バックステージで
読んで戴けましたら倖せでございます。
瑞基はフロアからステージの隆一朗に釘付けになっていた。
その日の隆一朗は無造作に銀髪を垂らし、タートルネックのノースリーブと細身の皮パンツの黒一色に身を包み、腰に赤と黒の絡み合う柄のスカーフを三角に折って巻き付けていた。
その日、二百人入るハコはほぼ満員で、バートリーはとりを務めた。
バートリーのステージはこれでもかと言うほどオーディエンス熱狂させ、隆一朗は銀髪を振り乱し、汗を輝かせて狭いステージ上で白いストラトキャスターを狂った様に掻き鳴らしていた。
瑞基の目は、もう隆一朗以外の何ものをも映さず、隆一朗の掻き鳴らす、うねるギターの音に抱かれ、興奮で身体がある事さえ忘れてしまっていた。
ライヴが終わりバックステージへ行くと隆一朗は廊下の壁に凭れ、座り込んでいた。
「隆一朗! 」
瑞基の声に反応した隆一朗は、ぼんやりと視点が定まらない様だ。
傍に居た聖流が隆一朗の頭にタオルを降らせた。
瑞基の後ろから聖流を呼ぶ声がした。
瑞基が反射的に振り返ると、例の美少年、央が立っていた。
央は真っ直ぐ聖流の傍まで行くと、聖流の首に腕を巻き付け耳打ちした。
「今夜、初めて逢った公園で待ってるから、必ず来て」
そう言うと去って行った。
来客は、それだけでは済まなかった。
瑞基が隆一朗の傍へ駆け寄ると、今度は「聖詞」と呼ぶ声がした。
隆一朗が声の方へ視線をやると、隆一朗の表情はみるみる蒼冷めて行った。
聖流が思わず「親父」と言った声に瑞基も反応した。
そこには白髪交じりの、初老のサラリーマン風の男が立っていた。
藤岡真聖、隆一朗と聖流の父親である。
一瞬、時が止まった。
隆一朗は壁を擦るように立ち上がった。
瑞基は、顔を見て隆一朗が酷く動揺しているのが解った。
「聖流、瑞基を頼むよ
またお酒でも飲まされたら大変だから」
隆一朗は藤岡真聖から目を離さずに言った。
「瑞基くん、行こう」
聖流は、呆然と突っ立っている瑞基の肩に手を添えて促した。
瑞基は隆一朗を視界が許す限り目で追った。
そして、すれ違いざまに真聖を一瞥して、その場から離れた。
駐車場への道すがら聖流が訊いた。
「聖詞が心配かい? 」
「隆一朗、真っ青だったから……………
あの人、隆一朗のお父さんなのに、なんであんな顔………………」
「君は聖詞から、どの程度聞いてるの? 」
「何をですか? 」
「悪夢に出て来る女が誰なのかとか………………」
「それは聞いてます、隆一朗の恋人だって」
駐車場に着くと車に乗り込んだが、聖流はエンジンを掛けることを躊躇していた。
聖流は迷っていたが、やがて静かに話し始めた。
「聖詞の恋人と言うのは藤岡真聖の三人目の妻、俺達には義理の母親になる人なんだよ」
瑞基は目を大きく見開き、聖流の顔を見詰めた。
心臓の鼓動が速度を速めた。
読んで戴き有り難うございます。
いよいよ、隆一朗の過去が瑞基に明らかになります。
隆一朗って、つくづく薄倖の美青年なんですよね。
そんな隆一朗を私は愛して止まない訳なんですが。




