7
食堂でパンをほお張っていたら、壁登りを終えて隣に座ったジョンがじろじろ見る。
「なによ?」
「お前、よくそんなに旨そうに食えるな?」
「なんで? おいしいじゃない」
「こんなカチカチなパンおいしいかぁ?」
同じテーブルについていた、レナとアメリアも微妙な表情を浮かべていた。
「えっ? もしかしてわたしだけ?」
「確かにおいしいとは言えないよね」
「うん」
確かに硬いっていえば硬いし、ぱさぱさしてるけど、かめばかむほど味が出るっていうか。
そういえは、ジョンもヘンリーもスープに浸して食べてたわね。
男の癖にって思ってたけど、硬いのかこれ。
「そうなんだ。わたしの家はあまり食べ物無かったから、十分ご馳走なんだけどね」
「お前んちどんだけ貧乏だったんだよ」
むかっ!
「悪かったわね。あんたの家はさぞかしいい家だったんでしょうね」
「こんなに硬くなったパンを食うほど貧乏だった訳じゃねえよ。親父が怪我するまではな」
「お父さんが?」
「ああ、小さな村で大工をやってたんだけど、屋根から落っこちて腰の所を怪我したんだ。それから歩けなくなって、仕事ができなくなったんだ」
「そうなの……」
「お袋も仕事をしたんだけど、お袋一人じゃ大して稼げなくて、自分の食べる分は自分で稼ごうと思ってここに来たんだ」
「アサシンになるって知ってたの?」
「そんなの知ってるわけないだろ」
「そうよね」
「……だけど、もし知ってても、ここに来たかもな」
「え、なんで?」
「親父が怪我をしてから、酒ばっかり飲んで、あのまま家にいたら……」
「そっか……」
もし知っていてもアサシンになったかもなんて、わたしには理解できないけど大変な思いをしたんでしょうね。
「僕も同じですよ」
黙って聞いていたヘンリーが話し出す。
「僕の家も猟師でしたけど、獲物が獲れない日が多くなってきて、それでここに来る事にしました。アサシンになるって知っていたら来たか分からないですけど、来なかったら自分の食べる分は自分で狩りをしようとして、森でモンスターに殺されていたかもしれません」
ヘンリーも大変だったんだね。
そもそも何か問題が無ければこんな所に来る事なんか無いもんね。
レナもうつむいたままだし、同じような事情が有ったんでしょうね。
「みんな大変だったんだね。だから15、パンはちゃんとありがたく頂きなさい」
「別に食べたくないって言ってる訳じゃないだろ。それより13はお姫様の所に行くんだろ? こんなのんびりしてていいのか?」
あっ! 今日だったっけソフィー王女のとこ行くの。すっかり忘れてた。
急いでご飯食べて髭の所に行かなきゃ。
「髭の所に行ってくるから、いつもの場所で待ってて」
口の中にパンを詰め込みながらレナに言うと髭の部屋に向かう。
髭の部屋の前でドアをノックするけど返事が無い。
「まだ教官室かな? リベットがいるから行くのやなんだけどな~」
とは言え、髭を置いてお城に行く訳にもいかないので、教官達がいる部屋に向かう。
教官室のドアの前に立ち、ノックをしようとしたら中からリベットの声が聞こえてきた。
「なぜそんな事をする必要がある!」
「子供達に多くの経験を積ませれば、優秀な密偵になるかも知れないだろう」
なんか髭と言い争ってるわね。
「あいつらは使い捨ての駒だ! 武器の使い方さえ覚えれば十分だ!」
「俺は反対だ。ただ死なせるのではなく、未来につながる可能性を残したいんだ」
「ここはアサシンを作るための施設だ! あいつらは死ぬまで指示された標的を殺し続けて、最後にはぼろ雑巾のように死んで行くんだ! あいつらの将来はもう決まっている! あなたのやろうとしている事は無駄だ!」
リベットの言葉が突き刺さる。
自分達が普通の死に方なんてできない事は、みんな分かってる。
いや、分からされて来た。
みんな必死に不安を押し殺して、できるだけ考えないようにしてる。
もちろんわたしもだ。
だけど、こうして言葉にされると、考えないようにして来た事を思い知らされる。
リベットの言った通り、誰にも悲しまれる事無く、まるで最初からいなかったかの様に誰の記憶にも残らないんだろう。
いや、きっと残るとしたら、わたし達が生きるために殺した人の大切な人達の記憶に、憎しみと共に残るんだ。
そこまで考えてると、涙があふれ出てくる。
誰かを殺さないと生きられない。
そんな生き方、普通じゃない。
わたし達が生きる事を祝福してくれる人はいない。
いや、暗黒の女神 ネイならそんなわたし達を祝福してくれるだろう。
そっと教官室の前を後にする。
「悪い、待たせて悪かったな」
髭の部屋の前に立っていると、髭が走って来た。
「遅いよ。お城に行くのが遅くなったら怒られるんじゃないの?」
「ちょっと込み入った話があってな。すぐ準備するから待っててくれ」
「早くしてよ」
ああ、と返事をして部屋に入ろうとした髭が振り返る。
「なに?」
「いや、ちょっとな……。もしかして何かあったか?」
「何にもないわよ! そんな事より早く準備してよ! 14も待ってるんだから!」
分かったと言い残して髭が部屋に入ったのを見て、座り込んで膝を抱える。
「なによ…… 変な所で鋭いんだから…… ばか……」
「お待たせレナ。 髭が遅くてごめんね」
馬車の前で待ってたレナに謝りながら乗り込む。
「悪い悪い、少し他の教官と話し込んでて遅くなった」
御者の人に謝っていた髭が最後に乗り込んで馬車が走り出す。
「何話してたんだろ?」
「きっとくだらない事だよ」
小声で聞いてきたレナに答える。
「くだらない事って決めつけるなよ」
うを、聞こえちゃった?
「女の子の内緒話に聞き耳立てるなんて最低~」
わざとらしくレナと目を合わせる。
「ちっ! だったらお前達は留守番だ」
「留守番?」
不思議そうな顔をしたレナと二人で髭を見る。
「ああ、今度野外訓練をやろうかと思ってな」
「野外訓練?」
なんだそれ?
「遠くへ行く時に、急ぐ旅だったら宿に泊まれない事だってあるだろう? 食事の時にいつも近くに食堂がある訳でもない。だから、火を起こして外での食事の用意や、野宿の仕方、夜には交代で見張りをしなきゃならん。それを覚えるんだ」
「訓練場でしないの?」
「ああ、こういう事は実際に外でやらないと分からないんだ。訓練場では野生の動物やモンスターなんて出ないだろ」
「じゃあみんなで外に出られるんだ!」
アメリア達と一緒に外に行けたら、楽しいもんね。
「みんなで一緒って訳にはいかないだろうな。同行する教官の人数も限られてるだろうしな……」
髭が顔をしかめる。
わたし達が逃げ出さない様に監視しなきゃならないんだ。
それはしょうがないと思うけど、髭、嫌そうだな。
リベットと話し合ってた事って、きっと野外訓練の事だったんだ。
「なんで野外訓練なんてするの? わたし達に必要な事なの?」
「お前達が、もしこの組織から離れる事があった時、それが組織の解体や、まあなんでもいい。その時に、生きていくために必要だろうと思ってな」
「わたし達のためなの?」
「いや、今言ったことは忘れてくれ。お前達が任務を果たし、追っ手に追われた時に野宿ぐらいできないと困るだろ。だからだ」
「……」
それっきり窓の外を見る髭。
もう話さないって事なんだろう。
でも、リベットが言っていた。
わたし達の事は使い捨てだって。
だったら、追っ手につかまって殺されても何の問題もないはずだ。
もし、拷問して口を割らせようとしても、わたし達に話せる事なんて無い。
それなのに、野外訓練の訓練をするなんて、本当にわたし達のためにと思ってるのかな?
今まで一緒にやって来て、髭が突然黙るのは、気のせいかもしれないけど、わたし達に悪いと思った時だと思うんだ。
今回も、アサシンとしてわたし達を鍛えてる事に、後ろめたいような気持になってるのかな?
「ねえ、髭はなんでこの組織の教官になったの?」
わたしの突然の質問に面食らったような顔をする髭。
「なんだいったい? 変なものでも食ったのか?」
む、茶化さないでよ。
「今日食べたのはいつものパンとスープよ。知ってるでしょ?」
「訓練場の中に生えてたきのこでも食ったのかと思ってな」
そんな怪しいもの食べないわよ。
家にいた頃は、森の中でなってた見た事ない果物は食べた事あるけど。
「そんなの生えてないわよ。それで何でなのよ、答えなさい」
「お前、仮にも教官だぞ、命令するな」
「何でもいいから、早く答えなさいよ」
わたしがしつこく言うから、あきらめた髭が話し出す。
「別に大した理由じゃないぞ。冒険者みたいな事をやってたんだが、彼女が妊娠してな。それで危険な仕事はやめてくれって言うから、仕事を探してたらたまたまここの口があった。冒険者としてそこそこ名前も売れてたから、教官長ってことで給料も良かったしな」
ふ~ん、どこにでもありそうな話ね。
って言うか
「髭、子供いたの? って言うか、彼女なんてできたんだ!」
「失礼な奴だな、彼女位いるわ。それなりにもてたんだからな」
「うそ!」
「うそじゃねえよ。そこそこ売れてたって言っただろ」
モテる髭……
ごめんなさい。想像できないです。
「あ、そろそろ着く頃かしら」
「露骨に話題を変えやがって……」
ぶぜんとする髭。
だけど、暗い感じは消えたみたいね。
「もう着くよ、クリス」
お、本当に着くのね。もう門が見える。
「さてと、今日もお仕事頑張りますか!」
気合を入れて窓から見えるお城を見上げた。
お城の中庭に行き、いつもの様にソフィー王女との訓練を始めた。
王女の短剣の扱いもだいぶ様になって来たわね。
「さて、この後はどうする?」
レナに話しかける。
「今日はクリスの番だっけ?」
レナの問いかけにわたしは頷く。
最近、レナと交代で王女と戦闘訓練をやっている。
体に当てない様に気を付けてるんだけど、万が一怪我でもさせたら大変な事になるから、ものすごい神経を使う。
だから、わたし達も思った通りに短剣を扱うための訓練にもなっているんだ。
「うん。じゃあ、右手でやろうかな」
「こんな時こそ左手で短剣を持ったほうがいいんじゃない?」
「もし王女様に当たったら大変だよ。髭、失神するかもしれないよ」
わたしが言うと、レナがくすくす笑う。
「大丈夫だよ。クリスは王女様に当てたりしないよ」
自信ありげに言うレナ。
「何でそんなにはっきり言いきれるのよ」
「だって、ジョンと訓練してた時だって当たらなかったじゃない。それに、クリスはもし当たりそうになっても、何とかするよ。だって、優しいもん」
自分も戦闘訓練中だったのに、わたしとジョンとの訓練見てたんだ。
凄いわね、わたしはそんな余裕ないわよ。
それに、優しいから何とかするって、理由になってないじゃん。
「わたしは優しくなんてないけど、レナがそこまで言うんだったらやってみようかな」
「うん」
レナが嬉しそうに答える。
「ソフィー王女、今日はわたしがお相手をさせていただきます」
いつもの様に素振りを終え、息を整えていた王女に言うと、左手に持った短剣を軽く振る。
「クリスさんは右手で短剣をお持ちではなかったですか?」
小首を傾げる王女。
「最近左手で短剣を扱う訓練をしているんですよ」
「お怪我でもしたのですか?」
途端に心配する王女。
思わず笑いそうになるのをこらえる。
「怪我なんてしてませんよ。二刀流を身に付けようとしたんですけれど、上手くいかなくて。今は左手で短剣を扱うのに慣れようとしてるんです」
「まあ、二刀ですか! オーヘンが前に難しいと言っていた気がするのですけれど、さすがクリスさんですね」
「いえ、とんでもありません。上手く二刀を使えないんで、まず左手を何とかしようとしただけです。二刀は、レナの方が上手く使えます」
「そうなのですか!」
王女がキラキラした目でレナを見る。
「ソフィー王女、二刀の話は後でしましょう。アルノーさんが見ています」
「あっ、そうですね。ではクリスさん、よろしくお願いします」
最近、王女とわたし達が歳も近い事あって仲良くしてると、アルノーさんが嫌そうな顔をする。
まあ、わたし達みたいな子供が王女の近くにいる事が面白く無いんでしょうけどね。
リラックスして左手に木製の短剣を持って王女の前に立つと、王女は大きく深呼吸してわたしを見て掛け声をかける。
「では行きます」
丁寧な王女の合図に合わせてわたしは軽く腰を落とす。
だけど、わたしが左手に短剣を持っているせいか、王女は攻め込みづらそうに近づいたり離れるのを繰り返す。
たしかに左手に短剣を持った相手との訓練なんてしてなかったもんね。
でも、このまま時間だけ過ぎるだけってのも良くないし……
そこまで考えると、無造作に一歩踏み出す。
「!」
反射的に突いてきた王女の短剣を、左手に持った短剣で丁寧に受け止める。
「相手の動きに反応して不用意に攻撃をすると、隙が出来ます」
わたしの言葉に、分かっていますと言わんばかりに続けて攻撃を繰り出す王女。
短剣の扱いの練習のためにも、王女の短剣を避けずに受け止める様にする。
最初は刃の上を滑ったり、鍔元で受けていた攻撃を上手く受けられるようになってきた頃にレナの声が響く。
「それまで!」
それを合図にわたし達が短剣を下ろすと、レナが呼吸を整える王女に助言をする。
「クリスも言いましたが、相手の行動に対して考えなしで攻撃を行ったりすると、隙を作ることになります。今回クリスが不用意に近づいたのは、王女に反射的な行動を起こしてもらい、隙を作らせるためです。時には我慢することも必要です。ですが、その後の連続攻撃は良かったと思います。並の相手でしたら追い詰める事が出来たと思います」
レナの話を聞いていた王女の表情が落ち込んだり喜んだりころころ変わる。
そんな王女の表情を見ていると、レナが視線を向けてきた。
「大体レナの言った通りですが、最後の連続攻撃はタイミングに緩急を付けた方が良いと思います。一定のタイミングで攻撃されると受けやすいので」
「分かりました。次からは気を付けます」
王女の言葉にレナが頷くと、今度はレナが王女の相手になる。
「では、始めましょう」
「はい!」
わたしは少し離れた所に移動する。
ん~、こうして見るとやっぱりレナは戦いが上手いな。
なんか危なげが無いっていうか、しっかり王女の動きをコントロールしているっていうか……
「大したものだな」
横から聞こえてきた声の主を見ると。
「オーヘン団長、いらしてたんですか?」
「ちょうど通りかかったらアルノー殿の顔が見えたのでな」
あはは、きっと引きつってたんでしょうね。
「きっと心配なんでしょう。わたし達みたいのが教官役なので」
「いや、なかなかどうして。この短期間で王女がここまで戦えるようになるとは、私も思っていなかった。そなたたちの教え方がいいのだろうな」
「そんな事ありません。レナは王女には才能が有ると言ってましたし、日々の努力の成果です」
「そうか……」
そう言ったっきりオーヘン団長は王女を見つめた。
「さあ、お茶にしましょう!」
訓練が終わったら、待ちに待ったように王女が笑顔を浮かべる。
いつもの様に王女の部屋に向かい席に着く。
最初の時は王女も一緒に席に着いたけど、次からは侍女に無理やり隣の部屋に連れていかれていた。
「お待たせしました」
訓練服からドレスに着替えた王女が椅子に座る。
先にお茶を飲んでいて下さいと言ってたけど、わたしとレナが手を付けないで待っていると、次に呼ばれる時からすごい速さで着替えるようにしてくれてるみたい。
だって、最初の頃なんて、侍女の人が息を切らせていたからすごい急いだんだと思う。
今は涼しい顔をしてお茶の用意とかしてくれてるけどね。
「全然待ってないよ」
「そうだよ」
王女が親しみやすい性格なのと、年が近い事もあっていつの間にか友達みたいな話し方になっていた。
アルノーさんがいたら即倒しそうだけど、侍女の人は聞こえない振りをしてくれてる。
いつもの様にお茶やお菓子を食べながら話をしていると、普段何をしているかの話になり
「刺繍が趣味なんだ!」
わたしが大きな声を上げると、王女が恥ずかしそうに俯く。
「声が大きいよクリス」
苦笑しながらレナが言うけど、すごいじゃん刺繍なんて。
「だってものすごい細かくて、時間もかかるんでしょ? わたしじゃ無理だよ絶対」
「そんな事ないです。慣れれば誰だってできますし、今度一緒にしますか?」
王女が手を振りながら言うけど、レナが真剣な顔をしていた。
「難しいと思うから、またの機会にしたらどうかな?」
「そんな事無いですよ。私も器用ではないですけれど、何とか出来てますし」
「いえ、クリスが暴れ出したら迷惑が……」
「えっ?」
小首を傾げる王女。
「私達の訓練に鍵開けが有るんだけど、開けられないって暴れた事があって……」
「本当ですか?」
言いづらそうにするレナと、口元に手を当て驚く王女。
「教官長と同じ組の男の子が止めようとしたんだけど、二人とも青あざを作ることになって……」
「まあ……」
王女が絶句する。
レナも申し訳なさそうな顔をするし、いたたまれない感じよね、これ。
「あはは、レナの言う通りまたの機会にしようかな」
「そうですね」
「そうだよ」
ハモる二人。
なんか気まずい感じになって来たわね。
「ソフィー王女、先日出来上がった刺繍を見ていただいたらどうですか?」
それまで一歩後ろで黙って立っていた侍女が、王女に声をかける。
「そうね! 持ってきて貰えるかしら?」
「はい」
侍女が綺麗に一礼して隣の部屋に向かう。
きっと気を使ってくれたのね。
まさか、隣の部屋で笑おうとしてる訳じゃないだろうし。
再び侍女が現れ、手に持った布をテーブルの上に置く。
「すごっ!」
「きれい」
王女の作った刺繍を見てレナと一緒に声を上げる。
小さな花が一面に咲き誇っている。
いろんな色の花があってとってもきれい。
「まだまだ下手なんですけど」
恥ずかしそうにする王女だけど、そんな事無い。すごいよ。
絶対わたしじゃ出来ないだろうし。
ソフィー王女(名前で呼ばないと寂しそうな顔をするからこう呼ぶようになった)の作った刺繍を見ながらお菓子をつまむ。
「何か良い事あったのですか?」
思い出したようにソフィー王女が言う。
「なんで?」
「何となくなんですが、お二人ともいつもより柔らかい感じがするので」
いつもそんなにカリカリしてたかしら?
レナを見るけど、レナも分からないみたいね。
「そんな事無いと思うけど、いつも嫌な感じだった?」
ソフィー王女が首をぷるぷる振る。
「そんな事ありません。ただ今日はそう感じただけで……」
ソフィー王女が小さくなる。
「いや、気にしないでよ」
だけどいつもと違うかな、わたし達。
「もしかしたらだけど、教官長があんなこと言ったからかな?」
髭?
「あ、もしかして野外訓練?」
レナの言葉で馬車の中での話を思い出す。
「そんなつもりなかったけど、もしかしたら態度に出てたかなって」
そんな事位でソフィー王女に分かるほどウキウキしてったって事?
そんな事ある訳……
「出てたかな?」
レナと顔を見合わせると、ソフィー王女が笑う。
「出てましたよ」
「そっかー」
思わずわたしとレナも笑う。
「それで野外訓練とは何ですか?」
「ん、訓練のグループ毎にキャンプとかするんだって髭が言ってた」
「まあ、楽しそうですね!」
ソフィー王女が瞳を輝かせる。
まあ、わたしとレナも態度に出るんだから楽しみにしてるし、そもそもそんな機会がない限り他のみんなは訓練場から出られないしね。
「訓練所から外に出る機会はあまりないから楽しみだよね」
レナも頷いている。
「私もご一緒したいくらいです」
ソフィー王女がほんの少し寂しそうな表情をする。
「ガサツな男の子と一緒ですよ。わたし達は一緒に訓練してるからいいけど、ソフィー王女が一緒だったら男の子達が浮ついて訓練にならないですよ」
「ソフィー王女は綺麗だもんね」
「そんな事ありません」
わたしとレナが言うと、ソフィー王女は顔を赤らめながらもじもじする。
「本当、わたしもソフィー王女みたいに女の子らしかったらいいのにな~」
「クリスさんは十分可愛いと思いますよ」
ほめてくれるのはうれしいんだけど、ソフィー王女と自分の胸を見比べると……
「私もクリスは可愛いと思うよ」
はは、ありがとうレナ。
あなた胸以外はいい子よね、ちくしょう。