34.道化師の暇つぶし
「さて、体勢を立て直すためにも彼女たちの力を借りようかな。」
武者蜥蜴隊のリーダーはあの後森を早々と抜けて海辺まで常人以上のスピードで走ってきた。
海辺にはビーチがあり、その近くにはステージがある。そのステージでは女の子3人組がリハーサルをしていた。3人とも背は同じくらいで、強気そうな子、天然そうな子、普通の子の3人である。少し派手目な服装から見てアイドルのようだ。
「やぁ、ビギンクガールズの皆さん。ちょっと助けてほしいんだ!」
リーダーが話しかけると3人はダンスをやめてリハーサルを中断する。
4人は休憩室に移動して会話する。
「聞いたわよ、無名の男に負けたって。全くあんたたちは駄目ね。」
「姉さん、それは言いすぎだよ。あのスィングって人今まで力隠しててミーア様も把握できていなかったんじゃないかな。」
「そうですね、この子の言うとおりですよ。言いすぎはいけません。」
「・・・むー!」
どうやら3人は姉妹で天然長女、強気次女、普通の子三女のようだ。
「いや、ツンデレちゃんの言うとおりだ。僕の判断ミスだったよ。だからこそこうしてお願いに来たんだ。」
「誰がツンデレですって!」
突っかかる次女を長女と普通の子が止める。いつもの事のようですぐに収まる。
「そうですねー、協力をお願いしましょう。昼過ぎからライブをしますので裏方に回ってくださると助かりますわ。」
「了解したよ、じゃあ行ってくる。」
そういってリーダーの男はスタッフルームに移動した。
「お姉ちゃん、いいの?あいつあたし達利用する気だよきっと。」
「うふふ、大丈夫よ。私たちのライブを見ればいくらリーダーさんでも堕ちちゃうわ。」
「だといいけど・・・。」
3人は再びリハーサルに戻った。
午前10時30分・町中
スィングがガトルを倒したころ、莉麻達は車で町を回っていた。いざという時に地の利を生かす為だ。
回ってみた所、ヴィントルが回った時とそれほど変わっていなかった。雪美はある程度しか分かっていなかったのでヴィントルの指示に従って回ったのだ。
しかし変わっている部分もあった。
近くに海があり、どうやらそこのビーチで昼ごろからステージでライブがあるようだ。さっき立ち寄った喫茶店で町中の地図を配っていてもっと早く来ればよかったと後悔していた所だ。
「私ライブ見に行きたいな。だってなんか面白そうだもん。」
「・・・・・・罠。だから反対。」
「私もです。行くならば泰人さん達と合流してからにした方がいいですよ。」
「そうだよ莉麻ちゃん、ここは慎重に行こうね。」
「・・・残念。」
3人に反対されたため彼女たちはライブを見には行かないらしい。
そして再び移動するべく喫茶店から出る。すると目の前に変な男たちがいた。
どうやら大会参加者のようだが海辺のビーチに向かっているようだ。
「おい聞いたか、噂によるとビギンクガールズのライブ見に行くといいことがあるらしいぜ。」
「聞いた聞いた。ダンスや歌に能力向上効果があって聞いた参加者をパワーアップさせてくれるんだってな。」
「最大30人までだってさ。13時からだけどもう行こうぜ。」
そう行って走り去っていった。
それを聞いた莉麻が目を輝かせる。
「それ凄いね、やっぱりみんなで・・・・・・あ。」
急に莉麻の瞼が落ちる。・・・目が開くと目つきが鋭く変わっていた。
どうやらヴィントルが身体の所有権を奪ったようだ。
「これは遊びじゃねえ。いいから他の奴らの言うことを聞け。」
「(・・・はーい。)」
ヴィントルが心の中にいる莉麻に説教する。どうやら反省したようだ。
「さて、参加者討伐はラルゴ使い達に任せて俺たちは一度身を隠した方がいい。確か町外れに廃屋があったな。もし誰かいたらぶっ倒してでも確保するぞ。」
莉麻になったヴィントルの一声に他の人達も頷き車へと移動しようとする。
・・・が一人の男が立ちふさがる。
「き、君達あの手配書の子達だよねぇ。・・・うわぁレベル高いなぁ、いいなぁ。」
背は高くなくて眼鏡をしていて体格がいい男だった。ちょっと危ない感じがする。
気持ち悪かったのでヴィントルは追い返そうと前に出る。
「おい貴様、通行の邪魔だ。そこを退きやがれ!」
「うぉう、言葉使い悪い美少女とか最高!これはお持ち帰りしたいなぁ。」
まるで話を聞いていない。
話すだけ無駄だと分かったのかヴィントルはその男を倒そうと構える。
「おう怖いなぁ。君ちょっと落ち着いてこっち見てよ。」
「あん!!?」
その時ヴィントルの視界に男の眼が入った。
ヴィントルの動きがピタリと止まった。
「・・・・・・・・・・。」
「ふひひひひ、いやぁ上手くいきましたな。では早速・・・。」
危ない男がヴィントルに近づこうとする。
だがその前に雪美、ミュア、フィルディアが立ちふさがる。
「やめてください。今すぐ彼女に掛けた術を解きここから立ち去ってください!」
フィルディアが男にそう言う。
しかし男はその言葉を聞き流しているらしくヴィントルに近づく。
「うーん上玉だね。持ち帰って飾りましょー。」
雪美とフィルディアが止めようとするがすぐに振りほどかれてしまう。どうやら狙いはヴィントルだけのようだ。
ミュアは正直なところ手加減ができないため攻撃すると男が消滅してしまう恐れがあったがそうも言っていられない状況にある。
「・・・・・・仕方ない。」
諦めて鎌を取り出そうとすると・・・
ドスッ
鈍い音がして男が急に吹っ飛ばされる。
何事かと思い急に気配がした方を見ると道化師の格好をした男が立って蹴りの動作をしていた。
そう、シュパルツだ。
「暇なので見にきましたが、まさかヴィントルがこんな簡単に罠にはまるとは・・・・・・情けないですね。」
笑いながら話すシュパルツ。固まったヴィントルを見ては爆笑している。とりあえず危害を加える気はないと思ったのかミュア達はじっとしていた。
すると男が起き上がってくる。
「痛いなぁもう。そっちのお兄さん邪魔だよ。痛い目見てもらおーかなぁ。」
するとその体格からは信じられないほど俊敏にシュパルツとの距離を詰めて懐からナイフを取り出すと脇腹目掛けて・・・・・・刺そうと思ったが
「・・・え?」
いなかった。シュパルツは目の前にいなかった。そして男は嫌な予感がして後ろを向くと
「ウォーミングアップにもなりませんね。」
すでにシュパルツの左ストレートが放たれた後だった。綺麗に男の顔に吸い込まれるようにヒットし男はそのまま吹っ飛ばされると店の壁を壊して止まった。すでに意識はなく失格になったようだ。
「いやいや、何か面白いことはないですかねぇ・・・。」
「ま、待ってください!」
そう言って立ち去ろうとするシュパルツをフィルディアが止める。
シュパルツは振り向く。
「助けてくれてありがとうございます。ですが何故敵対関係である私たちを助けてくれたのですか?」
「この世界は面白いことが少なく暇でしてね。ヴィントルをからかいに来たのですが・・・そうだ!」
何か思いついたような表情をして言葉を続ける。
「茅野泰人君に伝えておいてください。残り20人以下になった時貴方との決着をつけに行きますと。それまでやられないで下さいと・・・。お願いしますね。」
そう言い終わるとシュパルツはその場から姿を消した。
「・・・・・・泰人はやらせない。」
ミュアが最後にそう呟くとヴィントルが意識を取り戻した。
「今回は戦闘が少なかったため脱落者は1人。残り人数は81人ですので皆さん頑張ってくださいね。以上スピーカーの放送でした。」
続く
どうでしたか?また次も見てもらえたらいいと思います。
感謝です。