8.そのとき君は
サミーは町にやってきた。
「ふむ、この世界はディオールとは異なる町並みだ。見たことのない形の建物がある。というかこんな大きな建物にする意味ってあるのか?」
並んでいるビルをみてそう呟くサミー。ディオールにはビルはほとんどないので珍しいのだろう。
「それにしても、特に変わった所はないように見えるが・・・・・・ん?」
サミーは一瞬建物がぶれて見えるのを見逃さなかった。すると一気に急上昇を始める。
かなり上空まで来てみたが、
「・・・圧力が感じられない。・・・・・どういうことだ。」
ふと下を見てみると町並みが目に入る。
「・・・・・・なるほど。そういうことだったのか。」
どうやら何か分かったようだ。
そのまま降下する。
「ディオールと莉麻達以外の別の世界があると噂に聞いてやってきたが、こういうことだったか。これは奴を野放しにすると危険だな。」
キンコンカーンと鐘が鳴り、放課後になる。
莉麻は授業を無事に終えて帰る所だった。
「莉麻ちゃーん、一緒に帰らない?」
クラスメイトの女子が話しかけてくる。どうやらもう仲良くなったようだ。
「あ、ごめんね。実はフィルディア先生に呼ばれているの。だから先帰ってて。町案内はまた今度お願いするよ。」
「そっか、じゃあまた明日。ばいばい!」
そう言って女子生徒は教室を後にした。
「さて、職員室にでも行こうかな?」
誰もいなくなった教室を出ていこうとすると、
「莉麻さんいるかな?」
ちょうどフィルディアが教室に来たのである。
「あ、良かったです。私今から先生の所に行こうと思っていまして。」
「そうだったの。じゃあ良かったわね、ついてきてくれるかしら?」
それに莉麻は頷き、二人は教室を後にした。
二人が来たのは、普段は使われていない空き教室だった。
二人は中に入り向かい合う。
「いくつか聞きたいことがありますがまず初めに、・・・・・・貴女は茅野泰人さんの妹さんでいいんですよね?」
いつもの口調に戻りフィルディアが問う。
「なっ・・・・・・・何故それを?」
「その反応を見ると間違いはなさそうですね。さてと、次は貴女が質問していいですよ。」
「え、えっと・・・・・・・・・。」
口ごもる莉麻。聞きたいことはたくさんあるのだが、突然のことで混乱しているようだ。
「・・・じゃ、じゃあお兄ちゃんは、お兄ちゃんは元気ですか?黒水晶さんに聞こうにも知っているか分からないしどうすればいいか迷ってて。」
「・・・・・・すみません。彼が今どうなっているのかは分からないのですが、生きていることは確かです。」
今自分が泰人の肉体を借りていることを言わずそう答えた。変な心配はさせたくないのだろう。
「・・・そうですか、それだけでも十分です。」
莉麻は少しほっとする。
「ごめんなさい。ですが私が知っていることならだいたい話します。」
フィルディアは話し始めた。泰人と出会ったことや共にいたこと、変な男に会ってこの世界に送られたこと、そして・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・え?」
「厳密に言うと恐らく貴女の言う黒水晶のしたことでしょう。何故私たちが生きているかは分かりませんが。」
闇の精霊により謎の空間に送られたことも話した。
莉麻はとても驚いている。
「・・・・・・私、それ聞いてない。」
ポケットからピンクのボタンを取り出す莉麻。
「・・・ちょっといいかな?」
それに呟くと
「ん、何かあったのか?」
そこからサミーの声が聞こえる。
それにフィルディアが反応するが会話中らしいので止めた。
「お兄ちゃんを変な空間に拉致したって本当なの?」
「・・・・・・・・・・ちょっと待ってろ。」
そう言って通信が切れる。
「今のって・・・・・・。」
「はい、黒い水晶さんです。今はサミーちゃんと合体しているみたいですが。」
「・・・・・・・・・・・・そうなのね。」
少ししてサミーが到着する。そこにいきなり莉麻が質問する。
「ねぇ、教えてよ。なんでそんなことしたの?」
「・・・・・・・・邪魔だったからだ。奴がいたんでは俺の目的は果たせないと判断した。」
真顔でそう答えるサミーだが、眼は少し寂しそうだった。
「・・・・・・・。」
フィルディアはそれに気づいたのだろう。何かを考えているようだ。
「信じられない。そこまでひどい人だったなんて、信じられないよ!!!」
そう言って莉麻は部屋を飛び出してしまった。
「いいんですか、恐らくいま言ったことは本心ではないのでは?」
サミーの気持ちを知っているのかそう言葉をかける。
「うるさい。それよりいいのか?俺様は今貴様の娘を乗っ取っているんだぞ。」
「・・・・・・それについても詳しく聞かせていただきます。今日の所は私の所に来てください。後、莉麻さんは。」
「あいつは今別の所に泊めてもらっているから心配はいらない。・・・・・・・・仕方がない。奴がこう判断したなら少し付き合ってやらんこともない。」
そういって顔をそむけるサミー。
「ではついてきて下さい。人の目につかないようにしてくださいね。」
こうして二人?は教室を後にした。
「なんで、なんで本当の事を言ってくれなかったの?」
なんどもそう呟いて莉麻は校舎を出た。泰人のこととなると後先考えずに行動してしまう。
「もう、どうすればいいんだろ・・・。」
とぼとぼと歩いていると
「莉麻ちゃん?」
前に誰かいた。・・・・・・雪美だった。
「どうしたの?泣いてるみたいだけど・・・。」
「雪美さーーーーーーーーーん!!」
話の途中で莉麻は雪美に抱きついた。耐えられなかったのだろう。
「・・・もう泣かなくていいのよ。さぁ、一緒に帰りましょ。」
「・・・・・・・・はい。」
こうして二人は帰路についた。
莉麻が離れようとしないので、二人で手をつないで帰った。
場所は変わり、とある公園。そこに一人の少女がベンチに座っていた。
ここの公園はとても小さく近くに別の大きな公園があるのでその子一人である。
見た感じだと小学5,6年くらいだろう。
「・・・・・・あたし、どうしていつもこうなんだろ。」
少女は佐野星音、雪美が通う学園の学長の娘で学校ではよく男子にいじめられている子である。今日もふとしたことで男子にいじめられたのだ。
「あたしは何もしていないのに。どうしていつも・・・。」
「・・・あら、こんなところでどうしたの?」
そこに一人の女性が通りかかった。メイド服を着て、手には買い物したであろう荷物を持っていた。
「えっと、・・・別になんでもないです。」
そう言ってベンチを立とうとすると
「まぁまぁ、話をするだけでも楽になるでしょ。お姉さんに話してみてよ。」
と言ってとなりに座ってきた。
「・・・それで、あたし突然男子からいじめられるようになっちゃって。」
なんだかんだ言って結局話すことにした星音。メイドさんはうんうんと頷いて聞いてくれている。
「そっか、だったら自分を変えればいいんじゃないかな?」
「そ、そんなの無理ですよ。あたし、そんな、勇気ないし。」
途切れ途切れになって話す星音。それを見て
「だったら私が貴女を変えてあげるわ。」
不気味に笑いかけ
「・・・・・・え?」
メイドさん・・・・・・いや、美納下は手を開き、星音の方を向けた。
「さて、始めましょうか。」
続く
どうでしたか?また次回見ていただけると嬉しいです。