぱり地獄か。私は鬼襞さんに不満があった。妖魔に姿が、似ていたとこがあった、とか。全身溶岩になって、どうすんだよ、とか。
もう、超モヤモヤした。怒鳴りつけたいぐらい、キレていた。
なぜ、怒鳴らないのか、謎だ。本来なら、キレているのかもしれないっ。だって、許したくないんだよ。腹が立っているのに…。
信じられない、怒りも持っているのに。…けど、本当は嬉しいのかもしれない。
ほっといたりもせず心配をして捜して、こんなに早く、ちゃんと来てくれたから。本当、溶岩漬けに突き落とした、君と比べたらずいぶんと成長したじゃないか。
それに、全身溶岩なのに、私のことが分かった。しっかり気がづくなんて。じゃあ、何かしら情報を知っていたんだ。思い当たるところがあるのかい。
それでも、嬉しいんだよ。その、私って人間はね。本当にさ。
とたんに、いつも通りの鬼を見て安心したのか私の姿は元の身体へと戻ったのだった。私は涙を流し、おえつで苦しい息を漏らし、ただ鬼の足へと抱きついていた。
足なのは、好きの限界がそれだったから。鬼を捨てるか、一緒にいるかの、この二択で考えた。捨てたくないので、抱きついた。もし、私が男性なら言葉ぐらいだな。
もう、これ以上は変態だ。それ以上は段階踏むとかじゃないと。…足とかで、踏まずに。
足がそんなに好きな訳でなく、限界がコレなので。なんか、愛情って難しいってのがあるな。
鬼は困った口になり、(口がどうも、一文字。山になった)ポンッと私の背中に手を置いた。
そうだよ、鬼襞さんは中途半端な愛情表現なんてするはずない。結ばれるかどうか分からない者に不必要に、手は出さない。完璧に鬼だから、半端なんてことはない。
いいかげんな片手間で、恋愛活動なんて絶対に、しないだろう。鬼襞さんは紳士だから。そういった部分がしっかりとしていた。偉い。これが、私たちの限界であった。
恋愛になるのかならないのかは、よく分からない。
この関係性を、越えるか越えないかは時の流れ方しだいではないかと、思う。その結果、私たちはいつものキツさのある仕事をする生活へ。
なんだか、戻ったらいいかって、なるのだった。恋愛の方向へ進むかは分からない。だけど、鬼のことを少し、好きにはなった。まだ、表面的には何も変わらず、そのままのままではあるけれども。