最終決戦12.あなたはひとりじゃない!莉麻のスイーツマジック!!
おはようございます、ロンロンの弟子です。さて、今回は悪夢神と光の精霊、莉麻対祇亞の対決の決着です。果たしてどうなるのか・・・それは本編で。
ではどうぞ!
ティルス側観客室
モニターを見ているのは雪美、スタッフ、サミーの3人。星音とティライズは仮眠室で寝ている。
スタッフ達が戻ってから泰人がリタイアしたことでスタッフは少し責任を感じていた。しかし、サミーは言う。
「あの鳥のお兄さんは味方だよ。あたち、分かっちゃうんだから!」
サミーの一言、確かにサミーは子供だがまだ未知なる力を秘めていることは2人ともよく分かっている。子供の言うことだからと聞く耳を持たないのはよくない。よくないのだ!!
「そうですね。何か考えがあるのかもしれませんし。」
「うん、泰人君の友人だからね。僕は彼を信じることにするよ。」
頷く雪美。泰人も沙汰も変な奴なので一緒ということだ。まぁ、この二人は真面目なのでそんなことは考えてはいないが単純に信頼できると思ったのだろう。
その後、場面は梓由とミーアへと移る。
梓由が元に戻り一安心した雪美だったが、その後突如姿を消した彼女達。雪美は当然動揺する。
「何か嫌な予感がするんです!」
嫌な予感を感じた雪美。今の彼女は夢の管理人をしているため、この予感は当たる可能性が高い。それでもスタッフとサミーはその予感が当たらないように願う・・・が、運命は残酷なのだった。
ミーア側観客室
私、ミーアと梓由が転移したとき、悪夢神は相変わらず考え事をしていた。モニターをちゃんと見ていなかったのは読み通りよ。
「泰人が消えた今、祇亜を倒せる者はいなくなったな。あの娘程度では相手にすらならんな。」
あの娘・・・どうやら莉麻のことを言っているようね。確かに莉麻だけじゃ無理だろうけど、ヴィントルもいるからもしかしたら何とかなるかもしれないわね。
「さて、ミーアはどうなったのか。」
悪夢神はモニターに目を向けたけど、そこに映っているのは綺麗な桜の木だけ、私達の姿は当然ないわ。
「・・・む、これはまさか!?」
今更気付いたみたいだけど大丈夫。少し遅かったみたいね!
「その通りよ。今まで長い間騙されていたけれど、それも全て終わりにするわ!」
私たちは悪夢神の前に出た。勿論何も用意してない訳じゃなく、とっておきの術式を準備したわ。
私は梓由とギュッと手を繋いでいる。それが私に力をくれる、雪美を助ける力になるの。
悪夢神も防御の術式を組もうとしてるみたいだけどこっちはもう放てる。
・・・いくわよ!!
「月光印・ムーラントバースト!」
私の左手、梓由の右手からそれぞれ月の光が溢れ交わり、波動となり悪夢神へと向かっていく。
月の波動は軽々と悪夢神の防御を破り、悪夢神自身を飲み込んだわ。
「・・・ば、馬鹿な!?この我がこんな所で敗れるなど・・・・・・。」
月の光は闇を消し去る力を持つと言われていて、悪夢神の元となるのは闇だからこれをまともに受ければひとたまりもないはずよ。
思った通りに効いたみたいで断末魔を上げた悪夢神はそのまま波動と共に消滅したわ。
「・・・終わったの?」
シーンと静まった部屋で最初に梓由が声を上げる。それに私も続けようとするけど、余りにも驚いてて声を出すのも大変だった。それでも言葉を繋げる。
「・・・やったのよ。私達であの悪夢神を倒して雪美を救ったの!!」
私は喜びに身を任せて梓由に抱きついた。私の方が体型が大きいからあの子も少しよろけたけどちゃんと受け止めてくれたわ。そして改めて勝利を二人で喜んだ。
これで雪美は助かった。後は沙汰達と合流して・・・・・・
「・・・この我が敗れる訳がないだろう。」
・・・・・・聞き覚えがある声が聞こえる。それもこの部屋から。
嫌だ・・・嫌だよ。だってこの声が聞こえるってことは・・・
「奇襲を仕掛けてくるのは分かっていた、というよりもお前達を対戦相手にしたのはここに呼ぶためなのだよ。」
声がするほうを向くと・・・・・・予想外の光景だったわ。
だって声の主は・・・・・・まるで巨大な寄生虫みたいな姿をしていたもの。もしかしなくてもこれが悪夢神の真の姿なのかもしれないわね。
って、それよりもこいつ生きてたの??
「嘘でしょ・・・、確かに月光印は当たったはず。」
「当たったよ。全く・・・我が分身を一撃とは、やってくれるな。」
ぶん・・・しん・・・・・・??????
「・・・あ、ああああああああああああああああああああああああ」
気づけなかった。・・・・・・あれは分身だったのだ。
梓由も何が起こったのか分からずに立ち尽くしているけど、あまりにもありえない展開に頭がついていかないのだと思うわ・・・。
私が甘かった。悪夢神はものすごく用心深いの。今まであれだけのことをさせられてその存在に気づけなかったほどだし、当然といえば当然よね。
「さて、ここまでは我の計画通りだな。更に進めさせてもらおうか!」
そうはさせない。私は悪夢神が動く前に術式を描こうと・・・
ピタッ
「え?」
急に私の手が動かなくなった。身体全体がまるで石化したように動かない。・・・でも首より上は動くから梓由の方を見る。
「・・・あれ、動けないよ?」
あの子も私同様何かの術にかかっているようだ。一体何が・・・・・・
「ふむ、この部屋に少し細工をしていてな。お前たちが来て数分後に効く神経性の毒をこの部屋にまいておいたのだ。ま、我には効かんがな。」
・・・終わった。全て終わった。私たちはこいつの手のひらでずっと踊らさせられていたに過ぎないってことなのかしら。
「ねぇ、ミーア。どうしよう?」
梓由が私を頼ってくれる。でも私には打つ手がもう残っていなかっ・・・・・・
「・・・あ。」
「ほう、やっと気づいたか。」
私にはまだこの世界を想像する力が残っていた。だったら・・・
「まだ・・・大丈夫よ!」
梓由の声に私は力強く答えて想像する、私達の助かる未来を。
・・・でも、今がどういう状況かちゃんと考えなきゃ駄目だったね。焦りすぎて目の前で起きていたことに気づくのに遅れちゃった。
「ミーア、危ない!?」
「・・・え?」
・・・ザクッ!
そうすれば、やられずに、すんだ・・・のにね。
「さて、その力は我が頂こう。・・・これで全ての駒が揃ったな!!!!」
・・・ごめんなさい、・・・・・・私は一体今まで何やってきたん・・・だろうね。
・・・・・・・・・・雪美、大好きだよ。
ドサッ
「ミーアああああああああああああああああああ!!」
時間は戻り春の島。桜の木をバックに二人の少女が対立していた。
一人は茅野莉麻、もう一人は白城希衣成の姿をした零渡祇亞である。
「・・・何の巡り合わせかな。俺と泰人の妹が同じ戦いの舞台に来るとはな。」
「・・・く、こいつはこっちに来たか。莉麻、気をつけろ!!」
そう言って早速構える祇亞。それを見てヴィントルも指示を出す・・・のだが
「・・・・・・祇亞さんから来てくれたのならちょうどいいね。私、祇亞さん・・・それと希衣成さんに話があるんだ。」
「・・・は?」
桜の木はほぼ満開であり、綺麗なピンク色の花びらがたまにひらひらと落ちてくる。そんな木々を眺めながら莉麻は話を続ける。
「私は祇亜さん、希衣奈さんと戦いたくないよ。話し合おうよ!」
「おい、莉麻!そんなこと言ってもこいつが聞く訳がないだろうが。」
莉麻の心からの言葉、彼女がこの場にいるのは相手と戦うことではなく和解のためなのだ。
だが、復讐心に囚われた祇亜を動かすのは難しい。
「その通りだ。何のために希衣奈を取り込んだと思っている?泰人に対しての切り札だからだよ!」
「・・・でも」
そんなことは莉麻にも分かっていた。それでも彼女は説得を諦めなかった・・・のだが
ザッ
「あぶねぇ!」
いきなり距離を詰めてきた祇亜。莉麻はヴィントルの声にすぐに気付いてギリギリで避けると祇亜の爪が空を斬る。
「・・・こういうことだ。さぁ、ヴィントルと合体して戦え!」
「当然、そうさせてもらうさ!」
祇亜とヴィントルのやりとり、莉麻は意見さえ出来ずに勝手に進んでしまう。
憎しみ、深い悲しみ。祇亜のそんな感情を消すには・・・戦うしかないのだろうか。
「おい、やるぞ。さっさとしろ!」
「・・・・・・うん。」
乗り気ではないが、まずは戦わないといけないと分かったのか渋々了承する。
ズブズブズプッ
「さて、対決の時間だ!(・・・・・・少し気持ちいい。)」
処女と童貞が合体し、ヴィントル莉麻に変身する。・・・いや、勝手に名前つけただけなんで無視していいです。処女であり童貞でもある可哀想Wちゃんは、背中の黒い翼で空へと舞い上がる。
「今は夜ではないけど大丈夫かい?」
「貴様に心配される必要はない。いくぞ!(・・・・・・うん。)」
やはり力ない莉麻の頷き、それを気にせず二人の戦いは始まった。
闇の魔術師と猫娘の対決、普通に見れば魔術師が圧倒的有利に見えるが猫娘の祇亜にはプレスト、速度を上昇させる力がある。更に覚醒させることでその上昇値は無限に上がる。普通の人では気付いたときには真っ二つにさせられているだろう。
だが、ヴィントルはディオール最強の魔術師だ。器を少女に変えたとしても経験は変わらない。しかも莉麻は実は基本魔力が相当高くヴィントルが力を貸している今、本気を出せばかなりのものになるだろう。
「・・・さて、莉麻には悪いがもうこいつは倒すしかねえんだよ。本気でいくぞ!(・・・・・・。)」
莉麻は黙る。これを肯定ととったのか、ヴィントルは莉麻の身体に闇の波動を纏わせる。
・・・ビリビリッ
地面が震える。ヴィントルの放つ闇の波動はあるだけで周りに影響を及ぼしてしまうようだ。そのせいで周りの桜の木の花びらが散るスピードも上がる。
それを見ていた祇亜はニヤリと笑う。
「なるほど、こいつはヤバいな。青龍と互角か・・・それ以上の力を感じる。ま、まずは覚醒なしでやってみるか。」
シュンッ
物凄いスピードで加速しヴィントルの視界から消える。だがヴィントルは顔色一つ変えずに淡々と術を唱える。波動を纏っていることで、術式を描くスピードも桁違いである。
「波動印・クロスオーラ!」
唱えた瞬間、ヴィントルの目の前に、纏っている波動と同じ波動を出現させる。そしてその波動と纏っている波動が交差することによって・・・
バヂバヂバヂッ
辺り一面とてつもない振動が襲う。さっきの比ではなく、圧力が一気にかかる感覚に陥る。
当然祇亜も例外ではなく動きが止まる。それも・・・ヴィントルの目の前で!
「・・・ッ、これほどかよ!」
だがそれで終わらせない。ヴィントルは既に次の術式を完成させており、即座に放つ。
「闇印・ダークスピア!」
闇の槍である。真っ直ぐに祇亜へと向かって放たれる。祇亜はクロスオーラにより身動きがとれない状態であり、このままではまともに受けてしまうのだが・・・祇亜にはあれがある。
「・・・prest!」
覚醒の合図、プレストの真の名を呟く。
・・・瞬間、祇亜以外の存在の時が止まる。というより祇亜が速すぎるだけなのだが・・・。
超加速、それにより波動に制限されず行動が可能になる。
「さて、終わらせるか。」
祇亜は思いっきりジャンプして、ヴィントルの纏っている波動を切り裂こうとする・・・が
バチバチッ
「・・・な!?」
波動自体はかなりの防御力を誇っているようだ。これを突破するにはかなり厳しく、ラルゴブラスターすら防ぐ。ヴィントルは祇亜の攻撃力の低さを分かっていたため、覚醒時間はこれで凌ごうと考えていたのだ。
「・・・しゃーねぇな、この時の為に考えたあの技を使うか。」
祇亜も前回の泰人との対決で自分の弱点が威力不足だと気付いていた。そのためその弱点を補うため必殺技を考えていたのだ。
一度着地し右手を天に向ける。すると変化が起こる。
ビキビキビキッ
祇亜の右手が巨大な猫の腕へと変化する。しかもただの猫ではなく、猫科最強のあいつの手だ!
「・・・プレストライク!」
技名を叫ぶと共に猫科の腕が輝き、再び飛び上がりそれを闇の波動に向けて振り下ろす。
ピキピキ・・・カシャーン!
とんでもない力、あまりの威力に二重の波動も破られる。
そしてそこで覚醒時間も終わる。
「・・・!?波動がなくなってやがる!(そ、そんな?)」
「とどめだ!」
祇亜が最後の一撃である左手の爪を構え莉麻に向けて振り下ろす・・・そんな時だった。
「秋の島の対決、青龍、泰人両選手のリタイアにより残ったのは沙汰選手です!」
「「・・・何!!?」」
ピタッ
急な放送に祇亜とヴィントルは同時に声を上げる。祇亜の攻撃は莉麻の腕ギリギリの所で止まり、そのまま地面に落下し着地する。ヴィントルも祇亜の近くに着地し翼を消す。それと同時に莉麻に身体の所有権を戻す。
「た、泰人がリタイア??あいつ、消えやがったのかよ!!!」
明らかに動揺していた。まるで目的を失ってしまったように・・・
祇亜の目的は泰人に復讐すること、つまりこの大事な場面でリタイアした泰人は相当な心の傷を負ったと推測できる。ならばそれでいいのではないか、と思う人達もいる。だが祇亜は違う。
復讐は自分の手でしたかったのか、それもあるだろう。だがそれとも違う感情が彼にはあった。
「(・・・俺は、寂しいのか?)」
そう思って首を振る。ずっと復讐したかった相手がいなくなって寂しいなど意味が分からないといったところだ。
莉麻はそんな混乱している祇亜を見て一つの案を考えていた。
「・・・おい、莉麻。気をしっかり持てよ。大丈夫、俺の考えが正しければラルゴ使いは・・・」
「生きている・・・だよね?」
「な!?」
驚くヴィントル。兄である泰人が消えても正気を保っているのが不思議に思ったのだ。だが、莉麻には確信があった。
「沙汰さんがいるんだよね。私、沙汰さんを信じているから!」
莉麻の谷田沙汰への信頼、これは長い時間をかけて積み上げてきたものでありちょっとしたことで崩れたりはしない。
アホだが精神的に強い娘、ヴィントルは莉麻への印象を改めることになった。しかし、孤独な祇亞は泰人が本当にリタイアしたと思い込んでいる。
「・・・・・・ぶつぶつ。」
能力では確かに祇亞はチートクラスなのだが、精神的強さ、そして人への信頼、それがこの二人の決定的な違いである。
「さて、今なら奴を倒せるぞ。貴様のスイーツ魔法で一発だ!」
「・・・そうなんだけど。」
ヴィントルが言うスイーツ魔法とは莉麻のみが使える魔法である。魔法は色々な属性があるのだが莉麻は独自の魔法、スイーツ魔法を使用する。予選で使った巨大なやかんやまな板のように調理道具を使用したものがほとんどである。因みにこの魔法はヴィントルと分離したあと目覚めたものらしく、エプロンをつければ回復魔法の他にこの魔法を使える。
とりあえずエプロンを身に付けるがいきなりスイーツ魔法を使うわけではない。先ほど言ったように莉麻には考えがある。
トテトテ
「・・・祇亞さん♪」
ギュッ
「なっ!!?」
莉麻は祇亞の両手をギュッと握る。当然祇亞は驚いて手を放して後ろに下がる。
ヴィントルは唖然としている。
「・・・お、お前何しやがる!!?」
「・・・・・・。」
莉麻は再び距離を詰めて祇亞の手をしっかりと握る。祇亞は抵抗するが今度は莉麻も簡単には放してくれない。
「くそ・・・離れやがれ!!」
「嫌だよ、今なら祇亞さんと希衣成さん私の話を聞いてくれるよね?」
無理矢理感があるが祇亞も傷心のためそこまで激しく抵抗しない。
そして莉麻は繋いでない方の手を目の前に向ける。
「来て、キッチンスタジオ・バージョン春!!」
ドドーン!
目の前にキッチンスタジオが出現する。台所や冷蔵庫、そして調理器具や料理素材も何でも揃っているスーパーキッチンだ。因みにこれもスイーツ魔法の一つである。
莉麻はキッチンを出現させると祇亞の目を真っ直ぐ見る。
「さぁ、お菓子作ろ?」
「・・・はぁ!?」
意味が分からんないと言わんばかりの表情をする祇亞だが、莉麻は言葉を続ける。
「ただ話をするだけじゃダメみたいだから一緒にお菓子を作ろうと思って。ね、祇亞さん・・・・・・あと、希衣成さん♪」
「ふ、ふざけ・・・・・・。」
ふざけるな、祇亞は確かにそう言おうとした。しかし・・・言葉が出ない。
「(・・・なんだ?声が・・・それに身体が動かん!?)」
身体の自由が利かなくなっていた。何かが・・・邪魔するように。
「・・・・・・莉麻ちゃん。」
と、急に祇亞が喋り始めた。だが、いつもの祇亞ではなく表情も言葉遣いも柔らかい感じがする。
「・・・希衣成・・・さん?」
頷く。どうやら希衣成が表に出てきたようだ。祇亞は裏でただただ驚いているが、そんな祇亞を置いて莉麻と希衣成は話す。
「お願い、祇亞君を救ってあげて。泰人君の妹の貴女ならきっとできるよ。信じてる。」
「勿論だよ、任せて!!」
その莉麻の一言が嬉しかったのか、希衣成はニコッと微笑むと目を瞑る。すると表情がキツくなる。どうやら祇亞に戻ったらしい。それを見て莉麻はキッチンスタジオに入る。
「・・・おい、俺はお菓子なんて・・・・・・」
また身体が動かなくなる。どうやら先ほどと同じように希衣成が抵抗しているようで、お菓子作りを手伝わないと駄目なようだ。
「・・・・・・仕方ない。やればいいんだろ、やればよ!!」
そう力なく呟くと身体の自由が戻る。というわけで祇亞は莉麻と一緒にお菓子作りをすることとなったのであった。
そして時間は現在に戻る。
・・・チーン!
「あ、クッキー焼けたよ。」
「・・・全くなんで俺がこんなことに付き合っているんだ・・・。」
オーブンでクッキーを焼いた。その後冷ましている間、休憩を挟んで紅茶の準備をする。祇亞は嫌々ながらもちゃんと手伝ってくれている。莉麻は誰かと大好きなお菓子が作れて嬉しそうであり、祇亞は何か複雑な心境にあった。
「(・・・悪くない・・・・・・だと。この俺がこんなのも悪くないと感じ始めてやがる。ったく、これも全て希衣成のせいだ!!)」
だが実は、最初の抵抗以外は希衣成は何もしていない。ということは・・・・・・全て祇亞が感じて行動していることとなる。
コトッ
キッチンスタジオの食事スペースに紅茶とクッキーの用意が出来た。クッキーはチョコチップクッキー、紅茶はミルクティー、この組み合わせが莉麻のお気に入りらしい。紅茶はダージリンといった個性の強いものは避け、薄めに淹れたものにミルクを多く入れるようにするようだ。
そして二人で席に着く。
「・・・最初に言っておくが、これを食い終わったら覚悟しておけよ!!」
「大丈夫、一緒にお菓子を作ればみんな友達だよ。さ、食べよ♪」
莉麻のその一言でお茶会が始まった。・・・実食!
パクッ、・・・ゴクリ
クッキーを一口、ミルクティーを口に含む。
「・・・・・・これは!?」
「どう、おいしいでしょ?」
・・・不思議な感覚だった。今まで感じたことがない・・・そう、心が温かくなるようなそんな感覚に祇亞は動揺する。
「・・・なんだ、俺は一体どうし・・・!?」
・・・ツーッ
流れる涙に更に祇亞は驚く。泣く気なんかなかったはずなのに、そう考えていても涙は止まらない。
「俺は・・・、俺はっ!?」
感情も不安定だ。どう言っていいのかわからないといった感じである。そこに
ギュッ
「な!!?」
莉麻が祇亞を抱きしめる。・・・優しく、壊れないように優しく。
「私も無関係じゃない。あの場に確かにいたから。祇亞さんがお兄ちゃんを憎んでいることも、希衣成さんの飼い猫を殺しちゃったことも・・・交通事故にあって命を落としたことも、全部知ってるから!!」
力強く叫ぶ。この時だけは祇亞も耳を傾けていた、ヴィントルも何も言わずに見守っていた。
莉麻の叫びは・・・莉麻の抱えていたことでもあった。
「祇亞さんたちがいなくなってから、お兄ちゃんは今まで見たことがないくらい落ち込んでいた。沙汰さんとの出会いで持ち直したけど、きっとあの時のことをまだ引きずってる。だから・・・・・・もう一度お兄ちゃんと話をして欲しいんだ。」
「・・・・・・泰人はもういないんだ、話しようがないだろう。」
リタイアした泰人、それが祇亞のダメージになっている。まずはそれを和らげなければならない、直感的にそう考えた莉麻は再び祇亞の目を見る。
「大丈夫、私を信じて!さっきも言ったでしょ、私たちはもう・・・友達だよ!」
「とも・・・だち・・・・・・?」
常にトップでいようとしてきたせいで孤独だった祇亞、悪友はいても友人と呼べる関係はいなかった祇亞、・・・寂しかった祇亞。
初めて友達と言われて、いやではない・・・寧ろ心地いい響きに祇亞は心を打たれていた。確かに希衣成と融合してそういう感情に多少弱くはなっていたがそれだけではない。・・・それを、この気持ちを祇亞自身が望んでたのかもしれない。
「お兄ちゃんは無事だよ。別の空間にいるだけで消えてなんかいない。今も祇亞さんが来るのを待っているんだよ。だから私がそこに送ってあげる。・・・私を信じてくれないかな?」
「・・・・・・できるのかよ。」
「もち!」
頷く莉麻。お菓子を作っている間ヴィントルに聞いていたようで黒弾印・ディオスフィアの改良版なら謎の空間へ祇亞を送れるのだ。
「・・・・・・いいだろう。泰人がいないここにいても仕方ないからな。・・・お前を信じてやってもいいが、勘違いするな。やつと決着をつけるため仕方なくだ!」
テンプレを終え、キッチンスタジオを消す。クッキーは袋に詰めて持っておく。
そして莉麻はヴィントルと融合する。呪文を放とうとする・・・と
「・・・ありがとう。」
希衣成が出てきてにこっと笑う。それだけで莉麻はやってよかったと思った。
「いくぞ・・・黒弾印・ディオスフィア!!」
巨大な闇の塊が出現する。それが祇亞を・・・希衣成を飲み込もうとする。
祇亞は目を瞑ってそれを待つ。
「・・・ったく、俺は何をしてるんだか。(・・・良かったね。)」
希衣成の声に顔を赤くする。・・・そして闇の塊に飲まれる・・・・・・寸前だった。
シュンッ
「全く、お前はリーダーなのだからここで消えたら困るんだがな。さて、と・・・」
「!?」
そこに現れたのは、黒の魔術師の姿をした悪夢神だった。更に悪夢神は
ズブッ
祇亞の胸に手をつっこみ何かを取り出す。それは・・・猫、プレストだった。
「・・・チッ、やっぱ俺は泰人がいなくなったら用済みってことかよ。」
「あぁ、リーダーの証はこの猫が持っているからな。こいつがいれば問題ないのだよ。」
ニャー
鳴くプレストを片手に最後にそう一言言うと姿を消す。
当然祇亞も元の姿に戻り待っているのは闇の塊に飲み込まれるという結末のみ。
というわけで、祇亞はそのまま闇に飲み込まれて別空間へと送られた。残ったのは何が起こったか理解できないヴィントル莉麻だけであった。
「決着がつきました。春の島の対決、ミーア様とミュア選手、祇亞選手の行方が分からない為リタイア扱いとし残ったのは莉麻選手です。そして、リーダーである祇亞選手がリタイアしたため・・・・・・え?」
バチバチバチッ
さて、季節の島での対決は終了し、戦いの舞台はまた別の場所へと移動する。
そしてそれが悪夢神と王子隊との最後の戦いの場所になるのであった。
続く
どうでしたか?今回は説明を忘れていた事を入れました。
莉麻のスイーツ魔法は調理器具や調理素材を出す能力です。大きさとかなんでもありなのでかなり自由なものになっています。ヴィントルがいないと普通の魔法はできないので今後もこれを使っていきますよ。
次に祇亞ですが、本来そこまで精神面は弱くないが希衣成との融合の影響もありこのような感じになっています。
さて次回ですが、最終局面に移ります。残っているのは味方サイドは沙汰、ティルス、スィング、莉麻、敵サイドは悪夢神だけですね。リーダーの証を奪われたので悪夢神参戦決定です。梓由とミーアはリタイアです。というか・・・・・・。
次の投稿は未定です。今月中には頑張ります!
それではみなさん、元気でまた次回お会いしましょう!!