25.出陣
場面はディオール。
ティルス達は気付いたら王都内の病院にいた。どうやら移動能力が復活しているようだ。しかも時空を超えるだけでなく普通に移動もできるようになっているみたいである。
ティルスはすぐにスェイゼルを呼んだ。スェイゼルは今手術が終わった所のようで急いで駆け付けてくれた。そして傷だらけの沙汰を見るととても驚いた表情をした。
「・・・これはヤバいかもしれないな。すぐに手術をする必要がありそうだ。」
スェイゼルは看護婦にタンカーを持ってこさせると、沙汰を乗せて手術室へと入っていった。
ランプがつく。そこから長い時間ランプが消えることはなかった。
スィングを手術室前に待たせてその間に二人は行動を起こすことにした。周りの人から同じ病院にティライズとフィドゥが入院している情報を耳にした。まぁ、有名人なので話が広がるのが早いのだろう。
ティルスは受付の人に話を聞き、部屋番号を教えてもらい向かった。関係者のみ立ち入り可能だったがティルスは関係者なので問題なかった。
部屋に入ると初老の男性と出会った。執事のようで相手はティルスに気付くと状況を話し始めた。
ティライズとフィドゥを車に乗せて城へ向かう途中で謎の少年に襲われたこと。何とか倒すことができたがティライズ、フィドゥが重症を負って今手術を終わったことを話した。謎の少年も放っておけずに連れてきて別の部屋で入院していることも。
「今まで手術室前にて待機しておりましてまだ城へ報告しておりません。今落ち着いた所で向かおうとしていたのですが、ティルス様も来ていただけませんか?私だけでは全て説明できるかどうか不安ですので。」
「分かりました。僕達も王に報告することがありますので向かおうと思っていたんです。ではお願いします。」
そうと決まると3人は城へと向かうことにした。
外に出るとすでに太陽が沈みかけてきれいな夕焼けが見えた。
車に乗り込むと城へ向かった。
執事が兵士に話をつけてすぐに王との面会の時間をもらった。
すぐに謁見の間に通される。
「・・・ふむ、最初来た時と仲間が違うようだ。というよりたった二人か。さて、話を聞こうか。」
「分かりました。」
ティルスは話し始めた。
莉麻が闇の精霊に連れていかれたこと、泰人がやられたこと、エルドイから重要な情報を聞いたこと、試練をすべて終えたが沙汰が瀕死になったこと、謎の少年の襲来でティライズとフィドゥが重傷を負ったこと等々包み隠さずすべて話した。
「そうか、ご苦労だった。これで王の力は継承されたことになる。・・・だがまだやり損ねたことがある。違うか?」
「・・・え?」
ティルスは驚いた。てっきりすぐにでも継承式の準備をさせられると思ったからだ。
「まだやりたいことが残っているのだろう。そんな表情をしている。だったら行って来い。すべて終えた時お前は王としての器として十分な存在となるだろう。・・・だが無理はするな。」
「・・・はい!!ありがとうございます。」
「ティライズ達はスェイゼルに任せておけば大丈夫だろう。さて、準備はちゃんとしておけ。もし欲しければ兵も武器も与えるが・・・。」
その言葉にティルスは首を振る。
「大丈夫です。僕達で行ってきます。」
「・・・たった3人は不安だが・・・、お前が言うならば大丈夫なのだろう。さぁ、行くがいい。」
ティルス達は礼を言ってその場を立ち去った。
王は一人になるとすごく寂しそうな、悲しそうな表情をする。
「私はティライズ達になんて残酷な運命を背負わせてしまったのだろう・・・。」
「・・・そんなことはどうでもいい。貴様、何故ティルスを行かせたりした?すぐにでも王位継承をさせておけばこれ以上苦しむ必要もない。」
王の頭に直接声が響く。なんというか機械音のような嫌な声だ。
「青龍を倒せる可能性が少しでも上がるならこの方法を選ぶさ。私は王位継承のためではない、お前を倒す人材を育てる為に彼らに試練を与えたのだ。それに親衛隊の者達もお前などに利用されるくらいなら命を投げ捨てる覚悟だ。朱雀や白虎のように・・・。」
「完全ではないとはいえ我が術を受けながら抗うとは流石は親衛隊といったところか。そして玄武と魔術師を逃したのはやはり失敗だったようだ。茅野泰人と谷田沙汰という厄介な敵を増やしてしまった。あの時ミーアが抵抗しなければ・・・。」
「過ぎたことは仕方ない。後は青龍とあの二人、不完全のミーアがお前の頼みの綱だろうがそう簡単には・・・。」
「・・・貴様、ちゃんと見ていなかったようだな。ティルスと一緒にいた娘、あれが最後のピースだ。今のミーアにあの娘を会わせれば、流石に覚醒ラルゴでも無理だな。」
王の表情が変わる。ティルス達を追おうと立ちあがろうとするが・・・・・・身体が動かない。
「止めろ。今すぐ止めに行かなくては。」
「貴様はここでゆっくりと観戦していることしかできんのだ。さて、準備でもしようか。」
その言葉を最後に王は深い眠りについた。
ティルス達が病院に着くころには夜になっていた。
どうやら沙汰の手術も終わったようで、病室へと移されていた。
ティルスとミュアはスィングの話を聞く。
「あの先生が言うにはとりあえず一命を取り留めたらしい。・・・が、意識が戻る可能性は限りなく低いらしい。」
「・・・え?」
驚愕な表情をする二人。どうやら相当大変状態らしい。
「だから誰か一人はつきっきりでいた方がいいと思う。だから・・・。」
「だったら私がいるから大丈夫だ。」
その声に振り向くとティライズが起きていた。同室だったので声が聞こえていたようだ。
「どうやら沙汰が危険な状態らしいな。なら私がいるから君達は君たちにできることをしろ。」
「でも、僕のせいで沙汰さんがこんな状態に・・・・・・。」
「だったら尚更だ。泰人達を連れて戻ってくる、これ以上に奴が喜ぶことがあるか?」
その言葉に頷くティルス。確かにその通りだった。もしかしたら泰人達を連れてくれば沙汰の意識が戻るかも、そう思うしかなかった。
「・・・分かった。僕達行ってくる。でも無理はしないでね、君も重傷なんだから。」
「ふん、当然だ。・・・お前も気をつけろよ。」
そう言ってティライズは眠りについた。疲れていたのにティルス達の為に無理していたのは誰が見ても明らかだった。
「じゃあ行こう。メディスクローズの神殿の隣にある遺跡へ!!多分あそこに行けば泰人さん達の居場所も分かるはずです。」
二人も同意見だったようで頷く。そして移動しようと集中しだした所で・・・
カランカラン
何かが落ちた音が部屋中に響いた。
音がした方を見ると融合の腕輪、変身の指輪、導きのビー玉が転がっていた。
「そういえば意識を失ってでもあれだけは手放さなかったんすよね。今手放したってことは・・・。」
ティルスは頷くと3つのアイテムを拾う。すると沙汰が笑ったような気がした。寝ているのに・・・。
「沙汰さん、貴方の気持ちは無駄にはしません。きっと泰人さんを連れて戻ってきますからね!」
そう言ってティルス達はその場を後にした。
3人は気がつくと遺跡の前にいた。それほど古くない遺跡のようだ。中に入ると祭壇のようなものがあるのが確認できる。
「・・・ここは願いの跡地。何かを失い何かを得る、そんな所よ。」
珍しくミュアが結構話した。
二人はかなり驚いている。
「前にある人物とここに来たの。大事な人を取り戻すために、・・・あの子を生贄にしようとした。」
すごくさみしそうな表情をする。いつも無表情なのでこれまた珍しい。
「でも、少なくても今の私は違う。何かを犠牲にして幸せを掴んだってそれは違うもの。私の幸せじゃない。それが大事な人の妹なら尚更・・・。」
そう言って懐から石を取り出す。それはとても綺麗なエメラルドだった。
「私は梓由を止めなくちゃいけない。あの子は多分泰人といる。そんな気がするの。だからこの石で泰人の居場所を教えてもらう。みんな助けたいから!!」
そう言ってエメラルドを祭壇に置く。すると祭壇が輝き始めエメラルドが消えると同時にティルスに緑色の光が発射される。
光に包まれティルスは理解した。泰人の居場所を。
「時空転移!!」
そう言うとティルス達は・・・
シュン
一瞬誰かがティルスの前に現れた気がしたが確認できずその人物達も含め転移を開始した。
ギギギ
「さて、・・・ようやく出番がきたようだ。」
城の中で巨大な銅像が動きだそうとしていた。
続く
どうでしたか?
次回も見ていただければ嬉しいです!