41.真夜中の決戦・後編
時間と場所は戻り船内。
フィルディアはミカゼの記憶を頼りに檻の部屋を見つけた。
ガチャ
扉を開けると檻の中にいる三人の姿が確認できる。
「えーっと、何か用か?」
泰人が警戒しながら聞いてくる。確かに今のフィルディアの姿はミカゼなため仕方ないといえる。
「大丈夫です。私はフィルディアで、皆さんを助けにきましたよ。」
部屋を見渡すと檻から離れた机の上に鍵が置いてある。それを手に取ると檻の鍵を開ける。
「そうだったんですか。ありがとうございます、助かりました。」
「流石っすね。ありがとうございます!」
それぞれお礼を言いながら檻から出てくる。だが一人動かない男がいた。そう、武者蜥蜴隊のリーダーだ。
「・・・・・・・・・。」
リーダーは無表情で動こうとしなかった。
「・・・・・・仕方ありませんね。」
フィルディアは檻の中に入りリーダーに手を差し伸べる。
「・・・何の真似だい。僕は無視して行けばいいじゃないか。」
「今回は貸しにしてあげます。後でちゃんと返してください。それに、一緒に逃げた方が効率がいいですよ。」
ニコッと笑いかけて話すフィルディアを見て、・・・リーダーは渋々手を取る。表情も戻ってきたようだ。
「いいだろう。僕は借りを作らない男だ。必ず返してみせるさ。」
そしてリーダーも連れて船を脱出した。途中でティルスが意識を取り戻し、ヴィントルがサロンを倒したのだと分かった。
時間は戻り屋敷内
ミュア達は全員居間で待機していた。雪美には寝るように言ったのだがどうしても待つと聞かなかったらしい。猫は雪美の許可をもらい猫用の部屋を設けてもらった。それぞれ思い思いに時間を潰し、何も起きずに過ぎていく。みんな暇そうにしていたが
「・・・ん?」
ミュアは何かを感じ取った。ビーチの方で強大な力を感知する。
「・・・・・・嫌な予感。」
ミュアはスタッフに車を出してもらうように話をつける。メイディアと雪美も行きたそうにしていたが、危険なため説得し残ってもらうことにした。
「・・・猫を宜しく。」
そう言ってミュア達はビーチへと向かった。
そして現在。フロンが海蛇を呼び出した。
「では、蛇さん。彼らに攻撃をお願いします。」
フロンが指示すると海蛇は海へと飛び込む。その後を追うようにフロンも海へとダイブする。一同が驚く中、フロンは上手く海蛇の頭に着地する。地面ではないが。すると海蛇の口が大きく開く。
「ヤ、ヤバいぞ。早く船から離れろ!」
ヴィントルの一声で船から離れる泰人達。
そして・・・
グオォー
もの凄い音が鳴ると同時に竜巻が発生し船を飲み込む。もうなんの音か分からない位の騒音で船が完全に沈んだ。元々暗かったのもあるが完全に跡形もない。
「・・・これは洒落にならないっすね。」
一同呆然とした。一瞬で目の前の船が消えれば驚かない方が珍しい。
「逃げましたか。ならこちらに来てもらいましょう。」
そう言うと海蛇が大きく息を吸い込んだ。とんでもない吸引力に全員引き寄せられる。
「ぐ・・・、この俺様も引き寄せられるだと!」
それほど凄いのだ。そして全員真夜中の海に入る一歩手前まで来る。
「あらあら、来ましたね。さてそれでは・・・」
何やら攻撃の指示をしようとしているフロン。泰人たちは踏ん張るので精一杯で他に手が回らない。
「それではこれで・・・?」
キキーッ
後ろで車が急ブレーキをかけた音がする。
そして
「・・・好きにさせない。」
ミュアが飛び出してくる。既に何かの術を完成させている。
いきなり現れたミュアにフロンの指示が遅れてしまった。
「しまっ・・・」
「皆、目を閉じて。・・・光印・フラッシュレイ!」
ミュアの言葉に泰人たちは従い、目を閉じる。
すると
ビカッ
強力な光が術式から放たれる。といっても光るだけだが。
だがそれを見たフロンと海蛇には効果が現れる。
「グギャアアアアアア!!」
「あらら?目が見えませーん。」
どうやら強力な目眩ましのようだ。発生していた竜巻も収まり吸引も消えた。
「今がチャンスだな。でっかいの一撃で決めてやるよ。」
ヴィントルは何やら強力な術式を描こうとしたが・・・ミュアに止められる。
「・・・倒しちゃいけない。この海蛇、ただの召喚された魔物じゃない。」
ヴィントルは魔物をよく見る。
すると僅かだが継ぎ接ぎのような箇所が見える。
それを見てヴィントルは確信する。
「人口で作られた魔物、見たところ生贄は人間のようだが。」
「・・・そう、恐らくこの人たちの目的って。」
「つーことは、昨日の奴もか。・・・糞が!!」
仕方なく術式を描く手を止めるヴィントル。流石にやってはいけないと思ったのだろう。
すると暴れていた海蛇も徐々に収まりフロンにも視力が戻る。
「あら、まだ何とかなっているみたい。では、改めて・・・」
「おい、聞け小娘!!」
強くヴィントルが叫ぶ。まぁ莉麻の声だから凄みはないのだが。
それでもフロンは止まった。ヴィントルの話を聞く気はあるようだ。
「お前、目的はなんだ?その魔物みたいなのを生み出して戦わせるのが目的だって言うなら・・・本気でぶっ倒すぞ!」
「・・・・・・そうですね。仕方ありません、少し私の話を聞いて下さいませんか?」
そう言ってフロンは話し始めた。
自分たちが様々な国を旅しているときに立ち寄った、クリスタ王国で見た魔物を生み出す実験を。
そしてそれを目撃したため捕まってしまったこと。
もうすぐ妹達も生贄にされてしまうこと。
それを防ぐためにミーアにお願いして力を得たこと。
3姉妹のうち誰か一人でも予選を通過できれば現実世界でも能力を使える状態にしてくれること。
「私は負けられないんです。本当はこの子達を戦わせたくはないけど、これしか方法がないから。私はどんなに恨まれてもいい。この子達を、妹達を救うためなら私は何だってしてみせます。」
決意に満ちた表情はとても嘘を言っているようには見えなかった。思わずヴィントルも黙ってしまう。
「・・・クリスタ王国ですか!?」
「・・・クリスタ王国だと!?」
二人ほど反応する。泰人とティルスだった。
ティルスは一度行ったことがあるから分かるのは当然である。
では泰人は・・・
「どっかで聞いたことあるんだけど。前にネットで調べたときにそんな言葉があったような・・・?沙汰なら知ってるかもしれんが。」
なんてことを考えていた。
「さて、私の言いたいことは全てです。・・・それでは再開しましょうか。」
再び海蛇に指示を出そうとするフロン。
「って、ちょっと待ってくれ。そういうことなら俺たちと一緒にいかないか?目的は同じなら・・・」
「それはお断りします!」
思いっきり拒否される。驚く泰人。
「私は海の隊の一人です。貴方たちを倒すように言われている部隊の一人なんです。それに貴方たちに妹達がやられたのは事実です。もう、・・・戦うしかないんですよ。」
すごく悲しい目をしている。だがそれで分かる。
フロンの決意は固い。そう簡単には変わらないだろう。
「・・・だったら、俺たちがその海蛇を無力化できたら貴女は俺たちの仲間に来てもらう。それでどうかな?」
「・・・あらあら、貴方は面白い人ですね~。いいでしょう。ただしこちらは手を抜きませんよ。では蛇さん、お願いします!」
グリャアアアアアアアアアアアアア
海蛇は声を上げる。すると周りにに竜巻が発生する。そして思いっきり風が吹く。
「・・・!?」
今度は先ほどと逆、思いっきり吹き飛ばされる。
泰人達は予想していなかったためそのまま飛ばされてしまい壁に激突し思いっきり背中を打つ。
「・・・・ぐああああ!!」
全員悶絶中。相当痛いようだ。なおも続く強風で、このままだと風圧に全員潰されてしまう。
「ラ、ラルゴ使い。結界を展開しろ!このままじゃ全滅するぞ。」
「分かってるさ。蝸牛結界・守!!」
痛みに耐えてそう言うと、ラルゴが光り泰人たちを包むように結界が展開される。
だが強風に押され少しずつ小さくなっていく。
「駄目だ、向こうの力の方が明らかに上だ。・・・・このままだと。」
泰人の思ったとおり蝸牛結界はどんどん小さくなっていく。
そして誰もが諦めかけた時だった。
「ますたーもカタツムリさんもまだ諦めないでよ。」
「ん?」
スィングのポケットから何かが飛び出した。
小さい精霊のようだがどこかで見たことあるような姿をしている。そう、白魔石をスィングに渡したあの少女・美弥にそっくりだった。
「何か出てきたっすね。いやでも今忙しいから後で・・・」
「あたしはシロミャーだよん。」
話を聞いていなかった。
彼女は周りを見渡す。
「ふーん。キツいけど、あたしが来たからもう大丈夫っしょ。じゃあ行ってみよ~♪」
やたらテンションが高い精霊である。ちょこんとスィングの肩に乗る。
「ますたー、今ならちょーヤバい力使えるかも。とりあえずあたしの5割の力貸すから一緒にカタツムリさん手伝っていこー!」
「分かった。」
シロミャーが肩に乗った瞬間からスィングには何か強力な力を得た感覚がした。
「これならいけるっすね。」
スィングはラルゴに触れて力を強化する。すると
グググッー
徐々に結界が広がっていくのが分かる。海蛇の竜巻を押している。
「・・・仕方ないな、ラルゴ使い!蝸牛結界をあの竜巻にぶつけて相殺しろ。俺はミュアとあの海蛇を門に帰す術式を組む。」
「あぁ、頼むぜ!」
「・・・了解。」
泰人とミュアが頷くと莉麻から黒い水晶が飛び出しミュアに入る。ミュアは集中し術式を描き始めた。
「・・・背中痛いよ。」
「結構効きましたね。」
莉麻とティルスは痛がっている。元々打たれ弱い二人なので仕方ない。そうこうしている間にも結界が徐々に押している。
「あらら、泰人君達も本気できたわね。」
いきなり押され始めたためフロンも少し焦っていた。
「ならこちらも本気でいきましょう。蛇さん、お願いします。」
グリャアアアアア
竜巻が更に大きくなり風の強さも増す。再び結界が押され始める。
「・・・ぐ、あの海蛇の強さヤバいな。白虎倒した俺がスィングの力を借りても押されるか。」
「俺っちも全開なはずなんだがな・・・。」
だがやはり押されている。泰人もスィングも先ほどのダメージもあり限界に近かった。
「うーん、まだ足りないのね。相殺の力加減が難しいのよね~。じゃ、5割から7割に力を上げるからますたーもカタツムリさんも頑張って耐えてね♪」
グンッ
「うわっ!?」
スィングの力が更に強化される。スィングはいきなり力が上がったため驚いたが、すぐに落ち着き泰人に強化された力を送る。
「・・・これはいけるかもな。蝸牛結界全開だ!」
グググググッ
再び結界が押し始める。先ほどよりも更に勢いがついてとんでもない力の塊であると分かる。フロンはかなり驚いた。
「だ、駄目。私は負けられないの。妹達の為に・・・も・・・・・・。」
だが海蛇の力はもう限界だった。そのまま竜巻に接触し、消滅する。
「そん・・・な・・。」
「・・・・・・後は任せて。」
術式を組み終えたミュアは一気に海蛇に近づき術を放つ。
「門よ開け。この者を元の世界へ!」
すると先ほどの門が開き、海蛇を吸い込んだ。だが海蛇のみを吸い込んだため、足場をなくしたフロンが落下する。
「あららららー?」
シュルルルル
パシッ
「・・・・・・・・あら?」
落ちなかった。見るとフロンはムチのようなもので支えられていた。そう、ラルゴウィップだった。
「さて、俺達の勝ちだぜ。仲間になってくれるよな。」
フロンは何も考えられなかった。だが、もう答えは決まっていたためすんなり言葉に出た。
「はい、お願いしますね。」
上空
「何なんだあの力!!?あの海蛇は力だけなら朱雀以上はあるはずなのにそれを力で返すなんて。」
「・・・・・・あの白魔石の精霊、白魔石だけでもレアアイテムなのにあの精霊の力は異常。計算し直さないと!」
双子の少女の方は計算を始めすぐ終わる。
「終わった。私達が勝てる確率は・・・・・4割。」
「・・・嘘だろ。あれだけでこんなに上がるなんてありえないよ!!!」
「落ち着いて。ひとまず戻ろうよ。」
少女が少年を宥めて再び暗闇に消えた。
午前1時30分・ビーチ
フロンと分かり合った泰人達はひとまず帰ることにした。もう全員満身創痍だからだ。フロンを連れて無事だったスタッフの車に乗り雪美の屋敷へと戻っていった。シロミャーはあの後すぐに石に戻ってしまった。
こうして泰人達の二日目最初の戦いは幕を閉じた。果たしてこれからどのような戦いが待ち受けている
のか?
「必ず地獄に送ってやる。待っていろよ、泰人ぉ!!」
泰人達が屋敷に戻っている時、路地裏にいた男はそう叫んだ。
続く
どうでしたか?
それではまた見てくだされば嬉しいです!