近道は違う道【ショートショート】
あまり実のある内容は書きません。拙作の極みで御座います。お時間に隙間が空いた際などにご覧頂ければ幸いです。
どうも様子がおかしい。何かが変だ。
――学校からの帰り道。偶然見つけた畦道に、わたしはひとつの希望を見出したのだ。
「ここを抜ければ近道なんじゃないかな」
誰に言うわけでもなく呟いた。そして力いっぱいに自転車のペダルを漕ぎ始めたのである。夕暮れの田んぼは、稲穂が金色に輝いて目に鮮やかであった。タイヤも思ったよりは滑らかに進む。サドルの上のお尻もしっかりと張り付いていた。
十分ほどすると木に囲まれた道となった。林だろうか。辺りの様子がまるで見えなくなってしまった。しかしそれも五分ほどである。
視界が開けた。林を抜けたのである。
畦道から舗装されたコンクリートの道にタイヤが寝かされたとき、初めて「おや」と思った。わたしは自転車から降り、周囲を見渡した。
見たことのないところである。
この辺りは農村地帯で道も少ない。迷い込むところなどないはずである。しかし、ここはどこだ。点在する家々の一つ一つが見知らぬものである。それどころか奇妙なことに、全く知らぬ土地に来たように感覚が、わたしをねっとりと包むのだ。
まるでタイムスリップしたかのような違和感。世界が丸ごと変わってしまったような。そんな不思議な感覚が肌を刺す。
そのとき、すぐ近くの民家の庭で、お婆さんが草刈りをしているのが見えた。わたしは考える前に自転車を走らせていた。
「すみません」
「んやあ」
驚いたような、寝ぼけたような返事である。
「何かようかい」
麦わら帽をかぶったお婆さんが、鎌を置いて立ち上がった。私も自転車を降りる。
「いや、あの……ここって何町ですか」
「上の町だよ」
腰を叩きながら答える。やはりそうだ。違う町なんかじゃない。
お婆さんは、わたしをまじまじと見詰めると、
「お嬢ちゃん迷子かね」
「いえ」
少し間が空く。
そうだ。ここで、思い切って訊いてみる。馬鹿馬鹿しいのは承知である。
「……今は西暦何年ですか」
首を傾げられた。そりゃそうだろう。
訝しげに、
「二〇一七年だろう?」
予想通りの答えを口にする。
「良かった」
ほっと胸を撫で下ろす。お婆さんは、オバケでも見る様な目つきに変わっていく。
「二〇一七年だと何かいいことがあるのかい」
わたしは笑顔で首を振り、
「すみません。ちょっと確認したくて。戦後から何年経ってるのかなって。授業の課題なんです」
へーっとのんびりとした口調となった。何かを数えるように空を見上げると、
「もう七十二年なるんだねえ。私が七歳の頃に日本が負けたわけだから」
ぞっとした。
「お嬢ちゃんどうしたんだい」
血の気が引いていくのが分かったのだろう。心配そうに訊いてくる。しかし、わたしはそのとき確信した。
やはりおかしい。ここはわたしがいた世界じゃない。
日本が負けたなんて、そんな馬鹿なこと間違っても言うわけがないのだ。
宜しければ他の短編、あるいは長編も御座いますのでご清覧下さいませ。




