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「貴様ら! いつまでしゃべってるんだ! 訓練は始まってるんだ!」
あ~あ、リベットの登場だ。
わたし達はもちろん、アメリア達も嫌な顔をしていた。
あれ? 髭がいる。
普段グループでの訓練の時は、教官は一人だけなのに。
「あ~、今日は俺達の訓練を見学にいらっしゃっている方がいる。だが、気にせずに普段の訓練をすればいい」
いらっしゃっている?
髭が丁寧な言葉を使ってる……
いや、そうじゃなくて、見学者?
今までで初めてよね。
そんな事を言っている間に、建物から何人か出てきた。
近づいて来るにつれ、かなり良い服を着ているのが分かる。
だけど、一番驚いたのは、その内の一人が女の子だった事だ。
もちろん着ていた服も、わたしが今まで見た事の無い真っ白なドレス。
そして、綺麗な金髪に透き通るような肌と整った顔立ち。
隣を見れば、ジョンとヘンリーが間抜けな顔をしていた。
まあ、あんな綺麗な子がいきなり現れたらそうなるわね。
わたし達が見ていると、リベットが愛想笑いを浮かべながら近づいて行く。
「これはこれは、このような汚い場所にようこそいらっしゃいました」
いつものわたし達に対する態度と違うへりくだった様子に、思わず頬が振るえる。
レナもなんか睨んでるし。
そりゃそうよね、わたし達に対する態度も、あの千分の一でもあればだいぶ違うもんね。
そうこうするうちに、話が終わったのか、リベットが声を張り上げる。
「では予定通り戦闘訓練を行う。用意のできたグループから開始しろ!」
さて、じゃあ始めますか。
軽くダガーを振った後、アメリア達のグループに向かって一歩進む。
「ちょっと待てよ、13!」
何よ、人がやる気になってるのに。
「誰が最初に戦うか決めてないだろ。勝手に出るんじゃない!」
細かい事気にするのね、ジョン。
どうせ全員連続で4回戦わなきゃならないんだから、順番なんて関係ないじゃない。
「誰が最初でも同じでしょ? 最初はわたしが出るから、2番目以降はあなたたちで決めなさい」
「ちょっ、勝手な事すんなよ!」
まったくうるさいわね。
「15、13は最初に自分が戦うから、私達に良く見て作戦を考えてって事だと思うよ」
「そんな事は分かってるよ、14。それも含めてみんなで話し合いたいんだよ」
「でも、13は最初は自分が行くって聞かないと思うよ」
「分かってるよ、だけど……」
何かジョンとレナが言い合ってるわね。
それより、訓練に集中しなきゃ。
「わたしの最初の相手は、あなたなのね」
ゆっくりと歩いてきたクルトに声を掛ける。
訓練所の中でも体が大きく筋肉質なクルトは、ダガーではなくてショートソードと呼ばれる短めの剣を持っていた。
短めといってもダガーと比べるとはるかに長く、それでいて力のあるクルトは、それを難なく扱っていた。
「ああ、俺は女だからって加減はしないからな」
「それは残念。だけど、もう勝ったつもりでいるのは気が早すぎない?」
「ふん!」
そういってクルトはショートソードを構えた。
ちぇっ、ちょっとは油断してもいいのに。
わたしも腰を下ろしてダガーを構え、徐々に間合いを詰めだす。
にらみ合ってても勝てないからね。
そして、クルトの間合いに入った瞬間、クルトのショートソードがうなりを上げる。
あぶなっ! 最初から全力だよ!
なんとか避けた後、距離をとる。
「よく避けたな」
にやりと笑うクルト。
当たり前じゃん、当たったら大けがだよ。
女の子には優しくしろって教わんなかったのかしら。
さて、それはともかくこのままお見合いしていてもしょうがないから、もう一度行ってみましょうか。
ゆっくり距離を詰めるわたしに、全力で剣を振るクルト。
何度か繰り返すうちに、わたしもクルトもだんだん息が上がってくる。
そんな事を続けていると……
「13! おまえ馬鹿の一つ覚えみたいに同じこと繰り返すな!」
ジョンの怒声が飛んできた。
「うるさいわね! 黙ってみてるか、応援するかのどっちかにしなさい!」
「危なくて見てらんねーよ! この馬鹿!」
「馬鹿って誰の事よ!」
あんた、応援したいの? それとも嫌がらせしたいの?
息が上がってて答えるのが辛いんだから、いらない野次を飛ばさないでよ!
一瞬ジョンを見ると、真っ赤な顔をして声を張り上げている。
「お前の事だ!」
「だったら目をつぶってればいいでしょ!」
おとなしく見てればいいのにジョンのやつ。
ほら、息が上がって苦しいのにクルトが笑ってるし。
だいたいクルトの方が長い武器使ってるんだから、闇雲に突っ込んでもやられるだけよ。
力もクルトの方が強いんだし、普通に戦っても勝てるわけないじゃん。
何度も突撃しては、何とかクルトの攻撃を避ける。
そうしていると、突然審判役のリベットが金切り声を上げる。
「まだ勝負がつかないのか! お前達、本気でやっているのか!?」
うをっ、リベットの奴だいぶイライラしてる。
だけど、実際戦ってないあんたが痺れを切らしてどうすんのよ、少しはクルトを見習って我慢しなさい。
しかしクルトってば本当我慢強いわね、ちっとも隙を見せないし、攻撃も雑にならないし、感心するわ。
ジョンも少しは見習えばいいのに。
まったく、戦ってもいないのに顔から汗を流してさ。
とはいっても、ちょっと時間掛かりすぎね。
じゃあ、本気で行かせてもらおうかしら。
大きく深呼吸をして、クルトの間合いに踏み込む。
すかさず振るわれるクルトの剣の下をかいくぐって、一気に間合いを詰める。
あまり相手が近くなると、ダガーより長いショートソードでは上手く振れなくなるから距離を取ろうとするクルト。
だけど、逃がすわけないでしょ。
反射的に放ったであろうクルトの左拳を避けると
「これでわたしの勝ちかしら?」
首筋にダガーを押し当て微笑む。
「……俺の負けだ」
肩で息をしながら剣を下ろして答えるクルト。
なかなか男らしいじゃない、素直に負けを認めるなんて。
「じゃ、次の人どうぞ」
アメリア達のグループに声を掛けると、先ほど試合を開始した位置へ戻る。
次に出てきたのは、ダニエルか。
強さ的には、普通ね。
さてと、今度もがんばりますか。
《中略》
まあこんなものかな。
荒い息をするダニエルにダガーを突きつける。
さて、次はフランクね。
フランクもダニエルと同じくらいの強さね。
こっちの方も
《中略》
えっ? 真面目にやれ?
だって、だらだら戦ってる所なんて見たくないでしょ?
ジョンは必死になって声を張り上げてるけど、レナとヘンリーは途中からリラックスしてるし、髭はニヤニヤしてるし。
まあとにかく、男の子には全員勝ったし良いでしょ。
っていうか、フランクへとへとで立てないから、クルトが迎えに来て肩を貸してもらって退場か。
クルトってば面倒見もいいし、強いし、こりゃジョンの勝ち目は薄いかな。
もちろんアメリアの心をつかめるかの話だよ。
戦闘訓練じゃジョンの勝ち目なんかないから。
じゃあ、両方ともジョンは負けるのか……
まあ、本人の努力しだいだからね。
さて、次はアメリアか。
《大略》
これでわたしの4連勝ね。
なに? はしょりすぎ?
だって、アメリアが涙ぐむ所なんて見たくないもん。
「だいぶ時間が掛かったな」
自分のグループの待機場所に戻ろうとすると、ニヤニヤしてる髭が話しかけてきた。
「何? 審判しなくていいの?」
「それはリベットがやってる。それより、ちょっと加減しろ」
「何言ってるのよ? そんなにさっくり勝てるほどわたしは強くないわよ。だから時間が掛かるんじゃない」
そうこうしている内に、ジョンがクルトに負けていた。
まったく、もう少しがんばんなさいよ。
「そういえば、お前は素振り嫌いだよな」
なに? 急に?
「もちろん嫌いよ、空振りって疲れるもん」
「そうだよな~、俺も嫌いだからな」
何度も頷く髭。
「あんなのが好きなんて、よっぽどのマゾ位じゃない?」
何がそんなにおかしいのか、髭が笑う。
「だったら、あいつらも嫌いだろうな? 特に二人目と三人目なんて、お前と戦ってる間ずっと空振りばっかりでヘロヘロだったしな。相手の体力を奪っておいて、次の奴が対戦する時に有利にしようなんて、よほどの実力差がなければ出来ないぞ」
「知らないわよ、そんな事」
髭が急に真顔になる。
「この訓練は、お前達の成長度合いを確かめるのも含まれているんだが、お前ががんばりすぎるから、残りの奴らの力量が分からんだろ」
「何の事か分からないけど、その位で髭がレナ達の強さを見誤るはずないでしょ?」
「まあ、な。実際お前らのグループはトップレベルだしな。だけど、お前が頑張りすぎると他の奴の成長に良くないぞ」
「何で?」
「お前は力は弱いが、目の良さと、身軽さでは同年代では勝負にならないだろ。残りの奴らは、同レベルの奴とハンデ無で戦ったほうが勉強になる」
「でも、わたしとレナが戦闘訓練した時の対戦成績は同じ位よ?」
「14も普通じゃないんだ。あいつは戦いの組み立てが上手い。お前と違って無駄な動きが無いだろ」
「無駄な動きって……、わたしはただ相手の攻撃を避けてるだけじゃない」
「ああ、それは分かってる。っていうか、その避けるのが難しいんだけどな、普通は。話を戻すが、14の場合は相手の攻撃を誘導しているんだ」
「誘導?」
「おっ、15の試合が終わった。次は14か、いいかよく見てろよ」
髭の言っている事はよく分かんないけど、とりあえず見てみましょうか。
そう言えばジョンは2勝2敗か。
相手がアメリアだからって手を抜いて、後でしばいてやる。
「よろしくお願いします」
「こっちこそ」
挨拶もそこそこに、クルトの剣がレナに襲い掛かる。
なんとかダガーで受け止めるレナだったが、勢いを止めきれずによろめく。
その隙を逃さずに、クルトが一気に攻め立てる。
クルトの重い攻撃に吹き飛ばされそうになりながら、かろうじで攻撃を受けるレナ。
「普通にピンチなんだけど」
相手がクルトだし、さすがに厳しい展開になってる。
勝敗はともかく、大きな怪我だけはしないでね、レナ。
わたしが心配して二人の戦いを見守っていると、髭がぽつりと言う。
「あれはわざとだ」
「えっ?」
何言ってんの髭?
クルトの嵐のような攻撃に、追い詰められてるのはレナじゃない。
「相手が一方的に攻撃してるように見えるが、よろけたりしてわざと隙を作って、そこに攻撃を誘導してるんだ。誰だって相手が武器を持っていれば、そこを避けて攻撃するだろ?」
「うそ? 本当?」
「うそついてどうするんだ。その証拠に、あれだけ攻撃に振り回されてるのに、ダガーをしっかり持ってるだろ?」
本当だ、戦いを始めた時と変わらず握ってる。
あれだけ激しい攻撃を受け続けたら、手がしびれたりして手から柄が抜けそうになったりするのに。
じゃあ髭の言ったとおり、本当にレナがわざとやってるの?
「上手く攻撃を受け流してるんだ。とは言っても、お前と違って相手は力があるから、流石に勝つのは難しいな」
髭の言葉とおり、クルトの攻撃を徐々にさばききれなくなってレナの負けになった。
「残念、負けちゃったわね。18も手加減してくれればいいのに」
見た感じ怪我はしてないみたいね、良かった。
「それじゃ訓練にならないだろ。まあ、もう少し体重はあった方が良いな」
「ちょっと、女の子相手に聞き捨てならない事言わないでよ。それとも太めな女の子が好みなの?」
「変な誤解をするな。相手の攻撃であそこまで体勢を崩されなければ、隙ができた所へ攻撃できるだろ? だけど、今の感じじゃそこまでの余裕はない。だから一方的に攻められて終わってしまうんだ。まあ、お前位身軽だったら避けられるんだろうがな」
「じゃあ避ければいいじゃん」
髭がため息をつく。
ん? わたし何か変な事言った?
「あいつは『がんばる』とか言いそうだから、他のやつに言ってみろ」
じゃあ、ジョンね。
アメリア相手には手加減してたし、クルトにはさっくりやられてたから、ちょっと言いたかったんだ。
「分かった。15に言ってみる」
さて、へたり込んでるジョンの所に行こうか。
「自分の能力を正しく把握してない奴に言われるのも大変だな」
「15、あんた何やってんのよ!? わたしが散々避けまくって18を疲れさせたのにさっくり負けて、やる気無いの!?」
「疲れてる所に説教かよ、勘弁してくれよ」
流れる汗を訓練着の袖で拭いながら嫌そうに横を向くジョン。
何よ、折角アドバイスしてやろうと思って来たのに。
「大体、18の攻撃を受けるから悪いのよ。避ければ相手に隙ができるんだから、避けなさいよ」
「避けられるんなら避けてるよ。あいつの攻撃を避けられるのは13位だろ」
「あんなの、よく見て避ければたいした事ないわよ」
「よく見てたら当たっちまうだろ」
「当たるまで見ててどうすんのよ、当たりそうになったら避けるのよ」
この子ひょっとして馬鹿なの?
ボケっと見てたら、当たるに決まってるじゃん。
「だから、そんな事できるのはお前位だろ」
へ? 何で?
ジョンの言っている事が分からん。
「人にはできる事とできない事、得意な事と不得意な事があるって事だ」
急に話に入って来るな、髭。
びっくりするだろ。
「何でよ?」
「お前はショートソードが使えるか?」
腕組みする髭。
「そんなの使えないよ。ここで使えるのは18だけじゃない」
「それと一緒だ。お前には大した事なくても、他の奴にとっては大変だって事だ」
「だって、見て避けるだけだよ」
「じゃあ、ショートソードが振れるように、お前少し太れ」
「えっ? 何で?」
「他の奴に自分と同じ事をやれって言うんだったら、自分も他の奴と同じ事ができる様にならないと説得力がないだろ。オーク位に太れば、お前もショートソードを振れるようになるだろうから、がんばれ」
オーク?
オークって、確かこの間教わったモンスターだよね。
確か二本足で歩くお腹の出た豚みたいな?
「やだ! 絶対やだ!」
「じゃあ、他の人にも自分と同じ事をしろって言わずに、どうやったら勝てるかみんなで考えろ。じゃなければ、お前の料理を特別に太りやすいレシピに変更してやる」
「……分かったよ。15ですら勝てるような作戦を考えるよ」
「おい、13! 15ですらってどういう意味だ!」
「え? 15さんでも勝てるような? それとも、15でも勝てるような?」
「てめぇ! ルビ変わってるだろ!」
おほほ、何の事かしら?
「何か楽しそうだね?」
あ、レナ。
終わったんだ。
見た感じ怪我とかはしてないみたいね。
「お疲れ、3勝1敗だね。怪我とかしなかった?」
「うん、平気だよ。それよりどうしたの?」
息を整えながらレナが聞いてきた。
「15が18に勝つにはどうすればいいか相談してたのよ」
少し考えた後、レナが口を開く。
「18に? 私も負けちゃったけど、一撃一撃が重いからそれに負けない力を付けなきゃね。ただ、攻撃自体は単調で力任せだから、戦いやすい相手だと思うよ。13みたいに、どんな攻撃をしても避けられちゃう訳じゃないしね。15も、もう少し背が伸びて、体が大きくなれば互角に戦えるんじゃないかな」
その言い方だと、まるでわたしが戦いにくいみたいね。
そんな事を考えていると、レナが見透かしたように言う。
「18相手だと、作戦を考えても実行する前に力任せにねじ伏せられちゃう。それは逆に言えば、私も同じくらいの力があれば勝てるっていう事。だけど、13の場合は、作戦が上手くいってもとどめの一撃を避けちゃうから。たまに上手く当たったとしても、二度目には必ず避けるから大変なんだよ」
そうなの? 良く分かんないけど、レナが言うんだからそうなんだろうね。
ジョンもしきりに頷いてるし。
「俺もそう思う。もう少し頭を使えばお前はもっと強くなるのにな」
髭が突然話に入ってくる。
わたしの事を頭悪いって…… そんな事をわざわざ言いに来るなんて、あんた暇なの?
「あ、16も18に負けちゃったね」
レナの視線の先には、地面に倒れてクルトに剣を突き付けられているヘンリーがいた。
剣を収めて下がるクルトに入れ替わってダニエルが開始位置に立つ。
一方のヘンリーは、少しでも息を整えるためにゆっくり開始位置に向かう。
だけど、もちろんそんな短時間で息が整うはずもなく、その後の戦いでは何とかアメリアから1勝を奪うだけだった。
「まあ、グループでは10勝6敗で勝ち越してるんだからいいんじゃない?」
落ち込むヘンリーを励ます。
とはいえ、アメリア達はこの後のリベットのしごきが待っているから、ヘンリー以上にうなだれていた。
まるでお通夜みたいね。
「おめでとう、君達の勝ちだ」
声の主を見た瞬間、鳥肌がたった。
だって、わたし達を祝福したのはリベットだったんだよ。
レナやジョンだってリベットの方を見たまま凍り付いてるし。
きっと、現実を受け止められないんだよね、わたしもだけど。
「君達の戦いを見て、一言お褒めの言葉を頂けるそうだ。失礼の無い様にしろ」
そう言って一歩横に退いたリベットの後ろから、さっき見かけた女の子が現れた。
「こんにちは」
微笑む女の子に思わず見とれた。
遠目で見て美人だとは思ったけど、これだけ美人だと近くで見るとものすごい迫力あるわね。
「こんにちは。私達の訓練を見学していただきまして、ありがとうございます。組織の決まりで名前を口にする事のできない失礼をお許しください」
レナが挨拶してくれたから、なんて答えたら良いか分からなかったみんなの緊張がほぐれる。
「いえ、私と歳の変わらないみんなさんの一生懸命な姿を見られて感動いたしました。遅くなりましたが、私はソフィーと申します」
ソフィー?
なんかどっかで聞いた事のある名前ね、顔も見た事あるような……
だれだっけ?
「失礼いたしました。王女様、お目にかかれて光栄です」
地面に片膝を着くレナ。
王女?
あ! そうだ、この間肖像画を見たんだ。
レナに続いて慌てて片膝を着く。
ジョンにヘンリー、あんた達も早くしなさい。
機嫌を損ねて首切られたくないでしょ?
「歳も近いですし、そんなにかしこまらないで結構です」
にこにこしているソフィー王女。
でも、横にいるリベットが、王女に気づかれないようにすごい顔で睨んでるから、それは無理。
「もったいないお言葉です」
しかしレナすごいわね、わたしなんか何て答えたら良いのか分からないのに。
「アルノー、私決めました。この方にお願いいたします」
何の事?
内心首をかしげる、もちろんレナもそうだろう。
「かしこまりました。では、リベットそのように」
「恐れ多いのですが、この者の力量ではご希望に添えないかと存じます」
「そうなのか?」
「はい、まだまだ未熟でございます」
リベットの返答に困った様子のお偉いさん。
「アルノー。それでしたら、先ほど体格の良い男の子に勝った、こちらの方も一緒でしたらどうでしょう?」
わたし?
「この者は全勝していたはずだな。それだったら問題ないか? リベット」
あ、今リベット嫌そうな顔した。
っていうか、話が全然見えないんだけど。
「仰せの通りに」
何だか分からないけどリベット答えてるし。
「では、よろしくお願いします。えーと」
「レナとクリスです」
わたし達の名前を知りたそうな王女の問いに、横から髭が答える。
それより名前で呼んでいいの?
「レナ、クリス、よろしくお願いします」
「「はい」」
とりあえずレナと一緒に答えた。
髭がわたし達の名前を言った事といい、どう考えても答えは決まっていそうだったからだ。
あとで髭に何の事か聞かなきゃ。
そんなこんなで、今日の戦闘訓練は終了となった。
「はい? 今、何て言ったの?」
髭が、今日ソフィー王女の来た理由を説明したけれど、思わず聞き返してた。
「何度も言わせるな。お前達はソフィー王女が護身術を身に付けるための、相手をして差し上げるんだ」
いや、だからおかしいでしょ、それ。
「なんでどこの馬の骨とも分からない人間に、そんな事をさせるの? 普通は騎士団の団員とか、どこかの有名な冒険者とかが教えるんじゃないの?」
「まあ、普通はそうなんだが、王女のたっての希望で年の近い同性の相手を探していたらしい」
「いや、だから何でよ。言っちゃ悪いけど、子供の相手を子供がするの?」
「まあ、端的に言えばそういう事だな」
そうとしか言わないでしょ。
大体、子供が護身術なんて教えられるはずないし。
わたしが不満そうな顔をしていたからなのか、髭がいらない説明を始める。
「まあ、王女といっても、王位を継承する予定の王子もいるから、護身術の習得も形式的なものだ。だから、騎士団の団員が教えるほどの事でも無くてだな……」
なんか歯切れが悪いわね。
「まさか、辛い訓練が嫌だから、自分と同じ位の女の子が相手だったら楽だからとか、騎士団のオッサンに口うるさく言われるのが嫌だとか、そんな理由じゃないわよね」
「ははは、まさか、そんなはずないだろ」
視線を逸らしながらワザとらしく笑う髭。
……図星かよ。
なんで、わがまま王女様の相手をしなきゃなんないのよ。
「まあ、理由はともかく受けてくれるよな?」
「断れないの? 正直気が進まないんだけど」
レナを見ると、やっぱり嫌そうな顔をしてる。
「ははは、まあいいじゃないか。王女も優しい方だし、ちょっとしたイベントだと思えば」
「いや。もし間違って怪我でもさせたらどうすんのよ? そのまま牢屋行きや、それを通り越してギロチンとかいやよ」
「は~、まあそうだよな。街に出られるからって、命がけの仕事なんて嫌だよな。上手く断る理由を考えておくか~」
ため息をつきながら言う髭。
だけど、ちょっとまて、今何て言った?
「髭、あんた街へ出られるって言った?」
「ああ、こんな所まで毎回来てもらう訳にもいかんだろ。王女が訓練する時には、こちらから伺う事になるだろう」
マジか!
「髭! わたしやる!」
「教官長と呼べと言ってるだろ。それより急にどうしたんだ?」
「だってここから出られるんでしょ? だったらやるわよ」
「本当か? 返事をしてから、やっぱり嫌とか無しだぞ、俺の首が飛ぶ。もしかしたら、物理的に」
「なんだか分かんないけど、一度やると言ったらやるよ。ここに来てから部屋と訓練場の往復だけなんだよ、いい加減外に出たいよ」
「分かった。それなら先方に返事をするぞ。本当にやっぱり無しとか無しだからな」
「わたしは大丈夫だって。それより14は?」
「私は、13が受けるんだったら一緒にやるよ」
やった! これで外に出られるわね。
「じゃあ、二人ともよろしく頼む。リベットに先方に返事をするように言っておくから」
「リベット? なんであいつに言うの?」
「リベット教官と呼べ。もともと、今回の件はリベットが持ってきた話なんだ」
「髭じゃなくて?」
「ああ、俺じゃない」
あら、教官長と呼ばれるのはあきらめたんだ。
「ふ~ん、そっか。まあ何でもいいや、じゃあよろしくね~」
「おう、こっちこそ頼むわ。それと、教官長と呼べ」