表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

しあわせな愛を。

作者: 0612334###

冬。降り積もる雪は、踏まれて出来た足跡を直ぐに消し去る。さくさくと軽い音を立てながら雪を踏み歩く二人のかげは、そのまま目の前のラブホテルへと吸い込まれていった。


「いやぁ、久しぶりだね、このホテルも。」

「というか、会うこと自体久しぶりじゃないか?いつぶりだっけ?最近俺が仕事忙しかったから二ヶ月ぶりくらい?」

「多分。」

二人はそんな会話を交わしながらコートを脱ぎ、そしてそれをハンガーに掛けると、俺はさっさとバスルームへ向かってしまうのだった。


***


シャワーの音がベッドの方まで響き、なんというかそういう雰囲気を醸し出す中、俺は彼女がシャワーを浴び終わるまで待つ。

お互い二十代半ばを過ぎ、いい加減生涯の伴侶を見つけろと親がぎゃーすか叫ぶようになった頃。俺は彼女と、所謂ネット上の掲示板で出会った。当時俺はネット上で「メンヘラ漁り」と称して、メンタル的に弱そうな女の子を釣ってはいじめていた。まあ話の流れから察していただきたいが、俺のその行為の過程で「面白そうだ」と釣った女の子の一人…それが彼女である。俺はその頃メンタル的に弱っていたこともあり、ソレをしては日々の鬱憤を晴らしていた。そんな日々…灰色の日常とでもいえばいいのだろうか。そんなつまらない日々をぶち壊してくれたのが彼女だった。偶然同じ市内に住んでいたことも手伝って、今では恋人としてのお付き合いをさせてもらっている。

「あがったよ。」

ガチャ、と扉が開き、風呂上がりで真っ裸のままの彼女がこちらへ歩み寄る。そうして俺と彼女は深く唇を重ねると、そのままベッドへと移動するのであった。


***


「いやぁ、本日のセックスもよきよきでしたねぇ。」

「恥じらいというものがお前にはないのか?まあ同感だが。」

なんて軽い口調で話せる恋人は今までにこいつしかいなかった。今がすごく楽しい。そんな今を護りたいと…在り来りだがそう思う。


そう、一生を掛けて護りたい。


***


その夜、私は彼と別れるとさっさと家に帰る。ちなみに、そのホテルから私のうちまでは徒歩でも五分と掛からない程近い。

彼とはネットの掲示板で出会った。偶然同市内に住んでいて…そして意気投合したことから話は始まる。今は交際関係にあり、月に一度位の頻度でデートをしている。彼と出会えてよかったと、少なくとも私は思っていて、彼には感謝してもし足りない。

そんな大好きな彼との日常は、これからも続けばいいな…いや、続けるんだ!なんて頭がお花畑な妄想をしつつ、私は家の鍵を開ける。


「ただいまぁ。」

なんて言ってみても、一人暮らしだからもちろん返事はない。…というか、あったらむしろ怖い。

今日は昼間から彼とデートしていて、そして今は夜の二時。久々だったことも手伝い、時間が長引いた結果だ。

さすがに疲れたので今日はもう寝てしまおう。お風呂はホテルで入ったし、ご飯もホテルで食べた。そう決めると、私は一目散に布団を取りに行って、敷き始める。


布団を敷き終わりそこに横たわると、そのまま睡眠の深い深い奥底に落ちていくように、微睡む脳内で今日を思い出す。あぁ、今日も幸せだったなと。彼の横顔は笑っていた。


***


私がそのことを知ったのは、お葬式が終わった次の日だったらしい。


***


デートから三日程経ち、平穏な日常を満喫していた頃。最近来なかった彼からの着信が入る。

「……っ、はい?もしもーし。」

少しワクワクしながらそう言って電話に出る、と。

「こんにちは、いきなりすみません……。少し、お時間宜しいでしょうか?」


そこから聞こえたのは、いつもの聞き慣れた彼の声ではなく、少し年老いた女の声だった。


***


その年老いた女性…曰く彼の母親は告げる。

「生前はうちの息子と仲良くして下さりありがとうございました。息子は二日前、脳出血で亡くなりました…。」

と。


状況を把握するのに時間が掛かったが、私は彼の母親に言われるがまま、初めて彼の家に呼ばれたのだった。仮にドッキリだとしても、本当だとしても…嬉しくない。というより悲しすぎる、なんて現実逃避しながら向かうのは、隣町の田名部町。今日は私は仕事が休みだったので、速攻その田名部町の彼の家へ向かう。


ピンポーン。鳴らしたインターホンは、私の気持ちなんか知らずに軽快に鳴り響く。がちゃりと戸を開けたのは、先程の母親と名乗る女性らしき人だ。こちらを見ると少し驚いたような素振りをみせるが、直ぐにぺこりと一礼し、家の中へと招き入れてくれた。


「いきなりの御無礼、失礼致しました。」

彼の両親らしき二人と向かい合って座ると、私は、彼の父親にそう声をかけられる。私はと言うと、

「理由、や、色々……聞きたいことがあります。」

と返す。この時は少し動転していたのだろう。

なぜなら、彼の両親のその後ろには、彼の遺影が飾ってあったのだから。


***


「……ということです。」

彼の父親が経緯や葬式でのことを事細かに教えてくれたおかげで、私は涙が溢れて溢れて、止まらなくなっていた。また、その話を聞いて、そして話して、彼の両親も涙ぐんでいた。


「……私は、彼のことが好きでした。彼とお付き合いさせて頂いてました。」


それだけ伝える。すると、彼の母親は目を丸くし、そして合点がいった、とでも言わんばかりの素振りをする。そしてそのまま父親に何かを耳打ちし、少しばかり席を外します、と戸の向こうへ去ってしまった。


泣きながらだからあまり正確ではないが、三、四分程経った時、母親は帰ってくる。なにやら小さな箱を持って。


「貴女に…これを。息子のメモが中に入っていました。それから、プレゼントも。これは貴女の物です。中身を見てしまったのは、ごめんなさいね。」

そう言って渡された箱。開けるのが正直怖かったが、彼の両親からの強い視線を受け、しぶしぶ開ける。


中に入っていたのは指輪とミニレターだった。


***


『やあ、ひさしぶり。これを見てるってことは、俺の目論見は成功したのだろう。……愛する君に、永遠の愛を。』


それだけ書いたレターと、そしてパッと見でも高級ではないとわかる、まあまあな位の値段であろう指輪。

私はこの日は本当に動転していた。目論見?永遠の愛?嘘つき。先に死んで行ったくせに。


「ありがとうございました。失礼致します。」


私は涙を貯めた瞳を閉じ、それだけ言ってその場を去るのが精一杯だった。





……なんて恋愛をしてから何年が経っただろうか。

あれから私は恋愛なんて忘れ、趣味と仕事と、それから酒に耽る日々を過ごしていた。


今も彼の手紙は手帳の中にあるし、指輪は今現在も指にはまっている。

暖かく、そして優しい感情を教えてくれた君が居なくなったことが、私にはもう耐えられなかった。何年経とうと。だからこそ、私は今最後の手紙を遺し、自殺を目論んでいる。

止める?そんな人はいないさ。居たところで、私の決心は変わらないのだから。


***


ビルの屋上の風が気持ちいい。柵に寄りかかって、柵を超えるのをまだ躊躇っているのは、僅かばかりでも未練があるのだろうか?


未練がないなんて誰が言った?


「そりゃあありますよ……未練とかさぁ。」


ずるずると、その場に崩れ落ちる。

彼と見たかった未来は沢山あった。後悔してることもある。悔しいし悲しいし、何より虚しさで私の心は溢れかえるのだ。今もあの時もそれだけは変わらない。


「未練かぁ……まさかね、自分がこんなに未練がましい人間だとは思わなかった。すごく辛いね、これ。」


独り言を呟くと、私は決心する。




そうして柵を飛び越えると、私は空へととびこんだのだ。愛しい彼の胸に飛び込むのと同じように、思い切り。

お読みいただきありがとうございました!

Twitter→@7shiki_sanchan



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とても、サクッと読めて。 普通に読む分には面白い。 [気になる点] 自殺するまで、思い続け、好きだったとすると、 2カ月ぶりの再会の割には、あっさりとしすぎているような感じがします。 も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ