12.ロマンを求めて・後編
3人の少女達は、温泉入口まで来た。そこには警備員らしき女性が入っていく客を見ていた。荷物のチェックもしているようだ。
「さぁ、次は君たちか。まぁ大丈夫だとは思うが一応確認させてもらうよ。」
そう言って3人の荷物をチェックされる。勿論怪しいものなど何もなかった。
「よし、通っていいよ。」
許可をもらった3人は温泉の脱衣所に向かった。その時さっきトイレに入った少女がにやりと笑ったが誰も気づかなかった。
「・・・・・気のせい?」
ミュアはさっき感じた寒気は気のせいだと思うことにした。彼女は今、ティルスと共に温泉で入浴中だ。
ティルスも最初は女湯に入るのをすごく嫌がっていたが、温泉に入るとそれもあまり感じなくなり今はゆっくりとつかっている。
「いや、温泉はいいですね。気持ちが安らぐというか、今日一日の疲れがとれていく感じがしますね。」
「・・・・・・同感。」
そうボーっとしていると、3人の少女が入ってくる。別にそれくらい普通なのだが、そのうち一人が何やらキョロキョロとまわりを見ている。
「ん、どしたの?」
「あ、いや誰か知り合いがいるかと思って。あはは。」
その後軽く体を流し3人も湯につかる。その瞬間、さっきの少女の右腕に腕輪がしてあるのをミュアは見逃さなかった。
「(・・・あの子、・・・ちょっと変?)」
雰囲気の違いには気付いたが特に気にする必要もないと考え、ゆっくりすることにした。
「くそ、あの爺さんどこに行きやがったんだ。」
沙汰はとにかく宿内を駆け回っていた。エルドイを完全に見失い、かなり焦っているようだ。どうやら自分の作ったもので他人に迷惑をかけるのがすごく嫌みたいだ。まぁ、当然だが。なんたって犯罪ですから!
「一体どこに・・・・・・・・・・そういえば、あれが使えるな!」
すると沙汰は突然何か思いついたようにミニパソを操作する。するとこの宿屋の地図が映し出されそこに赤い点が一つポツンと点灯している。
「これだ!よし、行ってみるか。」
その場所に沙汰はけっこう早足で向かった。
「・・・・・・ってマジか!?」
何度目を見開いても変わらない。そこは何をかくそう女子トイレだった。
「あの爺さんめ、どうやら今使おうとしているな!!」
頭に血が上っていたため、何も考えず沙汰は中に入った。幸運なことに中には誰もいなかったが、床に小さめの発信機が落ちていた。
「・・・・・・ははははは、もう許さねぇぞ。」
引きつった笑みを浮かべ出ようとすると、・・・・・・女性の見回り従業員に見つかった。
「何をしているんですか!?」
「え?あ、いやその、友人の落とし物を探しに・・・。」
何とか誤魔化そうとするが、その従業員は慌てて聞こえていないようだ。
「ととと、とにかくこちらに来てください!!」
「え、あ、ちょっと待って・・・。」
そのまま腕を引っ張られて事務室に連れていかれた沙汰だった。
「うーん、これ借りても俺っちあの人に思い入れほとんどないからなぁ。」
スィングは沙汰とは逆方向を探していた。どうやらビー玉がうまく機能していない、というか使えないみたいだ。
「さて、どうしようか・・・・・・ん?」
何やら悲しい感じの声が聞こえる。スィングはその声の聞こえるほうに歩いてみると、一人の少女が泣いていた。見た感じ5,6歳といったところか。
「やぁ、何かあったのかい?」
「・・・・・・ひっく、お母さんとはぐれちゃったの。」
どうやら迷子のようだ。泣き終わるのを待って詳しく話を聞くと、今日少女は母親と一緒にここに温泉に入りに来たらしいがはしゃいで駆け回っていたら母親とはぐれてしまったようだ。
「そっか、ならば俺っちも君のお母さんを探してあげるっすよ。」
「・・・本当?お兄ちゃん、ありがとう。」
そう言って手を握ってくる。その手は小さく少し冷たかった。本当にさみしかったのだろう。心なしか握る手の力も強い。
「よし、じゃあ行こうか。」
「うん。」
二人は少女の母親を探すべくはぐれた場所へと向かった。
「畜生、ひどい目にあった。」
事務室に連れて行かれた沙汰は、女性従業員何人かに囲まれてこっ酷く怒られた。なんとか納得してもらえたものの、もうしないように釘を刺された。このように厳しくなったのもエルドイが頻繁に覗きをしているからみたいだ。
「あの爺、絶対に許さないぜ。一度ぶっ飛ばす必要がありそうだな。」
そう呟いて歩いていると、スィングが少女と一緒に歩いている所が目に入る。ぱっと見て兄妹が歩いているように見えた。沙汰はとりあえず声をかける。
「どうした、何かあったのか?」
「え、ああ。どうやらこの子がお母さんとはぐれてしまったようなんっすよね。」
そう言ってその子の頭を撫でる。するととてもうれしそうにふにゃふにゃする。
「それなら、俺が渡したビー玉使えばいいんじゃないか?」
それを聞いてあ、そうかと頷いたスィングは懐からビー玉を出し少女に軽く説明をして手渡す。
少女はそれを手にむむむと念じる。・・・すると
「美弥!!」
それに釣られてきたのか、一人の女性がこっちに向かってきた。
「お母さん!!」
二人は抱き合う。どうやら本当に母親らしい。感動的な再会シーンに沙汰達も嬉しそうだ。
そうしてしばらく経ち、少女の母親はお礼を言う。
「本当にありがとうございます、何とお礼を言ったらいいのか。」
「いやいや、俺っち達は何もしてないっすよ。」
本当に何もしていないとはいうもののやはり嬉しそうだ。そこに少女がビー玉を返してくれる。それと
「あ、これあげる。昨日洞窟に行った時拾ったの。」
そう言ってスィングに白く光る石を手渡す。それを受け取るとスィングはにっと笑い、頭を軽く撫でてあげる。これまた嬉しそうだ。
「じゃあお兄ちゃん達、ばいばい!」
そう言って手を振り少女達は温泉に向かって行った。
「さて、目的と外れちまったが、あの爺さんをどうするかだが・・・。」
「あれから結構経ったからもう覗きしてんじゃないっすか?」
確かになと頷く沙汰。その顔はとても悔しそうだった。もう駄目なのかと思った沙汰だったが
「・・・そうだ、ティルスやミュアちゃんに協力してもらえばいいんじゃないっすか。例えばさっきの音機能を使ってとか。」
「うーむ、本当は知られたくなかったんだがな。仕方ないか。」
そう言ってキーを打ちこんでいく沙汰。すぐに通話可能になる。
「ティルス!聞こえてるなら返事してくれ。」
ティルスのつけている変身の指輪から沙汰の声が聞こえる。ティルスは突然のことでびっくりして立ち上がってしまった。周りの目線を一人占めにしてしまい、とても恥ずかしくなった。
「ちょっと、沙汰さんやめてください。ここ女湯ですよ。」
「なるほど、どうやらかなり慣れているようだな。いや、良かった良かった。」
沙汰が笑っている。それが聞こえたのか周りからまた見られる。ティルスはどんどん顔が赤くなっていった。
「まぁそれは置いといて、近くに腕輪をした奴がいるかどうか見てくれないか?」
「・・・いる。」
ミュアにも会話が聞こえていたようだ。ティルスもミュアの見ている方向に目を向ける。すると例の少女が湯につかりながらまわりをキョロキョロ見ている。心なしか嬉しそうに。
「そいつは変態科学者と融合している。俺の発明品を盗んで覗き・・・・・・よりたちが悪いことをしようとしているんだ。」
「・・・え!?」
ティルスとミュアがはもった。そしてミュアは確信する。さっきの寒気はこのことだったのだと。
「そこで俺にいい考えがある。今から水の芸術家の能力を使い、この指輪から大量の蒸気を発生させるからそいつを脱衣所まで連れて来てくれ。警備の人に話して女湯の脱衣所の人を避難させておくから、そこで俺が奴の融合を解いてぶっ飛ばす。こんな感じだ。」
「分かりました。一大事ですからね、任せてください。」
ティルス達はは軽く打ち合わせをして行動に移した。
静かに蒸気が噴出する。すると温泉内が白い霧のような感じで見えにくくなる。どうやら入っている人達は少しだけ気にしているようだが大事にはなっていない。
「・・・・・・行くよ。」
しかしミュアには見えているようだ。かなりの早さで少女に近づき
拘束の術を使う。
「!?」
いきなりのことで少女も驚いて声を出そうとする瞬間、口をふさぎそのまま温泉を出た。
「よし、腕輪を触って解除と念じてくれ。」
すでにスタンバイしていた沙汰にタオルを渡しながら言われ、ミュアは解除と念じる。
するとぶにゅっとして少女とエルドイに分離する。
「・・・・・・宜しく。」
ミュアは自分と少女にタオルを巻いて少女を背負って一度脱衣所を出た。
「・・・なるほどな。私を追い詰めるとは、やるじゃないか。」
エルドイは不気味に笑っている。まだ自分が有利と思っているらしい。
「何か考えがあるんでも関係ないぜ。2発で終わらせる。このエロ爺!!」
沙汰はいつものごとく高速でキーを打つ。するとまわりに小さいが大量の陣が展開される。
「現れろ、ミニ・カイチョーズ!!」
すると小さいカイチョーがその陣から出てくる。ぱっと見100匹くらいいる。
「行くぜ、カイチョーズの体当たりを喰らえ。」
すると大量のカイチョーズがエルドイに体当たりを始める。しかしエルドイは涼しい顔で全てをさばく。どうやら余裕そうだ。
「・・・はぁはぁ。」
だが数をこなすごとに徐々に疲れてくる。エルドイは何とかすべての攻撃を受け切り沙汰の方を向こうとすると
いない
「・・・・・しまった!!」
慌てて後ろを向くが時すでに遅し、沙汰はすでに陣を完成させていた。
「喰らえ、キャプテンカイチョーだ。」
そこからものすごい速さでミニカイチョーが発射され、エルドイの腹をとらえる。そしてそのままの勢いで後ろのロッカーに突っ込み決着はついた。
その後、エルドイは警察に捕まった。流石に覗き以上の事をしたので言い逃れは・・・
「全く、お前は少しは手加減をするということをだな。」
できなかったが、周りの人たちと例の少女が許してあげて宿立入禁止で済んだ。今宿の外で沙汰に説教をしているようだが、聞き流しているみたいだ。
「さて、本題だ。この世界、ディオールについての真実を教えてもらおうか。」
その言葉を聞き、エルドイは説教をやめて真剣な表情になる。
「いいだろう、この世界の真実は」
そしてこの真実により
「闇のみぞ知る。」
沙汰達は何を考えるのだろうか。
続く
どうでしたか。
また次回見てもらえれば嬉しいです。