第 一 回
「お前、一緒に来いよ」
私は妖魔に腕をつかまれた。
困惑より自然さがあるというのは、なぜだろう?と、すると魔法かな?妖魔は四体いた。私の腕をつかんだのがカシラのよう、だった。
妖魔はさっぱりとしたウールの上着を開けて着て、下には何も着ていなかった。
肌は血の巡りの悪い色をしていて、まるで、収穫が、『闇の太陽』が、ほぼ光ってどうにかできない、可能性が高い状態を感じてしまう、ような、土の色をしていた。
下は毛羽立った、布の分厚いジーンズのズボンをはいていた。靴はウス――イ生地の革靴を、履いていた。
服の色は妖魔一体、一体、違っていたりしていた。私は腕をふりほどいたりすることが、できなかった。
その妖魔の目の白さが、絶対キュンとしてしまうくらい、白く純粋に見えたからだった。何かあるんじゃ、ないか。私が知らずにいるようなことが…だったら、必ず知らないと。
どこまでも私は妖魔の後を追った。ずっと、完全に絶対に分かるまで見つめていたかった。あれ、私って愛していたのか?あの妖魔を。その辺は難し過ぎて、謎が多くて、驚いた。これはAIでも解けない、完全に。
少し、歩いた。途中で、「俺はね妖魔だよ」って、妖魔にきちんと教えて貰った。
「地獄でやってもらいたいことあるんだよ。来てくれる?」
私は迷ったけど、結局は気になって信じた。で、なければ関わらなくていい。と、なったらきっと、もう、この話は消滅をしているだろう、完全に。
「はい」
妖魔は近くにあるマンホールを、指差した。びっくりするくらい、怪しいオーラが出ている。妖魔と一緒にいるから、普段ないものが存在するんだろうか?
「ここから、行く」
「えっ?」
不安になった。しかし、本当にすごい怪しいオーラが出ているのに帰るのは気になってしまう。仕方がない。私は覚悟を決め、マンホールの中へ、入った。狭い…
だが、中は結構広かった。例えるなら、飲み口の短いビンの形状がしっくりしそうな感じで畳、三畳分くらいありそうだった。他の妖魔は既に飛び降りて、落ちていっていた。大丈夫か?妖魔はでも、羽がついているんだから平気か、うん。
掴む部分が二つくらいしかないからどうしようかなと思っていると妖魔に手を引かれ私は落ちていった。
マンホールの中は全身が見える、鏡ぐらいの大きさの水色の水晶の柱が、お皿を綺麗に補修する金継ぎみたいにいっぱいくっついている。光がどこからか出ている。水晶の血みたいなものは、電気が通っているのかも、しれない。
光が、黄色にキラキラと輝いて、反射をしている。落ち方も私は妖魔に手を引かれスカイダイビングのスタイルだった。
怖くないのかと言うと、平気であったのは、完全に魔法のカスタードクリームだったからだ。
シュークリームのカスタードクリームが残念ながら、惜しいことに床へと落ちてしまう。このとき、床にある衝撃はほとんどない。私は不思議な魔法でシュークリームのクリームの如く、下へ向かって落ちていったのである。とにかく、楽しかった。
正直、遠足みたいな気分だった、やっぱり。時間にして、十五分くらいだっただろうか。イルミネーションを、中々堪能できて満足だなと、言った感じ。
だが、地獄はなんか、「クッサーッ」って言ってしまうほど臭かった。鼻がもげるかと思った。気持ち悪いっていうのがある。逃げ帰りたい、ぐらい。信じられないが本当。
一生終わらないのかなというぐらい、目が回りそうだったけど。なんか、だんだん慣れはした。一応と言うぐらいのレベルで。
そのときこれはなんかダメだなって気が、心の中で始まっていた。あれ、地獄がこんなに、臭いのはこいつら妖魔がまさかの嫌な存在だからなのではないのか。そういえばこいつら、優しさや、普段の生き方へと向かう心のとらえ方というものが、徹底的に、最低で臭いかもしれない。私は徐々に迷いが出てきていた。
妖魔たちは人間の世界ではまだ、何も悪いことはしていないけど。モノには限度と言うものがある。だから、悪ふざけは、その意味を象徴する、最たるものになり得る可能性があるのでは、ないだろうか。
妖魔たちは地獄で、盗みを働いていた。ちょっとした物をだ。地獄では許されるなんてそんな理屈は通らない。おかしい。妖魔は『地獄を住みやすい場所に変える』と言っていた。それを、私は、いい考えだと思ってしまった。もしかすると、クズに近い部分があるのかもしれない。だとすると、それは嫌で、無いことであってほしいというのは、あったりはするが。
私はゆったり、それから後、ぼんやりとしていて、びっくりするぐらいダメな部分である範囲でものん気な人間であったかもしれなかった。でも、できるだけゆったりする人生、かなり好きとは言える。やはり、本当のところ、実際。
〈つまらない、喜びしかないなら意味などない。いらない。そんなもの絶対〉私は、そう妖魔に言って帰るべきだ。
なぜなら、地獄にいた女性は、盗みを働かれてしまったとき辛くてちょっと泣いてたぞ、クズ。妖魔は志のためならなんでも許されるなどと言っていた。そんな訳などない。帰れちゃんとした場所に、アホ馬鹿たれ。
でも、私は地獄なのに気合満タンで熱が冷めずにいた。妖魔の信念が少し気にいっていたのかもしれない。
しかし、いいかげんな人間よりはいいけど、生き方を安易にしてしまうのはやっぱり馬鹿と同じことになるだろう。こんな、妖魔と熱を上げていつまでも頑張ろうとするのは、どう考えても、いいとは言えない。
妖魔はずっと、手を離してくれなかった。私は地獄の教会へと連れていかれた。そこには妖魔がいっぱいいた。一緒に来た妖魔と全て合わせて少なくとも、四十体はいた…。そして、そこで私はなにかを、言わされそうになった。いったい、何をさせようとしているんだろう?まだ、意図がよく、分からないところだ。その直前、急に何者かが教会に入ってきて。
私は、地獄の溶岩へ、なぜか突き落とされてしまった。私の身体は燃えに溶けて、魂だけになってしまったのかもしれなかった。どうかしている、展開だ、ひどいだろう。
そして、しばらく時間が経ったような状態の後。誰かが一人でひんぱんに来るようになった。他には誰もいない。あれっ、どうも、様子からして確実に私のことを見てないか…?
姿は岩の影で、人型のぼんやりとしたりんかくぐらいしか分からない。
動き…もう、どう考えたって確実に、一緒だ。この、ものすごく、ひたすらめちゃくちゃ、やって来る人のパターン。だいたい同じだな。
これ、違うとすると、どうなったらいいんだ?うん、超すごい、確率で同一人物であった。時間が分からず、私はそれが永久に感じた。ずっと、同じ空間。ずっと、スタートがない。つまり、距離は近づいたりするなどということはまず、ない。永久に。
私の人生は終わったかに見えた。いい生き方など、もうない。
スタートするものがない。面白くない。だって、いいことがない訳で。
でも、つまらなくたって、楽しく暮らすというのはできる。私は活発な魂であった。地獄なんて、忘れてやる。構っても面倒だ。
私はこれまで、体験したことを、ずっと頭の中で再生をしまっくって、パズルに変換して、遊んでいた。
ずっと、永久にエンドレスで、やってみせる。つまり、もしも終わらせることができたって、それは不必要。やらない!
私は、まだもう少し考えたいのに、鉄の鎖みたいなのでズルズルと引き上げられた。あの、溶岩の中から。
不思議と私はやつれていたけど、後は服もすすで汚れた感じでそのままだった。で、誰かに手で肩を抱かれて、歩いた。私はそれでも、普通に地獄の苦しさで、その人の顔がどうも、上手く見えなかった。
岩のトンネルが通路だ。
かまでご飯を炊いたときにできるおこげみたいなにおいがした。
その、足を進める通路。
昔の少し中華風のやや堅い雰囲気の宮殿の前へと、辿り着いた。
宮殿の中で、かすんでいる目で、すりガラスを眺めるようで顔や姿がはっきりとは分からないが女性のような方が引き上げられたときについていたすす的なものを綺麗にとってくれた。
さらに会わないといけない方がいると言われ広い部屋に行くと、でっかい男みたいな人が、座っていた。
この人の大きさと比べると、私の大きさは手でつかめる小ぶりの人形ぐらいと言うべきか。
最初に隣の人が「閻魔様」と言った。
「この方が閻魔大王様だから」と小声で私に伝えた。私は目を見開いて、さすがにびっくりする状態が起きないと思っていたのに驚きの気分を味わった。
「ヨウリョクテンが抜け落ちているぞ」
閻魔大王様が、閻魔帳みたいなものをバサッバサッとやっている。
ヨウリョクテン?
その後も閻魔様が「ヨウリョクテン。ヨウリョクテンをどうする?」と、言っている。
それ以外は心身の調子が悪いのか、上手く聞き取ったりすることができない。
隣の人は私に対して笑顔をむけて、やはり顔がよく分からないが、閻魔大王に説明をしてくれているようだ。
閻魔大王がその人を指差している、多分。
声はよく聞こえないけど、おそらく「オマエガワルイ」心に吹きこまれるニュアンスの風を感じるに(お前が悪い)って、言った気がする。その後、閻魔大王は、色々と言った。
言っていることが正式に、よく分からないとしても、一個一個の言葉の選択より起きる指摘に、私も心の身体がひりつくように感じた。隣の人の姿がよく分からないがしんどいのに違いはなかった。ほんのちょっと微妙な部分で、許してもらうことができないということに関して気の毒ではあった。
終わることがない怒りのにおい。
「お前は地上へ行け」
これは聞こえた。地上勤務にする。その子を連れていけ。
閻魔様にそう言われた。私は隣の人に両手で肩をガシッとつかまれた。まだ、顔は判別できない。
気がつくと、ビルに囲まれた、オフィス街らしき場所の道端にいた。
男の人がいた。肩に手を置いている。知らない人。本当なら、すごいびっくりして逃げそうになるんだろうけど、私は今地獄から帰ってきたところで驚きはない。
一緒に地獄から来た方だと思う。目が魔物っぽい。牙も、口からグワッはえている。ツノが頭からニョッとはえている。で、背後に、羽が?羽はあるかな?
はえ際だけなんか、見えるかな?背後から眩しいような暗いような、オーラが出てどんな羽がはえているかが、分からない。だけど、まあいっか。
考えたら、鬼だ。ツノが、あるので。フ――ン。
溶岩に長い間漬けられてた私はなんにも感じない。襲ってくるなら考えるけど、なにか安心させるものがあるし。閻魔様とのやりとりか…。だからって、なんにもしたくない。
「失礼を、させて貰います。私はこれで」私はそうやって鬼に告げ、そのまま帰って行った。
鬼の白い綿毛のような白さの目を感じた。ふんわりとして、優しい部分もありそう。だが、ほっておいた。
イラついていたからだ。なにかを許してもらって地上へ戻ってきたみたいだが、鬼に生活を荒らされたくない。そっとしといてよ。キツいよ。本当に、嘘ではないニュアンス、という意味合を使って…
ポケットに電車で使えるお金を、チャージすることができるカードをたまたま、偶然に持っているなと、感じた私は微妙に少しだけ妖魔に誘われて、行ってしまったことがある道を歩き、自宅へと帰った。
他の荷物は地獄に忘れてしまったようだ。
いいんだ。もし、地獄の住人から何かしようとされれば、どうにかなったりはあるんだから。
構っても、意味なんてない。
家に帰ると、地獄に行ってから、一日しか経っていないことが分かった。時間がかなり元に、戻っている。
では、魔法の力か。私は二十一歳。親からは怒られた。晩まで帰ってこなかったら警察署に行って、行方不明者で捜索して貰おうと捜すのに、使う写真まで用意していたそうだ。
窓の外には、鬼がいた。追いかけてきたらしい。ご苦労なこって。私はカーテンを閉めて、寝た。夜中にカーテンから一度外をのぞくと鬼はまだいた。
人間なら不審だし、ストーカーのようで通報されてもおかしくないのだが本物の鬼だから、ほっとかれているようだった。
こっちには気付いてないらしい。
カーテンを閉めた。ポチャン。風呂の中で学校からもらったプリントを見ていて、うっかり水場で落としてしまった。そのときの、紙を通しての水の感触。それを胸で感じた。
私は急いで目をこすって寝た。絶対に起きるもんかと決めて寝た。
次の日も鬼はいて、私の忘れたリュックの荷物を渡した。受け取って、
「どうも……」横目でチラッと鬼を見て、
「帰らないんですか?」と、私は聞くということになる。
一枚の紙を差し出された。
「お前の死亡届だ。地獄で作成した」
無言で、しっかりと渡してくる。私は、何も言葉が出ない……
「お前はあのとき死んだ」
怖い。何も考えることができそうにない。
「だが、それは実際は起こらないということになった。白紙にすることが決まった。俺の作った地獄のザルの目が、魂を選別するのに確かと言われる確実の力の道具『地獄のザルの目』が、お前を反応して見つけることができなかったからだ。なので、俺はお前を溶岩の地獄に落とした」
鬼は停止画が時々動くそんなぎこちなさを、編み出して、言った。
私は意識を、三分割したうちの一つが、白くなった。…これは、とっても痛い。
これが、二分割のうちの意識を司る一つが白くなると呆然として、訳の分からないことを言うようになるから、絶対に危険で、ならないようにするようにしないと必ずいけないと思う。
「申し訳ないことをした。苦しい想いをさせた。辛いような目にあわせて、過ごさせて本当に、すみませんでした」鬼は頭を下げた。
とは言え、やや、なんだか少し人の気持ちを分かっていない気がややしてしまいそうだ。
「じゃあ、あなたが私を教会から連れ出し、溶岩漬けへと突き落とした、ひどい男の方。なんてことですか…」
「申し訳ない。許して、欲しい…」私はあのときのことを思い出していた。
あのとき一人で、やって来た。そのとき、地獄にある教会は光に包まれていたので逆光で顔が見えなかった(第一、後で見たが口元は布で隠していた)。
他にしていた格好は、アジアンテイストな模様の布を上着としている。上半身の部分は和風な着物。下はゆるっとしたズボンではかまに近い。靴はちょっと落ち着いている雰囲気のブーツ。
武器(ちょっと細身の金棒)を使ったり魔法のようなもので金棒を消して素手でパンチやキックを使い、妖魔を倒しまくっていた。
妖魔はひたすら逃げまどっていた。
倒せるものを全て倒し、するべきことを終えて、その人は私の方に近づいてきた。
「お、お前が余計なことを…」
エモノを食い散らしたいのに我慢をする、獣に似た雰囲気だった。
私はバッグのように抱えられ、連れて行かれた。このとき、口元を布で隠していた。
歌舞伎役者のしているメイクを見れば基本的に主な役柄の、善か悪が分かるそうだが、よく知らない人に写真だけパッと見せても分からない人がいる。鬼は頭のツノが出ていた(今見ると、耳も尖っている感じだ)。
さて、妖魔は耳が尖っていて歯もギザッとしていて、ツノもはえていたりする。妖魔の雰囲気自体は、実質、ロック歌手に似ているけど、時間が経つにつれあきらかにダメな感じがする。
中々かなり考えて一所懸命に探していい部分が一個も、見つからない。ものすごい悪いことをして、テレビのニュースで出ている芸能人のような感じだった。
だから、ツノは見えても誰だか分からない結果であった。通常、信じられない状況だがバックのように抱えられた私は使わなくなったバックを処分するぐらいの感覚で、ポーンと溶岩に捨てられ…私は肉体が消滅して魂だけになったって、いうような話なのに。
それを、今さら優しくするとは汚い。
「だから、お前は古くから地獄にいる妖魔にうっかり誘われてしまい、俺はお前を妖魔の共犯と間違い、その罪で死んだため、今に至っているという訳だ。全て私の責任だ。すまない、どうか許してくれ」
必死で頭を下げられた。少しうたれた。しかし、次の一言で全部吹っ飛んでしまった。
「だから、俺が責任を持ってお前を仕事をする意味できちんと部下にしてやる。そのどうか許してくれ」
「んっ?なんと、言ったんですか?謝るのは、分かりますよ。はいはい、その通りです。で、なんで私が鬼の部下にならないと、いけないというのがね。超、変ですよ、これ。圧倒的にやっぱりおかしいというか全く。何も、思わないっていうのが、ね。…馬鹿が、この。ゲス馬鹿たれ。なっ、ああんっ。…だから、変すぎて…鬼。やめれば、いい。…んっとに、うるせーっ…」間に何か言って、まず引き受けさせようとする鬼。地獄でどういう教育を受けてきたんだ。
カジュアルな集まりで楽しい場所でするちょっとした遊び。じゃんけんで負けたら引くカードのお題通りのことをしないといけないゲーム。
【変な服装で、三キロを歩いて行って帰ってくる。往復、六キロ】を周りの人、全員マジメにやらしてくるようなもんだと思う。
環境がふざけている。とりあえず、迷惑である。
「遊びのレベルじゃないだろ、この馬鹿」と、言ってしまいそうだ。雰囲気が微妙過ぎるから、やっぱり言うかな…?
驚きで、普段ならありえないくらい嫌な状態が出て、キレてしまった。ガラが悪くなる。なんか、最悪である。
「だから、責任を持ってお前を部下にする。俺は鬼襞務という名だ。よろしく。名前は?」地獄に落としといて知っているだろうに。記憶力が悪いとかでなく、あえて親睦を深めようとしている気配がある。
うっとうしいだろ普通。絶対、知っていると思う。とはいえ、聞いてくるのであれば仕方がないというものだ。
「水田冬美です、よろしくお願いを頼みたいものです」
そっぽを向いて言ってやった。勝利。
せこいが、すごい譲歩した。ここは人間界だよ、鬼。優しいだろ、フッフフ。鬼は、こんなことされたの初めてだ。自分に、こんな不真面目なこと、してくるヤツいるのなどという顔を、している。
どうだよ、鬼、最高級だ。地獄の刑罰で。特別に作った、一番優しい人間界の、新しい刑だ。
とは言っても鬼にしか私はワザとは、やりはしない。
本当に、楽しくないことで、あることであるから。できれば、やらないでありたいと思っては、いる。
つまり、帰ってはきたが『地獄のザルの目』というもので運勢が簡単に、悪くはなくいいとは言えないのである。
「地獄の溶岩漬けで魂が疲へいしている。疲れているのに就活はキツいし、仕事も上手くいきづらくなっているというのがある。で、あるなら俺の下で働くのがいいはずだろう」と、言う。
そんなものであるのだろうか?
つまり、私はムカついている鬼の下で働かせてもらえるらしい。
働くということはなんだろう。社会人とは……
大人とは。
確かに溶岩漬けで、後八ヵ月のうちに大学を卒業するまでに、就職先は見つけたいが、やる気を持っている、新入社員っぽさが出ない。
少し、厳しいな。それなりに、疲れているからな。それによって、二、三年動けそうにない。
できることをすれば、いい。ありがたく受けてもいいかなと思う。
少なくとも、鬼の誠意は受け取っている。
う――ん、とりあえず下手な大人よりは信用できるから、な。などの経緯で、私は鬼の部下へと就職することにした。
で、仕事をするにあたって会話をしていかないと…
「閻魔様が言っていたヨウリョクテンを見つけないと、という話?」
「妖力点」
鬼はきまじめに空中に文字を書いて、説明をした。
「フ――ン」
その後、妖力点とはどういうものかザックリと説明をしてくれた。でも、これが本来なら何をする仕事かすぐに分かるのだが、全くありえないことに想像もできなかった。
仕事をすると決めてから、大学を卒業するまで鬼も遠慮してか全く連絡もなかった。
結局、仕事を始める最終的に、二日前になった夜。
コツコツコツ、カラスが家の窓を叩く。普通のカラスだと思った瞬間、目が鈍いグリーンの色付きの板のように見えたのだった。
急にものすごく小さな粒のかなりの多くの群れ。つまり、微粒子が高速で雪が降り積もるように目から吐き出された。私は訳も分からず棒立ちをしていたのだが、雪のように降り積もっていた物はわりかし古風な手紙と姿を現した。御丁寧に表の紙には“手紙”と書かれている。空中に浮かんでいたが、フニュア、フニュンと私の手元へと止まった。
「手紙だ」と、カラスは言った。
そして、そのまま窓から飛び去ってしまった。鳥のカラスらしく愛想がないようだった。私は分かった気になって思った。実際のカラスを表面的にしか知らないのだ。
手紙は地獄からだった。
『現地集合』と、書かれてあった。
その後が、微妙だった。
『地獄へようこそ、来て下さって嬉しいです。とても、我々皆あなたを歓迎しますよ』
この辺が、悪趣味になっていると思った。嫌ではないけど不安定な愛想だ。絶対、もし喜ばしくっても地獄だから、地獄の沼みたいなニオいがある気がちょっと、かすかにある。楽しさ欲しい。楽しさ、たくさんあったら、いい。
当日、現地集合場所は街中からちょっと離れたとこであった。
私はパンツスーツに白い運動用の靴を履いて行った。本来なら運動用の靴だと上司に叱られるようなもんであるが、安全第一なので仕方がない、というものである。地獄の猛者がなだれこんで到来しても、この靴なら速く、逃げられるというものだ。
雇うと言ったのだから、給料だけは、普通に貰おうと思っている。鬼は誠意を見せてはくれた。でも、別枠の思いもよりもしない、ひどい目に合う場合が、あるときはある。世の中、甘くないのではないかと、なんとなくは思ってはいる。ということを、含めた理由で運動用の靴だ。
鬼はスーツを着ていた。私は、凝視しそうになった。鬼がスーツとは狙ってなさそうだけど意外性が発揮できているように、見える。地獄で着ていた服の感じかと、思っていたのである。上着の、スーツのボタンはとめずにいる。ネクタイはせず、シャツはボタンを三つぐらい外してある。『積極的クールビズ』だ。
地獄では許されるが、普通の企業だとアウトな場合も、多そうだ。
スーツの色は、爽やかな紫色が少し見える水色で、あった。
夏のお昼過ぎぐらいに少し雨が降った後の空、それか、一所懸命窓を拭いた後に見た空、と、言った感じだ。鬼が爽やかというのは、どこに向かって走っているのかが、分からない。本当に、好きな物は違うのではと少しだけ、思ったりもしてしまう。やっぱ、まだ怒ってるのかな。地獄で、突き落とされたから。
で、靴はあまり見たことのない型。ビジネスに、使い勝手を取り入れたような型。仕事以外のプライベートでも履けますよ、どうですか、今度はこの靴で百五十キロでも走りますか?ぐらいの、物だ。これだけ開けた物を履く、鬼だ。私の運動靴を気にする部分など、ない。
私の感想などは知らず、鬼は仕事についての知識を、歩きながら話しだした。
「妖力点は地獄のザルの材料となるものだったな」
「はい」
その点は仕事に誘われたとき、教えて貰っていた。
「地獄のザルの目の妖力点は、数千年前に地上にて集めて作っていたのだ、俺がな」
「数千年て二、三千年くらい前?」
「違う。しっかり辞書を見てみろ。数とは二、三から七、八を言うんだ」
「えっ、幅広くない?」
「だから、後少し細かく気になったら構わなそうな感じだったら、聞くんだよ」
「聞く…?」
現実問題の内として鬼の方が言葉に詳しいのに驚いた。閻魔様の部下みたいな鬼とはいえ。
人の生活にものすごく身近な事を、間違えてしまうとは恥ずかしくなった。部下の立ち位置で良かった。自分が先輩だったらテンションが微妙になりそうだった。私はちょっとおかしい安心をしていた。鬼が若手だった頃、地獄で命じられて作った。
「えっ、鬼襞さんが若手の頃とかあったんですか?」
「コラッ、冬美。逆モラハラって言っちまうぞ」
鬼が睨みを利かす。
「すみません…」
私も、良くはなかった。だけど現代的問題意識を持った鬼に、明るく巧みに改善をして、挑戦しよう。鬼だけが、正しい訳ではないだろう。
負けられない戦いだってある可能性も捨てられないかもしれない。明るく、楽しく挑戦をする。本当に、私って人間の極み、かもしれない。
「あの頃の罪は強烈だった」
鬼は思い出しながら言った。
「しかし、思えばあの時にもう既に罪の見落としがあったのだ」
鬼は眉間にしわをよせて悔やみながら言った。
う――ん、ほとんど知らないけど私は歴史の授業で覚えていたハンムラビ法典の「目には目を歯には歯を」を思い出していた。
数千年前こんな法律を出す時点でドギつそうだ。時代としては同じぐらいであるはず。被害者が失ってしまったものを加害者からも同じように奪う。これは害を与えた人がうっかりの場合、苦しみしか残らない。そもそも恐ろし過ぎて隠ぺいをしたりする人が出てきそうだ。
「お前が地獄に落ちるとき、『地獄のザルの目』で見つからなかったのは、なくてはならない妖力点が欠けていたからだ。お前が地獄に落ちた状況で、考えると」
鬼襞さんは、私を心配する風に言った。
「そして、閻魔大王様が気づいて、妖力点のだいたいの場所を見つけ出すのが、できるというのはなにかしら徴候が出ているからだ」
糸口ならあって、大まかな正解なら、ほぼ明らかに分かるということか。
「妖力点はエネルギーの悪い通路って言えば、分かるか?最初は大きめのリンゴのサイズのエネルギーの球でしか、なかったんだがな」
結局、エネルギーね。地獄に落ちるのもエネルギーいりそうだもんね。
「たとえて言うなら、『人間が普段生きるスペースの、心に流れる感情の風の勢いを溜める【桶】の、ふんばりの、これまた重力に耐える汗』イコール、エネルギーみたいな、モノであった」
ふんばりと汗。失敗したら地獄って、最悪な感じがする。こんなんだったら、やってられない気がする。
「数千年前、俺が地獄で命じられて、作った。人間たちが日々欠かしては過ごすことのできない、生きる力を注ぎこむ頭を働かす精神エネルギーを悪い方向へと導き、地獄へ落とす悪い通路」
「つまり、悪い方向へ連れて行くエネルギーの『動く危ない、歩道』のような意味合を持つ、モノですか?」
「のんびりとした、変な表現になっている。だが、…そうだ」
鬼に変な表現とか言われてもな。…頑張って言っている感があるから、まだいいけど、鬼の喩え方だって、どこがスタートラインか、分からないところがあったりする。入り口のない水槽に魚がいるみたいな、話だなって思ってしまう。ついさっきの話では、【桶】は生き物になっているということか。データ的にそういったモノが、妖力点のエネルギーと似ていると。
「俺が、ちゃんと見つけるということが、できなかった妖力点が、数千年で人を地獄へ導くモノに、なってしまうことになった」
数千年前より平和になっている気はするけど、現代的な罪へと送ってしまう何かになって、しまっているのだろうか。
「妖力点は人間関係の濃い、空間の場所である状態に、ある可能性が大きい」
なるほど、地獄の沙汰も人間しだい。人が良いと、すれば問題などないと。
「俺が見つけられなかった頃より、エネルギーは強くなっているはず。どうやって、見つけ出すのが、いいのかが問題だ」
えっ、もう。私は正直、問題の前段階が既に、分からない。だから、どうなってるの?
「ここだ」ある、会社に着いた。ビル。一階ではインテリヤの照明を売っている、幅広く仕事をしている照明屋さん。
「ここに、妖力点があると閻魔様が感じた」
四階が事務だ。エレベーターで近くまで行く。
「で、どこに妖力点が、あるんですか?」
「壊さなくてはならない、人が必要としているモノを」
「ええっ?」ありえないことだ。人の必要としているモノを壊すとは、どんな問答だよ。普通は守るべきなのでは?
それを破壊っていうのは。逆ですよね。
事務で応対して下さった社員の方に、『地獄』から来て、壊すモノを壊さないと、まず、ひどいことが起きて、抱えきれない嫌な目にあい、最終的に地獄へ落ちます。と、とりあえず簡単に説明をした。すると、すぐ信じて貰うことができたが、こっちが嫌な目にあってるんだけどな。普通に嫌な気分になってキツい。
鬼襞さんに、どういうモノを捜せばいいか聞く。
「会社にあるモノを全部壊したらマズいので、きちんと壊すモノを捜さないといけない」んなの、当たり前だ。本当に、ちょっとヤバいやつかと、心配になる。
社員さんに少し、聞いた話だとこの会社の店で照明を売るだけでなく外へも出向いて、いろんな場所のコーディネートをするみたいだ。
捜す。そこにいる人たちの嫌そうな顔。もう、やっぱり、地獄じゃないか…。
「鬼襞さん、ところで破壊するものって、書類とか商品とか、人とかじゃないですよね、まさか?」
鬼、しばらく考える。
「場合によるな…」
鬼は、ただの、喩え的な意味合いで、言ったかもしれない。実際のところは違うかもしれない可能性はあった。
だけど、思いやりが空っぽ状態でも、気にしない。実に、悲しくなるぐらいに無神経さがあって、辛い気分になった。
「場合によるって、ここは人間の世界で、本当は平和なんですから。怖過ぎです。ひどい悪いを、普通にする世界にしないで下さい。この、ゲス虫」また、微妙な口の悪さが出てしまった。ありえない、状況とは言え。もはや、地獄が口の悪さの原因な気がする。
とにかく捜す。
書類、商品、それっぽそうな人がいないことを願う。
海岸の砂粒から、小さなダイヤモンドを探すぐらいのものだけれども一回地獄に落ちたんだし勘を働かせる。う――ん、違うようだな、多分…。
やたらと、しんどさが増す。
これ分かったりするって、ありえるの?かなり、不安になってきたぞ…
どうなんでしょうと思ったが、何気に、ある照明に触るとブワッものすごい緊張が、走ってしまう。
汗が飛び出て、顔の表情もゆがむ。触った右手が青紫色に変色をしていた。
どうやら、これで間違いなさそうだ…。
周りの人間が引いているのが分かる。地獄から来ているから、な。まあ、それを別にしたって、急に、近くにいた人間の手が青紫色に変わってしまったら、びっくりして逃げそうになったりもあることはある。
私は反対の手で、痛みや異常がないかを確認をしてみた。じっくりゆっくりと、身体を、動かしてみる。まあ、身体は大丈夫だ。
詰めて言うと、緊張感はあるかと言った、ぐらいのものだ。
しかし、普通は少し落ち着いた人がきちんと優しくしてくれたりするのであるのだが、一緒にいる鬼が少し真面目な顔で動かない。その結果、何かあったりするのかと不安になって、距離をとっているようである。
今まで、こんな風に、なったことなかったのに。この照明を触ったとたん、手が青紫色になるとは。
この照明にはなにかあるが、今はいい。そんなことより、まずオカシイ…。
「だから、連れてきたんですか、ここへと私を?」悲鳴に近い声で責めてしまった、鬼を。
人を地獄に落として、謝って優しくしたのは、利用をするためのテクニックを考えてか?意地悪だよ…。
頭がオカシイよ、絶対かなり。
「…それは、知らぬ。閻魔様の裁きで、お前を、連れて行かなければならぬと言われた…そうすれば、仕事になるから、と。なんとなくしか知らんのじゃ。本当に、すまないことをした」
まあ、多分、きっと本当だな。閻魔様の名前を使ってまで嘘をつくんだったら鬼の意味が分からない。だったら、もう、いい。
混乱で結構、パニックっぽい状態になったが、身体の方は自分自身で完全に魔法のような感覚で大丈夫さがあったので、鬼に後で地獄の医務室に連れて行って貰うことにした。
なんとか、腹は立ってしまったが、落ち着いた。
「すみません。うるさかったでしょう」と、ストレスをサラッとして、照明のことを知っていそうな社員の方に聞いてみた。社員は実際は引いていたが、笑ってくれた。ほんの少しだけふんわりしている人だ。かすかでも、辛さを忘れた。
今度のイベントで使うそうである。使うものを壊すというのは問題である。上の人をというので、結局、社長に聞くことになる。
「今度ね、最新のスーパーカーにあてるんだよ。そのために、考え抜いた照明だよ。壊すなんてありえないよ。故障して仕方ないならともかく。地獄が生きた人間の邪魔をしていちゃダメだよ。もしかして、苦しんだ人間の血なんてモノが地獄では高く売れるとかかい」
なんか、胸が痛くなった。私もつい最近、同じように地獄に苦しめられ、今はこんな変わった仕事をしているのである。私は社長室を出た後、少し歩き呆然と立ちつくした。ダメだ、私は辛いダメージを受けた。
「鬼襞さん、この照明を壊すのは間違いだったんでしょうか?」
だが、鬼はそんなことを気にしてはいなかった。だてに、地獄で鬼をしていたりはしない。
「それは分からんな。始めた、ばっかりの仕事だ。お前の、手の能力の精度がどれほどものかもまだ、分からんのだから。さらに、調べていかなければ、仕方がないだろう」
染み入る言葉だな。テキパキとしている。私は初めて、この鬼を頼もしく感じた。
おかしいな。だって、今言ったことは大したことじゃない。だけど、地獄で金棒を持って強い鬼より、ありがたいと、自分の都合だけど私は思った。
照明の管理をしている人にお願いをして、照明の動作を確認した。パチッパチッパチッ一通り全種類、全パターン。赤や青、ピンスポットライトまで出してもらったが、確かに壊れてはいない。
「鬼襞さん、なにも問題ありませんでしたね」
「たりない」
険しい顔をして、鬼は言った…
「えっ!?」私は、ちょっと動揺をした。見たところ問題はなかったはず。鬼は、私よりも照明に詳しいのか?
しかし、一緒にいた、管理の人も何も言わなかった。でも、何かあったってなるのか?
「何が、あるって言う…?」
鬼は何もない空間を、見つめていた。私も、見つめる。
あっ、確かにたりていなかったのだ、あれが。…車がなかった。
私たちはスーパーカーを開発した男の元へと向った。
小さな車屋の修理工を長年やってきたが、車づくりが好きで、今度の車のイベントにスーパーカーを出品するらしい。ビクビク、オドオドとしている。
上手くいけば、大手の車メーカーから、大量の契約金をもらえるらしい。
私はことがことであるので、車に黙って触ってみた。
ブッ。緊張感が走る。手が少しだけ青くなる。
どういうこと?少しだけ青くなるのは
「製作者さん、あなた何か知っているのでは?」
私は製作者の人に目をキツくして詰め寄った…。言いたいことがあるなら言わせないとそれが、親切というものだ。
泣くまでやる。…笑うまで続けてやり続ける。気合入ってきた。私は優しさがこみ上げて、追及を続けた。
「なんか、あるんでしょう?」
製作者さんは、汗を流して「な、ないです…」
そんな、一回ぐらいじゃこっちも引き下がれない。
「いや、ある…なんかあるって…ある、ない訳ない、ある、当然だけどあるがずっと付いてくる、後が辛い、苦しんでしんどい、あるでしょう?ある、ないってない、ある…」
愛がある仕事をしているぞ、私は、今。けど、この仕事でなければ、下手したら通報されるに、違いない多分、謎なレベルで、あるけど。
にしたってともかく、どこまでも気分がすっきりするまで、吐かせてやる。ほんと、なんて、私は優しいんだ。…アハハハハハ。
「アア――ッ」
製作者の方は膝を付いて突っ伏して泣いた。
「元気出して下さい。まだ、人生はこれからです」
「そうですね。僕はこんな日を、待っていた気が、する」
「そうこなくっちゃですよ。もう、全部言い放っちゃって下さい。元気が出ますよ」
製作者さんの、目の端にキラッと光るものがあった。私、頑張ってできて、偉いのでは?おぉう、仕事をちゃんとやれている、確実に…
「飲み屋で飲んでいたんですよ。で、偶然車の話をしちゃって……。それが、あの照明会社の社員だったんです。でも、僕がつくった車にはいけない部分があって社員の方に、それは…伝えたんです。でも、その人は意に介さずに、社長に車の話をしてしまって…」
話が核心に近づいてきた、もう少しだ。
「いったい、どんな車をつくってしまったんです、どういう…?」
「僕がつくってしまったのは、車のスピードを出したくなって…スピード違反をしたくなってしてしまう車です」
ええっ、そんなものつくってもいいの?…というか、できんの?
鬼襞さん、黙っていたが「地獄にでも連れて行くか…?生きた人間を落とせる地獄のコースも、あるんだよ。十七年ぐらいしたら、町をキョロキョロと見回しながら、足下がフラフラ、ボケッと、しながら、なんとか人間の世界に戻って来れるクラスのヤツとか…。どうだ、いいのではなかろうか?」
「本当、クズだな。いやいや、ちょっと待って下さいよ…まだ、商品化した訳じゃないんですから、待ちましょうよ。妖力点のこともあるんですから」
こいつ、すぐ地獄へ落とそうとするな。油断ができない。製作者さんが、恐怖で涙目になっている。これじゃ、話も聞けない。
「快適すぎる車をつくってしまって。どんどん、スピードを出したくなるんです。歯止めが効かなくなると、言うか」
しばらくして、落ち着いた製作者さんがもう少し説明をしてくれた。今度は鬼襞さんには、なるべく優しい顔をしてもらうようにした。
しかし、戦国時代の妖刀『村正』みたいなだな。凄腕の刀匠が、刀を持った人間が試し斬り、したくなってしまう刀をつい、作成してしまう話。
多分、作り話だが、これは現代版と言った感じだ。
「飲み屋で、社員と会う前に僕と知り合い三人で、車に試し乗りをしたんです。すると、僕ともう一人はスピード違反で警察に捕まってしまい、もう一人もスピードを出したくなったと同じ意見で。僕は残念だった」
製作者さんは、拳を握りしめた。
「社員に、社長を、車好きの友だちと紹介をされたんです。僕の車に乗らせてほしいって。でも、たいして知らない人に車を貸すと言うのは心配で。すると社長が…」
<知り合って間もない人間に車を貸すのが心配なんでしょう。なーに、こんな素晴らしい車をつくった製作者様に嫌な思いをさせたりはしませんよ。是非、この車をつくるまでの話を、一緒に乗ってもらって伺いたいものですよ>
「自慢ではないですが、僕は周りの人たちにも車づくりを褒められていたので、それについては本当だと思いました。で、次に社員と社長、僕で乗って、その後やって来た知り合いもまた、別のときに車に乗って…」
「どうなったんです…?」
「社員はスピード違反、社長もスピードを出しかけていました」
「社員ともしかすると社長は危ない理由を、知っていたと、思うのに」
「だから、後で乗った知り合いにはスピードを出し過ぎになるから、気をつけてと言っておいたけど…もう、少し間違っていたら交通事故になっていたって言われて。僕、あの後、社員の人と社長が怪しくて尾行をして、会社もどこのか分かっていたんです。知り合いに嫌な思いをさせてしまって…僕、ひどい物をつくって、本当に、いけない馬鹿でダメで」
「だったら、引き受けなくしたら本当に…」
「社長と社員はスピード違反を偶然と言い張って。スポットライトを当ててやるって…欲が出て、僕もライト当てて欲しいなって」
人間の心の弱さに魔が差したって感じか、いけないな。
社長もやっぱ、グルだよ完全…。
「少し高いパーツ代、いい塗装屋、イベントの高額なエントリー費用、少しあった借金を肩代わりしてくれるって車づくりの男にとって、どうもおいしい話で。その代わりに、イベント終了後に、車が売れれば五対五の取り分でもって、マネジメント費用を支払う契約をしろって、そのとき会社名は書いてありました。社長はいなかったですけど。僕は抗えず」
う――ん、だらしない。アホだよ。全てを打ち消す、とんでもないレベルで、本当に格好が悪い。
「でも、もうやめます。分解をして、危険をなくして安全でよりいいものを一からつくって、やり直します。もし、完成しなかったとしたって」
製作者さんは社長の携帯電話に、断りの電話を入れた。
『出品をやめる。ハーッ。なにを考えてる』電話から、社長の怒鳴り声が聞こえてきたのだった。
やっぱり、それでも人間というのは不安になる生きものだ。
「気になるので、最後に車を触ってもいいですか?」
製作者さんには、私の身体が妖力点に反応できる可能性が強くて高いと、なんとなく伝えていた。
「どうぞ、ここまできたら僕もお願いしたいぐらいですよ。本当」
不安を払拭するため、私が車を触ってみると、色が変わらなかった。
製作者さんは元気が出てきていた。
私と鬼は、照明の会社へと戻るため、歩いていた。
後、もう少しぐらい証拠を捜さないといけない。
そう思っていたのに、ところが会社の近くで、十人、十一人、から話しかけられた。
「あの、僕たち照明会社の社員なんです」
何をやっているんだろう?割と、多い人数で連れ立って…。
「はあ…」
「下手をすると、結構、皆地獄に落ちちゃうんですか?」
「どうでしょうね?悪い方向へ向かってますけど…上手くすれば立て直せるかもしれないですから。いい方向へ行くよう願っておけば多少はなんとかなったりするんじゃ、ないでしょうかね」
「ちょっと、話してもいいでしょうか?」
私は壊す『理由』の証拠が、揃ったので四階の事務フロアーで社員から社長までできるだけ人を集め、語ることにした。皆、内心、不安なので素直に集まって来た。
「まず、始めに社長さんは、車が好きですね?その証拠に社長室に一度、あがらせてもらったとき、車の飾りのミニカーが、今度出品する以外のモノもたくさんありました」
「否定はしません」
全く、面倒くさい反応だな。もう、アレを出すか。
一番のメイン。私は一番大きい、重要な情報の中身を言った。
「正直、嫌だけど、分かってはいたけど『経営が上手くいっていなかった』と、ある社員の方々から、証言を頂くことができました」
「クゥーッ」社長は悔しそうに、拳を握りしめた。
また、そんな悔しそうにして。…分かってはいたでしょう。そりゃあ、お気持ちはお察しする部分も少しはありますが…。
私は、車の製作者さんの話をした。段々、腹の立っていた部分が、気持ちにも出てきてしまい、出た。
「この、恥知らず。あんな、車を売るなんて、恥というものがないんですか?つまり、見た目は基本としてスピード違反で、個人が原因になります。お客さんの罪になるんです。車に故障がない限りは。たとえ、それまでにスピード違反をしたことがないとしても、罪は罪。これで、いいなら、この会社は本当にクズで最低です」
そこで、私は社員たちの微妙にもしかしたらの方向を見て、さらに話をしていった。
「そして、たまたま社長の近くにいる部下たちが性悪だった」
一部の人たちが、ザワッとした。ヤバい、鳥肌、立ったよ。ワーッ。
でも、もう、仕方がないというものだ。こうなったのだったら、勝負をするのだ私は。
「車の製作者さんに、出資をして関係を深くしてイベント終了後にマネジメント契約をする。あの車は売れるという自信を持っていた。いい車をつくる製作者のマネジメント会社としてマネージャー代金や豪華な宣伝イベントで高額な利益を受け取ることができる。経営は一気に良くなる。たとえ許されない車であったとしてもね」
そう言った瞬間だった。社長の周りの部下たちが急に妖魔化し始めたのは…
いや、社長も頭をかきむしり、妖魔化をしている度合いが強い者の六割程度に、妖魔化をした。これは、妖力点が暴走してしまった?もしかして、魂を選別をする『地獄のザルの目』の材料だから、生物みたいな面があるのか?
人間たちを妖魔にした方が、身体が大きくなる。会社の方々は十六、七体の妖魔になってしまった。
「ウヌルルルルルルル」
妖魔が鳴き出す。車のエンジンがかかるか、かからないかのような、不安定でヤバい。白山羊に何か似ている。
白い毛に赤い目、二本足で立っている。とぐろを巻いたツノ。しっかりと、とぐろを巻いている。アッ、とぐろを巻くのはどっちかと言えば羊だったな。まあ、妖魔だから、いいか…。
指は五本で爪も長い。スーツ。服はところどころ破れて白い毛がファサーッとはみでている。
「心の動揺でエネルギーが乱れて頭から、妖力点のエネルギーを被った感じか。エネルギーを動かすのに人間の脳内のイメージが丁度いいので、精神と繋げているみたいか」
なんと、大変だ。昔、本かインターネット検索か何かに、こういった感じの悪魔がいたな。関係はないか。妖魔だから。誕生の仕方が、完全に違う。妖力点が原因だから。妖魔たちがこっちへ向かって来る。
「襲ってきたら、戦闘不能にしないと止まらないぞ」
鬼が嫌な事を言う。やめてほしい…。妖魔が、机の脚とか金属なのに小枝のように折ってるし…
来なくてもいいからねって、装っていたけど妖魔だから人間なんて関係ないといった感じでやっぱり、襲いに来たのだった。
「いいいっ…」
嘘っ…こんなことになんの。
鬼が、受け止める。鬼は素手で戦い始める。安心…か、と思いきや、妖魔の手が私へと伸び始める。正直、直前のことを考えたら、私のことムカついてるだろうしな…。
こういうときは逃げるに限る。しかし、妖魔になってない社員たちも同じことを考えていたのだった。なんと、四階事務フロア入り口辺りから、「階段への扉が、開かない」
「なんで、エレベーターが動かない。大変よ…」と、聞こえてくる。
妖魔のヤバい力によって、ビルの四階に閉じ込められたようだ。ここから飛び降りるのは危険過ぎる。そもそも妖魔の危険な力によって、窓は割れないかもしれない、のだ。
オフィスのフロアーの広さは一周、八十メートルちょっと程度。結構広い空間で妖魔は暴れだした。
私はここで、嫌なことに気がついてしまう。妖魔の戦力の七割が私の方に向かってきている。私を倒す方が、簡単でしやすいというのがあるのだろう。
まあ、鬼がケチらしてくれた。私はホッと胸を撫で下ろす。しかし、妖魔は十六、七体もいる。
数が多いので私への攻撃が微妙にありそうだ。ヤバいじゃないか。
「鬼襞さん。私、攻撃されそうです。武器使って下さいよ。魔法か何かで出せるんでしょう?」
最初に妖魔と戦っているとき、金棒を不思議な力で出していた。もし、困ったことに条件が合わないなら、せめて、机やイスも武器に使えそうだ。私が妖魔に攻撃されたら人間だから、本気でマズい。
鬼はムッと一文字に口を弓のように引き、「黙れっ。鬼である俺が武器のようなものを使ってしまったら、妖魔のときは問題がないが、人間にもどったときずっと、身体を痛める可能性が出てきてしまった。…だとしたら、俺は鬼である意味がなくなってしまうだろう」
ウーム。そう言われたら、仕方がないと、思う。必要なことだ。
そして、丸っこい三角的な手のひらサイズの小さい子用の、落ち着く木のおもちゃみたいなものをくれたのだった。
なんか、懐かしい感じがする。どうも、小さい子用の木のおもちゃに似ているからかな?ずっと昔から持っていた気がしてくる。
これがあれば、この難しい事態も、向き合っていけるのではないか。何か支えになってくれる存在になってくれそうだ。
「伸ばして、使え」
「えっ…」
触れていると、大きくなって木刀になった。もっと、電気がビリビリッとする防犯棒みたいなのが本当はいいのに。
妖魔が来たので、牽制のつもりでまず私は、木刀の剣先を妖魔の顔へと向けて、パッと構えた。ゴッ。すると、急に突風が吹き、妖魔の肩に当たり、妖魔はよろめいている。
これ、衝撃にすると、両腕いっぱいの太い棒で布団を叩くようなエネルギーがあるだろう。
妖魔は身体に力を入れ、歯を噛み締めて、こっちへ向かおうとする。だが、鬼が横の方から力強いパンチを入れて、ぶっ飛ばして行った。
どうやら、木刀は地獄の木刀らしく、普通より強いようである。
どうにか、私は鬼を防御にして(鬼が全部倒せば普通に、いい話ですむ、気もするが)木刀の効果を確かめていく。
助かるにはやっぱり直接当てないと、場合によっちゃ危ないな。
鬼が攻撃に少し手間取ったとすると、私は死ぬのである。
段々距離が近づいていく。
当てる。
バンッ。やっぱりかろうじて。なんとか跳ね飛ばす。
ビルの解体場の破壊をする鉄球をぶっ飛ばすみたいだ。めちゃくちゃ危険じゃないか。
また来た。
危なっ…。足の甲よりも横の外側がピリピリッする。打つと何とかハネのけれる。
そんなに、多くいっぱいは来ない。動いて、鬼がほとんどやってくれるからだ。ただ、たまに取り逃がしてしまった妖魔がやって来てしまう。そこを、確実に見切ってハネのければいい。怖いというのは、ありますけど…。
もう既に、このフロアーは、かなり壊れてしまっている。天井だって推定五、六十センチの穴で、丁度木に刀傷を付けたようになっている。
恐らく妖魔の爪の跡だと思う。地べただって、床の底は抜けてはいないけど、ところどころえぐれているのだ。
細かい部分が、ややえぐれてしまっている。四十~四十五センチの間ぐらいだろうか…。壁だってガラスのがピシッとなったような跡で衝撃のぶつかった跡みたいになってしまっている。
机だって飛んでいって、ひっくり返ったりしている。イスも腰あてから座るとこの半分のとこで、スパッと斬られてなくなちゃてたりもしてるし。小物類も、電気スタンドや本、紙など、種を蒔いたように(悪意がある)飛び散ってしまっていた。人々の悪意を背負ったカゴから、飛び散らして撒いたようなものだ。
汗が出て、ボ――ッとする。それでも、油断する間もなく、何かくる。汗が、ダラダラだ。
アレ、どうしたんだろうと思ってみたら、妖魔たちはグッタリ座ってしまっていた。
九割七分ぐらい、鬼が倒した。まあ、私も三分ぐらいは倒しただろう。
もう、なにもしないだろうか…
私は鬼で防御姿勢を取りながら攻撃してこないか確かめていた。
こんなので油断して死んだら、地獄に落ちるより無念に思える……
鬼が「動けないぐらいやったから大丈夫だ」と、言った。
よく見ると、妖魔の身体が少し透けていた。
恐ろしいので確かめないと、と思いそのままというのは、さすがに失礼なので私は木刀を地獄の木刀なので危険がないかを心配して、「鬼襞さん」と名前を呼んで鬼の様子を見て安全を気にしながら、逆さまにして持って妖魔をつつくと空中の何もない空間のように、手応えがなかった。妖魔は幽霊みたいになっていた。
まあ、私は幽霊を見たと言うほどのことは知らないのだけれど……
地獄にいたときは移動するときぼんやりとしていて、あの地獄で物を盗まれていた女性は生きて地獄に落ちていた人、だったのかな。分からないのは見たくないというのも、あった、かもしれない。
妖魔たちはきっと今、エネルギーが切れて、こんな状態になっているようだ。
「七、八十分は妖魔の状態で動いたりできないから気にするな」
「それより、照明を破壊する。破壊をするから、会社の人たちに念のため来て貰って。立ちあいをしてもらわないと。これは、仕事としてしないといけないんだよ」
それから、呼んできたら、離れてもらって鬼は照明を壊してまわった。不良学生のような所業なのに、なぜか鬼がやると、キラキラして見えてしまった。
さっき妖魔相手に、素手で戦っていたからだろうか。一つの照明を壊したとき、いがぐりみたいな黄色く発光する光が現れた。
それが、私の中に納まる。
すると、周りの妖魔化していた人たちは元の姿に戻った。
「んっ、これどういうこと?」
「妖力点の発光している、エネルギー体か。昔よりも二回り、三回り、サイズが大きくなっているようだな」
妖力点のエネルギー?いや、そういった話じゃなくって。
「きちんと納まる場所がないとまた、別の何かに入ってしまう。その点、お前は幸い溶岩漬けの地獄で体質が変わっているから安全だ」
私以外の人は安全だけど私は大丈夫なの?
「地獄は既存のザルが今のところあるから、簡単には納められん。助かった」
何か、私貯金箱みたいだな。ムッとした気分が、やや出てくる。
私は、鬼に一瞬でも気を許しかけていたというのを感じ、腹が立った。
「人体に影響がないってとこだけは、地獄で保証をしよう」
「そこだけ、保証されてもね、どうでしょうかね」
今日、色々問題あった、からな。
社長も元に戻っていた。
「おかげで、悪いことをせずにすみました。部下たちも反省しているようです」
社員一同で頭を下げた。私はむくわれた気がした。鬼としばらく話し合い、次のことを、会社の人たちへ伝えた。
「妖魔化のことからも妖力点が原因だとしっかり分かるというのがありますので、今回については罪に問いません。被害については地獄に書類を提出して貰えれば見合ったお金を支払います。すみませんでした」
物事が落ち着いて十五分程して、フワッとした白にうっすら青みのある丸っぽい光が地面から現れてきた。それが鬼に当たるとあっという間に身体の傷が消えた。小さい感じの傷が鬼には身体中にあったのだ。
私にも小さい光が当たり、ちょっとあった傷が消えていった。
「支援だ。地獄からのいやしの回復術」
鬼は腕時計を見て、「十五分程でくるみたいだな」
私は息をのんで尋ねた。
「それまでに死んだら?」
「無理だな。助からない」
「死んでしまうっていうこと」
「そうだな」
「普通に言うな、馬鹿野郎」
私は鬼の上司を叱っていた。私はとんでもない仕事に手をつけてしまっているのかもしれない。
私が青紫の色について分かったのは、事が起こってから数日たってからだ。空を見て気がついた。ほとんど夜のときの色だ。つまり太陽の光がほとんどない、空の色。スピード違反をして、しまいたくなる車をつくるのはダメである。
だが、この状況は簡単にはパッと見には、かなり分からない。ほとんど闇の色と言っていいだろう。
しかし、気付くのが十五年後でなくて良かった。これ以上遅いと意味がなかったかもしれない。そうなると閻魔様が私を「連れて行け」と言う程の意味を持たなくなるのがあるのだが。
力の作用があった。妖力点の作用力の色が身体に出たのだろう。そうとしか言いようがない。超能力で空を飛んで大体何メートルにいるか計測をして、理解するようなものだと思う。この場合、他の人も調べればきっちり分かるが。
まあ、きっと自分の身体でピンと理解できることがあるはず。それに、これは一つの目安でしかないものなのだ。さて、後で念のため鬼に聞いたら「当たっていると思う」と、言った。鬼は目を細めて空を見た。
「気付いたらまた、言ってくれ」横顔が格好いい。なにげなく、時にそう思わせる。この鬼は。それでも、関係ないはずだ。
なぜかと言えば、金を稼いで生活するためだ私がいたりするのは。だから、その、つまり当たっているってことだろう。