36.魅惑の力
私達は歌と踊りで色々な国を回ってきたんだけど、ある時クリスタ王国に立ち寄ったの。
そこはなんかレンガ造りの建物等のどこか昔風の感じがする所だったけど居心地は良かったね。
王女様にもちらりと会ったけど凄くかわいい人だったな。口数が少なくて手を振ってるだけだったけど。
一月ほど経ったある日、私たち姉妹はそろそろこの国を離れようと思って最後に町中を見て回ろうってことになったの。
凄く楽しかった。色々なものを見たり、買ったり、良い一日だった。・・・そのまま終わって欲しかった。
気がつくと私達は路地裏にいたの。どうやら道を外れちゃったみたいで急いで戻ろうとしたら・・・・・・見てしまったの。
そこで行われていた・・・人体実験を。
ヴィントルは落ち着いていた。30人もの男達に狙われているというのに全く焦っていなかった。
「・・・あのさ、本当に大丈夫なの?さすがにこれはまずいんじゃ・・・。」
心の中で莉麻が語りかける。どうやら彼女は心配しているらしい。
「問題ねえよ。・・・お前の力を使わせてもらうぜ。」
そう言うとヴィントルは手を空にかざす。天気は好調だ!
男達がすぐそこまで迫っていた。ドスドスととんでもない勢いで走っており目は血走っていて狂っている。
ひゅーん
上から何やら物が落ちてくるような音がした。
一斉に上を見ると普通では考えられないものが落ちてきていた。
「えーっと、・・・やかん?」
莉麻はそう呟いたがその通りだった。巨大なやかんが男たちの頭上目掛けて落ちてきた。男達は気付いて上を見たがもう遅かった。
グシャン
物凄い音を立ててやかんは男達を押し潰した。
「・・・やっと着いたぜ。」
「俺っちもさ、流石に疲れた。」
泰人とスィングが到着した。すぐにビーチに向かうと・・・でっかいやかんがあった。数十人の男達が潰されているのが見える。
傍に立っていたヴィントルは泰人達に気付き声をかける。
「全く貴様らが遅いからもう終わっちまったよ。」
二人はボーっとそれを見てこう言うしかなかった。
「やかんすげー!」
「やかんすげー!」
泰人達が感心していると三姉妹が彼らに近づいてきた。
「やかんすげー!」
「やかんすげー!」
「やかんすげー!」
なんて言う訳がない。どうやら少し感心しているようだ。
「ふーん、なかなかやるわね。この辺で一度自己紹介でもしようか。」
少女達は横並びに一瞬でなる。これぞ日頃から鍛えている技である。健康そうな足が眩しいぜ!!!!!
「まずあたしたちは海の隊・ビギンクガールズね。あんた達が倒したのは陸の隊・武者蜥蜴隊、後もう一つ空の隊なんてあるけどあいつらの力なんていらない。あたし達だけで十分よ。」
「出来れば私達でなんとかしたいわねー。」
名乗っている時は攻撃してはいけない、それは鉄則なのだ。やかん下の男たちの何人かはもぞもぞと動こうとしていたが名乗りが始まった瞬間ピタリと止まった。狂っていても話の分かる奴らである。
「さて名前だけどあたしは次女のサロン、こっちの天然が長女のフロン、でこの普通の子が三女のミカゼよ。」
「あらあら、私は別に天然じゃないですよー。」
「・・・特徴がないのが特徴だもん。」
と一通り紹介が終わる・・・と同時にやかんの下から数人這い出てきた。
どうやら8人ほど無事らしい。一応他の参加者よりは強そうに見える。
「ツンデレサイコウダー!!」
「テンネンノオッパイサイコウダー!!」
「フツウダー!!」
口々に叫んでいる。催眠状態から解けてはいないがやはりイかれていた。
「・・・きめえ。」
「・・・私来ない方が良かったかも。」
「・・・どうでもいいな。」
「俺っちは天然好きっすね。」
泰人達も口々に呟く。若干一名おかしいが・・・・・・。
「変なこと言ってないで奴らをやっつけなさい!!」
サロンがそう言うと男達は奇声を上げて再び襲いかかってくる。
だが泰人達は気持ちを切り替えて集中していた。ヴィントルが泰人に視線を向けると泰人はスィングにラルゴを渡す。スィングは受け取り力をラルゴに込めて泰人に返す。
この間約5秒。
男達は目の前まで迫っていて既に攻撃の体勢に入っていた。しかし泰人は瞬時にスネイルシューターに変形させ、男達に向けて八発撃った。勿論近くの奴からだ。
パンッ
軽快な音がなり水の塊が発射される。狂っているとはいえ、8人はなかなかの手練れである。すぐに攻撃をやめて避ける体勢をとると楽々避ける。
だが水の塊にはさっきスィングが力を込めた時に追加能力である追尾が搭載していたのだ。塊は急にグルンと軌道を変えて男達に向かっていった。
流石の男達もそれは予定外だったようでそれに当たってしまう。
ドンッ
鈍い音が男達の後頭部から聞こえ全員意識を失い倒れる。どうやらやったようだ。
「まぁ、こんなもんだろ。」
泰人はラルゴに戻した。
三姉妹は少し驚いていた。たった数分で30人全員がやられたからだ。でも予想範囲内ではあった。
そう彼女達にはまだ手があったのだ。
「・・・ふふふ、さて始めようかしら。」
「・・・ん?」
サロンの一言に泰人達は一斉に彼女の方を向く。しかしそれが罠だったのだ。
彼女の眼が妖しく光る。まずいと思ったがもう遅くそれを思いっきり見てしまったのだ。
数秒後
「・・・何ともないが、何か効果があるのか?」
ヴィントルはどうやら何ともないようだ。しかし横を見ると
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
泰人とスィングは完全に動けない状態だった。表情は苦しそうで意識はあるようだが意識を保つので精いっぱいのように見える。
「あらあら、大変ですね。」
フロンがにこやかに笑いながら言う。悪気はないようだが今の状態だとそうとられても仕方ない。
今度はヴィントルが追い詰められた。
「だが俺様だけ効かなかったのは・・・・・・そういうことか!!」
ヴィントルは自分の身体を見る。そう今ヴィントルは茅野莉麻、女の子である。
どうやらサロンの魅惑の力は男の身体にのみ効くようだ。
「今更分かっても遅いわ。じゃあ姉さん、宜しく!」
「はーい。」
フロンは既に杖を取り出し空中に陣を描いていた。
そしてそれが完成するとそれが光り、陣の中から巨大な角の生えた悪魔が現れる。
「・・・こりゃ、洒落にならんな。」
ヴィントルは苦笑いを浮かべた。泰人とスィングが動けないこの状況では分が悪いと悟ったようだ。
「うがあああああああ!」
悪魔はヴィントルに向かって殴りかかってきた。
「ちっ・・・。」
ヴィントルは右手の掌を悪魔に向ける。
すると悪魔の攻撃を遮るように巨大なまな板が出現する。
悪魔はそれを思いっきり殴る。一応壊れていないが軽くミシミシと音が鳴っていてあまり持たないのは誰が見ても明らかだった。
「・・・こいつは終わったかもしれない。」
ヴィントルは諦めモードに入っていた。そうしている時にも悪魔のの猛攻は続く。ドスドスと音を立てて殴ってくる。そろそろ突破されそうだった。
だがフロンは追い打ちをかける。
ヴィントルの横に術式が見えた。ヴィントルが見るとそれが何なのかすぐに分かる。
・・・転移の陣だった。
「・・・おい、とことんやるつもりか!?」
ヴィントルの言葉には耳を貸さずに陣は完成しそこからティルス達が出てくる。
「・・・・え?ここはどこですか・・・。」
ティルス達はパニックになっていた。だがそれは三姉妹にとってチャンスだった。
「ティルス!こっちを見なさい。」
「はい?」
ついティルスはサロンの方を向いてしまった。
「馬鹿野郎!!そっちをみるんじゃねええええええええええええええ」
ヴィントルは叫ぶ。だが時すでに遅く彼女を視界に入れてしまった。
「これで終わりね。」
サロンの目が妖しく光る。
そしてティルスは光に包まれた。
続く
どうでしたか?
次回も楽しみにしてもらえたら作者感激です!