9.初のお泊まり
場所を移す。
「うーん、これで本当に・・・・・いいのかな?」
ティルスは再び学者の小屋を訪れていた。無論変身したままである。
こんこん
「あの、すみません。いいですか?」
再び小屋の戸を叩いて声をかけてみる。・・・すると
「・・・・・・あらら、今日は珍しく尋ねる人多いわね。誰かな?」
再び同じ女性が出てくる。ここに他の人は勤めていないのだろうかと思いつつ
「あの、先ほど来たものなんですけど。」
真実を言う。すると女性は少し困ったように
「・・・うーんと、さっき来た子は男の子でしたね。もしかして、女装かな?」
そう言ってティルスの胸を触ってきた。
「・・・ひゃん。な、何を!?」
「これは小さいけど・・・・・・本物ね。となると。」
女性は少し考え一つの結論を出す。
「変身系の術ね。かなり完成度が高い所から見て、実力がある術師にでも頼んだの?」
「え、まぁそんな感じです。」
いきなりのことで驚いたティルスだが、少し落ち着きそう返す。
「それほど話が聞きたいってことですか。じゃあまた連れて行ってあげます。」
という訳で再び部屋の前に来た。
「先生お客様です。今度は女の子が尋ねてきました。」
「ふむ、通してあげなさい。」
さっきとはうって変わって簡単にOKを出す男。まったく現金な奴である。
「失礼します。」
ティルスが学者の部屋に入った。そこには書類が散らかった部屋に一人、初老の男が椅子に座っていた。
「ふむ、こちらに座りなさい。」
かろうじて使われているであろう椅子を出して言う初老の男。
「あ、はい。ありがとうございます。」
ティルスはそう返して素直に座る。
「では、君の考えていることを当てよう。恐らく私が無茶なことを言うから困っている。そして元に戻れなくて困ってはいるが、情報を集めるために仕方なくここに来たと言ったところかな。」
「・・・え?そ、それって・・・。」
ずばり言い当てられて混乱するティルス。まだ自己紹介もしていないのに何もかも分かっているようだ。
「とりあえずせっかく変身してまで来たんだ。本当は追い返す所だが、かわいいし許すこととしようか。」
と言ってティルスをじろじろと見る男。その目は獣のようだ。
「えっと、そんなにじろじろ見られると恥ずかしいんですが。それになんで僕の正体にも気付いているようなんですか?」
「まぁ、私は何でも知っているからな。特別サービスで3つほど何でも答えてやろうぞ。」
男はじろじろ見るのをやめ、ティルスの目を見て答える。
「えっと、そういえばまだ貴方のお名前を聞いていなかったのですが。」
「私はエルドイと言う。ここではよく先生と呼ばれているがな。・・・さて、あと二つはどうする?」
「・・・え?今のもカウントされるんですか?」
ティルスは驚いてそう聞き返す。
「当然。さて、あとはどうするんだ?」
「えっと、あの、その、・・・この指輪について教えてもらいたいのですが。」
一瞬言葉に詰まったがなんとか目的通り朱雀からもらった指輪のことについて聞くことができた。
「ふむ、ちょっと見せてくれんかね。」
ティルスは指輪のついている手を出し、指輪を見せる。
「これは、・・・なるほどな。君はなかなかきついことをしているようだね。というよりもあの男が全面的に悪いなこれは。」
急に表情が険しくなり一人で納得しているエルドイ。
「えっと、つまりどういうことなんですか?」
「この指輪を外す方法は、"真実を知る時、再び赤き鳥が姿を現し最後の試練がとり行われるであろう。"という訳だ。つまりこの指輪は後回しにして当初最後の目的地だったパレスに向かうがいい。」
意味深なことを言うエルドイ。それを、ティルスは頷きながら聞いている。どうやら理解しているようだ。
「はい、では最後の質問です。・・・・・・茅野泰人さんと莉麻さんの安否を教えてください。」
「やはりそれがきたか。二人同時となるとかなり大雑把にしか教えられんがいいか?」
それに頷くティルス。本当は3つの内2つで2人の安否を確認するはずだったのだが、計画が狂ってしまったためこうするしかなかった。
「あの二人はどちらも今のところ元気だ。だがそれも時間の問題だな。二人とも後少しで選択を迫られ危険な目にあうだろう。」
「そうですか、だったら急がないといけませんね。」
聞く前と別人のようにやる気のある表情になったティルス。
「後一つヒントで教えておいてやる。今3日目だから気をつけろ。以上だ。」
「・・・そうでしたね。分かりました。ありがとうございます。」
正直言うとまだ聞きたいことは山ほどあったが、約束は約束なので素直に引き下がる。
「まぁ、また来い。気が向いたら他のことも教えてやろう。」
その言葉にティルスは礼を言って部屋を出て、小屋を後にした。
「聞いてきましたよ。とりあえず話しますね。」
そう言ってさっき聞いたことを3人に話した。
「そうか。あいつらは今のところ無事か。それは・・・・・・良かった。」
嬉しそうに沙汰はそう言った。
「でも危険が迫っているなら早く助けにいかないとまずいっすね。でもどうやって・・・。」
「大丈夫です。試練をすべて終えればきっと何とかなります。」
自信満々に答えるティルス。その言葉に3人は頷く。
「さて、今日はそろそろ遅くなりますしここで宿にでも泊まりましょう。」
そう決まり、4人は宿へと向かった。
宿に着き、部屋分けをしている時だった。
「それでは、男性2名様と女性2名様を別々の部屋にご案内します。」
「ちょっと沙汰さーん、何か忘れていませんか!?」
沙汰は女子部屋から突然やってきたティルスにそう言われた。
「あぁ、そうだったね。そのことなんだけど・・・。」
少し言いにくそうにして
「ごめん、何故か直らなかった。ということでしばらくそのままという・・・・・・。」
「ちょっと待って下さいよ!!どうするんですか、ミュアさんも一緒なんですよ。」
「・・・私は、・・・・・・構わない。」
ミュアは少し嬉しそうにそう呟いた。
「そ、それはまずいですよ。僕、男の子なんですよ。恥ずかしくなんですか?」
「・・・今は、・・・・・・かわいい女の子。・・・問題ない。」
そう言ってグッと親指を立てるミュア。
「という訳だ。すまんがしばらく宜しく!」
「そ、そんな・・・。」
ティルスは絶望した。そう、今この瞬間に。
「・・・じゃあ、戻ろ?」
そう言って、ミュアはティルスの手を引き部屋を出ていった。
「風呂行くなら、後で感想を・・・。」
「行きません!!!」
沙汰の分かれ様のふざけた言葉につい怒鳴ってしまったティルスだった。
だが、彼女(彼)は今の時点では気付かなかった。ここには温泉しかないことに。
さてどうなるのか?
続く
どうでしたか?また次回見ていただけると嬉しいです。