表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

第 二 回

 私は、昨日、地獄、人間世界支部に行って、正体証明カードを貰っていた。この、証明カードを説明するには昨日訪れた、照明会社での身分紹介の場面に戻らなくてはいけない。

 鬼は事務で応対をして下さった、社員の方の前で、カード入れを掴んでひっくり返して、指で二回弾くと「は――い出ます」と返事があった。三つ折りである、カード入れは。

 鬼がカード入れを開いて、開いて。

 なぜだか、重厚な扉に見える。

「この、二名を地獄人間世界支部の者であることを証明します」

 地獄の仕事をする方だから、やや変わった方ではあった。

 個性的と、大きく一つにまとめるべきか、妖怪辺りに入れて、まあ、普通に話したりした方がいいのか。だけど、それでも関わりがあったらいろいろと分かるでしょう。

 そりゃあ、私って人間は余裕のない人間だけど、できる範囲で親切をしてなるべく笑顔で接しようと、思っている。

 さて、この青年の特徴を言うと。

 大きな目だった。顔の真ん中近くに、二つ分の目がある場所が一つで収まって、しまっている。足も胴からストッと、大きな靴一つで収まっている。お腹の下に大きなひざが真ん中にドカッとある。一つ目に一本足。年齢は若そうな男性だ。

 私たちから見て、青年の身体に重なって空中に、光る文字が浮かぶ。不思議と、見ていると汗が出て、心がドンドンとノックされている、感じがする。生命を守る本能によって感覚的に「ああ、これは地獄なんだ」と、教えてくれる。親切だ。

 それに、そもそも地獄に関して嘘偽りをしたとしたら、それだけで罪になるので偽ったりする人は、ほぼいないと思う。テレビの3D電話的なもんだと思った。


 さて、勤務二日目はあんなことがあって疲れているだろうからと、自宅で書類を作るように言われた。家で書類を作っていた。

 ひどい目にもあって最悪だったけど、優しいとこもあると言える。うちの職場は。

 ただ昨日が、人類の生活としてダメな状況で、アホであっただけで。

 そこで、昨日、私が貰った正体証明カードだ。三つ折りのカード入れに入った状態で支給された。

 私はバッと部屋で正面に向かってカードをカード入れに入った状態で掲げてみた。少し恥ずかしかった。そして机の上に裏にしてポンッと置いて、それから上の遠い方の真ん中に指を人差し指で置いて、少し力を入れた。

 その後、私はカード入れの外側の周りをグルッと時計回りに一回り円を描くようにした。すると、まるでトランプのカードのドーナツ型に、書類がババッと出てきた。

 私は、昨日鬼にどうやったらいいかを教えて貰っていたのだった。あの戦いをして覚えるのは、これは疲れる。

「もっとシンプルな出し方ないんですか?ややこしすぎでしょう。ガチで。絶対」

 鬼は眉間に二本縦じわを寄せ、「必要書類は大事だ。なくしたりしないためにもこのぐらいはいる」

 私は新人の働き手なのでよく分からない。

 う――ん、やっぱり普通よりは便利だけど面倒くさい。十七枚の書類が出ていた。なるほど、これをまとめて私は書類を計、四十一枚、完成させればいいのか。

 本来なら、あり得ないばっかりの状況を。うわっ、キツ過ぎる。ほんと。


 私は昨日行った、地獄、『人間世界支部』の、職場を思い出していた。そこはオフィス街にあった。地域振興会ビルという建物の中に、『人間世界支部』が、あるらしい。

 なんと、私が最初に地獄から戻ってきた場所の斜め後ろの方にあった。さすが配置でも通常より驚かせて、ぼんやりとさせない。緊張感を与える、地獄。

 三十八階建て。新規参入の企業にオフィスを少し安めの値段で貸してあげたり、たくさんの団体へ会議室を使えるように貸し出している。地域振興会ビルの二階に階段で行く。階段の扉を開いて、廊下へと出る。

(しばらく一本筋を歩くと『ト』のような字みたいに曲がり角があって、そこに色んな会社のオフィスが幾つもある)

 だが、廊下をちょっと歩くと別のモノがあった。本当なら、なにも無い壁の方になにか、が見える。ユラユラユラッ。えっ?

『透明の扉』

 なぜそういう風に言えるのか…

 なにやら、レモンの汁が顔にかかったときみたいになんか分かった。

 レモンの汁の存在感は、驚くべき程強いと言っていい、本当に。私の顔に今、レモンの汁が飛んでいって、かかったんだって。目がしみるし、レモンの香りがするし、口や周りが酸っぱいし、絶対じゃん。

 そんな感じで私は透明な扉があることが分かった。透明な扉は踏む場所が、床からの高さ六センチくらい。微妙なとこだけど。そして、鬼はドアの下の方に手をつっこんだ。そこは床の高さから十六センチぐらいだっただろうか。よく分からないが。だから、ドアは上に向かってふすまが開くように、シャッターのようにカラカラッと開いた。

 周りには誰もいない。

「ドアを必要と思う人間しか扉は招かない。それ以外の人間は普段の通常ルートで、廊下を歩く」

 扉の魔力だそうだ。その奥にはオフィスにありそうなドアノブを下げると開く、扉があった。

「ここが、うちの職場だ」

「はい」

 ワクワクして中に入ると受付だ。受付の青年っぽい感じの方がいた。

 正体証明カードの3Dテレビ電話的なとこで見ていた一つ目の、青年だ。

「こんにちは」私はもうちょっと仕事っぽい挨拶の方がいいかとも思ったが、程良い言い方を出せなかった。

 お互い、少しお辞儀をしあう。

「挨拶はまだ、後でいいから」

「じゃあ、こっちへ」

「はい」

 私はゆったり、奥の扉を開ける。

「失礼、します」

 すると、なぜだか階段出口に当たる廊下だ。

「あれっ?」

 思ったより狭い。

「受付の横の方のちょっとしたロッカーに、少しは荷物置けるから」

 ああ、なるほど。私に席とかないんですね。

 そういうスタイルね。フゥッ。私は前説明とかもなかったから、ややテンションが下がっていた。地獄にとっては重要な情報という訳でもなかったのかもしれない。

 まず、書類は家で作ればいい。とりあえず、まだセーフだ。さっきの照明会社のできごとを入れたら。至らない職場だが頑張ろう。

 了解ござっす、承知シマウマ。しかし、地獄が職場というのは考えたらすごすぎておかしいな。

 でも、書類が急ぎではないのがまだマシなところだ。地獄は鋭いので推定の必要金額をある程度まとめて問題なく早期に、先に支払っている。

 私はあったことをまとめて書いて、被害場所の提出書類に訂正ポイントがないか探して書き出したりとかができたらオッケー。

 さて、正体証明カードに出てきた青年の方へご挨拶をする。

「ああ、じゃあ、あなたが妖魔の共犯と間違われた人ですか?」

 ニヤニヤ笑いながら言ってくる。ただ、見ているのは明後日の方向だ。前回は、よく気づかないでいたが、そういえばずっと明後日を見ている。

 しかし、何だこの方。性格の悪い男性か?

「この男は一つ目一本足明後日見君だ。いつも明後日の方向しか見ない、少し不器用さを持っているが仕事はできるから。とりあえず気にしないでくれ」

 なんだ仕事できる感じか。というより、私より、優秀だろうか?この方、先輩だな。

「一つ目一本足明後日見君には、いいところも、ちょいちょいあるはずであるから」

 なぜか、鬼はよく分からない変なフォローをしている。どういうこと、どこか変なとこがある?

「水田冬美って、名です。よろしくお願いします」

 少し、緊張をしながら言った。

「どうも。一つ目一本足明後日見です。一緒に働きましょう」

 柔らかく笑って、いる。可愛いと、言えなくもない。二十歳過ぎぐらいに見える。ちょっと自分より、年齢が下な若者の男性っぽい。

 でも、地獄の方だと実際の年齢はすごい上かもしれない。

「で、教会へ連れて行かれ、神様へ“イケナイコト”を話、させようとされそうになって、とんでもないことだ」

「えっ…?」

 一つ目さんは、いったい、なにを言っているというのだろう?明後日を見ずにこっちの私を見て、言ってよと思わなくもない。

 しかし、明後日を見ている。絶対、イライラがないとは言えない。だけど、性質だから、仕方がないっていうのはある。複雑だ。

 鬼襞さん、なにか説明をしてくれないんですか?私、どうすればいいか困ってますよ。

「一つ目、まだそれは、伝えていなかったんだ」

 一つ目一本足明後日見さんはあわてた様子を見せた。

「あっ、すみません。僕、つい先に話してしまって」

「ボケ。…あっ、すみません。私も声が出たようで」

 悪気はないが声は出た。ストレスで、微妙にやり過ぎたのであった。もっと、上手くできたら良かったのに。

 アホなことをした。なんてこった、普通の思考でこうなったのであった。

「なんだと、人間女」

 これ、悪口かどうか分からない罵りだ。

 私はニッと笑った。

 なにも無かったような空気だ。澱みは夢の彼方へ行った気がする。ここにあるけど。悪気ないんだろうな。

 明後日の方向を目力強めにして見つめてくるが。

「私はあなたみたいな方、好きです。見つめる対象という意味で。友達になれるかどうか、未定ですが。恋愛はできそうにないですけど。頑張ってたら、いいことありますよ、きっとそのうちに」

 そのとき、一つ目一本足明後日見さんの目が、かすかに潤んだ気もした。届いたって、ことだろうか。

「バカ、なに言ってんだ人間」

 まあ、私はたががはずれきっていたのであった。

 近くの何かしらのたががはずれきっていたとすれば、誰かできる感じがある方が良くしめ直さないといけなくなってしまうときもある。

 だから多分、一つ目さんは仕方がないので、罵っていた。

 どうしようかなと思って、いい考えも浮かばず困惑してコレなのであった。

 と、するなら、もっと上手くできれば、すごくいい。まあ、頑張ったらいいのではないっではっとょっどうだっねっや。

 ハハハ。普通の職場だったら終わっているかもな。居づらくなってしまうだろう。だったら動揺させるようなこと言うなよと、思わなくもない。だとすると、どういった状況になって、こんなこと起きるんだか。

 驚き、桃の木、山椒の木。で、聞いた話をまとめてみるとつまり、神様に“イケナイコト”を話すことができる場所だったようである。

 あのとき行った教会が、どういったものかとすると神様と、話ができる場所。

「妖魔たちが、地獄のザルの目のスペアを持っているって本当ですか?」

「多分な。で、たまたま冬美を見つけたのだろう」

「で、上手いこと教会で地獄のザルの目に欠陥がある証拠になることを言わせようとした。地獄を弱らせて好き放題して秩序を混乱させようとしたって、ことですね」

「まあ、そんなとこだろう、完全に」

「冬美さんが、妖魔と共犯で地獄のザルの目の欠陥を意地の悪い探し方をしたと思って鬼襞さんは怒ったんですよ、勘違いで」

「うっうー、悪かった。冬美、すまない」

 ハーッ、そういうことだったのか。やっと、分かった、多分。

「鬼襞さんは、冬美さんを地獄に落とした後、ものすごく、めちゃくちゃ何千、何万回と溶岩漬け地獄に通いまくっていたんですよ。地獄じゃ、もうすごく噂だったんですから。よくやりますよねこれだけ、絶対。本当、全くもってだから」

「へっ?へーー…」あっ、つい、変な間になってしまった。なんとなく、そうじゃないかと。逆算したりして、思ってはいたんだけど。

 多分、地獄に来るような知り合い、いないって思ってたし。だけど、こういう風で、あったんだ。安定した眠っている、夢の中でしかできない話にも思えるてしまう。……どうだろう、これメルヘンであったりするのか?

「つまり、だな。地獄に落としたが、どうも、選んだ結果がしっくりこないんだ。選択を間違えたのでは、ないかと。自分の道に、迷いがあったというか。これは落ちた魂を見れば、もしかして何か、分かるかと思ってつい行ったというのがあったというかであって俺も悩ましい…」

 ハアハアしながら、鬼は何かを、言っている。地獄、なのがな。これがないなら、恋愛になっていたかもという気もする。

 多分かなり、いい味のメルヘンチックになっただろう。だって、これだけ興味があるって、すごいとも言えそうなところではあったりはする訳で。

 と、私は、やや普通に思っていたりもしなくもない感じがしてしまう部分があった。

「とりあえず、冬美。身体の色が変わったんだから。地獄の医務室へ行ってみよう」

「はい」

 鬼は、受付奥のドアを開けた。あれっ、階段前の廊下じゃ…地獄だ。

 閻魔大王様がいた宮殿が逆光みたいな感じで全景が、分かる。やや、離れた場所。こんな場所に出た。

「驚いたか?」

「はい」

「地獄をイメージをして、扉を開くとここに出る」

 医務室に行った結果、特に異常はなかったのだった。よく、分からないが。妖力点に反応、するそうだ。後は異常が無い。眩みそうだ。目が。う――ん、現実がおかしくないか。


 道端でずっと、なんとなく立っている。鬼と、計、二名でもって。

 マヌケな、絵だが。もうすぐだ。

 ここで待っていれば妖力点にたどり着くトラックが、時間通りにやって来る。と、閻魔様に教えてもらって、いたのだ。

 引越し屋のトラックが通る。鬼は強引なヒッチハイカーもどきのうさんくさいヤツのように、手を広げて真顔で、トラックを停めさせた。

「なんですか、急いでるんですよ…」

 運転手は鬼にドキドキしながら、文句を言う。

「この、トラックの後ろに捕まりますが、どうか気にしないで下さい」

 鬼は、地獄の正体証明カードを見せて言った。

 一つ目一本足明後日見さんが、鬼に指を差して「地獄の鬼です。本物ですよー」と、言っている。のん気なものだ。

「よしっ、冬美乗るぞ」

「えっ…?」

 なんで、こんな乗り方するの?アクション映画みたいなことしなくても、いいはず、なんだけど。

 乗る前に安全そうな場所を必死に探した。マシか、まだ。地獄に就職していなかったら、もっとめちゃくちゃ安全じゃないとやらないだろうな。

 鬼曰く、「中途半端な安全は却って危険…」だそうだ。分かるけど、ふざけている。鬼がちゃんとスピードを出して、向かって下さい。と、言っているので六十キロぐらい出ているかもである。ヤバいでしょうよ。

「大丈夫だ。俺の魔法で、他の車や通行をする人を不安にしない魔法をかけよう」

 そんな、魔法があるならもっと安全に追跡する魔法とかもありそうなのだが。そこは、妖力点を警戒しているのだろう。下手に、妖力点が作動したら、もっと危険があるかもしれない。

 なら、タクシーで追跡するとかで、いいと思うのに。

「まかれてしまったら、どうする?」真剣だ。

 二度程、落ちそうなけはいを感じた。ヒッィーッ。

 いやしの回復術があるとはいえ、恐ろしい仕事だ。

 握力がヤベ――ッてなってきていたところで、着いた。

 フラフラしている。引っ越し屋の方に「大丈夫ですか?」と、声をかけられた。

 我が上司より、普通に、きちんとまともでいい。

「大丈夫です、このクソ野郎のせいでキツかっただけで」

 スラスラと汚い言葉が出て、引っ越し屋の方は、普通に引いてしまっていた。やっぱ、そうなるよ。仕方がない。「分かる~っ。よく、耐えてるよね」とは、ならない訳で。

「鬼襞さん、ここに妖力点が…」

「ああ」

 引っ越し屋は帰りではなく、行きの車だったようだ。初めから、ここが分かっていればな…。

「閻魔様、ここ分かんなかったんですか?」

 鬼はつまらないこと言うな、不愉快だ、という顔になった。

「閻魔様は、忙しいのだ。閻魔大王様の頑張りのおかげでこの、水準の平和さを維持できているところがある」

 地獄の鬼だから、すごく閻魔大王様信奉を、している。私はきっかけの経緯が()()だったので、閻魔様に対してもちょっと考えるところがあるんだけど。まあ、閻魔様を信じたい気持ちは、分かる。

 大型トラック二台で、引っ越しか。

 結構古くから主に、目薬を造っている、製薬会社。

 倉庫と実験室の建物が隣り合う、場所。

 スマホでネット検索をしてみると、四十年以上前からある、会社のようだ。

 中小企業系で間もなく、大企業の製薬会社と合併する、そうだ。まずは、製薬会社の人に説明。

 引っ越し屋さんと一緒に来たので、意味不明な顔をされる。

「引っ越し屋さんじゃない、地獄の方。あなた方も、同じ引っ越し屋さんにお願いをしていたとかではないので?」

「いや、引っ越し屋さんの注文が被ったとかでは、ないです。別で、たまたま一緒に来ることになっちゃったと言うか」

「あの、言ってることがよく分からないんですが…」

 こういう時は正体証明カードでどこに、所属している者か、はっきり分かってから理解を深めていかなければ。私は、一所懸命に覚えた正体証明カードの手順を鬼の後に続いてやっていく。

 やっぱ、少しだけ恥ずかしい。慣れていかないと、こういうものは。一つ目さんが、まず鬼襞さんのカードの方に3Dのテレビ電話的な感じでもって、現れたのであった。

「この男性が鬼で、地獄の鬼と証明をします」

 続いて、私の方のカードに、少し急いで現れた。システム、ややこしいのかな?

 ワンプッシュとかでなく、どうやって動いているんだ、このカードの性能って。

 機械っぽいんだけど、人間の世界の物と何か、仕組みのような感じのものが違う。

「この人が、水田冬美さんて言って人間なんですが地獄、人間世界支部に所属をしている者と証明を、します。よろしくお願いしますね」

 一つ目さんの身体に光る文字が重なって出ている。この文字を見ていると、地獄を想像させる。証明をしてくれる別の機関の文字かな?

 っていうか、一つ目さんの私の証明、なんか妙に癖がある気がしなくもない。初めての証明で慣れてないからとかだろうか。

 とりあえず、妖力点がこの会社のどこかにあるはずだ。捜さなくては、いけない。引っ越し屋さんの、仕事を止めて捜し始める。ダンボール、機械類を危険がないように、会社の方に聞きながら触る。

 大手と合併前の中小企業系だけど、やや古いけど結構いい機械とかを揃えている感じが素人目にもなんとなく分かる。四十年以上続いた会社という先入観もまあ、あるんだろうけど。

 研究員っぽい人たちの人数も力の入れ具合で多そうで社長さんに聞くと、三十人ぐらい、研究員はいると、教えて貰った。「うちの研究員は皆、優秀で常に努力を怠ることもないので、立派です」

 そのとき、社長さんは、なんだか嬉しそうな顔をしていた。ちゃんと技術がしっかりしているから、合併の話もきたのだろう。

 しかし当然、ずっと会社の方はほとんど渋い顔をしている。まあ、引っ越しの日にこんなになったら、うっとうしいでしょう普通に。

 引っ越し屋さんにも謝りながら、触る

 私の身体は鬼に地獄の溶岩漬けに突き落とされて生き返った経緯で、妖力点が入ったモノに触れると、うっとうしいことに色が変わるようになってしまったのだ。

 とは言え、恐れずドンドン、奥の方まで行く。倉庫の隅の方に来た。

 こうなってくると、不安になる。妖力点なかったりなんて、パターンはないのかな?それでも、だらしなく仕事を済ませるのは嫌だ。

 私は、給料を貰うのだ。するべき、仕事をして、ちゃんと金を貰う。まだ、私は一応めげずに触り続けていった。

 身体が妙にビりッとして、シャキッとする。胸が高鳴る。なんだか、近い気もする。だけど、勘違いの可能性も、普通にいっぱいありそうではあるのだけれど。

 私は何気なく、ある台車を触った。よくある、作業場で、荷物を手で押して人力で運べる車だ。

 手がレモンのような黄色になってしまった。

(ちなみに、この時は一番初めの話。手が青紫色になって、数日後、色がどういう意味かが分かる前の日数のときの、話である)

 えっ、黄色、レモンっぽい。

 前と、色が違う、意味があるのか?私は前回と違う色の出方にちょっと驚いた。

 それでも、まあ、捜さなくてはならない。

 アレッ、製薬会社と引っ越し屋の皆さんに、どうもびっくりされてしまった。驚く部分はあるかな。

 また、鬼が真面目そうに見るから…

 正直、私がこの状態に慣れることができない。妖力点を捜すだけでも、変なことが起きそうだからだ。

 おかしなことに、不思議さがまた表れて、左手の指も触れてしまったので、その手の方まで強く濃い色で黄色になる状態となっている。

 痛みや、身体の調子が悪くなったりはないから、まだマシだが。色が変わるのは、子供なら喜びそうであるが、私ももうその辺は大人だ。

 私は、社長さんに台車を壊してもいいか尋ね、聞いた。

「地獄の方が、おっしゃいますなら、台車の一つや二つくらいなら壊されても構いませんが。やはり、不安になりますので、理由をつきとめて下さい」

「もちろんでございます」

 それが私たちの仕事というものだ。まず、台車の上に載っていたダンボールをとにかく、触りまくってみた。

 すると、たちまちサッパリとしている、黄色になった。レモン色より濃くて、みかんの色に、近いのかな。

 確実に何かあったりしそうだな。

「揺らさないで」製薬会社の、研究員っぽい女性がたまらず声を出した。さっき、機械類を触っていたときに、ちょっと説明をしてくれていた人だ。

「触ったりしないで、大事にして下さい。お願いですから頼みます」

 尋常じゃない眼差しで、絶対何かあるって雰囲気になった。

 まず、社長を見つめ頷いて貰い、社長に開けるように指示を出して貰った。研究員っぽい女性はダンボールを開ける前に、誠実で真剣な眼差しで前もって経緯を話したのだった。

「私たち、目の疲れをすごくとる特効薬の目薬を、実は完成させていたんです。でも、合併で迷いが出てしまって…」

 液体が入った、小さいビンが、ものすごく多くの数で出てきた。

 微妙な調整をしたりするのが必要かもしれないが、すでに目薬は、たくさん製造するまで、できていたのだった。

「なぜ、隠していた?泥棒だったのか…。信じていたんだぞ」

「社長、私たちは…」

「裏切者たちであったんだな?これまで、ずっと長い間だまされていた」引っ越しの日にコレだけ、ひどい、隠している物があれば社長も、キツいひどい言い方になるというのは、あるだろう。

 残念ながら、研究員たちは妖魔に変化をしてしまったのだった。

「これは、やっぱり…」

 まあ、そうなるか。前回も、似たような感じで妖魔になった訳で。

 ドロッドロのアメーバ―のように、なってしまった十七、八人の、研究員たち。

「グケケッケケケ」

 あぶくが息をするような発声で、鳴く。

「ブニュグニョグニョッ」と、妖魔たちはイラダチ騒いだ。

 誰かが倉庫から何人かで、逃げようとしたが、「扉が開かない」と、困ってどうしようもなく叫んでいる。また、妖魔の悪い魔法の力が、働いていると思う。つまり、残りの、会社の人間である約二十名と引っ越し作業員五名の方たちは閉じこめられてしまった。

 私は本当は、台車を壊し、妖力点を取り出して、私の中へ妖力点の光を入れれば妖魔の状態も終わるのではと、思っていたのだが、ところが妖魔が完全に妖魔になる手前で、黒い丸いオーラの中に台車を入れて守る行為を始めた。倒さないと終わらないよ、コレ。

 一周百二十メートル。

 引っ越し前だから、ある程度、整理ができあがった状態で綺麗だ。どう、過ごせばいいか。

 なんか、妖魔たちが怪しい腹立ちのオーラが出ている気がする。

 シュアッ…。

 身体の表面の水分の液体を飛ばし、金属の柱をとかして一本断ってしまった。ゲッ…なに、この…攻撃手段。ガチで、下手したら即死のやつじゃん…。

 製薬会社の社員の誰かが、目薬のダンボールを、まだ、安全そうなところへ、なんとか一つ運んだ。

 うん、そうしないと。せっかくすごくいい製品ができたんだから守っとかないと後が残念だ。

(鬼襞さんがもう一箱、後で隙をみて上手く運んでいた)

 どうするかな……。また、鬼が絶対、素手で戦うんだよ。

 やっぱり、最終的に目薬の発覚に一押ししてしまった私の方に妖魔たちは、たくさんやってくる。もう、全部鬼の方に行くなら行けばいいのに。人間、倒しやすいからって、くんなよガチで、絶対ヤバいって言うぐらいの分、すごく本当にズルイぞ、超、普通に。

 とりあえず、木刀か。

 地獄の木刀。

 私は鬼がくれた小さい子用の木のおもちゃみたいな三角的な丸っこい木を握った…。

 段々、大きくなって、木刀になる。この木刀はすこぶる普通より強い力があって、両腕いっぱいの太い棒で、布団を叩くぐらいのエネルギーで衝撃を出せる。私は向かってくる一体の妖魔のアメーバ―に木刀を振り下ろした。

 普通に、吹っ飛ぶ。直接当てたりしなくても、衝撃でそのぐらいいく。このままで、済めばいいんだけど。この、アメーバ―たちは嫌な動きを始めた。

 五体ぐらい群がってこっちへ向かって来た。試しに振り下ろしてみたが、アッ、駄目だ。全然飛ばない。…考えたな。さすが、研究者たちの妖魔だ。頭がいい。感心している場合じゃない。

 動きはワンパターンな気もする。上手くタイミングを合わせて私は、直接攻撃で木刀を振り下ろしてみた。ブッニョッビュヨン。あっ、木刀が喰われた。

 正確には人間で言うと、両手でしっかりと掴まれたようなものだ。アッ、ヤバい。私は必死で木刀をグリッグリと、動かした。

 その間、足は捕まってはマズいので、細かく動かしている。おっ、できるか?ブニュンポッ。あっ、とれた、とれた。おわっ、マズい。喰われそう…。

 私、喰われるかもしれないと思った、五秒ぐらいで…。その時、鬼は身体をとかすとか関係ないぐらいの強さとエネルギーで、妖魔をパンチで思いっきりぶっ飛ばしていった。ムッ、何と言ったって絶対、ガチで強くて格好いいから隅に置けない。

 全部、鬼襞さんが倒した方が私は、元気でずっといられるというのが、かなりあるぞ普通。だけど、鬼襞さんは他が結構できていない部分があるところがたくさんあるけど。人間じゃないから、神経がニブいとか。

 しかし、このままだと、私はまず、とっ捕まりドロッドロに身体をとかされてしまうだろう。鬼襞さんに、話しかける。

「木刀じゃたりません。捕まってしまいそうです」

 私は状況を説明した。鬼は眉を寄せ口をムニッとして、フッと考え、ふところから透明な手袋(右手の方だけ)を出したのだった。

「何で、片手だけ?」

「両手、使ったら喰われるぞ」

 また、訳の分からない言い方を、する。

 もう、少し聞くと、両手だと栄養が多すぎるみたいになって、勢いづいて食われてしまうのだ、そうだ。私も、丸ごとムシャッとされてしまうらしい。

 えっ、大丈夫なの。と、言うかやっぱりよく分からなかった、コレ。

「使えば分かる」と言われたので、まあ、手袋を付けて木刀を振る。

 ちょっと距離をとって、振った。衝撃の突風が妖魔に、当たる。

 本来なら他の妖魔がくっついているから、大して勢いは弱まりはしないはず。

 これは、逃げるか?と、思っていたら妖魔に攻撃が当たったところが霧みたいに蒸発して、動きがニブくなった。他の妖魔も含め、ひっついていた全体が、どんどんニブくなっている気がする。しかし、どうなって、こうなるんだろう?まだ、さばききれないから、直接当てないと。

 当てた。衝撃が光る。聖なる光だ。いやされている。使い手の私まで心がいやされている。身体も、少し調子が良くなっているかもしれない。これは、いやしの手袋だった。よく見ると、聖なる光が手袋から木刀にまで伝わって、まとっていると思う。心身の調子が良くなるのであれば、鬼がさっき言った言葉も理解ができてくる。

 透明な手袋も片手であればいやしの力を使って妖魔の悪い部分へと効き回復を妨げてくれるが両手だと違う風に効いて、変に食欲がヤバい感じで強くなるようにしてしまう。

 コーヒーを飲むといやしの効果はあるが、飲み過ぎると眠れなくなったりする。お酒もある程度なら健康に役立ったりもあるが、それ以上だと悪くなってしまったりもする。そんな、感じの意味合で変わるのかもしれないと思った。

 もう、二、三体来ていたので直接攻撃を当てる。妖魔は気が付くと全部グッタリとしていた。

 鬼襞さんは少し、汗をかいた状態であった。私はフラフラで汗をドップリとかいていた。う――ん、やっぱり鬼襞さんが九割七分ぐらい倒しているんじゃないかなという気もする。

 私は鬼襞さんに手をちょっと、出して貰いグッと手を掴みあう。お疲れという気分が出たからだ。

 鬼襞さんとはいろいろあったが、同じ仕事を行っているのであるから、この程度は普通だろう。とりあえず特に意味はない。

 ただ、いつもより距離が近づいてホワッと、ドキドキしてしまったのがあったというだけで。

 台車は戦闘中、妖魔の魔力で黒い丸いオーラの中に閉じこめるようにしていて、手を出せなかった(目薬のダンボールは台車からすでに下していたのだけど)。前回は意識をしていなかったから、どうなっていたってことなのだろう?前は手段がよく分からないところがあったので、妖魔は本能で分かっていたりするから、今回は『台車』の守りを堅めたってことか。建物に人を閉じこめたりするから普通に簡単にできるってのがあるのだろう、多分。

 会社の人たちに立ちあいを、して貰う。

 鬼は台車に向かって、パンチを振り上げ振り下ろした。それはまるで、鯉が滝をズーッと上がっていって、そこから下までザ――ッと飛び下りて行くような勢いだった。鯉はそんなことしたり、しないだろうが。これができたら人間技とはならないだろう。そして、少なくとも鬼襞さんは鬼ではあるのだが。

 台車はキラキラッと別の物質みたいに砕けた。目を守るゴーグルをかけなくても、大丈夫なのは鬼の魔力があることが意味するだろうか。

 研究員の人たちは元に戻った。少しして、落ち着いたので話をした。

 社長が次の場所の地位の勉強をしていた。

 これまで研究をしてきた、目薬の特効薬が完成間近というときに、『良い中間管理職になるには』の本を読んでいて。

「次は『目薬研究管理開発・相談部長』の役職だからな。中間管理職か。私に『部長』なんて役職は、今まで経験したことがないが、勤まるかな」もう、次の役職のことを考えていた。

 ゴニョゴニョ。ここで、研究員たちは口の中に粘り気のあるお菓子でもあるように、歯切れが悪くなった。このままだとずっと、しばらく話が進みそうにもない。

 鬼襞さんが、「ここまでくれば、ある程度、本音で話すだろう」と、取り出したのは『集約玉』。

 ゴルフボールよりはほんのちょっと、小さいぐらいの玉だ。ガラスっぽい玉には中に、青が主で赤が混じらず、ところどころやや入っている。

 研究員の方たちに、この玉に息を吹きかけて貰い、意識の一部を魔法の力で呼んで掴み、見るという方法だそうだ。

「魂の認証が必要なため、心の拒否の部分はあまり見るというのはできない。もし、悪人が息を吹きかけたら見せつけようとしたい時を除いてほとんど見ることができない」と、鬼は言った。

 玉の中で、ドラマ映像が始まった。

「誰か、私を部長と呼んでみてくれ。相談部長と、でもいいぞ。アッハッハハ」うん、この方は社長だな。

『アレッ、私たちは、いったいどこに誇りを持って所属をして仕事をしているんだろう』

 さっき、ダンボールを大事に扱ってと言った、女性がナレーター、やっている。

 ドラマで研究員たちは、完成した目薬を、社長に見せたくない気持ちになっている。ちなみに皆で研究室で何かの作業をしていた。

「もう、正直、社長じゃないよね。あの人」さっきの人とは別の女性研究員が、不満をこぼした。

『キツい言い方だと思ったが、私も本音は近い気持ちで、苦しい気持ちになったところがあった。社長が好きだったのに、会社に対しての愛はその程度か、と感じた。本当に、もうどうでもいい、多分きっと私たちはそう思ったのだった』

「そうだな」

 男性研究員(白衣着ているから分かる)はあいづちをうって言った。

「別の会社に持って行っちゃおっか?」

 別の女性研究員はいたずら心を出して言う。多分、本気ではないって思うけど、心配になりそうな、子だ。

「それは、マズいだろ」

 男性研究員が、普通に、つっこみを入れた。…うん。そうしないと、モヤモヤして嫌だ…。正解。

『私は、どんどん不安な気持ちが、ザワザワと、溜まっていったのだった』

「見せたくない」ナレーターの、女性研究員が言った。

『愚かなことだ。恥ずかしい話で。まさか、こんな失態ををす…。私たちは、馬鹿だ。なんとダメなことに、皆ついそれで納得をする、なんて』

 話は続く。ナレーターの女性研究員の悩ましさが増した。

『見せない選択をしてしまった後で、そうこうするうちに、引っ越しで施設は閉鎖へとなっていってしまった』

「どうしよう。社長もある程度の知識を持っているというのに、マズいよ」と、ナレーターの女性研究員は言った。

『施設の稼働のバランス辺りで、話のつじつまが合わなくなっていっていた』

「こうなったら、仕方がないから、別の会社になんとか売る?」別の女性研究員。

 また、この子は…。笑えないので、言うのをやめる方が、幸運来るかもよ…。

「それは、ダメでしょう、絶対」と、男性研究員。

 本当にやったら、犯罪レベルすぎて終わるだろう。

「なんて、冗談だよ…」妙に怪しい雰囲気で、汗を流している別の女性研究者。

 大丈夫だって思うけど、不安になるのでやめて欲しい…。それがボケであったって、犯罪は良くないので。

「こうなったら、上手くごまかそう。ダンボールに入れて新しい合併先へ普通に開発途中の研究物と言って全くバレないようにして行って持ちこむしかない」と、男性研究員。

 まさかのことに、ここにいる研究員たちは微妙にマジで危ない橋を本気で渡って行ったのであった。

 しかし、冷静に見るとむしろ、合併先でバレてしまった方が、本気で関係者全員クビになるかもしれないのでヤバかったかもしれないって思うのだけれども。

 運のせいと言うのもどうかとは思うが、まさにタイミングが良くないのであった。

「幾ら研究員たちが優秀でも、合併先で他所から来た人間を意図をせずとはいえいい待遇にできない雰囲気になってしまうことも、あるかもしれない。俺は受け入れの企業の要求になるべく答えて本当にいい薬を造ることもしたかったんだ。受け入れ先もこっちの意見を聞こうとしてくれて。いい機会だったんだよ。規模も大きくなって。もっと、やりたいことが、できるチャンスが来たんだから…」

 社長は気持ちの丈を話した。

「社長…」

 研究員たちは涙目である。意外とカリスマだな。社長さんて、結構、地味な見た目で、あるのに割とカリスマっていた。合併先でも、いい感じで仕事ができそうな雰囲気だ。

「俺はお前たちに嫌な思いをさせたくない気持ちもあったんだぞ。目薬研究管理開発・相談部長なら、むしろお前たちをずっと気づかえるから嬉しいぐらいのもんだったというのに。たとえ俺の地位が社長じゃなくたってどんな形でもいい。今まで関わった目薬の仕事なら、これまで愛用して下さったお客様と、これからもつながっていられる。そういう気持ちがあったんだ、俺は」

「社長、すみません。私たち、頑張ります」

「ところで、生きたまま地獄へ落とせるコース、十五年間でどうだ?」

 鬼襞さん、ここでこう来るか…。世の中、甘くはないとは言うが、鬼襞さんも甘くないのであった。

 皆、なんだかシーンと静かになった。今の、鬼の一言がきっかけで生気を失ったのか?

 私は鬼をどう止めてみるのが、いいのだろうと、考えていた。

 その時、「いい薬ができて、良かったじゃないの。頑張ったんだね。俺は、とても嬉しい」

 社長は、微笑んでくれた。いろいろ関係なく穏やかに笑える人。きちんとした優しい人だった。

 強く、良い感じのカリスマだと思った。多分、才能も必要だけど、ここまでできるというのは、長い間の苦労を重ねた結果だな。と、私は少し、考えたりしていた。

 社長が微笑んでいたのを鬼は見て、ブツブツと何かしら思う点を考えつぶやいていた。正直、現場にいるこっちは軽い電気刺激を受けたようなビリビリした気分だった。

 結果、鬼は自分の考えをまとめてから「許す…」と、言った。

 なんとか、丸く収まった訳だ。鬼は偉そうな“鬼”ではあったけど。貫禄はあるけど、どうだろう?

 たとえば、もしも謙虚でただ縮こまってばかりの、鬼襞さん。そうなってしまうと、つまらないか?

 ギリギリ問題にならないレベルの状況だったので、いや、そもそも抜け落ちた妖力点のエネルギーの原因も普通に多くたくさんあったということもあったので、製薬会社の皆さんは無事、合併先で大きな場所を貰えた。


 事が起きてから何日か経って、私は自分の身体が黄色い、レモンの色になった意味が、分かった。

 まず、黄色は明るく楽しい色だが信号など注意の意味を示す色でもある。

 続いて、レモンの色。酸っぱいというのはスルーができない刺激。

 台車の中に妖力点は入っていた。きっと開発した特効薬の目薬を合併先に車とかで運ぶ。

 そのとき台車を使うことで、手早くそこまでの地点まで、運ぶことができる。

 しかし、緊張感はスルーできない。刺激に悶えながら車とかまで運ぶのだと思う。レモンは酸っぱく爽やかであるのに、なんて悲惨な状態であろう。

 もう一つは、ダンボールを触ったとき、みかんの色に近い色になったのだった。

 みかんは実を食べれてお腹がいっぱいになる。それに、レモンより甘い。レモンはそのまま食べるのはキツい。汁などを活用する。

 研究者の目薬に対する思いがダンボールを触ったときのみかんの色と重なった。

 私はそういったイメージを感じた。何日か経ってから気付くというのは遅いのかもしれないけど、まず、業務には影響がないのでモヤモヤが解消できるだけでも、まだ良しってことにしておくとしよう。


「いらっしゃいませ、二名様御らいてーん」

 元気な声で、お店の方が挨拶する。なにやら、景気、良さそうなっぽさはある。

「海鮮五目ラーメン、一つに、チャーハン、一つ、餃子三人前下さい」

「はい、あいがとうございます。ご確認させて頂きます」

 ウエイターの人はそのまま厨房へ去って行った。

「冬美、仕事はどうした?」

「仕事の前に注文した方が話しやすいし、こっちも元気になる」

「だから、表で何だったら食べれるか聞いたのか?メニューの写真を熱心に見ていると思っていれば」

「別に、嫌なら食べなくていいです。私、お持ち帰りを頼んでして貰うので」

 多分、たいていのお店は持ち帰りづらそうな物で、なければ頼んでみれば包んでくれるところが多そうな気がする。海鮮五目ラーメンは麺が伸びるから、チャーハンと餃子を持ち帰ることにして。包装代ぐらいだったら、かかってもまあ、いいでしょう。

「俺も、海鮮五目ラーメンがいい…」

 なんだ、さっさと仕事を済ませないととか言うかと思ったけど、鬼だって、買い食いしたい派か。

 これは、どの程度のパターンが大丈夫かを探ったら楽しい方向へと行く、かな?

「なら、注文します」

 鬼は、割となんでも食べる。食べなくても生きれる的な感じみたい、だけど。

 そこは、ストレス解消に、なるからだからだそうだ。

「結局、全部、食べた結果で。比較的、気分良く、美味く感じた」

 鬼は比較的、迷いも、あるはずもなくすぐイスから立ちあがって言った。

「さっ、じゃあ行くか」

「はあ…」

 このまま帰りたい、ぐらいだけど。だって、仕事しないとお金がない暮らししか、ないという気持ちになる訳で。頑張ろう。

 会計を済ませる店員さんに、「すみませんが、責任者を呼んで下さい」と、言う。

 とたんに、店員さんは泣きそうになって「何かお気に召さないことでもありましたか?」

 もう、難しいな。

 かといったって、最初に店の入り口近くでいきなり「地獄から来たものです」って、言っても「ゲッ、幸先悪いっ…ケホッケホッ(咳出る)。私たち何かやったんですか?」って、なんかこれも楽しくなさそうだし。どっちみちか?

 だから、ご飯食べて元気な分マシ…。

「違います。仕事で用がありまして、食事は関係ないので。つまり、仕事ですから。複雑な話をできそうな方、呼んで貰っていいですか?」

「少々、お待ちください」店員は急いで奥へとかけ足をして、引っこんで行った。

 あっでも、そんなに急がなくても少し余裕ある感じでいいんだけど、まじめなとこがあるんでしょう難しいとこがあるから。

 しばらくして、一人の四、五十代の男性が来た。生きてきた経験の長さか、それともたまたまで、あるのか…。ゆっくり、歩いてやって来た。

「私は料理長です。私が責任者も兼ねてます」

 少し、私たちの様子を見て、「奥の部屋まで来て貰っても構いませんでしょうか?」

「あっ、まあ…はい。行きます」慣れないよ。この感じの、行程に。

 お店の人たちの休憩室へ連れて行かれる。大きい中華料理店だから、広い。

「すみません、店員たちの休憩室で。今、お茶をお入れします」

「あっ、結構です。食事してきたので」

「へっ、う――ん。はぁ、どちらで?」

「あっ、まあ。こちらのお店さんで食べさせて頂きまして。大変、味わうごとに美味さがジュワッ…」

「それは、まことに、ありがたいことで…」

 鬼襞さんは話のスピードを上げたかったのか、「地獄から来ました」と、正体証明カードを動かした。

 3D映像の一つ目さんが現れる。なんか別の複雑な作業をしていた、様子の一つ目一本足明後日見さん。

 少し周りを見て、ふと、思いついてしまう部分があったのか言った。

「あ――っ、この店が次のターゲットか。この度は何を壊すんだろう」

 クッ、ソッ。全く、一つ目さん、現場を荒らさないでよ。

「はっ?」料理長さんが、驚きの声を出した。

 一つ目さん、少し気がついたみたいで。

「あっ、僕、何かやらかしましたかね?つい、心配になっちゃって」

 普段、可愛いけど、こういう時の一つ目さんは実に、仕方がない。正直、結構困ってしまう部分があって、ほどほどに頑張って欲しい。

「一つ目、まだ何も言っていなかったんだ」

 鬼襞さんがムスッとして言った。

「えっ、ヤバッ。なるほど。さっさと済ませちゃいますね」一つ目さんは私と鬼の証明をサッと済ませて、電話的なアレを切って、しまった。

「アイツ、後で説教。するべき仕事は考えるべき」

 鬼襞さんは、ちょっとだけ目力を強めて言った。

「ゲッ…」

 普通にキツそうな説教かもしれないな、と私は思った。

 この後、料理長に必要なモノを壊さないと地獄に落ちる可能性が高いと伝えた。

「そりゃあ、地獄から来たと、きちんと証明ができている人と鬼の方が言うんだから、まあ協力はしますよ」と、料理長は返答した。

 料理長が客席は後からと、いうことで厨房の人たちのちょっとした紹介を、してくれた。

 まず、副料理長。

 それから、コックさんたちの、なんとなくの仕事の担当的な部分を教えて貰った。忙しければ色々手伝わなければいけないそうだが、勉強したい分野で役回りが微妙に変わっていた。人によって仕事の年数が変わるからそういう風になるんだろう。

 さっそく、捜しだす。調理器具、食材。料理長やコックさんに尋ね聞き、触っていく。

 珍しいお野菜とか、お魚。コックさんたちの反応がキツい。手を洗って、ちょっと触っているだけですよ。仕事だし…。

 肉。アアッ、コックさんたちの反応が怖いっ。

 次は、包丁。包丁を触ると、手が鮮やかなピンク色になった。蛍光塗料のような色だ。

 コックさんたちに、いぶかしげな目で、見られた。普通にそうしているから怪しいと見られたのかもしれない。

 よしっ、ここは普通に魔法的雰囲気を出すことにする。実際、そういったもんだから、いいだろう。

「ホワ――ヌンッ…見えてきた、妖力点が…」

「お――っ」小さな歓声が、起きていた厨房で。鬼襞さんだけ、ものすごく真顔だったけど。

「この、包丁は?」

「副料理長の持ち物で、菜包丁です」料理長が、答えてくれた。

「ナ包丁?」

 パッと字が分からなかった。

「名前の通り野菜の菜などを切る包丁ですよ。材料によって、包丁を変えるので」

 料理長は親切に説明をしてくれる。面倒見がいいって雰囲気だな。

 副料理長に、包丁を壊さないといけないと、言う。

「包丁は料理人の命。壊す?最低だ!」

 その程度のことは、言われそうだなと、思っていたけど。よく、見ると副料理長は目の下に少しクマがある。料理長には無かった。他のコックたちには、あったっけ?

 副料理長は少し疲れぎみか…?

「しかし、壊さなくてはいけないんです。どうか、調べさせて下さい」どうにか、必要なことを伝えることができた。なんとか社会人の生活一歩前進したのか?

「調べたいのなら勝手にしろっ。壊させるとかないけどな」やっぱ必要なモノを壊すとか、理不尽な願いで、本来だったら聞かないよ。

 嫌だろう。

 少しの間、副料理長の様子を見ていた。何も進展がない。

 しばらくして、副料理長がレバニラ炒めを調理していた。菜包丁を使っている。これは、ヒントになる。

「私にもレバニラ炒めつくって頂けないですか?」

「フン」と、言ってつくってはくれた。

「ものすごく最低なひどい態度で、すみません。先程食事を、して頂いたことも含め、こちらの料理代は結構ですから」と、料理長はつけ加えて言った。

「どうも…」と、私はお礼を、伝えた。

 私は料理の様子を、見ていた。料理が、完成をした。

 私はニラに触ろうとする。

「料理を触るな。やっぱり思っていた通りだな。お前は料理人の気持ちを知らない。お前は料理を裏切っている。料理の存在を無しにしたんだ」

 鬼襞さんが間に、入ってくれようとしてくれたが私は止めた。

 理屈じゃない、それは最終手段だ。料理人の包丁ってのはそれだけ価値があるんだ。生きるって戦場だ。ただ、お前の価値を曲げてくれなんて言えない。地獄に落ちたって、なにか意味が分からないモノに汚されたくないんだ。まだ、私は料理に触らない。

 私は、つくられた料理は触らなかったが、普通に食べてみた。身体の色は変わらなかった。あの、包丁で調理をしたのに。心理的要因が、あるのか。怖いから。

 今は、料理を食べるのに集中してみよう。

 このニラ、普通のニラより長さが長い気がなんか、する。

「食べごたえを出すためですか、この、ニラを長めに切っている意味は?」

「正解です、うちの店では食べごたえを出すために、そう、切っています」料理長が答えた。

 勘が、的中した。

「素人の割には、やるな…」

『ニラは考えられて、切られている』

 私は何かが引っかかった…。

 普通より工夫をするってのは、普通よりほんのちょっと負担が増える状態。だけど、そんなに複雑な作業という訳でもない。

 私はしばらく考えていた。

「ひょっとして、副料理長…。お酒やギャンブル、何か依存、している症状ってのはないですか?」

 私は自分の身体の色の変化という、魔法みたいな力を駆使して、推理をやってみた。

「なぜ、お前がそれを…?」

「なに、お前まだそんなことを…?」

「うっ…」

 えっ、当たった?これは魔法か超能力のような、ものがあったら私の推理力がやや上がるというのが、あったりするかも。

 ただの普通の推理だと、経験値がたりないとできないって気になりそうだけど。

「俺だって…料理長。酒、飲みたくて、遊びたくなって、パチンコで遊びたくなって。でも、つい、ワザとではなく、そんな状態になっていたりになってしまうんだ」

 料理長はだいぶ、キレていた。

「お前それで、前にだいぶ身を持ち崩しただろ?やっと治ったって思ったのに、合わせるこっちの身も考えろよ。ふざけるんじゃないよ、本当にクズが」

 ニラを切るときが、煩悩を思い出す時間になっていたのであった。

「今日は、もう、店を閉店にする」料理長はカンカンに、怒って言った。

「えっ?」

「ここは地獄で困ったことに、なるんだろ?やっていない方がいいんだよ」

 それはそうだけど。そりゃあ、お客さんがいるときに、妖魔化をしたら大変だからな。でも、却って不安にはなる。ガッツリ、妖魔、出てきたりしないだろうな。

 私が困った目にあうかもしれないんだけど。鬼襞さんがいるから、大丈夫か、多分。頼りにはなる、鬼。普通に、ありがたいのだろうけど、どうだろう?

 これまでのことが、あるから難しくて困る。

 ウエイター、ウエイトレスの方たちは、帰ったのだった。

 なんとなく、コックの一団は帰らずそのまま、残っていたのだった。

「俺たちも少し意思が曖昧なとこがあって、副料理長が、ストレス溜まってきていたから、先週末に皆で酒、飲んで。今週の平日、暇な時間に皆でまた、パチンコでまた、かなりのお金使ってしまって。生活がマズくなりかけになってしまい。俺たち、副料理長、大事だし」

 コックのまとめ役が、おどおどしつつも言った。

「そらみろ、お前がいけないから、朱に交われば赤くなるだ。お前が皆を乱してダメな方に落としたんだ、馬鹿が。…借金をしてお金を返さずにいた。お前の他にも、三人のコックにも金を貸しているんだ。合わせて、全部で計、七百万円だ。この、馬鹿野郎の、クソボケめ」   

 料理長は、怒り心頭だ。

「…コックのお前らもお前らで最悪だ。手間かけさせやがって。二ヶ月前まで、ありえないことに、この、たくさんの人数でもって、コック共とお前で、週二、三回、二日酔いをしてくる。悪過ぎて、驚きまくって仕方がなかったから。」

 五ヶ月続いたらしい。それまでも、二、三度なりそうな傾向があってうっとうしかったらしい。

「副料理長は遅刻を五度もしていた。そもそも二日酔いで動きがトロくて迷惑だった。俺はお前らみたいな本当に毎日毎日、クソ生活が乱れている人間が大っ嫌いなんだよ。ほんと、滅べばいいって思っているから…ガチで。副料理長、お前は厨房で二日酔いで二度もゲロッたな。神聖な厨房で」

「あのときは、具合が」副料理長は、ほんの少しだけでも怒りが収まればいいという考えでもあるのか、言い訳をする。

「い――や、二日酔いだっただろ。厨房なんて、めちゃくちゃ綺麗に掃除だけちゃんとしたなら、なんとかなったりするぐらいの話かもしれないんだよ、そりゃな。俺は、本気でお前の腕をかっていたから、なんとか許した。神聖な厨房でこんな…他の店ならクビになるきっかけになったっておかしくないからな。俺は今、お前をクビにしてしまいたいと、思っている。お前らコックたちもだ。この、クソ野郎共めが」

 料理長はだいぶ大きくストレスが溜まっていたようである。何年か分のストレスが噴き出したのだと、思う。だって、その前は結構仲のいい雰囲気で料理つくってたし。笑いあっていたんだから。副料理長の腕をかっていたと、言っていたし。そんなに、仲が悪いって訳ではないはず。愛情もときにこんな瞬間があるかもしれない。

「もう、副料理長とは、仲良くできないんですか?」

 なんか、ずいぶん、エラいことになっているのではないのコレ。菜包丁を壊す話、どころではないよ、今。

 料理長はいっさい全く、何も答えようとするけはいが、ない。

 いったん、副料理長には一まず席を外して貰い、他のコックたちと共に他の部屋に行って貰った。鬼襞さんは私が「優しい顔でいて下さい」と、頼んでココにいる。

「好きじゃないんですか、副料理長のこと?私が来た最初のときは、楽しく働いていたでは、ないですか」

「簡単に言わんでくれ…」

 料理長はどこか別の方向を見て言った。そこには何が見えているんだろう…?

 でも、私の心の中だけかもしれないが料理長の目の焦点が少しずつ定まっていく感覚がした。偶然だけど、一致したかのように、語り出した。

「アイツの中華料理には愛がある。俺はそれだけは信じているんだよ。料理を食べると優しい気分になれる。一緒に、仕事をしたい」

 アレ、なんの問題もないのでは?その後が、続く。

「でも、時々ほんと嫌いだったりする。…ゲス過ぎて。ただの、邪悪な生き物に見えてしまうときが、少しはなくはない。とは言っても、愛は、絶対にある。だが、どうしようもなく嫌いであったりするから、仕方がないだろう」

 う――ん。聞いていると、どうだろう?完全に修復をするのが不可能でもなさそうな気がしなくもない。

 上手くいかない場合も多いかもしれないけど、この場合、少しはなんとかなりそうな部分もありそうな気がする。

 …その時だった。

 副料理長とコックたちはゆっくりと入ってきた。なんと、顔が青ざめ、唇も青くなり白目になっている。霧の中でずっと長い時間、さまよい続けていた人たちみたいだ。なんとなく、どういったイメージかを考えると。話を、聞いちゃったのかな。ショックが強かったのだろうか。妖力点のエネルギーを、被ってしまった。

 鳥人間と化した。結構羽毛たっぷりのプテラノドンみたいな感じだ。でも、目鼻立ちは人間っぽさがある。

 それにしても、だいぶ大きな中華料理の店だったので、十五、六人ぐらいいる。料理長は大きな口をあんぐり開けて「化け物…」と、言っている。…とても、かなりのキツいショックを受けている。今回は私が殺られたら、料理長も殺られるだろう。どんなに仕方がなくても、絶対、こんな終わり方では、嫌なので回避をしよう。

 一周、五十メートルぐらいかなという部屋。料理長は出ていこうとしたが、やはりドアは、妖魔の悪い魔法の力によって、開かなかった。

 遊び仲間のコックたちは、ちょっとだけ大人しそうな鳥人間であった。まあ、でも充分脅威になるという気がする。

 鳥人間が羽を羽ばたかせる。

 パンパンパン。床にあるタイルがはずれ飛ぶ。

 キッチン台がえぐれた。

 羽が堅い。それに、重い。

 まるで、これじゃ、包丁のようだ。鬼が防御をしてくれるが、ちょっと危ない気がする。つい何か感じて、ふと木刀を向けると、…どうなってんだこれ?見たら、プォロプォロギュケロディロッシュオヒュロギュデロッと。

 あっ!木刀がいたんでいる。これは、羽のほんの少し浮かんでいた残りが、ついて傷ができている。しばし動きながら考える。

「このままだとやばいですよ」

「んっ?」

「木刀のこのいたみからいって、羽の攻撃を受けたらぶっ壊れます」ということは私の生命の危機を意味する。鬼は少し考えて、小さいビンを取り出した。ガラス製のようだ。

「これをかけろ」

 しかし、ガラス製のビンを直でふところに入れているなんて転んで割れたら、人間なら絶対に危険だ。

 なんだか、やっぱり鬼のふところはどこか別の世界に繋がっているんじゃないかな。どうも、ドラ○も○のポケットみたいなので、ちょっといいかもな、と、思った。

 ビンの中はメタリックな色であった。

 ちゃんとした説明を聞きたかったがその時間は状況として無理そうだ。トロッとした液体を、刃の部位辺りに、たっぷりとかけた。

 小さいビンは使ったら鬼が受け取ってふところにしまいこんでくれた。ビンが割れると困るのでどうしようというところがあったのでだいぶ助かった。ジェントルなとこ、少しはあると思った。

 メタリックな色の液体をかけたが、木刀の色は変わらなかった。

 ところが、モクモクモクッと、赤い薄ーい湯気みたいものが、木刀を包む。それが、私の心に染み入ってくる。

 この液体は私の木刀への理解を深めるものだった。

 多分、私は普通に人間だから、地獄の鬼の方たちよりも木刀に対する感覚が鈍い。だから、分かるための補助をしてくれる液体だったのだろう。

 メタリックな色合は理解するために使う、機械の装置のイメージだったのかな?

 私の中で木刀との距離が近づいていく。そのとき、これまでの木刀のイメージが変わった。

 アッ、地獄の木刀をナメていた。こんなに、力があったのだ実は。私が弱かっただけ、か…。

 知らなかった。木刀はこんなにも力を秘めている。すごく弱っちいだけだった、私は…。

 だけど、今は、不安であっても木刀を信じなければ。これから絶対、いろいろ起こるんだ未来は。できること、するしかない。

 なので、木刀は私の気持ちの一部のような感覚が、してきた。心地が良くて、いつまでも握りたくなった。

 私は、木刀をきちんと振らないといけない。

 技術とか、だけじゃない。本当に大事なのは、本気だ。だから、気合で振らないと、意味がない。

 鳥人間の、羽の堅さや重さに、この木刀は負けない。必ず、勝つ。信じている、頑張るぞ。危ない存在の妖魔から料理長を、最後まで試行錯誤で守ってみせる。

 どっちみち私の方を先に襲って来てはいるが(妖魔の人間であったときの心理ってのがあるのかも〕。なんか人間で、倒しやすいから来てしまう。

 でも、負けずに妖魔を倒す。とにかく勝って、終わらせないと。

 それに、鬼が、九割七分は倒すはずだ。と、すれば、三分だ(この、仕事はだって、これだけではないのだ。私は別のこともやっているので。時々、悔しい気持ちが出はしますけど。もう少し、欲しい部分があるんだろうか?どうだと頑張る意味があるのか、難しい箇所だ、これに関しては)。

 絶対、乗り切ってみせる。気合を入れたら、なんとかなる。

 すると、急に木刀が白っぽく青く光った。傷付いた箇所が、徐々に段々ものすごい勢いになって、すぐに修復が完了してしまった。体力は、少し消耗はしたけど。私は、あることが不安になった。

 鬼に聞こう。

「木刀に寿命を食べられたりしてないよね?」

「馬鹿言うな。少し、体力を与えただけだ。寝たら、すぐ回復するぞ」

 なんだ、そんなこととは思ったけれど。

 もっと情報を教えてくれてたら、いいのに。だいたい、木刀も急に体力持っていかないで欲しい。コレ、難し過ぎて、分かんないのかな…?

 多分、意識ができればいいのか。そういえば、前に、鬼襞さんに地獄の木刀について尋ねていたな。

「この木刀はあの時にだ、結局、お前にあげたってことになる訳であるんだが。お前が一番最初に使った持ち主なんだ。持ち主の性格で、木刀の性格も変わるからな。下手に知らない方がいい。頭が痛くなって仕方がなくなってしまうぞ」

 いや、あのときはよく分からないままで、そのままこの状態までずっと、あったということになるんだけど。

 信じていないと、使うのが無理な力か。

 私は、微妙なレベルで照れながら、ヨシヨシと木刀を撫でた。馬を撫でているみたいな感じか。

「…ごめんな、木刀。なんか、私、気合たりていなかったのかな。取り組み方がよく分からず、難しかったのが、あったんだけれども。もう少し強くなって振るから…。よしっ」

 木刀をどう使うかをきちんとイメージして、気合で動き続ければ勝てる。

 血に熱いものが入っていく、気がする。私は身体に、熱がこもったのを感じだ。だけど、おかしい感じで熱くなったりせずに心地良くリラックスして向き合っていける。

 しかし、足を上手く使わないと、絶対処理ができないな。どこまでも吹っ飛び続けるに違いない。パワーが強いというのは、その分、反動が増えていくってのがある。

 羽が飛んでくる。

 グアッシュ――ン。

 参考のため、鬼の動きも見ておいたのだ。で、攻撃がどういうものかを、理解。

 それから、木刀の、まずできることを想像していく。こういった感じでいこうか。

 イメージで小動物が鉄の身体で襲ってくる。…それは御勘弁。木刀の横の広い面で払い除ける。

 私の、考えた通りに成功して、羽は横の方へと、飛んでいく。もう一匹、鉄の身体をもった小動物が襲ってくると仮定をして横へと払い除け、飛ばしてしまう。

 タイルも一、二枚。

 パッキーン。固くなった、こんにゃくが飛んで来たって思えば、まあ、どうにかなるって思う。

 なんとかなっているぞ。

「オシッ」

 ここで、鬼襞さんに料理長への守りを堅めでお願いしますと、アイコンタクトを取った。伝わったかどうかわからないので、直接言う。

「ここから、勝負をしたいので料理長の守りを堅めで、お願いします」と、軽く頭を下げて、言った。

「ウムッ。で、あるなら任せておけ。大丈夫だ」

 頼もしいな。なぜか、私は一瞬、恥ずかしさが出た。

 そんな…ここ、恥ずかしさが出る、場面であったんだっけ?じゃあ九割七分の実力が、あるためとかであろうか?

 まあ、ほとんど、鬼襞さんがだいたい、やっているようなもんではあるけど。

 もしものことがあると悲しいので、念のため。

 とにかく、勝負をする。

 十の体の形をしている鳥人間。羽のかさでよけずらいかとか、あるか。

 足だ。足を狙えば。

 グゥア――ン。…飛んだ。

 もう、一体来ている。少し、足を引こう。クロスした。次、どういう軌道で来る?身体をひねって、右のがパーンチ。

 いつもより高い上段。木刀にさっき見せて貰ったイメージを私も身に纏う。信頼するよ。

「だ――りゃ」

 おわーっ、いい感じで飛んでいった。

「やった」

 でも、まだもう一体いる。

 ぴゅんっ。ぴゆんっ。ぴゆんっ。

 三つ、羽が飛んで来ている。

 なるべく、停止。よける、また、三つ飛んで来た。

 一回目より、狙いが荒い。

 私は、飛んだ。鳥人間の脳天に向かって一撃…。鳥人間は弾かれたように転がっていった。

 後は数が減ったので鬼襞さんがしっかり、攻撃をして、全部倒れた。

 今回、木刀を使っての、力の意味を深く知ることができた。地獄の木刀の秘めた、すごい力を少しでも使うことができた。料理長も守れた。絶対、成長が、あったと思う。

 ただ、普通に鬼襞さんは快調であったので、九割七分倒した。私は、言いたい。数字だけじゃない物事はと。

 正直、私は他の部分で(妖力点を捜すとか、なぜ壊すかの理由について調べたりとか、家で書類作ったり)結果を残せている。

 多分、大事なのは内容だ。数字もいいけどまずは内容で頑張りたいと、やっぱり、思っているところがある。正直、私はそれで結構オッケーだ。

 鬼がパンチをすると、包丁は粉々になって壊れた。まるで、ものすごく柔らかいもののようだ。

 エネルギーが出る。よしっ、ではいつものように、私の中へ…。

「へっへへうっへっへっへへへへうっううふっふ――っ」

 す早くお茶を配膳するかのように妖力点を奪いさった…。

「あっぁ、ない。妖力点が」

 妖力点の、エネルギーの光が消えている…。えっ?嘘…。

「ど、泥棒だよ。悪いヤツ出た」

 アレ、見覚えがある。

「ってか、アイツ最初、人間の世界で会った妖魔たちの中にいた、妖魔だ。少し、会話もした。特徴のある表情をしていたから覚えている。それに、動きも一緒だ。だけどこれ、どうなるの?」

 副料理長や、コックたちは、まだ妖魔の姿で、エネルギーがなくなって幽霊状態になっている、まんまだ。

「納まるところへ納まらないと、檻から出た、猛獣みたいになってしまうぞ。永久に、妖魔になる。悪いことし放題になるだろう」

「もし、万が一なってしまったら?」

「そしたら地獄へ完全に落とさねばムリになる」

 ええっ、嫌だな。苦しくなるよ。「そのうち、アノ、妖魔たちの仲間にでもなっちゃうのかな…」

「行かないとならぬ」

 すると鬼は急に、走り出した。

 隣にいた私は何かしら接触したのか、腕が浅く切れて血が出ている。深さ、一センチくらいで切れてないか?

「イッタ―ッ」

 手を上に向けて、地獄製の小さいカバンから洗濯後未使用のままであるハンカチを出して上から、押さえた。

 もっと、いいやり方がある気がしたけど、地獄からの支援『いやしの回復術』が、くる前提で血を抑えていた。

 鬼襞さん、普通に迷惑な。

 ダッシュで鬼は帰って来た。

 手には妖力点を持っている。早―っ。

 まだ、ケガしたかいがあってマシだけど、普通に安全に気をつけろ。常識ぐらいは、思い出せマジ。

「すまん。途中、仲間がいたみたいで上手く逃げられた」

 それは、残念だった。

「妖魔は何が目的なんです?」

「分からん…冬美、どうしたんだその腕」

「お前だ――っ」

 私は鬼を力強く指を差して、言った。

 鬼襞さんは、顔に汗をタラ――ッと流して口をポカンと、開けていた。

 たとえ、回復術があったとしても、これだけで済ませたんだから私は偉い。

「冬美、ごめん。ごめんな」と、鬼襞さんは少し申し訳なさそうになって謝った。

 なので無事、私の中に妖力点が納まって、妖魔化した皆さんは元に戻ったのであった。

 副料理長は少し涙を流した。

「俺、迷惑かけちまって」

 鬼襞さんにやられたケガの、部分の方がひどいけど、ね。

「俺の生活がダメで乱れているから…」

 結局、聞いていくと五年前ぐらいから、ギャンブル(パチンコ)が生活のバランスを崩す原因だったようだ。料理長のきまじめな性格がストレスになっていた雰囲気も、あるのだろう。

「副料理長、包丁をすみません」

 大切な包丁を壊してしまった。仕事で、その程度しか方法がない雰囲気と言うか状態で。しかし、壊さないと皆さん地獄に落ちるか、危険な存在であったので。

「いいんだ。こっちこそ悪かったな。普通に、嫌な言い方になって基本的な態度が良くなかったんだよ、俺は」私は少し考えて思った。やっぱり、副料理長はきちんと遊ぶべきだったんじゃないか、と思った。良くない状況。心配をしてくれている人を見て足場をきちんとして良く遊んだらなんとかなったのかな。

 というか、ちゃんと遊ばないと。金儲けをしようと思うのが微妙。下手に金儲けをしようと思うと、中毒になるかも。野望に近いものを買いに行くってことになるから。

 普通に、真面目なのかもしれない。ちょっと分かる。リスキーなことだ。料理長にも理解して欲しい。

 そしたら、頑張れるから。などとちょっと思った。で、後で料理長とかに少し言った。

 伝わったかどうかは、なんか定かでない。

「ニラの長さが悪いわけじゃない。俺の心が弱っていたんだ」

「どうだろう、二十七年ぐらい生きたまんまで、地獄のコースに行くっていうのは?」

「えっ…」

 副料理長は、汗を出して動揺している。鬼襞さんは空気が読めない。だって、人間じゃないから。鬼は、空気が読めない。

「副料理長。特別だぞ。包丁買ってやるよ…。ないと、困るだろ?」

 料理長は副料理長に提案した。やっと、二人の仲が落ち着いたのだろう。

「うっ、うん…」副料理長は、三十歳は超えている感じだけど、料理長の出す、思わぬ優しさを受けたので照れている少年みたいな返事をした。

「ありがとう」

 鬼襞さんはしばらく本気で二人の、その様子を見ていた。

 イメージで話すと『餓えた猛獣が自分の中の理性をひねり出す』のに、似ているところがあった。ブツブツと鬼は一名で言っていた。また、場は緊張状態に。ピリピリ、ドキドキ。

「まっ、コレもヨシとしよう…。許すっ」二、三分、考えて鬼は言った。

 ったく、偉そうにしている鬼。多分、無意識だろうけど、カッコをつけていそうに見える。という経緯で、一件落着だった。


 私は数日後、自分の身体が鮮やかピンクで蛍光塗料のような色の意味が分かったのであった。

 当日でも、身体の色が変わることで、やや推理には役立ってはいたのだが、色の意味までは分からず仕舞いだったからだ。

 では、ピンクだと、何が浮かぶか?桜、果物の桃などを思いつける。…桃。なぜか、桃で桃源郷が頭の中に浮かんだ。桃源郷を想像して浮かぶ私の、イメージはお酒を飲んで幸せそうに暮らす人々だと思う。

 ユートピアってものだろうか。

 副料理長はギャンブル(パチンコ)できまじめな性格の料理長と上手く合わなかった。

 それから、鮮やかだと、目を引く。

 蛍光塗料のような色は参考書などで注目したい箇所に線を引くなどに、使う蛍光マーカーを思い出す。自分の勉強に対する好奇心を測ることもできる。あーあ時間があればな…。教科書に対する愛は瞬間的にはすごく高かった。結構、いい関係かもしれなかった。あまり、正直、成績がいいと言うレベルではなかったけど。時々楽しかった。

 結局、ユートピア辺りで注目しておくと、何かが分かるってことか。無事なんとかなって良かったってのが、とりあえずある。

 あいかわらず、すぐに分からないけど仕事になって、結構。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう始まる。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ