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「……それでこんなに遅くなったんだな」
帰りの馬車の中で腕組みをする髭。
いや、これでも急いで帰って来たんだよ。
王女様だってもっと話したそうにしてたんから。
わたし達が帰ろうとしたら、侍女がやっとお召し替えができるって喜んでたし。
普通だったら部屋に戻ってすぐ着替えるんだろうけど、わたし達に合わせてくれたんだろうね。
「ごめんごめん。遅くなったのは謝るから。あっ、ソフィー王女に貰ったお菓子食べる?」
「あのなあ、大の大人がこんなので…… うまいな、これ」
「でしょ~。同じ部屋の子に食べさせてあげたいって言ったら、おみあげにくれたんだ。だからあんまり食べちゃだめよ」
「ああ、わかった」
そう言いながら手を伸ばしてくる髭。
「もうだ~め、みんなの無くなっちゃうじゃない」
「ん? ああ。だけど、他の奴に見られない様にしろよ。一応、持ち込み禁止なんだからな」
しまい込むお菓子を目で追う髭。
結構甘党なんだ、なんか似合わないけど。
「分かってるって、見逃してくれる事感謝してる」
「そう思ってるんだったら、失礼な事を考えるのをやめろ」
「いつも思ってたんだけど、何で考えてる事分かるの?」
「失礼な事を考えてた事は否定しないんだな…… お前は思ってる事がすぐ顔に出る、口に出てる事もあるけどな」
「口に出てるのは何となく分かってたんだけど、顔に出てるの?」
「ああ、俺達密偵は相手が何を考えてるか読まなければならないし、反対に自分の考えは相手に隠さなければならないからな。その点お前は分かりやすい。根が素直なんだろうな」
「単純だから分かりやすいって事?」
「なんでそうひねくれて理解できるんだ……」
何で呆れた顔をするのよ。
「とにかく、秘密の多いミステリアスな女性を目指せばいいのよね!」
「まあ、大筋では合ってるかな、多分」
「よし! これからいい女になれるようにがんばるわ。まずは、短剣の扱いからね!」
「なんで短剣を上手く扱えるのがいい女なのかは分からんが、せいぜい頑張ってくれ」
そう言いながらなんか嬉しそうな髭。
「ま~かせて。おっ! ちょうど良い所で訓練所に着いたわね。お菓子をジョンとヘンリーに渡さねきゃね」
忘れ物の無い様にレナと馬車から降りる。
「おい、ここでの呼び方を忘れるな!」
「大丈夫だって、髭! 行きましょ、14」
「教官長と呼べって言ってるだろ!」
平気だって言ってるのにしつこいわね。
そんな事より、早く部屋に戻らなきゃ。
「ただいま」
部屋のドアを開けると、ジョンとヘンリーの声が出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「遅かったな」
わたしの後にレナが部屋に入ると
「ただいま」
「お帰りなさい14。疲れたでしょう? 座ってください」
「お疲れ14。どうだった王女の相手は?」
だいぶわたしと出迎え方が違うわね。
「わがままな方だったらどうしようかと思ったけど、ぜんぜん偉そうにしないから教えやすかったかな。筋もいいし、もしかしたら私より強くなったりして」
ジョンが苦笑しながら答える。
「それはないだろ、あんな華奢な王女が14より強くなる訳ないだろ」
「それは僕も思います」
何度もヘンリーが頷く。
「私なんか全然たいしたことないよ。王女様のご先祖は強い戦士だったんだから、きっと強くなるよ」
「まあ、14が言うんだったらそうかもな」
ジョン、あんたレナの言う事はやけに素直に聞くわね。
なんかむかつくわ。
「13、お土産は渡さないの?」
「何の事?」
くすくす笑いながらレナがジョンに耳打ちすると、ジョンが強張った笑顔を貼り付けながら聞いてくる。
「お前はどうだったんだ? 今日の訓練は」
「別に大した事してないわよ。王女には14が教えてたしね」
「だけど、13は赤龍騎士団団長と戦ったんだよね」
「うそだろ!」
レナの言葉にジョンが驚く。
「別に大した事じゃないわよ。良い所もなく負けちゃったし」
「相手は団長だったんですよね。戦えた事だけでもすごいですよ!」
レナに耳打ちされていたヘンリーが大きな声を出す。
何を言われたか知らないけど、負けは負けだもん。
「いいわよ気を使わなくても」
「そんなんじゃ無いですよ。相手はオーヘン団長だったんですよね。騎士団の中でも家柄が良くないにもかかわらず、剣の腕だけで騎士団団長まで登り詰めた英雄ですよ!」
「そうなの?」
いつになく熱くなってるヘンリーに聞き返す。
「お前知らないで戦ったのかよ!?」
横から口を出すジョン。
別にあんたには聞いてないわよ。
「やっぱり知らなかったんだね、13は」
レナが笑う。
「?」
わたしが首を傾げると、ジョンが呆れたように言う。
「お前、本当にオーヘン団長の事知らないのかよ」
「今日初めて知ったんだけど……」
「そんな奴がいたんだ」
あきれ顔のジョンにヘンリーが言う。
「でも、知らないから戦えたんじゃないですか? もし事前に知ってたら、普段通りに戦えなかったと思いますよ」
「そうかもしれないな」
頷きあうジョンとヘンリー。
何されたか分からないうちに負けてたんだけど、そんな強い人だったんだ。
「でも、戦いがすべてみたいな変な人だったよ」
「それはそうだろうな。ヒルジャイアントの討伐隊の一人として遠征した時も、負傷した仲間を守りながら、最後には一人で相手のリーダーを打ち取ったって聞いたぞ」
ヒルジャイアントって、たしか山岳に砦を作って人の村や町を襲って略奪して生活する巨人だっけ。
大きさは5メートル位まで大きくなるって髭が座学の時に言ってた気がする。
そんなモンスターのリーダーだったら、もっと大きかったかも知れないよね。
そんな敵を倒したんだ。
強い相手と戦うのが好きじゃなきゃ、いくら騎士だっていっても一人じゃ怖くて逃げだしてるよね。
「そんなすごい人だったんだ……」
オーヘン団長の評価を変なおっさんから変えなきゃ。
「そんなすごい人とあれだけ戦えた13だって、十分すごいんだよ」
ちょっとやめてよレナ。
ジョンもヘンリーもじっと見てるから恥ずかしいじゃない。
「あっ! そういえば王女様からお菓子を貰って来たんだ」
いそいそと懐から取り出す。
「おお! すげえな!」
「おいしそうですね」
二人でニヤリと顔を見合わせて手を伸ばすジョンとヘンリー。
「14はいいの? 無くなっちゃうよ?」
「私はたくさん食べたからもういいよ。13こそ遠慮しないで食べなよ」
あっ、そう? じゃあ遠慮なんかしないで食べるわよ。
「おい! 13、お前食べてきたんだろ! そんなに取るなよ!」
おほほほ、早い者勝ちよジョン。
「16、手前も年下なんだからちょっとは遠慮しろ!」
レナも食べればいいのにって思って見ると、にこにこ笑ってた。
「教官長、一所懸命するから……、教えて下さい」
わたしは目の前に立つ髭を見上げながら口を開いた。
「だけど、急にそんなこと言われてもなぁ」
「初めてだから下手だと思うけど……、お願い……」
「でも、俺もそんなに上手くないぞ」
「不器用そうだもんね。大丈夫、痛くても我慢するから……」
「……わかった。本気なんだな?」
コクリと頷く。
「始めたら、お前が泣いても最後までやるぞ」
「はい……」
両手を握りしめる。
覚悟は出来てる。
「最後に聞くが、本当にいいんだな?」
髭の目を見て、決心したはずなのに手が震える。
だけど、自分で決めたことだもん。
頑張るから。
髭の目を見つめる。
わたしの決意が伝わったんだろう、髭も一度目をつぶり開けた後には躊躇はなかった。
お互い見つめあっていると……
「訓練中に見つめ合って何やってるんすか? 教官長」
ジョンがわたし達を白けた目で見つめていた。
「ああ、こいつが二刀流を覚えたいって言って来てな」
「そういえば、朝の食事の時に言ってましたね。それで13は両手に短剣握りしめてるんすね」
「せっかく今のスタイルが固まってきたのに、左手にマメを作る所から始めるのはどうかと思ったんだが、こいつが聞かなくてな」
肩をすくめる髭。
「だって、今のままじゃ団長に勝てないから」
「だが、相手が相手だ。二刀流にしても勝てるか分からんぞ」
「それでもいいよ。少しでも勝てる確率が上がるなら」
「13は言い出したら聞かないんですから、いいんじゃないですか?」
「ちっ、まあいい。それでお前はどんなスタイルにするんだ?」
「スタイル?」
「そんな事も知らずに二刀流をしようと思ったのか、お前は。いいか、左手に持った短剣をどういう風に使うかでスタイルが決まる。相手の攻撃を受ける盾のように使うか、それとも、攻撃に使って単純に手数を増やすかだ。俺は盾のように使うのを進めるけどな」
「なんで?」
「両手で攻撃しようとすると、利き腕では無い方の力も必要になるし、誤って反対の手に攻撃が当たってしまう事もある。難易度が格段に上がるからだ」
髭がいつになく難しい顔をしている。
だけど……
「わたしは両手に持った短剣出攻撃できるようになりたい。大変なのは話を聞いて分かりました。でも、わたしが短剣を防御に使っても、相手の方の力が強ければ受けきれません。わたしの様な子供じゃ、それじゃあ意味がないんです」
「別に今すぐ強くなる必要はないんだぞ? これからお前は背も伸びるし、力も付くだろう。その時の事を考えて訓練するのも悪くないんだぞ」
「でも、背が大きくならないかもしれない。それに女だから男の人には力じゃ勝てません。だったら、難しくても今できる事をやってみたいんです」
「……」
「お願いします。教官長」
わたしは髭に頭を下げる。
「そんなにオーヘン団長に勝ちたいのか?」
「それだけじゃありません。オーヘン団長より強い人と戦うことがあるかもしれない。その時に、あの時両手で攻撃できるように訓練しておけば良かったって後悔したくないんです。力が無くて負けるのは、自分が無力で大切なものが奪われるのは嫌なんです」
しばらく悩んだ後、髭が答える。
「……分かった」
「本当!?」
「だが、俺も両手に持った短剣で攻撃した事無いんだよな~」
え?
「じゃあ何でもったいぶって悩んでたのよ!」
「いや、難しそうな事を言えばお前があきらめると思ったんだけどな」
「……」
こいつぶっ飛ばしてやろうかしら。
「そう怒るな、左手に持った短剣を防御に使う事くらいは俺にも出来る。とりあえずお前が二刀流に慣れる所までは教えてやれるさ。そこからはお前の努力次第だな」
「分かった。じゃあ早速教えて」
「なんか偉そうだな。まあいいか、その代わり途中で根を上げるんじゃないぞ」
「当たり前じゃない」
「じゃあまずは左手に持った短剣の素振りからだな」
さて、いっちょやってやろうじゃない。
さっさと覚えて髭を驚かしてやる。
って思ってた事もありました。
「あ~腕パンパン」
錠前の置かれたテーブルに突っ伏してつぶやく。
「13、鍵開けの練習中なんだからちゃんとやらなきゃ」
分かってるわよレナ。
だけど左手がぷるぷる震えて錠前が動くんだもん、鍵開けなんかできないわよ。
今が壁登りの訓練じゃなくて本当良かった。
すぐ落ちる自信あるもん。
「だから教官長もやめろって言ってただろ?」
「うるさい15。あんただって髭にやらせてみたらって言ってたじゃん」
「あれは13が言い出したら聞かないから言ったんだ」
「なにそれ、わたしが悪いみたいじゃない」
「まあまあ、いがみ合っていても鍵は開きませんよ」
そんな事は分かってるわよ、ヘンリー。
「それで実際左で使う短剣はどう?」
首を振りながらレナに答える。
「全然だめね、思ってた以上に難しいわ。右手で持つより重く感じるし、おかげで手からすっぽ抜けそうになるし。肝心の髭は、左手に持った短剣は基本的に防御に使う事しか考えた事なかったみたいで、わたしみたいに攻撃に使う場合の問題点とかよく分からないみたいだしね」
「そうなんだ……」
「とりあえず左手で扱うことに慣れなきゃね」
上手いかない事に、自然とため息がでる。
「……私もやってみようかな、二刀流」
「えっ?」
「私も練習すれば、13が悩んだ時に相談相手になれるかな? なんて……、だめかな?」
「14がそうしてくれるんなら嬉しいけど、でもいいの? 余計な訓練することになるよ」
「うん、いいよ。だってはじめて会った時に私の事かばってくれたもん。それに、13が強くなって、私じゃ訓練の相手にならなくなるのも嫌だし」
手をもじもじさせるレナ。
なにこれ、かわいい。
思わず抱きつくと、レナが手足をばたばたさせる。
「ありがとうレナ! 二人で強くなって、15の奴が泣くまでけちょんけちょんにしてやろうね!」
「ちょっと13、名前で呼んでるよ。怒られちゃうよ」
「今日は良いの、だって……」
「良い訳ないだろ!」
髭に思いっきり頭を殴られた。覚えてろよ、髭。
それから二刀の扱いに四苦八苦している毎日を過ごしていたある日。
「おはよう、13。昨日の怪我大丈夫?」
食堂で朝食を食べていると、珍しくアメリア達が遅く来た。
「平気平気! ちょっと右手に当たっただけだから」
昨日の訓練で誤って左手の短剣で右手の甲を打った事を心配してくれている。
戦闘訓練の相手がアメリアだったんだけど、刃も潰してあるしたいした怪我じゃないのに、もの凄い責任感じちゃったみたい。
「こいつが不器用なだけだから17が心配することないよ」
「15《ジョン》の通りだから気にしないで」
アメリアに笑顔を向けながら、ジョンの脛を蹴り飛ばした。
「ぐぉ!」
「そんな事より早くご飯食べましょ」
アメリアに見えないように蹴ったから、突然声を上げたジョンをちらちら見ながら席につくアメリア。
ぷぷっ、ジョン。あんた笑顔引きつってるわよ。
「でも本当にごめんね。13が二刀に慣れてないのに、いつも通り私が攻撃しちゃって」
「ぜんぜん平気だって。加減されたら訓練にならないし」
「そうだぞ17。13は相変わらずへなちょこだけど、14
なんか、なんとなく形になってきてるんだから気にする事無いって」
ジョン、なんであんた椅子の上であぐらかいてんのよ。
それじゃ蹴れないじゃない。
「私も全然だめだよ。思ったように振れないし、本当難しいよ」
いや、その謙遜はちょっと嫌味はいってるよレナ。
レナが二刀流に慣れてきてから、だんだん追い詰められる事が多くなって来たクルトの顔、分かりづらいけど引きつってるよ。
まあ、本人にそんな気が無いのはわたしは分かるんだけど、最近のレナ、ちょっと引くぐらい凄いし。
は~、このままじゃレナとの差が大分ついちゃうわね
「ねえ、17。この間の訓練でわたしの悪い所とか、何でもいいから気づいた事無い?」
悩んでても仕方無いし、ちょっとでも悪い所が有ったら直さなきゃね。
「悪い所って言われても・・・・・・」
「遠慮しないでガツンと言ってやれ。それが13のためになる」
あんた、いいかげんにしなさい。
「俺が思った事でもいいか?」
あら、寡黙なクルトが珍しい。
「うん、もちろん」
「左手に意識がいくあまり、右手の攻撃がおざなりになっている。それが原因で動きがギクシャクして、相手の攻撃を避けるタイミングまで狂っている。余裕が無くなって無理な攻撃をしようとするから、自分の体に短剣が当たるんだ」
「的確な指摘ありがとう」
ようしゃないわね~
でも、たしかに言われた通りだしどうしようかしら。
「えと・・・・・・」
「なに? 17」
「最初は左手だけに短剣を持ったらどうかなって…… ごめんなさい、なんでもないわ」
「左手だけ?」
「いい考えかもしれませんね」
黙って聞いてたヘンリーが言った。
「そうだね。左手だけで訓練して、自由に扱えるようになったら二刀持ちにした方が覚えやすいかもね」
レナも賛成みたいね。
「まあ、13が二刀流なんて最初から無理だったんだよな」
最近では武器を扱うための基本訓練が終わったため、自分達で相手を決めて実践的な戦闘訓練を行う事が多くなっていた。
だから、ジョン。あんた今日訓練で泣かしてやる事にしたから。
「みんなが言うんだったら今日から左手だけでやろうかな。だから15、あんた今日わたしの相手しなさい」
「なんでだよ! 俺、今日の相手決まってるんだよ!」
アメリアをちらっと見るジョン。
ふん、うかつな奴め!
「ごめん14、だから今日は17と訓練してくれないかな?」
「私はいいけど……」
レナがアメリアを見ると
「私もいいよ」
「決まったわね! じゃあ、よろしくね15」
「おい! 俺は良いって言ってないぞ!」
「でも、17と14がペアを組んだら、あんた誰と訓練するの? 余ったら最悪リベットが相手よ?」
「てめぇ……」
ふふ、ジョンににらまれちゃった。
「快く引き受けてくれてありがとう。それと、今日からさっそく片手で武器を持つけど、最初は久しぶりに右手で持ってカンを取り戻したいと思うから、よろしくね!」
「頑張ってください15。さて僕達はそろそろ行きますね」
「頑張れよ、15」
突っ伏したジョンに、ヘンリーとクルトが声を掛け席を立つ。
「じゃあ、私達も行きましょう。14」
「先に行ってるね、13」
続いてアメリアとレナ、ダニエルとフランクも席を立つ。
「食べ終わるまで待っててあげるから、ゆっくり食べていいよ15」
飛びっきりのスマイルをジョンにあげる。
「ちくしょう、16の奴、うまく逃げやがって」
ご飯をかきこむジョン。
そんなに急がなくてもいいのに、うふ。
食事を終えたジョンとわたしは訓練場に移動した。
髭達が全員揃った事を確認すると、さっそく戦闘訓練に移る。
「じゃあ、始めましょうか」
右手に持った短剣を軽く振りながら、隣のペアとの距離を確認してジョンに声を掛ける。
「分かったよ」
不機嫌そうに答えたジョンが短剣を構える。
さて、どうしようかしら?
クルトにギクシャクしてるって言われたから、最初はそこら辺の確認しようかな。
ジョンに無造作に近づいてゆく。
ほんの少し眉をひそめたジョンが短剣を突き出す。
「よいしょっと」
軽く右にステップする。
するとジョンが横なぎに薙いで来たので、軽くバックステップ。
「ちっ!」
軽く舌打ちしたジョンが今度は姿勢を低くして突っ込んでくる。
低い姿勢から繰り出される連続突きを左右に小刻みなスッテプを踏んで避ける。
疲れからか、だんだんジョンの突きのスピードが落ちてきたので、なるべく上体の動きだけで避けるようにする。
攻撃が当らない事にイラ立ったジョンが体当たりをして来たので、片足を残して横に避けると
ズシャ―――!
わたしの足につまずいて豪快にこけた。
「ま、こんなもんかな?」
うん、思った通り動けてる。
荒い息をしたジョンが立ち上がって来たので、今度は短剣を左手に持ち替える。
さて、どこまでやれるかしら?
「まだまだ!」
ジョンが再度距離を詰めて短剣を突き出す。
左手に持った短剣で受けようとするが、思った形で受けられない。
やっぱり右手と違って、思い描いた場所から少しずれる。
だけど、二刀で戦ってた時に比べれば大分ましだ。
わたしが不器用に受けているのをチャンスだと思ったジョンが、果敢に攻めてくる。
さすがに防戦一方になり、心の中で舌打ちする。
イライラして雑な動きになりそうなのを抑え、丁寧にジョンの攻撃を見て受ける。
疲れてきたのか、ジョンの動きがだんだん遅くなって来たのを見計らって、紙一重で避けた短剣を掻い潜りジョンののど元に短剣を突きつける。
「わたしの勝ちかしら?」
「……ああ」
よほど悔しいのか、絞り出すように言うジョン。
「ありがと。良い訓練になったわ」
わたしがお礼を言うと、ジョンがいぶかしむ。
「13が礼を言うなんて、なんか悪い物でも食ったのか?」
へ~、面白いこと言うわね、満面の笑みと共に告げる。
「じゃあ、二本目にはじめましょ?」
「ちょ! 休憩なしかよ!」
ふん、ジョンが言い終わる前にわたしから切りかかった。
「どうだった? 13」
戦闘訓練が終わり、壁登り訓練用の場所に向かう途中アメリアが話しかけてきた。
きっと、左で短剣を持つことに慣れてから二刀流の練習すればって言ったから、気になってたのね。
「バッチリ! このまま続ければ良い結果がでそう」
わたしが笑顔で言うと、アメリアはほっとした表情をする。
「良かった。もし怪我とかしたらって心配しちゃった」
「そういえば、二刀の14とやったの今日が初めてよね? どうだった?」
「私じゃ訓練相手にならないみたい。右手の短剣を意識しすぎると、左手の短剣が見えない角度から攻撃してくるし、両方意識しようとすると、右手の短剣に反応しきれないし……」
レナは順調みたいね。
っていうか、もう少ししたら本当に手がつけられなくなりそうね。
アメリア涙目になってるし。
レナが上手くいってるのは嬉しいんだけど、わたしがこんな状態じゃ複雑な気持ちになるわね。
気分転換に今日の壁登りは張り切ってやろう。
「こらー! お前、壁を駆け上がるがるんじゃない!」
なによ、今日は調子が良くて3メートル位駆け上がれたんだから、邪魔しないでよ。
ここから先はちゃんと壁にへばり付いて登るわよ。
ちゃんと3点で体を支持するようにして、どんどん上っていくと
「着いた~」
壁の上で体を伸ばしていると下から髭の怒鳴り声が聞こえてくる。
「登り終わったら早く降りてこい! 次が登れないだろ!」
「は~い」
これ以上怒られないように返事をして、すぐに降りる。
「お待ちどうさま」
わたしが地面に立つと、髭が次の子に登るように指示してから隣に来る。
「最近壁登りに時間かかってたが、今日は早かったな」
「うん、今日から二刀流はいったんやめて、左の一刀にしたんだ」
「ああ、見てたから知ってる」
「それでか知らないけど、今日は体が軽いのよね」
「二刀でやってた時は、無駄な動きが多かったからな。力みもあったし、疲れてたんじゃないのか?」
「そう思ったんだったら、早く言ってよ」
「言ってどうにかなるもんでもないだろ」
「そりゃそうかもしんないけどさ」
「もともと器用な方じゃないだろ、おまえは。少しづつ覚えて行け」
「分かったわよ」
髭との話が終わると、ちょうどレナが降りて来た所だった。
「お疲れさま」
わたしが声を掛けると、レナが笑顔を浮かべる。
「13は壁登り早いよね。特に今日は調子良いみたいだね」
「なんか左手だけにしたのが良かったのかな? 髭にもそんな事言われたし」
「じゃあ、戦闘訓練の方もいい感じだったの?」
「まあまあかな。でも、14こそ二刀流順調みたいじゃない。17が言ってたわよ」
「そんな事ないよ。たぶん13が相手だったら、簡単に避けられてたよ」
いや、その簡単に避けるのが今のわたしにはきついんですけど。
「どうしたの? 難しい顔して」
「あ、17。終わったの?」
「うん、今降りて来た所」
「お疲れさま、わたし変な顔してた?」
アメリアが小さく笑う。
「眉間にしわ寄せて、悩んでますって顔してたかな」
「えっ、本当? ずっとしわが残ったら嫌だから気をつけなきゃ」
眉間をもむと、今度はレナが笑う。
「13は気をつけなきゃならない事たくさんだね。思った事口に出さない事と、しわを作らない事と、髭って言わない事」
「髭の事はどうでも良いけど、早く短剣を左手で扱う事と、思った事を口にするのは直さなきゃね」
「思ってた事口にするのはワザとじゃなかったの?」
アメリアが口に手を当てて驚く。
「ワザとな訳ないじゃん。それでリベットににらまれてるんだから」
「そうだったんだ……」
一瞬みんなで顔を見合わせた後、大爆笑する。
「わたしの事なんだと思ってるのよ」
「だって、普通あんな大きな声で言わないよ」
「そうそう」
アメリアもレナも目に涙を浮かべながら、お腹を抱えてる。
わたしもだけど。
「終わった奴はさっさと食事に行けよ~」
「髭が食事に行けだって」
全員一通り壁登りをして、今壁の前に残っているのは最後まで登れなかった子達だ。
これから昼食の時間を使って居残り訓練になる。
最初は出来ない奴は食事抜きだってリベットが言ってたけど、髭が急げば食事できる位の時間で切り上げさせているんだ。
むさい顔して、結構優しいのよね。
「行きましょ、13」
アメリアに頷くと、わたし達は食堂に向かった。