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この物語は『異世界での過ごし方』のヒロインの前日譚です。ここから先は、『異世界での過ごし方』のネタバレが含まれます。もし、この物語の先の彼女達の物語を楽しみたいと思われる方がいらっしゃいましたら、先に『異世界での過ごし方』をご覧になっていただけたら、より一層楽しんでいただけると存じます。(しばらく更新していませんが、いい加減更新しないといけませんね)

では、上記の事をご配慮いただいたうえで、この先の物語をご覧になっていただけたらと思います。

「で?」


「なによ?」


翌日、わたしはいつもの様にお城の外でジョンに昨日の事を報告していた。


「昨日食べた菓子がうまかったのは、今回の任務に関係あるのか?」


「無いわね」


「は~」


ジョンが大きくため息を付く。


「ため息を付くと幸せが逃げるって言うから、やめた方がいいわよ」


「確かにな。連絡係も外されるし最悪だ」


「どういう事?」


「俺が連絡係をするのは今日で最後なんだと」


「なんで?」


髭が辺りにいないか見渡す。


「教官長なら今日はいないぞ、呼び出し食らったみたいだから。リベットはいるけどな」


げっ! 最悪。

髭の奴なにやってるのよ。


「お前が関係ない事ばっかり言うから、報告する事なくてお偉いさんに絞られてるんじゃないか?」


そこを何とかするのが仕事でしょうに。


「無茶言うなよ。対象者が王族だぞ。さすがに変な事言えないだろう」


それはそうだろうけど……

それより、


「ジョン。わたし何も話してないのに何で普通に会話してるのよ」


「あ? お前の考えてる事なんかダダ漏れだ」


あ、なんか久しぶりに聞くセリフだ。


「まあ使えないやつが外されるのはしょうがないわね。で、代わりに誰が来るの?」


ジョンは口の中でぶつぶつ文句を言った後答える。

えっ? 何で直接文句を言わないのかって?

十倍返しされるからでしょ。


「『猫』って奴がやるらしいぞ」


「猫に連絡役なんてできるの!?」


「お前『猫』を知ってるのか? だったら俺の代わりに連絡役ができるか分かるだろ」


「ジョンは猫見た事ないの?」


「見た事ないな。どんな奴だ?」


「えっと…… 髭が生えてて、四本足で、ニャーって鳴く……」


「そりゃ猫だろ!! 猫が仕事なんかできるか!!」


「え? だってジョン猫って言ったわよね」


「その猫じゃねー! っていうか、俺だって猫ぐらい知ってるわ! 『猫』ってのは、隠語だ!」


「いや、早く言ってよ。勘違いしちゃったじゃない」


「……気づけよ。いままで講義で何聞いてたんだよ……。しかも隠語をいちいち説明してたら、隠語の意味ないだろ……」


がっくり肩を落とすジョン。


「まあ細かい事はいいじゃない。それで『猫』ってのは明日来るの?」


「俺が聞いたのは、今日で俺はお役御免って事と、『猫』って奴が引き継ぐって事だけだ」


「そっか、今日髭は来てないし……」


少し考えてると、ジョンがとんでもない事を言う。


「リベットを呼んで聞くか?」


「冗談じゃないわよ!」


「じゃあ、明日ここに来て自分の目で確認するんだな」


「分かった。そうしてみる」


「じゃあ、俺はこれで戻るな。リベットがお前が早く戻ってこないかワクワクしてるから、なるべく早く戻って来いよ」


最後に嫌な気分にして帰るジョン。


「あなたもリベットと仲良く帰りなさい」


ふん、おすそ分けよ。




「ただいま~」


レナの待つ部屋に戻る。

やぱっりソフィーはいないわね。


「クリス、どうだった?」


レナが駆け寄ってくる。


「連絡係がジョンから『猫』に変わるんだって」


隠語を聞いた瞬間、レナは反射的に辺りに視線を走らせる。

室内にわたし達しかいない事を確認すると、ほっとしたように話し始める。


「なんで急に変わったんだろうね?」


「今日も髭が来てたら聞けたんだけど、向こうで呼び出されてたみたいで来てなかったのよね。代わりにリベットが来てたみたいだけど」


「教官長が呼び出されたの?」


「うん。ジョンはわたしの報告内容が悪くて、怒られてるんじゃないかって言ってたけど」


「クリスだから、食べ物がおいしいとか報告してたりね。そんなことないか」


レナが笑いながら言ったけど、その通りだよ。


「まあ、明日お城の外で待ってみるわ」


「それしかないよね。それまでは警護を続けよ」


「うん」


とりあえず今後の予定をレナと決めると、丁度ドアがノックされてアーダが入ってきた。


「遅れてすみません。急いでお茶の準備しちゃいますね」


「今日も一緒にお茶しましょう?」


わたしがアーダを誘うと、不安と期待の混じった表情をする。


「いいんですか?」


「いいよ。ね、レナ」


視線を向けると、レナが「いいよ」と返す。


「じゃあ、今日もお呼ばれします」


テーブルにカップなどをセッティングしていると、昨日アーダが使った予備のカップではなく、普通に市場で売っていたようなカップが置かれてた。


「なんだ、今日は自分のカップ持ってきたのね」


「はい」


恥ずかしそうに答えるアーダ。

準備ができると、みんなでお菓子を囲む。


「じゃあ、お茶にしましょう」


「うん」

「はい」


みんなでお茶を飲みながらお菓子を食べる。

楽しくおしゃべりしたけど、この日もソフィーは遅くまで戻ってこなかった。




翌日、いつもより太陽が低い位置にある時間に目を覚ます。


「おはよう、レナ」


「あっ、おはようクリス。今日は起きられたんだ」


「うん、ちょっと寝付けなくってね」


今日からジョンが来なくなって、『猫』とやり取りすると思ったら、夢の中で巨大な猫に追いかけられる夢を見た。

最後にはつかまって押し倒されたんだけど、毛が結構モフモフしてて気持ちよくって、いつの間にか大きな猫と一緒に寝てたんだけど、途中で熱くなってきて目が覚めたのよね。

たぶん太陽の光が直接当たったからだと思うんだけど、おかげでちょっと寝不足ね。


「そうだよね。私もクリスと当直変わってから、これからの事いろいろ考えちゃったよ」


「ん? ああ、そうだよね」


これからの事?

連絡係が変わる事かしら。

別に連絡係が変わってもわたし達がやる事は変わらないから、そんなに気にしなくっていいのに。

まあ、ジョンみたいにからかえないかもしれないのは、ちょっと苦痛よね。


「大丈夫だよ。クリスなら上手くやれるよ」


「ありがと」


よく分からない励ましにお礼を言うと、ソフィーとエルザが寝室から出てきた。


「おはよう、ソフィー」

「おはようございます。ソフィー」


挨拶をすると、ちょと驚いていたようだけどソフィーは笑顔を返してくれる。


「おはようございます、クリス、レナ」


少し後ろでエルザも朝の挨拶をしてくれた。


「少しびっくりしてましたよね」


レナがソフィーに話しかける。


「ごめんなさい。クリスが起きてたものだから、驚いてしまいました」


「そうだと思いました」


二人で笑い合うソフィーとレナ。


「ちょっと、わたしだってちゃんと起きる事あるわよ」


「寝坊助だって事は自分でも分かってるんだね」


ちょっと、ソフィーがいるんだからやめてよ。


「夜の警護で生活リズムがくるってるだけよ。起きようと思えば起きられるわよ」


「申し訳ありません。朝と夜が逆転していたら、辛いですよね」


げっ、ソフィーが落ち込んじゃった。


「夜行う訓練もあるし、寝ないで行う訓練だってあるから大丈夫だよ!」


「ですが……」


「あっ! エルザ、時間とか平気?」


「そうですね。皆さんと朝食を一緒に頂くのでしたら、そろそろ準備をしないとこの後の予定に影響が出るかもしれません」


「ほら、ソフィー。早く食事しなきゃ」


「……分かりました。エルザ、準備をお願いします」


「かしこまりました。では、一旦失礼させていただきます」


とりあえずみんなで席に着く。


「わたしの事より、ソフィーは体調平気? すごく忙しいけど」


「はい。できる事をやっておきたいので。それに、クリスとレナがいてくれると思うと、ぐっすり眠れるのでいつもより体調が良い位です」


わたし達に気を使わせないようにと笑顔を浮かべてるけど、ソフィーの目の下にはクマが出来ている。


「あまり無理しないでね」


レナもソフィーをたしなめるけど、大丈夫だって答えるだけだった。

無理をして倒れたりしてほしくないけど、ソフィーが一生懸命なのが分かるから、やめろとも言えないのよね。

わたし達と会ったのがきっかけで、貧しい人達のために何かしたいと思うようになった手前ね。

なんとなく口数が減って来た時、ドアがノックされエルザがワゴンを押して入って来た。


「お待たせいたしました」


いつものごとく、無駄のない動きですぐに食事の準備を整えてくれた。


「では、食事にしましょう」


食器の立てる音だけの中、食事を終える。

食後のお茶を飲み終えると、ソフィーが席を立ちエルザと部屋を後にする。


「さて、わたし達も仕事しないとね」


「そうだね。まずは『猫』と接触しないとだね」


とは言っても、連絡する方法が分からないんだけどね。


「とりあえず、城の正門の前で待ってみるわね」


「いつも通りにするしかないと思うんだけど…… 今日は代わろうか?」


「いいわよ。めんどくさい時だけ代わってもらうのも悪いしね」


「別にそんな事気にしないよ」


レナならそう答えると思ったけど、わたしが気になるよね。


「大丈夫、大丈夫。サクッと行ってくるわね」


レナに手を振って、城の外に向かう。





お城の正門の前で大きく伸びをして辺りを見回す。

こんな所歩いている人なんてほとんどいないから、見える範囲での通行人の顔は確認できたけど、『猫』の顔知らないから声かけられるのを待つしかないのよね。

お城を囲む塀に寄りかかりながら、時たま通る馬車を見て時間をつぶす。


「暇ね……」


何もする事なくて、自然と独り言が口からもれる。

じっとしてるくらいなら、訓練でもしてた方が気がまぎれるんだけど、こんな所でダガーなんか振り回したら衛兵に捕まるわよね。

大人しく待ちますか。

大人しく。

大人……

……

………

…………

……………


「って、もう夕方じゃない!」


気付いた時には太陽はだいぶ傾き、辺りをオレンジ色に染めていた。

驚きながら口元が冷たいと思って手を当てると。


「よだれ?」


慌てて手の甲で拭って、よく考える。


さっきまで昼前だったのに、急に夕方になった理由は……


「もしかして、わたし立ったまま寝てた?」


驚きの真実!

ちょっと、あきれてないでしょうね?


「は~」


ため息を付いてから近くに人がいないか見渡す。


「いないわね」


さて、どうしようかしら……

って言っても何もできないし、部屋に戻りましょ。

レナ怒らないかな……




「それで、塀に寄りかかって寝てたんだ」


「うん。ごめん」


ちょっとレナ、笑いすぎよ。

しおらしく謝ってるのに。


「誰にも声かけられなかったんだし、良いんじゃないかな。さすがに声かけられても起きないなんて事ないでしょ」


「さすがにそれは無い…… と思う」


自信ないわよ。

だって、壁に寄りかかって夕方まで寝るなんて想像した事も無かったんだから。


「クリスだったら、外で誰かに声かけられて寝てるなんて事ないよ」


「そうかな?」


「そうだよ」


なんでか分からないけど、レナがそこまで言うならそんな気がしてきたわ。


「でも。報告どうしよう? しない訳にはいかないわよね」


「そうだよね……」


二人で頭を抱えていると、ドアがノックされる。


「きっと、アーダだよ」


レナに頷いて、返事をする。


「どうぞ」


すると、レナの言った通り、アーダがワゴンを押して部屋に入ってきた。


「どうしたんですか? お二人とも難しい顔をして?」


「何でもないわ。それよりもう夕食の時間?」


「はい。でも、その前に仕事があって早めに来ちゃいました」


ん、掃除とかかしら?


「わたし達はどいた方がいいかしら?」


「いいえ、そのままで大丈夫です。お二人に用があるので」


「わたし達に?」


「はい。新しい任務を伝えます」


ニコニコ笑うアーダ。


「えっ? どういう事?」


「は~。やっぱり『犬』はバカばっかり。あたしが『猫』だって言ってるのが分からない?」


「『猫』? あなたが?」


「そうだって言ってるでしょ。耳ついてる?」


いままで浮かべていた笑みは姿を消して、腕を組み不機嫌な表情を浮かべる。


「急にあなたが『猫』だって言われても……」


「どこの世界に自分が密偵だって言う奴がいるの?」


それはそうだろうけど……

じゃあ、いままでのは演技って事?

わたしが混乱している横で、レナが口を開く。


「あなたが『猫』って事は分かったよ。だけど、新しい任務って何の事? 私達はソフィーの護衛をして、一日の事を報告するのが任務だったはずだよ?」


「状況によって任務なんて変わるでしょ? 大体、食べてお茶してるだけのあなた達に、報告するような事なんて無いじゃない」


「そんな事分からないよ。もしかしたら、ソフィーが誰かに襲われるかもしれない」


「あなた達がそんな報告をする事は無い」


「なんで言い切れるのかな?」


「だって、王女を殺すのがあなた達の新しい任務なんだから」


「えっ……」


今度は、わたしだけではなく、レナも絶句することになる。

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